第95話 鉱山ダンジョン

 やってきました〈鉱山ダンジョン〉


 ちなみにダンジョンの正式な名前はアルファベットと数字の組み合わせで出来ているが正式な書類データ上くらいでしか使われていない、通称で呼ばれるのが普通で人や地域によって微妙に呼び名が違うダンジョンもある。


 朝から採取用道具の専門店に色々買いに行ってからここに来たのでちょっと遅め。


 ここはダンジョンの入口が一か所だが内部通路はかなり広めで周りの探索者を見るとリヤカーを引いている個人やらパーティも居る、なるほど……鉱石も数があると重いもんなぁ。


 空間庫に入れずに持ってきていたツルハシを持って階段では無いスロープのダンジョン入口を進んでいく、通路の壁は土というか石というか掘り進む鉱山はこうだろといったイメージ通りな感じだ、だが掘れそうな見た目と違い採取ポイント以外は硬くて掘れないらしい。


 一か所の入口で人が結構出たり入ったりしてるので転移魔法陣部屋で木三郎さんを召喚するのは良くないかもしれない、内部は蟻の巣のような構造になっているらしくまずは人の来ない行き止まり方面に向かう、幸い敵が居ない行き止まりの空間があったので木三郎さんを召喚、プロレスマスクを譲渡して装備して貰う。


 益々プロレスラーの練習中ってな感じに見えてくるな、執事要素はもう家事をしてる時だけだよなぁ……あれ? 執事って家事をする物なのか? ……まいいか漫画の設定だし。


 ツルハシを片手に持ってもらい戦闘はもう片方の手で持った地獄産マラカスで殴って貰う事に。


 俺は先頭だが基本は棒で敵を受け流して転ばせる役だ、がまぁ今回は壁方面に受け流す事になるかな?


 行き止まりの脇道から本道に戻って出発。


「じゃ頑張って採取とロックンロールを倒すぞ~!」


 そう気合を入れる。


「イチローは頑なですよね、メジャーな転がる石呼びでいいじゃないですか」

「ここは幻が効き辛い情報がありましたが実際どうなんでしょうか、もし効かなかったらやる事がアイテム拾いだけに成ってしまいそうです」

『シャッシャシャ』


 そんな会話をしながら歩き出そうとした時、近くにいたソロのおじさん探索者が声を掛けてきた。


「おう若いの、お前さんロックンロール呼びとか判ってるじゃねーか、そうだよなぁロックンロール呼びの方が気分が上がるよな! ここらじゃ見ない顔だし鉱山ダンジョンはあんまり慣れてなさそうだな……ロックンンロールは転がる方向が決まっててなよく見ると球体というより丸みの強いロールケーキみたいな形をしてるんだよ、ロールケーキでいう横の生クリームが見える部分は柔らかいからそこを狙うといい、じゃーな気をつけて狩れよロックンロール! ガハハ」


 そう言ってソロで小さめのリヤカーを引いたおじさんは奥へと向けて本道を進んで行った。


「ありがとうございます! ロックンロール!」


 そう後ろ姿に声を掛けてから俺達は一階と呼ばれている脇道に入る、この階数は出てくる敵が明確に変わる地点があるのでそこで増えていくらしい。


「少数派同士でいきなり意気投合してイチローがよく判らないテンションになってますねロックンロール」


「ポン子先輩も最後につけてますよ、ろっくんろーるって」


『シャッシャシャシャーシャ』


 ポン子がリルルにこれが感染するネタです、とか新しい知識を教えている。


 一階は通路で人と結構すれ違うから敵に合わない、採取ポイントは壁がうっすら光るらしい、そして採取すると他の場所にポイントが移るので人があっちこっち移動するから魔物も倒されやすいのかもしれない、モバタンでアリの巣っぽい鉱山ダンジョンMAPを確認しながらうろうろする事しばし、壁が光っている場所に遭遇した。


「たしかこの光ってる壁が卵の殻みたいに表面だけ硬くて崩せば鉱石が零れ落ちてくるんだよな?」


「そうですねイチロー、モバタンで調べた情報だとそんな感じらしいです、周りは私達が警戒してますのでガツンとやっちゃって下さい」


 木三郎さんからツルハシを渡して貰い、光る壁に向かって大きく振りかぶって、ガス! うわっと、一発で突き抜けたよ、壁は硬いけど暑さが数センチくらいしか無いのか、しかも少しでも穴が空いたら残りの壁が消えていって直径五十センチくらいの丸い穴が空き、中から鉱物がざらっと十数個落ちてきた、大きさはバラバラで今回一番大きいのは水晶でビー玉の倍くらい。


 取れる物が不純物がほとんど無い鉱物ってのもすげー話だよな、一階はほとんど鉄で、たまに他の鉱物とかも混じってる事があるとか、しかも魔法鉱物がたまーに混じってる事もあるらしい、レアメタルやらも取れる時点ですげーとは思う。


 周りに人が居ないので、ささっとリルルの空間庫にないないして貰う、ぱっと見た感じは鉄と水晶だけっぽかった。


 気付いたら壁の穴も消えていたしファンタジーだよな。


「よーし今日はどんどん採取して実績稼ぐぞ、狙うはレアメタルや金や宝石類だ」


「一階はレア物の確率は低いらしいですけどね、まずはロックンロールとやらと戦えるかを知らねばなりません」


「えっと頑張りましょうロックンロールご主人様!」


『シャシャ……』


 リルルはロックンロールの使い処が微妙に違ってて木三郎さんに突っ込まれている事に気づいているのだろうか。


 そこからは通路を歩く人達と同じ様に一階を回遊魚のごとくグルグルと回っていく。



 っと目の前の通路からゴロゴロと音が聞こえてきた。


「む、通路が曲がってる先から来そうだな、じゃ打ち合わせ通りにいくぞ!」


 曲がり角から地面を転がりながら進む石のショートロールケーキっぽい物体が現れた、あれがロックンロールか。


「では一番手リルルいきます! 多重ポン子先輩の術!」


 リルルがまず魔法を使い、敵のナナメ前側にポン子を複数人出現させる、リルルのその忍者っぽい掛け声は絶対ポン子の仕込みだろ……。


「幻に反応はしてるが急には曲がれないって感じだな、じゃこっちに来たんで俺が受け流して……うわおっもい」


 棒でを片側の地面に突き刺す感じで受け流してなんとかナナメ後ろに逸らす事に成功するが敵が重いから厳しいなぁこれ。


『シャシャシャ!』


 ドコンドコンとまずは転がる面を攻撃している木三郎さん、やっぱり堅いらしい、が受け流されて速度の落ちたロックンロールは動きが鈍い、速度を出すにはある程度距離が必要っぽい、止めてしまえばなんとでもなる相手だな、木三郎さんはヒョイっロックンロールを横に転がし側面に攻撃を加える、するとあっという間にヒビが入りそして消えていった、ドロップはコインと鉄っぽい鉱物が残っていた。


「次はポン子の魔法が効くかだな」


「ええ、私はこのダンジョンではロックショットでいきますね」


 石ころを撃ちだす魔法らしい、しばらくすると消える石ころってのも不思議な話だ。


 しばらく回遊しているとまた採取ポイントが、少し当たりっぽい鉄じゃない何かが混じっていた、このダンジョン側の協会受け付けの買取で鉄と他数種類を出すのは禁止されている、買取額が安い物は石板でやってくれって事らしい、一度全て石板に入れて高い物だけ取り出して協会に持っていくのがローカルルールなんだってさ、ここの協会受け付けで買取価格が一定以下の提出はペナルティもあるとか、細かいルールはあるけども簡単に言えば安くて数が多いものは持ち込むなって事らしい、気をつけないとな。


 またロックンロールに出会ったので今度はポン子が魔法を試してみる事に、前からロックショットを何発も当てているがダメージはほとんど無いっぽい、だが相手の速度が落ちていく、速度が落ち切ったロックンロールを木三郎がヒョイっと横向けに倒す、横部分にポン子がロックショットを当てると一発で消えていった。


「一匹なら相手の速度を下げて木三郎に倒して貰えば楽勝だな、二匹以上きたらリルルの幻でタゲをかく乱してポン子が遊撃で敵の横から魔法を撃つとかでいいかも、俺と木三郎は地道に一匹づつ倒す感じで」

『シャ!』


「了解ですイチロー、ロックンロールはもう使わないのですか?」


「使ってみると地味に長いんだよな……狩り中はロックとかにしとくよ、長い名前のせいで指示出しが遅れるとか本末転倒だしな」


 ポン子とリルルは俺のその言葉に笑っている、仕方ないんだよ、あっちのロックンロールはポン子があっちのロックンロールは木三郎がリルルはロックンロールに幻を、なんて指示をする場面があったら俺は間違いなく途中で舌を噛む自信がある。


「ふふ、仕方ないので最初だけ使ってあげましょう、ではイチローに後輩ちゃん木三郎、今日も頑張って狩りをしますよ! ロックンロール!」

「了解ですポン子先輩! ロックンロール!」

『シャッシャシャシャーシャ!』


 ポン子がそんな風に気勢を上げるとリルルや木三郎が続いていく、そして三人が俺を見てくる、へっ仕方ねーなぁ。


「よっしバリバリ稼いでやろうぜ! 行くぜロックンロール!」


 採取ポイントを見つけてはツルハシでガツンッ、ロックンロールに出会っても俺が受け流してからポン子や木三郎がズドンッ、ガツンッズドンッと鉱山ダンジョンの狩りを進めて行く、お昼も行き止まり当たりでささっと済ませせてしまい午後もずっとガツンッドスンッ。


「これなら二階も行けるかな? やっぱ一階だとレアっぽいのが殆ど出ないみたいだし」


「でも二階にはバトルコウモリが居ますよ? 採取ポイントの期待値が数倍に上がるらしいですが……二階の入口あたりで試してみますか?」


 行ってみようぜと本道へと戻る俺達、ちなみに鉱山ダンジョンと呼ばれコウモリが出るような場所だがダンジョンは基本的に明るい、そりゃもうかなり明るい、暗闇を売りにしてるダンジョン以外は基本的に明るいのでコウモリさんも奇襲は難しいだろう。


 ダンジョンの奥へ行く本道を進みほどなく二階への脇道にそれて進む、そこへ早速とばかりにコウモリが。


『シャカ!』


 飛び掛かってきたコウモリさんは木三郎さんのマラカスアタックによって撃ち落されて消えていった……俺が何する事も無く淡々と撃ち落していく、背が高い木三郎さんに向けて攻撃をしかける事が多いのよね、動物型のバトルコウモリさんだがドロップは鉱石とコインだったりする。


『シャカ!』『シャカ!』『シャカシャカ!』


 それならばと木三郎さんを先頭に据えて移動をする俺達、コウモリとの遭遇数は一階のロックンロールより明らかに多いんだが何の問題も無く進む、ヘイトはすべて木三郎さんにいき、飛んできてカミツキ攻撃を食らっても木三郎さんの本体は木だしな……、人間が食らうと出血もありえるその攻撃を蚊でも払うかのごとくシャカシャカ進んでいく事が出来る。


 この二階に居るのは大抵三人以上のパーティなんだが『シャカシャカ』とマラカスを鳴らしながら進む俺達を見つめる彼らの視線が痛い……お騒がせしてすいません。


 二階は数が多いコウモリのせいか人が少な目で普通は移動も慎重になる、さくさく移動が出来る俺達はかなりの数の採取ポイントと出会える事が出来た、そんな時だった、ロックンロールから一枚のスクロールがドロップしたのは、その場で使用キャンセル鑑定をすると消費型の単体付与系〈身体硬化付与魔法〉のスクロールで効果は十分で使用回数は四回、協会に売れる値段も二万くらいだしリルルの研究行きにする事に。


 スクロールを空間庫に仕舞った後くらいからリルルがソワソワしている。


「今日は少し早いけど帰ろうか皆」


 俺は苦笑いしながら皆にそう提案してみる。


「そうですね、後輩ちゃんも落ち着きが無いですし、採集もかなり出来ましたし帰りましょうか」

『シャっ』


「あう、ごめんなさいです、やっとスクロールさんを解析して、分解して、改造して、舐める事が出来るかと思うとワクワクしてしまって……」


 やっぱり舐めるのね……スクロールって美味しいのだろうか?


 皆が賛成したので帰る事に、このダンジョンは本道に魔物はほとんど出ないのでかなり奥からでもスムーズに帰れるという情報があったんだが、実際に本道に出てから一度も魔物と出会う事は無かったし本当なのかもしれない、一階の突き当りに寄り木三郎さんを送還してから帰る、いつかもっと深い階層に行ってみたいね。


 隅っこの人気の少ない石板にバックから出している風に見せかけて、バックの中にいるリルルの空間庫から受け取りポイポイっと石板に投入していく。


 うーん鉄がほとんどでダンジョンポイントがほとんど上がらねーなぁ……俺でも知ってる宝石なエメラルドの原石でも数ポイントか……日本円で数百円? 小さいとこんなもんなんだなぁ、ってこれはレアメタルってやつか? コボルト? 魔物か? そんなに高くは無いが知識がないからメジャーじゃない鉱石はさっぱりだな、二階のドロップを入れる頃になってポイントがちょこちょこ上がってきた、銀とか銅も鉄に比べたら高い。


 全部で千八百Dポイントくらいに成った、その中の高めの鉱石やら宝石の原石やらをポイントにせず現物を戻してから協会の受付でDコインと共に買取をして貰い、最終的に二十万を少し超えるくらいになった、コインをそのまま換金するよりも協会の方がちこっと高くなる感じだね。


 二階あたりは三人から四人パーティが多かった、あの人らはもう少し慎重に移動狩りや採集をするとして……、一人三万から四万? 草原ダンジョンと同じくらいか。


 すごい稼げてるのに今朝の採集道具専門店であれやこれやを買った値段がなんとかペイ出来たくらいという……探索者ってお金貯まらんなぁ。


 もっと先に進もうとするならさらに事前準備にお金かかるから結局自転車操業になる気がする……大志兄貴が言ってた上級でもカツカツってのはこんな感じなのかな? 命を賭けてる訳だし準備をケチる訳にもいかないし。


 なんて物思いに浸っていたらリルルさんに髪を引っ張られて帰宅を催促される。


 おーけーリルル、俺のもみあげ髪を引っ張るな、判ったから! 急いで帰るから!


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