第84話 対ゴブリン二回目

 今日も朝から白夜ダンジョン、相変わらず人が多い、朝確認したオークションも予定道りに〈杖術〉スクロールを落札出来ていた、協会受け付けで受け取りすぐ使ってしまう、何気に自分でスキルを覚えるのは初めてだ。


 ガイド音声さんに〈杖術〉を覚えるか聞かれるので元気よくハイッっと答える、協会受け付けのお姉さんがおめでとうと笑顔で拍手してくれた、受け取り時に身元照会もしてるのでオークション購入が初めてだってデータを見て、俺が初めてスキルを覚えたとか思ってるのかもしれない、どーもですと答えながら受付を離れる。


 モバタンやら情報連結やらはすごい便利だけど、すべてが情報管理された世界でもあるんだよなぁ……。


 気を取り直してポン子ご要望の屋台飯をお昼用に買っていく、ダンジョン内に持ち込む事も考えて持ち運びし易い様な物も多く、生地にソースやらが練り込んであるので食べやすいお好み焼き……いやこういうのは、お焼きっていうのか? まぁそんなのや焼き芋やら後おやつ用のベビーカステラや、干物を買っていく。



 いやね、屋台で干物を見かけた時はなんだこれと思ったんだけど、屋台の人に聞いてみると匂いに釣られる魔物を集めるのにダンジョン内で炙るんだってさ、眉唾だけど一度試してみようかと思ってスルメとか買ってみたんだ。


 前と同じ初級用の入口から階段を降りていく、下に降りるだけなら階段がすぐ側にあるから四階はパスしてすぐ五階へと、入口近くの小部屋で木三郎を召喚してマラカスを渡しておく。


 金髪天使さんに頂いたプラス棒と〈杖術〉の出番だね、昨日と同じく先頭が俺、頭上に妖精コンビが浮かび、ナナメ後ろに木三郎というフォーメーションで進んでいく。


 早速通路にゴブリンを発見、相手もこちらを見つけて駆けてくる、まずは〈杖術〉の具合を見る為に一人でやってみる事に、短い石斧を持って攻撃してくるが〈杖術〉さんが体の動かし方を教えてくれる、プラス棒で流すように受け止めて相手の体のバランスを崩す、そしてプラス棒で軽く流れにそって押すように払えばコロリンと転んでいくゴブリン。


 そこに木三郎がトドメをいれている。


「うわぁ……戦闘用のスキルやばいなこれ、体の動かし方をナビしてくれるし、スキルに身を委ねても勝手に動いてくれそう、まだまだ熟練度が低くてこれかぁ……探索者がこぞってスキルを覚えようとするのも理解できる、強くなるには修練で熟練度を上げるのもいいけどスキルを覚えるのも必要だな、これからは金が溜まったらオークションで戦闘用スキルを探すクセをつけよう」


「思ったより使えそうですねイチロー、ただゴブリンを受け流すだけでなく攻撃もしましょうよ」

『シャッ』


 ああ、それか…‥。


「いや、実はこの〈杖術〉が人気なくて安いのって武器に火力が無いのもあるんだが、攻撃には向かないからなんだよね、受け流しやら防御系体さばきやらはナビしてくれるんだけど、攻撃は不殺の技しかねーんだよ、相手の動きを止めたり転ばせたり……でもまぁ戦闘での動きが良くなっただけかなりマシだとは思う、昨日は体ガチガチだったしな」


 ポン子はそれと聞くと、なるほどと納得をしながら。


「安いには安いなりの理由があるのですね、まぁ相手を転ばせた時点で勝ち確なので問題は無いでしょう、イチローの防御が上手くなったというなら十分です」

「アイテム拾い終わりました、ご主人様~」

『シャ』


 アイテム拾いをしてくれたリルルにお礼を言いつつ五階で皆で戦ってみた、昨日より格段に速く安全に倒せる様になっているので、六階に向かう事に。


 ――


 そうして階段を降りてきた六階は、四階や五階と比べると通路は倍近く広がっていて複数でパーティを組んだゴブリンが徘徊している、階層そのものも五階の十倍以上あり尚且つ部屋の中の大きさがまるで違う、部屋の中に広めの草原や花畑や沼地があったりして廊下側の道の距離と合わないのだ、そもダンジョンは別空間に作られてるっぽいので気にしたら負けかもしれなのだが……大きい部屋だとキロ単位に広いらしく俺達は慣れるまでは廊下メインで戦う事にした。


 廊下に徘徊しているゴブリンも体が大きくなっており武器も小汚いが金属製の剣やら斧やらを持っている、倒すと武器も消えてしまう事が多いのだが、たまにそのまま残るドロップが美味しいとの事、魔力の宿った金属をそれなりの量手に入る金属製の武器持ちゴブリンは危険度が上がると共に美味しい敵としてここらあたりの階層から人気がある。


 各部屋も一つのパーティが確保して入り口あたりで釣り狩りをしたりもするそうで、白夜ダンジョンの情報板には縄張りを主張しすぎてケンカにならないように注意書きがされていた、戦いやすく釣りやすい広めの草原部屋の入口とかは常に人が居るくらいの人気だそうだ、狭めの部屋が空いていたら挑戦も考えてみよう。


 ――


「よっほっとやっ」


 三体目の武器持ちゴブリンの攻撃を受け流して転ばして後は木三郎にまかせる、そしてポン子が牽制をしている次の武器持ちゴブリンに向かう、ちなみに今ポン子はリルルの援護で三体くらいに増えて見えてる、ゴブリンは幻惑のポン子を殴ろうと武器をスカスカと外していて、本物のポン子の魔法を何度も食らったゴブリンは倒れていきあっという間に最後の一体に。


「これで最後っと」


 最後の一体だからと相手を倒す思いで〈マラカス〉の電気を付与した本気の突き攻撃を試してみるが〈杖術〉スキルさんは出し始めくらいはナビしてくれたが最後の方は反応が無く体が少しブレてしまった、うーんやっぱり倒そうとするとナビが切れちゃうなぁ……武器持ちゴブリン三匹相手に防御でさばけてる時点で十分すごいスキルだとは思うが、そのうち槍術スキルとかを増やせばスキルにシナジー効果も出ていいかもな、槍術スキルはかなりお高いけど。


「ふぃぃー、曲がり角を曲がったら武器持ちゴブリンが五体いたのはびびったな」


 ちょっと見通しが悪いのに不注意だったかもしれない。


「タゲを取るイチローが心配でしたが三体相手でも余裕でさばいていて安心しました」


 俺は先頭に居たからな、急に襲ってきてびっくりしたわ、むしろ〈杖術〉スキルさんが勝手に反応してくれたのよね……。


「幻惑も上手く嵌りましたです」


 リルルが作り出したポン子の幻にゴブリンが二匹釣られたのは大きかった、グッジョブと二人を褒めておく。


 勿論木三郎さんのトドメも有難い、俺は防御して転ばせるお仕事に集中できた、木三郎もグッジョブ!


『シャシャッシャ!』


「ご主人様、ドロップに武器が残ってますよ~、魔力の宿った金属で作られた剣ですね特殊な付与等はされてないみたいです空間庫に仕舞っておきますね」


 リルルがドロップを拾いながらそんな事を言ってきた、まじか!


「武器持ちゴブリンの武器ドロップ率は五%以下らしいんだが、金属部分が魔力を帯びていると、使われている金属量によって違うが一万~三万くらいになるそうだ、三本出たら昨日の稼ぎを超えちゃうな」


「この階からパーティを組んでる探索者が増えてるのもそれが狙いなんでしょうね」


「お小遣い一杯稼ぐです」

『シャっ』


 部屋の入口で固定狩りをしているパーティメンバーが五人だとして、一日二百体以上のゴブリンを倒すとする、武器が十本ドロップすればそれだけで十万~三十万の稼ぎ、そこに他のドロップも数万以上加わるから……平均で一人三万以上くらいは稼げそうなんだよな、まぁ一日二百体は良い部屋を確保しないと無理かもしれんが。


「よーしどんどん進むぞー、今まで通り過ぎた部屋はすべて他パーティで埋まってたが何処か空いてるかもしれんしな! 空いてたらやってみようぜ」


「任せて下さいイチロー、所で棒+1の使い心地はどうなんです?」


「ああうん、やべーなこのプラス棒、俺は軽く振れるのに相手はかなりの重さを感じるようでゴブリンの体勢を崩すのがすげー楽だし、尚且つ〈マラカス〉のデフォルト付与時間が数秒から十秒くらいになってる、そしてそして〈救世〉さんもデフォルトで一分近くに、効果が四倍と二倍で差があるのは威力の高いスキルの倍率は低くなっていくって事かね、上級魔法とかが四倍になったらアホみたいな事になるしな……」


 これたぶん付与がし易くなったのも有るけど魔法の杖みたいな効果もあるんだろうなと思い、ポン子に棒を魔法の杖の様な触媒にしてアクアショットを発動して貰ったら、威力が倍以上になってて使用魔力が半減したそうだ……。


「この棒やばくね……? この性能がばれたら他の探索者に売ってくれって言われそうだ」


 思った以上の性能にちょっとびびる、さらに+1されて耐久値やら攻撃力やらも上がってるはずなんだよな、それにツナギも何度かゴブリンの攻撃がかすったけど破れもしないし痛くもなかった、サキュバスさん達にも天使さん達にも感謝しかないな……今は姫乃の事があるからダンジョンに専念するが、いつか揉みでお返しせねばな。


 リルルは俺のプラス棒に興味も持ったのか近づいてきて棒を触って……何故か固まっている、どした? そんなリルルをポン子は少し離れた所に連れて行って内緒話とかしてる、改造は禁止とかって注意でもしてるのだろうか?


 まぁ呼び戻そう。


「どした~二人共そろそろ再開するぞ~」


 ふらふらと戻ってきた妖精コンビ。


「昨日はスクロールに気を取られてました……まさかこんな目の前にせか……ぅーポン子先輩~研究しちゃ駄目ですか~?」


「そのうちそのうちね後輩ちゃん、まずはイチローが気にせず使えるようにしようね、さてイチロー移動狩りを続けましょう」


『シャシャシャ』


 やっぱ研究だか改造の話か、でもこれメイン武器だしな……そのうちカッコイイ魔槍とか手に入れて槍術とかも覚えたらリルルの研究に渡してもいいか。


 気を取り直して廊下での移動狩りを続ける、四人の連携はかなりこなれていき問題無く武器持ちゴブリンを倒していく、お昼ご飯後も同じように移動狩りをしていく、武器のドロップも再度あってうまうまだ。


 こういった石板で売るより協会に売った方が高い物を、色んな種類売る事により実績にしようという計画だ、どうも姫乃くらいの格だと探索者の細かいデータまでは確認しなさそうだったんだ、潜った時間や日数と出かけたダンジョンや売り払ったアイテムの種類や数を見ているっぽかった、合格ラインは判らんが種類を増やそう作戦には色んな武器を落とすゴブリンは丁度よい、このまま数日はゴブリンを――。


 ……。


 ! 近くの部屋からうめき声が聞こえた気がした、皆の顔を見るとコクリと頷いている皆にも聞こえたようだ、部屋の入口に近づいてみるとそこには。


「なんだこの部屋、空気が黄色い? む、奥の方に人が倒れているような……その近くに居るのはゴブリンか!? 助けに――」


「待って下さいイチロー!」


 ポン子が止める。


「なんだポン子!? 早く助けないと!」


「イチローこの黄色いのは恐らく状態異常系の何かです、肌がピリピリする気がします」

「麻痺を与える薬か魔法を空気中に散布しているようです、ご主人様には麻痺耐性が少しありますが中に入ったらどうなるか判りません」


 リルルは眼鏡を空間庫に戻しながらそう言った。


「でも中に人が! 口に濡れた手ぬぐいを巻くとかじゃ無理か!?」


「イチローそれだけだと難しいかと、しかしこれは……ゴブリンの亜種か魔術系のゴブリンが湧いた可能性がありますね、イチローには飛び込ませませんからね」


 ポン子は俺の行く手を阻む、そりゃ俺だって無茶はしないと決めてるが……でもよ……。


 そんな俺達に手を出し述べたのは。


『シャシャ!』


 木三郎だった。

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