第91話 買い物デートと遭遇

 今俺と姫乃は買い物に出かけている、お出かけ用の可愛らしい恰好をした姫乃とツナギの俺、いやだって性能いいからさぁこのツナギ、いざって時に盾くらいにはなれるだろ?


 腕を組んでリサイクルショップで雑貨を色々見て回ってから弁当屋に行くという流れらしい、姫乃が楽しんでるならなんでもいいしな。


 今はリサイクルショップへの道を歩いてる所だ。


「へーじゃぁ、施設で仲の良かった女子達とは連絡取れてないのかぁ、いつも仲良く一緒に居たのに寂しい話だな、そのうち会える事もあるだろうし元気だせよ姫」


 施設時代に姫乃と一緒に行動してた女の子らとは連絡が取れない状態になってるらしい、姫乃と同じで富裕層へ養子に行くと施設時代の仲間とは連絡させないようにする事も多いみたいだしな、金持ちの考え方とかよう判らん。


「皆養子に行ってしまったみたいですね……それに仲が良いというか……同盟関係だっただけで……お兄ちゃんが施設を出たら皆抜け駆けを考えてたと思うんですが、私が居なくなってからアプローチとかありませんでしたか?」


 何か一度精神的に死んで? から……記憶があるはずなのに思い出せねー部分があるんだよな、暗示のせいで朦朧としてた部分もあるみたいだし……関連する人間に会えば連鎖的に思い出すんだが……。


 なんていうかこう、二週間前のお昼ご飯は何を食べたと聞かれても咄嗟に出て来ない感じだ、すべての記憶が優劣なく収まっていて……まぁ姫乃が出てくる近辺の記憶は思い出したんだがな。


「すまん中学頃の記憶は上手く思い出せないんだ……姫と一緒に居た時の彼女らの事とか俺が小学生頃までの記憶はバッチリなんだが……」


 俺の返事を聞いて姫乃は悪い事を聞いたとばかりの表情で。


「あ、ごめんなさいお兄ちゃん、気にしないで下さい彼女らに会えば私の時みたいに思い出すでしょうし、まぁその頃には私がだいぶ有利な先行逃げ切りしてるでしょうし問題なしですね」


 距離が長いと息切れして追い込み型に負けそうだな。


 そんな時俺達の後ろから声を掛けてくる人が居た。


「ちょっとそこのツナギを着た貴方、少しお話しいいかしら?」


 俺と姫乃は組んでいた腕を解き振り返る、姫乃は振り返ったらまた腕を組んできた。


 声を掛けてきた相手はどうやら二人組の様で、姫乃が通う高校の学生服を着た女の子達だった、片方は茶髪で軽くパーマなのかウエーブがかったロングヘアで、横に居る姫乃くらいのちっこい子が黒髪ショートで制服なのだが腰に剣を帯びていた、護衛かな?


 相手は最初俺の顔を見て居たが隣にいる姫乃を見るや。


「あら……貴方確かクラスの……えーと」

「草野家の令嬢ですお嬢様」


 ちっこいのが助言していた、どうやら知り合いらしい、そして姫乃は令嬢呼びされる家なのかね、まぁ姫乃は可愛いからな令嬢なんて言葉はよく似合うかもしれんが。


「そうそう草野さん、こんな所で会うなんて奇遇ですわね、少し貴方の横に居る方とお話をさせて貰えないかしら?」


 何故か姫乃に確認をしていて俺の意思は関係無いらしい、護衛も居るしエリートっぽいなぁ……あれ? この二人ってこないだ気絶してた子らだよな……。


「なぁ姫、この人らは知り合いなのか? それと土曜は学校お休みなんだろ? もしかして休日でも制服を着て出かけないといけない校則があったりするのとか」

「いいえお兄ちゃん、只のクラスメイトです、この二人は授業をさぼってダンジョンに行ったあげく気絶して救助されるというお間抜けな事をしたので、今日の午前に補修を言い渡されて居た人達です、制服はそれの帰りだからかと思われます」


 あー救助されたねぇ……やっぱあの時の子らで確定か、会話したくねーなー。


「誰がお間抜けですか! だいたいあれは学校側が無駄な授業を――」

「落ち着いて下さいお嬢様、今はケンカする時では無いですよ、それでこの人はどうなんです?」


 姫乃は相手の言葉にも一切返事をせず黙っている、そして俺としか会話してないし彼女らに挨拶すらしてないという人見知りを発揮している。


 相手も気にしてない様だからまぁいいか、そして俺の恰好をジロジロ観察し出すお嬢様と言われていた茶髪ロング娘……だって名前すら言ってこねーんだもんこいつら、もう行っていいですか?


「あの方のツナギとは色が違います……腰の鈍器を仕舞っていたと思われる装備とかも付けてませんし髪の色も仮面も……ユキ! ツナギを着た探索者は他にいませんの?」


 木三郎のツナギの色や髪を知っている? 助けに入った時にまだ気絶してなかったのか?


「ここらあたりだとまだこの人くらいの情報しか集まりませんでした、情報収集は続けているので他にも居たら即お教えしますので今しばらくお待ち下さいお嬢様」


「協会からの情報がもう少しまともであれば楽なのに! 使えないったらないわね」


 目の前に居るのに無視をして挨拶もせず会話をしているなぁ、もう行っちゃおうか、うん行こう姫乃、腕を通じて方向転換を教えて背後に向けて元通りに歩き出す俺達。


 それにやっぱり協会は駄目かぁ……金持ちとかには普通に情報流してそうだよなー。


 全部が真っ黒って訳じゃないんだろうけどな、おばちゃんとか居るし、何処の世界にも小遣い稼ぎをする小悪党は居るって事だね。


 俺と姫乃が歩いてる先に、駆け足の彼女らが慌てて回り込んできた。


「ちょっと草野さんに横の貴方! 無視をして居なくなるとか失礼じゃありません事!」


 そんな事を言ってくる茶髪お嬢様ムカっと来たので俺が言い返してやる、姫乃の腕組みの締め付けがきつくなって痛いしな、怒ったなら自分で言い返してもええんやで?


「いきなり声を掛けてきたあげく名乗りもせず、あげくにこちらを無視して相談をする、さてどちらが失礼なのやら?」


 そう挑発してみた、俺が助けた事には気づいてないのだろうけどムカつくしな、護衛が剣に手を掛けたのはすっげぇ怖いけどね!


 それを聞いた茶髪お嬢様は一瞬激高しかけるも……しばし黙りそして。


「確かに……私は少し焦り過ぎていたかもしれません、草野さんにえっとそちらの……」


「私の兄です」

「一郎といいます」


 姫乃が俺を紹介したので俺も自己紹介を相手より先にしておく、苗字の山田はあえて言わなかった、姫乃も空気を読んだのか夫とか言わなくてよかった。


「草野さんとお兄さんには大変失礼な事をしました、ここに謝罪致します」


 そう言って頭を下げてきた、促された護衛も頭を下げる。


「私の名前は〈鐘有かねあり 夏樹なつき〉と申します、こちらの護衛が〈ユキ〉です、よしなにお願いします」


 綺麗な礼、カーテシーとかいうんだっけ? それをしながら自己紹介をしてくる鐘有さん、護衛のユキさんも今度は視線を切らない程度に軽く頭を下げる。


「知ってますクラスメイトですし」

「どうもこんにちは」


 姫乃と俺らが自己紹介を受けても簡素な返事しかしない事に若干の動揺をみせてくる鐘有さん。


「えっと、私は鐘有の者なのですけど……」


「知ってますけど?」

「俺らはもう行っていいですか?」


 何故かすごい焦っている鐘有さんと護衛、なんだっていうんだ?


「待って下さい、えっと実はわたくしツナギを着た探索者様に救助を受けまして……その方にお礼を言うべく探しているのです、草野さんのお兄さんはその方と違うようでしたので、落胆して失礼な態度を取ってしまい申し訳ありません、その……貴方も探索者なのでしょうか?」


「ええ俺は探索者ですね」


 まぁ嘘はつかないでおこう。


「それならその……ダンジョンにツナギを着て探索をしている探索者様にお心当たりとかありませんでしょうか?」


「ツナギを着ているは俺くらいしか心当たりは無いですね」


 俺の言葉を聞いて落胆する鐘有さん。


「休日なのに質問に答えるお時間を頂きありがとうございました、それと先ほどは本当に失礼致しました、では失礼しますお兄さん、草野さんはまた学校で、では」


 護衛のユキが何か合図をしていたのか車道に黒塗りの高級車が近づき止まると、そこに乗り込んでいく二人、ほどなく車は走り出して離れていた。


「なんだったんでしょうね彼女達は、ダンジョンで救助されたって話は聞きましたが、まぁいいですお買い物デートの続きをしましょうお兄ちゃん」


 姫乃には木三郎さんの事を教えておくか、救助の件も含めて、そうして買い物に戻る俺達。
















 side 高級車の中


 走っている高級車の後部座席で女性二人が会話をして居る。


「あの二人、鐘有の名前を出しても、まったく動揺すらしませんでしたね夏樹お嬢様」


「そうね、いつもの取り巻き達のように、私が名乗ったら私に謝らせた事を慌てて謝罪してくるかと思ったのですが……確か草野家はどこかの魔法名家の分家でしたわよね?」


「はい、少しお待ち下さい」


 髪の短い方の女性がモバタンを取り出し操作をしている。


「菰野家の分家ですね、ですが本家とは距離を置いている様ですね、それに養子みたいですし血統スキルは無さそうで……あれ? 一人っ子ってなってます、うーん……夏樹お嬢様は〈交渉〉スキルを発動させてたんですよね? あの人達は嘘をついてましたか?」


「そんな感じは受けなかったわね素直に受け答えをしていたと思う、レジストされた可能性はあるかもだけど、それでもスキルで違和感を覚えるはずだし……あ、養子に来る前の関係なのでは無いかしら?」


「成程それはありえます! さらに詳しく追跡調査させますか?」


「止めておきましょう何か事情があるかもだし……もしかしたら只の恋人だったのかもしれないし突っ込むのは野暮よ、学校でもお詫びしておきたいけど近寄ると周りが煩いかもしれないわね、草野の家にお詫びとして高級お菓子セットでも送っておいてくれるかしら?」


「畏まりました夏樹お嬢様! 早速モバタンで指示しておきます! ……ってあわわわ草野家はあの扇姫せんきが居る家ですよこれ! 草野さんとケンカにならないで良かったぁ……扇姫が出てきたらうちの護衛群でも被害甚大でしたよ、実はちょっと剣を持つ事で相手に圧力を与えてたんですが……」


って上級探索者で近接戦の鬼って言われてたあの? 元々は戦鬼せんきって呼ばれてたのに可愛くないからって鉄扇を使う事で無理やり二つ名を変えさせたってお人よね、戦鬼呼びする人には片っ端から決闘ケンカを吹っ掛けたとかなんとか、でも養子で血統スキルが無いなら……いえ上級探索者なら未使用のスキルスクロールくらい大量に持ってそうよね、扇姫の後継者か……決闘とか申し込まれなくて良かったわねユキ」


 そう笑いながら語る茶髪ロング少女。


「笑いごとじゃないですよ! そもそも相手に失礼な事をしたのは夏樹お嬢様なんですから……決闘って、お互いに納得してる戦いなら天使は介入してこない、でしたっけか……やはり怒らせた夏樹お嬢様が決闘をするべきですね、私は応援してますから」


「何を言ってるのよユキ、私が倒れて貴方が無事だったら護衛の契約違反で借金がすごい事になるわよ? つまり扇姫が出てきたら貴方が真っ先に突撃しないといけないって事ね! 草野さん怒ってないといいわね~」


「理不尽だ!! あ、いやそもそも決闘を受けなければいいですね」


「鐘有の家としては売られたケンカは買わない訳にはいかないわね、ふぁいと~ユキ~」


「ケンカ売りかけたのお嬢様でしょうがぁぁ!!」


 コロコロと笑い声を響かせながら進む高級車、早く目的地の指示が欲しい運転手であった。

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