第90話 姫乃との休日

「日本が貿易赤字というならHENTAIを輸出すればいいじゃないか!」


 ガバっと上半身を起こす俺……ああ……いつもの夢か……横を見るとうつ伏せで倒れている黒髪の女性が一人と、リルルを肩に乗せた僕姉さんが手を振っている、おはようございます。


「それでこの女性は一体どなたなんですか僕姉さん? いやまぁなんとなくは判ってるんですが」


「ポニテ姉さんの代わりに僕が吸精しに来る予定だったんだけども、どうしても行くってレジェンドが言い出してねぇ……僕は監視役だね、大丈夫このまま連れて帰るから、またね~」


 倒れているのはどうやら可憐姉さんらしく、その足首を持ち転送魔道具の近くまで引っ張っていく僕姉さん、うつ伏せのままなので可憐姉さんの顔が床で擦られてそうだがお構いなしだな……可憐姉さんから、新世界はやはりあったんだ、とか寝言が聞こえる、リルルが肩から離れると僕姉さんは手を振りながら可憐姉さんと一緒に転移で消えていった。


 うんまぁあれだな、あの夢を見たのは可憐姉さんのせいか! 夢の中でHENTAI輸出推進委員会の委員長になってしまっていた……反対派との情報戦等スパイ映画の中に居るような夢だった。


 まぁいつものシャワーにでも――


『ピンポーン』


 鍵の開く音がしない、いやいやいくらなんでも朝食前に来る訳――


『ピポピポピポピポピポピンポーン』


 急いでドアを開けるとそこには満面の笑みを浮かべる、お出かけ用な感じの可愛い服装をしている姫乃が居た。


「おはようお兄ちゃん! 遊びにきたよ!」


「早すぎるわ! 今何時だと思ってるんだよ姫」


「もうすぐ七時くらいかな?」


 理解してて来たらしい、朝から来るって言ったけどさぁ……普通は十時くらいと思うじゃん?


「まぁ中に入れ朝ご飯はどうした?」


「お邪魔しまーす、それなら持参してきました」


 これです、と俺の目の前に大きな風呂敷で包まれた荷物を見せる、随分大きいな。


 リルルが姫様お早うございます~と姫乃の肩に乗り嬉しそうに挨拶している、姫乃もおはよーリル助と笑顔で会話を始める、そのまま部屋にあがって貰い、起き出したポン子に布団を収納して貰ってから俺はシャワーに入る、鍵を掛けながら。


 ――


 シャワーを浴び終わり髪をタオルで拭きながら部屋に戻ると、朝食の準備が終わってた。


 テーブル一杯に並べられた各種お惣菜を眺めながら普通のクッションに座り、いや大次郎さんは姫乃に使われているんだもの……。


「美味しそうだな、しかしてっきりシャワー中に飛び込んでくるかと思ってたが朝食の準備をしてくれていたんだな、ありがとう姫」


 そうお礼を言っておく、女性への感謝の気持ちは言葉に出せ、って教えだな。


「姫ちゃんはイチローが鍵を閉めた音が存外大きかったので外から開けたら音でばれると諦めていましたよ」


 ポン子がそんな暴露をしてきた、俺は姫乃を見るがあいつは視線を合わせない、そして姫乃はポン子を見て。


「ポン助は私のお義母さんが作った卵焼きや、お義母さんが作ったキンピラゴボウや、お義母さんが作ったポテトサラダや、お義母さんが作った唐揚げの甘辛煮や、お義母さんが作ったデザートの大学芋とかは食べないという事でいいのね?」


 姫乃が作った物は一つも無いらしい。


「さっきのは寝ぼけていた私の見た夢でした、勘違いです、ごめんなさい姫ちゃん、イチローも忘れて下さい」


 まぁいいけどな、しかしなんだな、うちの朝食は食パンなんだがご飯が欲しくなる差し入れだな、いや……パンに挟めば美味しいかも? キンピラゴボウにマヨかけて食パンに挟んでみよう。


「お義母さんにはお礼を言っておいてくれ、じゃぁ差し入れに感謝しつつ頂きます」


 姫乃は、お兄ちゃんがお義母さんをお義母さんと呼んでいるならそれはもう私と夫婦なのでは! とか寝言を言っている、お前の母親の名前知らないんだから他に言いようが無いだろに。


 食べながら姫乃に今日は何をしたいか聞いておく。


「あーんはぐはぐ、んで姫は遊ぶっても何かしたい事とかあるのか? リルルあーん」


「特に無いですね、基本私は部屋に籠る方が好きなタイプですから、お兄ちゃんが居ればなんでもいいです、あ、でもこないだみたく新婚さん的なお買い物デートくらいはしたいかもです勿論二人切りで!」


 ポン子やリルルを見ると、二人共コクコクと頷いているしそれくらいならいいか。


「んじゃ家でゲームでもしながらダラダラ過ごしてお昼過ぎに夕ご飯の買い物にでも二人でいくか?」


「それでおっけーですよお兄ちゃん! お部屋でのんびり皆でダラダラ過ごす……ゲームはアクションじゃない奴にしましょうね」


 アクションでもまったく構わないんだけどな、俺のウルトラテクが火を噴くよ?


「私達はお留守番ですね後輩ちゃん、のんびりしてましょう」

「了解ですポン子先輩、お外に出ないなら先輩もジャージ着ませんか?」


 リルルにジャージ攻めを食らているポン子、そこだけは引けないらしくなんとか逃げている。


 姫乃からもジャージを押されていて劣勢だな、恰好くらい本人の好きにさせてやれと助け船を出しておいた、全員ジャージとか何処の部活動だよって思えてくるしな。


 お昼は姫乃の差し入れの残りや空間庫に残ってる物でどうにかするとして、それまで4人でゲームをして遊ぶ事に、アクションでも良いって言ったのに日本全国で会社を経営するスゴロクゲームになった、早速ゲームの権利を買ってっと……。



 ――


「なぁ姫、俺の所持金だけ赤い文字なんだけどバグって奴か?」


 数字は一番大きいのになぁ、会社買収とか出来ないんだよなゲームが壊れてねぇか?


「判らないフリしてもお兄ちゃんが借金だらけで赤字なのは変わりません、私は東北で会社を固めてっと巨大商圏の出来上がりです! 次は北海道を攻め落としてから背後の憂いなく中央に切り込みます!」


 うぐぐ、誰だ金鉱経営は黒字がでかいとか勧めた奴は……。


「イチローはギャンブルしすぎなんですよ、もっとこう堅実に手堅い会社を買収してですね」

「あ、ポン子先輩の育てきったその会社私が貰いますねー」

「ちょ! まって後輩ちゃんコツコツと育てた私のお菓子会社がぁぁ!?」


 お菓子会社経営って手堅いのか? でもかなり投資してた会社をリルルに奪われてるな、哀れな奴め。


 そして俺は何も出来ずに何故かアルバイトをしてる、これ一度沈んだら浮き上がれなくねえか?


「ぬぬぬ、リル助の関東圏と中部の商圏が大きすぎて手に負えなくなってきてる……」


「姫様ごめんなさい、資金が余りすぎているので、そこの温泉旅館連合を組合ごと全部一気に貰いますねー」

「にゃー! ちょリル助! そこはうちの会社員の士気を上げるのに必要な……急所を確実に攻めてくるわね……、ポン助! ここは連携してトップを引きずり降ろさないと負けるわ! 二人での連合を数年だけ組む事を提案します」


「いいですよー受けます姫ちゃん、近畿から追い出されて四国と九州しかありませんがまだまだいけます」


 楽しそうだなー三人共、ワーキャー言いながら戦ってる。


「俺は未だにアルバイトなんだが……必要無いですか? あ、宝くじ当たった」


 なんだこれバイト帰りに買った宝くじで五千億当たったんですけどゲームバランスおかしくね? 全額注ぎ込んでリルルの中核会社を乗っ取れてしまった。


「え……ご主人様に会社全部乗っ取られたです……こんなのありですかー? ご主人様の秘書でお金を貯めるです……お茶汲みです」


「ふふふ、これはチャンス! お兄ちゃんの操作なら勝てるわ、ポン助一気にいくわよ」

「がってん姫ちゃん、まずはお菓子会社を取り返して! そして……あ……新作のニンニクチョコの売り上げが悪すぎて倒産に! むきゃー借金の連鎖で他の会社まで倒産の連鎖がぁ! ……残ったのは九州にあるミカン農園だけになりました、美味しいミカンを作る事に専念しますので連合から抜けますね姫ちゃん」


「おお、ポン子が持ってた会社が次から次へと救助要請をしてくるので全部買い取れてしまった、決算で一気に日本の七割ほど掌握してしまったな、はっはっはこれは俺の勝ちか?」


「うちの会社員の士気が上がりません……やはり温泉が無いと厳しいです、もう設定期間も終わりますしこれは二位で終わりますね……あ」

「美味しいミカンが出来そうです……あ」

「ゲームで勝つとか久しぶりかもしれん……え?」


 俺の部下がおこした巨額の横領やら不正を内部告発され会社から追い出されてしまった……会社は告発した者が掌握して、俺は新たな仕事を探したらそこは……。


 そして設定時間が終わり。


「一位のリルルです、ありがとうございました!」

「二位の姫乃よ! リル助貴方えぐい勝ち方するわね……」

「三位のミカン農家ポン子です、美味しいミカンはいかがですか?」

「四位のイチローだ! 最後は何故かリルル会長の運転手として働いてました」


「って誰だこんなゲーム作った奴は! えっと制作会社が……なぁポン子……会社名にハレルヤが入ってるのだがこれって」


「天使資本かもしれませんね……イチローの言いたい事は判ってます、神界にはミカンの品種改良が出来るようにして貰っておきますね!」


 ゲーム終わったんだから、お前はミカン農家から帰ってこい!


「問題はそこじゃないと思うのは私だけかしら? リル助はどう思う?」

「面白かったですねー姫様、またやりましょう」


 まぁ皆が楽しめてるなら良かったのか。


 そして姫乃が買っていたモバタンのゲームなんかもしつつお昼まで遊んでご飯を食べる、そして姫乃とお買い物に行く、ポン子とリルルはお留守番。


「じゃ、ちょこっと買い物行ってくるな、留守番よろしく二人共」


「行ってきます、お菓子も買ってくるからねポン助リル助」


「行ってらっしゃいイチロー、姫ちゃん」

「行ってらっしゃいませご主人様、姫様」


 飯を買いに行くだけなんだが姫乃は嬉しそうだ。





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