第93話 戦鬼とは?

「意外と美味しいなこの〈あなたこにつくしたい弁当〉ほれリルルあーん」


 つくしとかダンジョンの資源階で取れそうだよな。


「これがポン助の提案からとは……この炊き込みご飯がそれぞれ味が違って美味しいわね」


「アナゴ飯が醤油系、タコ飯がカツオ出汁、鯛めしが昆布出汁ですかね、まさか本当に作るとは思いませんでした、今度私の好きな感じの……〈筋肉が盛り盛り弁当〉とか提案してみましょう」


「あーんモグモグ、ポン子先輩それって、お肉一杯のお弁当なんですか? それとも筋肉が盛り上がるくらい付くって……あれ? タンパク源がお肉なら……どっちにしろ同じ意味にたどり着くんですね、ご主人様あーん」


 なるほどなぁ……ポン子がリルルの質問に対して。


「その通りです後輩ちゃん、しかし盛り盛りではなくマッスルマッスルやマッチョマッチョ弁当にしてしまうと、お肉が鳥のささみ肉になりそうなので気を付けて下さい」


 もうなんだかよく判らんな。


 ポン子以外が食べ終わり木三郎さんの出したお茶を飲んでいる。


「姫は食べ終わったし帰るんだよな? 暗いし途中まで送っていこうか?」


「いえ、お義父さんが途中まで迎えに来てくれる事になってるので大丈夫です」


「こっちに来るなら挨拶しておこうか?」


「いえそれは、お義父さんにお兄ちゃんが勝てるくらいになったらにしましょう、まだ拳で語り合う事を諦めてない節がありますので」


 お前のお義父さんは俺と殴り合いたいのか……? 会いたく無くなったんだが。


「本当は泊まりたかったんですが、明日は早朝からお義母さんに、これを使った戦闘訓練があるので無理なんですよね」


 そう言った姫乃は手を軽く振るといつのまにかその手には扇子せんすがあった。


「それってこの間ポン子達に向かって自己紹介した時のやつだよな? どっから出してるんだ?」


「〈ポケット〉というちょっとした物を持っておく空間庫の小さい感じのスキルがあるんです、そして出し間違えました、こっちですこっち」


 姫乃がもう一度手を振ると、さきほどの普通の扇子は消えて、そこには大き目の扇子……いや鉄扇ってやつかこれ。


「鉄扇とか珍しい武器を教えて貰うんだな」


 姫乃は苦笑いしながら答える。


「つい最近教えて貰ったんですが、お義母さんは拳やら足やら自身の肉体を使って戦う肉弾戦が得意らしいんです……昔そのせいで不本意な二つ名で呼ばれたらしくて、二つ名を変える為に鉄扇を予備武器として使う様になったらしいですよ、血が繋がってない私にはあの家の先天スキルが有りませんので……肉弾戦はまだ難しいそうです……なのでとりあえず鉄扇で相手を受け流したり、鈍器代わりにしてぶちのめしたり、剣代わりにして叩き切る方法を高校入学を機に教えてくれるらしいです」


 って事はそのうち出来るようになるのかなー、お兄ちゃんはちょっと兄妹げんかとかが怖くなるなー。


「そ……そうか、思ったよりすごそうなお義母さんだな、モバタン通話で会話した時は気の良さそうな人だったんだが……」


「優しいですよ? ただまぁお兄ちゃんが弱すぎるなら……鍛え直しとかはあるかもしれませんけど……頑張って強くなっておいてね! お兄ちゃん!」


「お……おう、まぁある程度は強くなっておきたいしな、頑張るよ……ってか姫のご両親に会うだけで命がけになりそうなのおかしくね?」


 疑問を投げかけると姫乃はそそくさと立ち上がり。


「じゃぁ私はそろそろ帰りますね! お兄ちゃん、ポン助、リル助、木三郎さんまた遊ぼうね! スライム達もいつもクッション有難う! じゃさようなら~」

『シャシャシャ~』


 玄関に向かう姫乃を外まで見送りについていく俺とリルル、木三郎さんは外に出せないし、ポン子はまだ飯を食いながら。


「ハグハグ、春のかき揚げは旬を感じれて美味しいです、姫ちゃんさいならでーす、次は負けませんからね~」


 テーブルの上でそう手を振っていた、買い物から帰ってから木三郎さんを紹介して、またあの会社経営スゴロクをやったんだが、今度は一位が姫乃で二位がリルル、三位がポン子で木三郎が四位、で俺が五位だった……解せぬ。


 玄関から外に出て姫乃を見送る俺とリルル。


「んじゃ気を付けてな姫、またいつでも遊びにこいよ」

「姫様また来て下さいね! 気をつけてお帰り下さい」


「勿論また時間が空けば来ますよ、お兄ちゃんまたね、リル助もまた遊ぼうね~では帰ります」


 時折振り返って手を振る姫乃が見えなくなるまで見送った、しっかしリルルは本当に姫乃に懐いたよな人見知りモードが無いし、姫乃も施設の子らと一緒にいる時のような明るさだ、中学校とかで見かけた時とちょっと違うんだよなぁ、姫乃は内弁慶だし。


 元の部屋に戻ると、テーブルの上を片付けている木三郎さんと、片付けるのに邪魔なのか床に置かれてるスライムの上で寝転がっているポン子が居た。


 家事をするゴーレムとかそれだけでやべーよなぁ……。


「じゃまぁ俺は明日の為に揉み動画でも復習するよ、皆はどうするね?」


「私は木三郎さんの記憶領域拡張がまだ終わってませんのでそれをしてます」


 リルルがそう言いいながら木三郎さんをカードに戻して白衣を着つつ離れて行った、ポン子の方は。


「イチローちょっと〈鉄扇〉と〈二つ名〉とかで検索かけてみませんか?」


 ああ、姫乃のお義母さんの話か、まぁやってみるか、とモバタンで検索をかけてみた。


「えーと鉄扇で有名な人ってーとこれかな? 〈扇姫せんき〉ってやつ、詳しいプロフィールとかはさすがに載ってないけど前の二つ名が……〈戦鬼せんき〉だってさ……間違いなくこれだな」


「これですね……〈戦鬼〉で検索すると……十年以上前の動画とかありますね、ちょっと見てみましょう」


 動画を視聴した俺らだが……。


「なぁポン子、俺さぁ……姫乃のご両親に会うのはずっと後回しにしようと思うんだよ……」


「姫ちゃんが遊びにきてるんだし、挨拶とかでそのうち会う事になるんじゃないですか?」


「嫌なんですけど? この人に鍛え直されるのめっちゃ怖いんですけど!? なんで武器も何も装備してない拳で殴ったらストーンゴーレムが爆散するの? どうして浜辺の戦闘で水着で素足の蹴りなのに突撃ザメが真っ二つになるの? 意味判んないんだけど!」


「これは……強烈ですねぇ……間違いなく上級探索者といった所ですかね、えーと肌の色が微妙に変わっているので〈身体硬化〉系のスキルではないかと考察されてますが本人は何も言わないそうで謎っぽいです、でもむしろすごいのはこの二つ名を改めさせる決闘動画ですね、相手のファイヤーストームでしょうか範囲攻撃魔法に生身で突っ込んで無事なうえに魔法障壁を五枚程軽く打ち抜いて鉄扇で腹パンしてますよねこれ」


「それさぁ鉄扇使ってない方が絶対強いよな、拳で直接殴ったら相手の胴に穴が空くんじゃね? 鉄扇は手加減用か?」


「二つ名を変えさせる為に無理やり使っていたが、そのうち鉄扇の扱いも上手くなっていったと書いてありますね、本人的には二つ名を〈舞姫まいひめ〉とかにさせたかったようなのですが結局〈戦鬼せんき〉と同じ読みである〈扇姫せんき〉に落ち着いた様です」


「きっと目の前で間違えてセンキ呼びしちゃった後で、戦う鬼ではなく扇の姫の方だとか言い訳しやすい様にそうなったんじゃね?」


「なんとなくそういった光景が目に浮かぶ気がしますね……イチローは頑張って強くなった方がよさげです」


 姫乃のお義母さんっぽい人の情報を調べたら、やべーお人だという事が判明してしまった、怒らせない様にしよう。


 強くなるにしてもスキルスクロールが高いからなぁ……自力で出すにしても低階層じゃ雑魚スキルが多いんだよな、武器持ちゴブリンがたまーに戦闘系スクロールを出すらしいからもっと狩りたかったんだが……色々ツイてないよな。


 月曜に行く鉱山ダンジョン一階に出る魔物である転がるい……ロックンロールは確かDコインと鉱物と耐久が上がる系のスクロールが極まれに出るんだよな、鍛え直されるにも耐久は必要だよな、何かでねーかなぁ。


 

 そうして俺は壁のディスプレイに動画情報を飛ばして揉み動画の復習を始め、ポン子はモバタンで何かをしていて、リルルは木三郎さんカードを弄ってる。


 いつもの三者三様な感じで夜を過ごし、そして眠るのであった。


 今度こそと眠る前に契約魔法陣めいしを少しチェックしたのは言うまでも無い。




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