第86話 木三郎奮闘

 木三郎が前に出てきて思い出す。


「そうか木三郎なら! 確かゴーレム系は状態異常が効き辛いという話があったな」


 木三郎がコクリと頷く、しかし中には恐らくこれを為した上位種なゴブリンが居る。


「中に居るゴブリンは上位種な可能性が……いや確実に上位種だ、勝てるかどうか判らんが行ってくれるか? 木三郎」


 木三郎は胸をドンッっと手で叩いて、まかせておけ、といったジェスチャーをすると早速とばかりに動き出そうとする。


「ってまてまて、まずは俺が木三郎に〈救世〉を強めにかけるからそれから行ってくれ、この状態異常を起こしている奴を倒せばそれが魔法効果なら消えるから、そしたら俺らも突っ込む、頼んだぞ木三郎、リソース消費かなり強めの〈救世〉!」


 効果時間をなるべく長く効果も上げて木三郎のみを指定した〈救世〉をかけると、木三郎は黄色い空気の中を駆けて行った、いつもより早い動きだ、頼んだぞ……リソースはこの後の戦いの為にデフォルトで数回分しか残ってない、効果を上げようとするとリソース効率悪すぎだよな、はよ魔力依存の支援スキルとかも手に入れたい。


 ポン子やリルルと入口付近でハラハラしながら様子を見る、空気が濁っていて良く見えないが、どうやら立っているのはゴブリン一体だけのようだ。


「立ってるゴブリンは一体しか居ないか? 周りに倒れてるのが微妙に動いてるようにも見える」


「上位種の使った魔法だか技は敵味方を区別しないタイプだったのかもしれません、イチローの〈救世〉は敵と乱戦中でも味方だけに掛けらる個別指定マルチロック型ですが、ゴブリンの使った状態異常は範囲指定型だったのでしょう、消えてないゴブリンにはトドメをしっかり刺していきましょう」


「私も幻惑で頑張ります!」


「頼んだぞ二人共、もしこの黄色い空気が晴れないようなら……近くにいるパーティに救援を求めるしか無いかもしれん、俺は物語の主人公じゃないからな……」


 ポン子が呆れた口調で言ってくる。


「そんな悔しそうな表情で言われても説得力ないですよイチロー、いざとなれば私の風魔法を連打して散らせないか試してみましょう」


「大丈夫ですご主人様! 木三郎さんならきっと成し遂げてくれます、完璧執事を目指すんですから!」


 そうだな……濁った黄色い空気の中からドガッドゴッと音が聞こえてくる……うっすらと木三郎や相手も見えるが、音がするという事はまだ戦えているって事だ。


 そんな時ドガンッと大きな音が聞こえた、どちらかが崩れ落ちたようにも見える、そしてまたゴスドスと音が少し聞こえて、何も聞こえなくなった……どうなった?


 そんな時、黄色い空気が急に晴れていった。


「よし突入するぞ、全員に〈救世〉!」


 使い惜しみなしで突入する、数十メートルを走り探索者っぽい重なり合った二人を確認、それと倒れているゴブリン達、消えてないって事はまだ生きてるなこいつら。


「イチロー!」


 ポン子の大きな声で倒れてる人やゴブリンから目を離しそちらに向かうと……木三郎さんが倒れていた……。


「ご主人様! 木三郎さんが!」


 リルルが大きな声で声をかけて来る、木三郎さんは胸の真ん中に大穴が空いていた……手はまだ動くらしく縋り付いているリルルの頭を撫でている。


「ポン子木三郎さんは大丈夫なのか?」


「魔法か何かを胸に食らったのでしょう……このままだと……消えてしまうかもしれません……いえ時間の問題です、くっこんな低階層でウッドゴーレムのそこそこ堅い木を砕くような魔法を使う魔物に出会う……? そんな不運があってたまりますか!」


 ポン子は運の無さに対して怒っている。


 くそ! 再生付与も出来る〈救世〉はリソースが空っぽでもう使えないし、せっかく皆でこれから頑張るって話だったのに……大志兄貴は言っていたカードで召喚した魔物の消耗は当たり前だと……でも俺は……。



 ……そういえば木三郎さんは木の仮面を……。


 そう、そうだ! ウッドゴーレムは木を吸収してある程度なら補修が出来るという話だった、こんな深い傷を治せるかは……いややってみないと判らない! わずかでも可能性があるなら賭けるしかない。


 俺は自分の持つプレゼントされたプラス棒を見る……ごめんなさい金髪天使さん!


「木三郎さんこれを吸収して補修に使え! この棒を木三郎さんに譲渡する事を俺は宣言する!」


 俺はそう宣言をして木三郎さんに棒を渡す、木三郎さんはコクリと頷きそれを自分の砕かれた胸にあてる、棒はずりずりと中に吸い込まれるようにして吸収されていった、そして。


『ぐぎゃっ』


 横からゴブリンの声が聞こえた、そちらを見ると、くそ! 離れた場所に倒れているゴブリン達の手足が動き始めている。


「ポン子! 昔の棒を出せ! ポン子と俺はゴブリンの掃討! リルルは木三郎さんと倒れてる二人を幻惑で護衛!」


「了解イチロー! とっとと片付けます! ウインドショット!」


 ポン子がそう攻撃をしながら空間庫から棒を出した、俺はそれを受け取るや動こうとしているゴブリンにスライムで鍛えた振り下ろし攻撃をお見舞いする! 地にうごめいている今なら二年間鍛えたこの攻撃で十分だ!


「任せて下さいご主人様! 幻惑フルパワーです!」


 リルルがそう言うと倒れている木三郎さんや二人の女性の幻が一杯出てきた、これには立ち上がろうとしていたゴブリンも困惑してグギャグギャと上手く動けずにいる、今のうちに減らさないとな、おりゃぁぁ!


 ――


 ――


 バコンッ、ゴブリンに致命の一撃を当てると相手は消えていった、これでこのあたりは終わりか。


「こっちは終わったポン子そっちは?」


「こっちも終わりましたイチロー、全部倒せたと思います」


 リルルもそれを聞いて幻を解く、木三郎さんと倒れている二人の幻は消えて、残っているのは女性二人と地獄産マラカスだけだった……なんで? 間に合わなかった?


「木三郎さんは!?」


 焦った俺が周りを見回すと、マラカスの側にカードが一枚落ちている、普通なら何のカードか判るように絵が記されているはず、下の方には何の種族かとかレアリティとか簡単な記載もあるはずのカードが、絵の部分はぐるぐるとナウローディングを示し記載は文字化けしていた。


「これ……木三郎さんだよな? カードを調べていた時に確かこんな情報があったような……なんだっけか」


 ポン子がモバタンで即調べてくれた、ちなみに倒れてる二人は息がある事を確認してからちょっと放置している、生きてるなら木三郎さん優先だ。


「ありましたイチロー、これカードの魔物が進化する事が極々稀にあるかもって奴かもしれませんね、書き込み主は嘘つき呼ばわりされて続報は無かったんですが、都市伝説的に情報は残ってます」


 リルルがカードを持って魔法を使っている。


「大丈夫ですご主人様、木三郎さんは今カードの中で自身の修復と進化をしている過程のようです……よかった……しばらく時間を置けば良いと思います」


 そうか! リルルのそれを聞いてホッっとした……良かった……。


「良かったなぁ、恐らく木三郎さんは上位種ゴブリンを倒した事で進化の条件を満たしたって事なのかもな」


 ポン子とリルルはお互いに見合い、そして俺を見る。


「違うような気もしますが、イチローがそれで納得するならそれで良いかと」


「ご主人様のお側にいると研究甲斐のある事が山積みになっていくので楽しいです」


 んん? 何かちょっと思ってたのと反応が違う気もするが……まぁ木三郎さんが助かってるならどうでもいいか。


 倒れている二人をリルルが詳しく調べてみると、状態異常の重ね掛けを受けて今この場で起こすのは専用の魔法や薬が必要との事、麻痺解除薬とか耐性を上げる薬とかあったら買っておかないと駄目だなこれ、ちょっと強く成って油断してたよ、この人らは俺の未来の姿だったかもしれん、そして救援が無ければ……うん、もっと気をつけよっと。


 よくよく確認してみると、この倒れてた二人は姫乃と同じ学生服を着ている、その上から皮鎧とかも着てるから判りにくかったけど、探索者専門高校の生徒か。


「さて……今日はもう帰るか、木三郎が居ないと戦力足りないが二人共頼むね」


 ――


 六階の中ほどに居るので元来たルートをそのまま帰るのが敵が少なくて済むだろうと戻っている所だ、ゴブリンも徘徊しているので遭遇はゼロじゃない、故に昏倒している女性二人はリルルの生活魔法で地面から数センチの場所を仰向けで浮かせて運んでいる、当然近くにゴブリンが居ると生活魔法は解除されて彼女らが地面に落ちる。


 むしろ地面に落ちたら曲がり角の向こうでも敵がいる事が判るので便利かもしれん、そうポン子に言ったら、裏技的にスキルを使うとすぐさまパッチを当てられるから止めておくように言われた、今回のは救助だから目こぼしはされるだろうとも付け加えて。


 しかたないな、その時ドサッっと二人が地面に落ちて少し滑る、その都度彼女らの後頭部が石畳にこすれるが、まぁ生きてるしいいだろ。


「敵が居るようだ行くぞ!」

「了解イチロー」

「任せて下さいご主人様!」


 三人だと厳しいがなんとか武器持ちゴブリンを倒していく、前に使っていた棒がいかに弱いか実感してしまう……途中出会った他の探索者パーティに仰向けで地面の上を滑るようにして移動する女性二人にびっくりされたりもしたが、寝ているだけなので安心ですと収めつつ帰り路を急ぐ。


 六階から上に行く階段付近からは行き交う人も多く、運んでいる制服女性二人を指さして居る人達なんかも居る。


 階段まで辿り着けばもう安心……は出来ないのでやっぱり低空飛行で運んでいく、俺が背負っても結局一人しか背負えないし敵が出てきたら放り捨てないといけないからね仕方ないね、たまに階段の角に彼女らの後頭部が擦れてしまうが、高さを上げて運んで生活魔法が切れて落ちる方が危険だしな、まぁしょうがない。


 やっと外に出れた、しかしやっぱり低空飛行で運ぶ、人の悪意も怖いからね仕方ない。


 すごい目立ってるが気にせず近くの協会受け付けに行く、そこで六階で倒れていたのを拾ったと言って救護室に放り込ませて貰った、ベッドに寝かせた彼女らの横の床にあの部屋に落ちていたドロップ品をまとめて置いておく、話し合ってもないのに勝手に貰うのは嫌だし起きるまで待つつもりもない、それに彼女らの装備も混じっているだろうしね……はよ帰って木三郎さんがどうなったか確認しないとな。


 協会の人に説明を求められたのでしておく、部屋からうめき声が聞こえて見にいったら彼女らが倒れていたので運んで来たと、白夜ダンジョンは規模が大きいのでウソを見破る系のスキル持ちが居たみたいだ、ウソはついてないし彼女らも無事なので即解放された、お礼とか要らないので彼女らへの情報の公開は拒否しておいた。



 そそくさと自分達の分のドロップを石板やら受付やらで換金して帰る、ちょっと早めの時間に帰還する事になったがそれでも六万は超えていた、やっべぇゴブリン武器すげー儲かるなぁ、でもこれが五人パーティなら……スライムソロのが儲かるのか。


 時間も惜しいし屋台で色々買いこんでとっとと家に帰る俺達。


 ――


 ――


 部屋のドアを開けてただいまっと、よし今日は誰も居ないな、誰も居ないのが当たり前なんだが毎回誰かいるんではと思ってしまう。


 部屋に入り荷物を置きテーブルに木三郎さんカードを出して貰う。


 ん?


 んん?


 んんんんん?


「なぁポン子俺の目にはこのカードの記載部分に『ウッドラシルガーディアンゴーレム+1』って書いてあるように見えるんだが、レアリティもアンコモンからスーパーレアになってるし、ちょっと今日の戦いで疲れすぎてしまったのかな目がおかしくなってるかもしれん」


「いえイチローの目は正常ですよ、私にもそう読めます、もっとすごい物に進化すると思いました意外と普通でしたね」


「木三郎さん大きくなって強そうです!」


 確かにちょっとごつくなってプロレスラーみたいな感じはするけども……。


「いやまてまてポン子、ウッドゴーレムの進化ならもっとこうナイトウッドゴーレムとかファイターウッドゴーレムとかじゃないの!? なんだよガーディアンって! ガーディアンの名はコアを守護する奴につくとかだっただろう? 進化の過程がおかしいから! 類人猿が進化してホモサピエンスにならず火星人になったようなもんだよ? 普通じゃないからね? 後ラシルって何だよ……前にポン子がラシル棒とか言ってたのと関係ありそうだが……+1とか高いレアリティとか要素が多すぎて突っ込みさんが息切れするわ!」


「さすがに世界を冠すると言っても末端素材でしかも体の大きさからみると量が少なかったせいか、そこそこで収まりました、まぁダンジョンの浅い階から中層すっ飛ばしてコアのある最下層って感じですが、でも場合によっては世界に飛び出すゴーレムになってたかもだし……やっぱ普通ですね」


「木三郎さんの改造できる余地がすごい広がったのが判ります……ゴクリッ」


 ポン子が俺の驚きにまったく共感してくれんのが不思議でならん。


 そしてリルルが暴走しそうだ、ドウドウ、リルルさん落ち着けー落ち着けー。


「よしポン子、お前はちょっとモバタンでガーディアンの名が付くカードのオークション落札記録を見てみろ! ガーディアンを抜いた名前の普通のカードも一緒にな」


 落ち着いているポン子にそう命じてみる、ポン子は、何なんです、とか言いながらモバタンを出して操作している、そしてモバタンを見ていた顔が驚愕に染まる、よしよし理解できたようだ。


「ごめんなさいイチロー、私が間違っていたかもしれません」

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