第100話【閑話】ある少女の話3

 とある高級マンションのリビングにあるソファーに座る、軽くウエーブのかかった茶髪ロングの少女がモバタンを見つめながら溜息を吐いていた、そこに黒髪ショートの女の子がリビングに進入してきた。



「お帰りなさいユキ、スクロールは受け取って貰えたのかしら?」


「はい、大変恐縮されていましたが無事に受け取って貰えました」


 ユキと呼ばれた少女も向かい側のソファーに座りそう答えた。


「ふふ、おかしな人だわよね、お礼の額を下げようとしてくるなんて……私達の周りに群がる様な輩なら上げてくる事はあっても下げようと必死に説得してくるなんて事ないのにね、さすがコン様の主なだけはあるわね」


 そう言って茶髪少女はモバタンに写っている銀髪仮面とのツーショット画像をうっとりとした顔で見やる。


 そんなだらしない表情をしている主人を見ながらユキが口を開く。


「しかもゴーレムさんに用意したスクロールを何の躊躇いも無く全部使わせてましたしね……総額三千万以上するのに高そうな事には驚いていましたが自分で使おうという素振りさえ無かったですね、ちょっと驚きました、ただまぁお嬢様の予想であるルチャリブレは外れてましたねゴーレムさんでしたし」


「そうなのよね……コン様は〈礼儀作法〉や〈演奏〉の方をより喜んでらしたのよ……格闘系の方もまぁ、これで主人や仲間を守れる力になると喜んでは居たけれども」



「夏樹お嬢様は何故ゴーレムさんの言いたいことが判るのでしょうか? お嬢様の手持ちのスキルの中の何かが……あ、〈読心術〉のスキルとかですか? でもあれは表情から内心を伺うようなスキルだったはず? ゴーレムさんに表情なんて無かったですし……うーん謎ですね」


「ユキあなたはまだ経験した事がないでしょうから判らないだろうけど……それはね〈恋心〉という乙女に発現するスキルのおかげよ」


 夏樹がそう言うがユキは無表情で返す。


「そんなスキル持ってないでしょうに、ていうか私にだって恋の一つや二つ……あれ? ……なかった! ……お嬢様の護衛をしてるせいで出会いが無いからではないかと思うんですよね、それで……本当の所は?」


「マラカスの音で判るでしょう? 最初の頃は感情表現にノイズが入って居たけれども〈演奏〉を覚えてからのコン様の感情の表現は見事だったわね、それをご自分でも理解できるからこそ〈演奏〉スキルが嬉しかったのでしょうし」


「いやまったく判りませんよ! いや……あー令嬢教育用の音楽系のスキルの中の何かが理由なのかもしれないか……めんどくさいのでもう〈恋心〉スキルって事にしておきます、でも相手がゴーレムじゃどうにもなりそうにないですね」


 ユキの物言いに夏樹は。


「めんどくさいって何よもう失礼しちゃうわね……コン様がゴレームでも私が抱いたこの初恋が色あせる訳じゃないの、むしろ逆ね! 絶対に成就する事が無いからこそいつまでも素敵な思い出になるのじゃないかしら? それにいつか何処かで〈人化〉スキルなんてのが発見されるかもじゃない? 私が泣いて臥せってしまった時のあの優しさといいスクロールを渡す時のまるで私を姫の様に扱う振る舞いといい……私の王子様に相応しいと言えるわよね!」


 キラキラとした顔でそう語る夏樹にユキは。


「あのゴレームさん最初はまったく反応してませんでしたよね、お嬢様が泣かなかったら普通のゴーレムのフリを貫いたんでしょうね紳士というか……頭良すぎですよあのゴーレム、確かにあんな存在を表に出したくなくて私らに名乗り出なかったのも判る気がします、しかし山田ですか……草野でなく……やっぱり詳しく調べますか?」


 真剣な顔でそう聞いてくるユキ。


「そうね調べて頂戴、でもね調べる理由はコン様とその主人を守る為に知っておくべきだから調べるの、絶対にコン様に迷惑がかからないように調べて頂戴、それと山田様が私の客分になった事を関係各所に連絡をして頂戴、絶対に手を出されないようにしてね、手を出してきたら叩き潰すと添えておいて、私はお父様にも話を通しておくわ」


 鼻息荒くそう宣言をする夏樹。


「……あのお嬢様、そこまで強気な物言いだと夏樹お嬢様と山田様との関係を勘違いされるのではないかと思うのですが……」


 ユキの言葉にショックを受ける夏樹。


「た……確かにそうね……お父様とか勘違いして酷い事になりそうね、それだと困るからえーと……うーん……、一度草野さんとお話がしたいわ、お友達のお兄さんだからという理由ならどうかしら?」


「なるほど、それならいけそうですね、山田様の妖精やゴーレムは特殊個体で将来有望であり鐘有に取り込みたい様だと周りに思わせつつ尚且つ友達の兄上という理由なら……叩き潰すとまで言わなければいけそうです、草野さんと内密に話し合えるように手配します」


「よろしくねユキ……特殊個体ね……コン様も素晴らしい方ですが、あの金髪妖精もすごかったわね……ピンク髪の方は逃げちゃったけど」


「全滅してましたがあの食事って全部で七十人前以上用意したらしいですよ? お腹一杯という約束を守れなかったのは残念です、帰りの車で少し会話をしましたがあれで腹半分だとかなんとか言ってました、普通の妖精は人でいう十歳以下くらいの知能なんですけど……私と普通に会話出来てましたね、特殊個体で確定です」


「最低でも特殊個体二体持ちで……山田様自体は体の動かし方とか見てもそれほど強そうにも思えないのよね、戦闘スキル一個か二個くらいでしょうたぶん? でもなんていうか……今見ている部分がすごい表面のような奥深さも感じたのよね……コン様の事が無くても敵にしたく無いので情報管理やら各種処理やらをきっちりやってね、怒らせたらユキのお給料半分にするからね」


「了解しました夏樹お嬢様、ってなんで私のお給料半分なんて話になるんですか……そういえば山田様を十倍のお給料で誘ってましたよね、そんなに余裕あるなら私のも倍くらいにして下さいよー」


 ユキは身を乗り出し抗議の声を上げている、それを余裕のある笑みを浮かべながら夏樹が受け止める。


「それはコン様の方が十倍以上大事なのだから仕方ないわよ……それにユキにも十二分に払っているでしょうに……後ね私の〈金運〉スキルが反応していたのよねぇ……十倍でも安いと思うくらいに」


 ユキはそれを聞いてソファーに深く座り直し、真剣な表情で夏樹に聞き返す。


「〈金運〉スキルってお嬢様の先天スキルですよね? 鐘有の祖先が実は過去に血統スキルを持っていたのではないかともされている原因の……前に発動した時は数十億稼いでましたし……山田様にはその時と同等の価値があると?」


 夏樹はニッコリを笑みを浮かべ。


「あの時より強い反応だわ、まぁ反応しても必ずしもお金になる訳では無いのだけれど……命の恩人であると共に鐘有に幸運を持ち込んでくれるかもしれない相手かもしれないわね、なのでユキ……いえ小雪ユキ、山田様を重要人物だと思ってしっかりと悪意から守りなさい」


「畏まりました、鐘有家護衛第三席小雪家の名に掛けて」


 そう答えてお辞儀をするユキ。



 その返事に満足そうに頷く夏樹であった。


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