第82話 対ゴブリン
リルルに対して木三郎さんがジェスチャーで色々伝えようとしている、そんな所にポン子が飛んでいき、木三郎さんに地獄産材料で作られたマラカスを渡している。
なんでやねん。
ポン子が木三郎に指示を出している。
「いいですか木三郎さん、ハイなら一回、イイエなら二回、それ以外の感情は演奏で示すのです」
『シャッ』
木三郎が一回マラカスを振った、ハイって事か、それ別にマラカスじゃなくても良くないか?
楽しそうにシャカシャカ会話? をしてるのに……俺は彼に残念なお知らせをしないといけない。
「皆聞いてくれ、木三郎さんはすごい確かにすごい、だからこそ他の人間に見られる訳にいかないんだ」
そう言った俺の言動にリルルと木三郎さんは『シャシャシャーッ』と動揺した、ポン子は何となく理解しているっぽいが。
俺は丁寧に説明をする、仲間にゴーレムAとゴーレムBが居たとする、Aに魔物を倒せと命令すれば攻撃しに行く、そしてBにも同じ魔物を倒せと命令をすると、魔物の前に居るAが邪魔なのでまずそれを排除しようとする。
普通のゴレームなんてのはそれくらい指示が大変な物なのだと、ならばとAとBにそれぞれが仲間なので攻撃しないようにしつつ同じ魔物を倒せと命令するとギクシャクとした連携の取れない動きをして役に立たない、ネットで読んだ情報ではそんな感じだった。
故にアイアンゴレームの様な強い個体を単体で敵に突っ込ませるか仲間のパーティから一定の距離を置いて防御専念のような指示を出して盾と為すとか、それか荷物を持って後ろを付いて来させるだけ、のような運用をするのだとリルルと木三郎さんに説明をする、二人とも驚いていた『シャシャッシャァー』。
なのでもし木三郎さんの高性能な自律行動が他者にばれると、それを為す方法を知ろうとして来る事は明白であり、面倒に巻き込まれる可能性が大だと。
「という事で残念ながら木三郎さんは……」
「待って下さいイチロー! 私に妙案があります!」
ポン子がそんな声を上げた……本当に妙案だったら採用しよう。
「どんな案だポン子」
俺はそう聞いてみた、リルルからゴクリッと唾を飲む音が聞こえ、木三郎は『ャ』くらいの音を出していた……いやまぁなんとなく意味は判るけどさ。
「それはこれですイチロー!」
ポン子は空間庫から俺の予備のツナギを出してきた……あ……そうか変装か。
「ふむ、でも顔はどうする? それに只のツナギじゃぁ防御薄いから前衛は心配だよ」
「はい、顔はですね、確か……後輩ちゃんがコスプレ用のカツラやマスクを持ってたはずです、ここらの敵ならまだ防御とかを気にしないでもウッドゴーレムなら大丈夫でしょう、スキルの無い頃のイチローより素の防御は硬いですし、防具はもっと強い魔物が出る場所に行く事になってから考えましょう」
「さすがポン子先輩! 頭良いです、コスプレ用のカツラやマスクを全部出すので木三郎さん選んで下さい! プレゼントしますです」
リルルは空間庫から次々とカツラやマスクを取り出し生活魔法で周囲に浮かべる、様々な色や形の中から木三郎さんが選んだのは……。
肩くらいまである銀髪のカツラと、木で出来た狐面だった、なんでそれを選んだのと聞いてみたら一生懸命説明してくれた。
『シャッシャシャッシャ、シャシャシャーシャ』
うんまったく判らん。
「イチロー『ギャル転生令嬢な私の執事は完璧主義者』の執事って銀髪で細目ですからーそれに合わせたのでは?」
『シャッ!』
ポン子はそんな事を言ってきた、木三郎さんも肯定している、なるほど。
「執事のコスプレって事か? でもツナギでその恰好はちょっと変態ちっくだな……」
「ツナギはイチローの装備ですけどね~」
言われてみりゃそうだった。
「おっけー木三郎ナイスチョーイス! それなら子供にも女性にも大人気間違い無しだ!」
ポン子が頭上から。
「気持ちい良いくらいの手の平返しですねイチロー、そういうの嫌いじゃありません」
ごそごそと俺の昔着てたツナギを着た木三郎、靴も俺が前に使ってた安全靴で、木の狐面は自分の顔に吸着固定していた……え? あーあれかウードゴーレムって木をある程度吸収して欠損やらを補修に使ったり出来るって話、それを中途にする事で狐面を固定したって事かもしれん、まぁ狐面がズレないのなら便利だなとだけ覚えておく。
リルルは、肩くらいまである銀髪のカツラを木三郎さんの頭に魔法で固定していて、ちらちら見える木肌部分を肌色っぽく偽装していた、手に作業用に買っていた軍手を嵌めて貰えば完璧だ。
俺よりも背が高いな、身長百七十五前後のツナギを着た銀髪が狐面を被り両手にマラカスを持っている……通報されないかな?
うーん……探索者はアニメや漫画に出てくるような奇抜な恰好をしている人も多いし、ビキニアーマーやピエロっぽいのも居るし……うん、銀髪狐面くらい普通だな! 俺は気にしない事にした。
よしでは狩りに行くか。
「じゃまぁゴブリン狩りにレッツゴーだ!」
「行く前に疲れましたねイチロー」
「頑張りましょう~」
『シャシャシャッ』
「あ、リルルは白衣脱いで仕舞って下さい」
はーいと空間庫に白衣を仕舞うリルル、研究者モードのままだと暴走するかもだしな。
通路に出た俺らは迷路になっている道を歩いていく、がモバタンのアプリに地図が完璧に乗っているので迷う事は無い、まだ入り口近くなので他の新人探索者っぽい人と何度かすれ違うが、みんな木三郎を見るとビクッっとしてた、ごめんなさい。
歩く事しばし、ギャギャギャと前方の直角な曲がり角の向こうから声が聞こえてくる、俺はみんなにシーと静かにするように合図をして曲がり角からそっと先を覗く。
ゴブリンだ、それも武器も持ってない個体が一匹いる、後ろにいる仲間に突っ込むという合図をしてから飛び出して行く。
駆けだした俺に気づいたゴブリンもこちらに向かって走りだす、まずは棒を思いっきり縦に振り下ろす、が、避けられた!
ガコンと床を叩いた棒、その間にゴブリンが俺を殴る! っと地獄産のツナギのおかげか痛くない、こんにゃろーと俺も棒で殴りたいが背の小さいゴブリンに潜り込まれて棒は使いにくい、仕方ないので棒は左手で持ち右拳で応戦、ジャブジャブストレート、ゴブリンも殴り返してくる、隙を見て蹴りで距離を離してから棒で攻撃をする。
ゴブリンがほどなく消えていきコインが残されていた。
「ふう……ゴブリンは強いな!」
「イチローが弱いんですよ、スライムとの戦いに成れ過ぎたのか棒の扱いが単調過ぎです、それに〈マラカス〉や〈救世〉忘れてますよね?」
あ……。
「はは、最初だからわざと使わなかっただけさー」
「爽やかな口調で言っても騙されませんよ、これはちょっと計画に修正が必要そうですね」
だな……スライムの行動って判り易くて単調だったから、俺の動きがそれに慣らされてしまってる、振りかぶりからの攻撃じゃなく突きをメインにしてやってみるか……。
「済まんな、次からは皆でいくか」
「ですねー数を
「了解です、危なそうな時は幻惑術で皆を増やして相手を惑わせますね」
『シャッ』
――
部屋の中に飛びいる俺、無理に攻撃せずに相手の前に棒を常に置く感じで、軽い突き攻撃と間合いを詰めさせないようにする事に注力する、そして〈マラカス〉を付与した棒で軽く付くとゴブリンはビクッっと一瞬止まる、そこにポン子のウインドショットが当たり倒れる、そんなゴブリンに木三郎がマラカスアタックでゴブリンを打楽器にしてトドメを刺す。
ドンシャドンシャドンシャッシャドンドドンと。
さすが地獄産素材から作られたマラカスだ、木三郎の動きや力は成人の大人くらいはある、それが思いっきり叩きつけても壊れる様子は無い、マラカス自体も攻撃に使えるように先の方に重心があり重さもそこそこなんだよね。なんでそんな仕様にしたかは謎なんだけども、ポニテ姉さんは予知能力でもあるのか?
次々と倒せていけてるが……むーん俺がほとんど活躍出来てないな……。
階層を一つ下にしてみた、ここは迷宮型なのは同じで出てくるゴブリンが複数で武器持ちが増える感じだ、まだここらあたりでは探索者も少ない、儲けが大きいのはもっと下の階らしいしね。
武器といってもこん棒や錆びたナイフくらいだが、それでも武器を持ってる相手は緊張する、体が緊張で硬くなって上手く動けないな……ポン子やリルルのフォローのおかげで問題無く勝てているが、昔の俺がボッチでここに来ていたら終わっていただろう。
複数きたら木三郎も前に出てマラカスを振るう、シャカシャカ出る音にゴブリンも困惑してる事がある、そしてリルルがそんな木三郎を幻惑術で増やしたりするので、通りがかりの他の探索者も困惑してる、すんません気にしないで迂回して通って下さい。
〈マラカス〉付与の雷や睡眠やら麻痺はデフォルトの威力だとゴブリン相手でも完全に効く程では無いが一瞬動きを止める事は出来る、リソースを過剰に注入すれば効くのだろうがそれは勿体ないよな、〈救世〉はデフォルトの持続が三十秒くらいだが結構役に立つ、ポン子やリルルの魔力も回復する速度が上がるらしい、なのでちょいちょい〈救世〉はかけている。
昼飯を食べた後もゴブリンを狩って行く、ドロップに魔力の宿った武器も混じるが小汚いこん棒より地獄産マラカスの方が強いんだもの……ゴブリンの雑魚い武器は石板行だな、生産職がスキルで分解して素材にするとか聞いた、熟練度を上げる為であって素材では儲からないらしいけど。
コインやコモンポーションは結構出るので単体から出るアイテムの期待値はスライムよりは数倍美味しい稼ぎになるなぁ、でも出会える敵の数とパーティ複数人で人数割にすると考えると……まだソロでスライムの方が美味しいかも?
その後もそれなりの連携をして倒していく、そしてレアドロップは無しで帰宅する事に、まぁこんなもんだよな、迷宮五階の入口近くの小部屋で木三郎を送還したら、どさっとカツラと狐面以外が床に落ちた。
あーしまったアイテムは譲渡しないとカードに取り込めないんだったな……再度召喚した木三郎にツナギ諸々を装備させマラカス以外を譲渡する宣言をしてから送還する、今度は上手くいったようだ、地獄産マラカスだけは毎回貸す感じにしようと思う。
そして地上に戻ると日がずいぶん傾いているが競技場にあるようなライト群で照らされて明るい広場にはまだまだ人が一杯居る、リルルはやっぱり俺のツナギの中に避難してきた。
このダンジョンは二十四時間人が常に出入りしてるらしく、壁内の屋台は少し減った様だが元気よく声掛けをしている、眠らない街ならぬ眠らないダンジョンだね、陽が落ちてる間はずっとライトで照らされているから夜の来ないダンジョンで通称『白夜ダンジョン』な訳だ。
バックパックの中に移って貰ったリルルから空間庫に入れたアイテム類を受け取り石板にポンポン入れていく。
今は協会の受付でコインを清算した帰り道だ。
「スライムダンジョンよりは儲かったが、複数人居るパーティだときつそうな稼ぎだよな、ドロップする装備もゴミみたいなもんだし」
ちなみに三万ちょいくらいだった。
「ですかねー、イチローは戦力四人なのに稼ぎを分割しないでいいからまだましですが、新人探索者は大変なんでしょうね、最初は安全な資源ダンジョンを延々と巡って装備代を稼ぐ人とかもいるらしいですよ」
「あのダンジョンの入口は人が多すぎて酔いそうですぅ」
俺の肩に戻ったリルルだが人混みが本当に苦手っぽいな。
「ちゃんと皆にも稼ぎをお小遣いとして分配するからな? 等分って訳にはいかんが……まずは木三郎にマラカスホルダーに使える腰装備でも探そうぜ、DIY用の道具類ホルダー装備とかで使えそうなのとかあるだろたぶん」
「手に持って歩いているとシャカシャカ微妙に音が成るんですよね、腰に差したら手に持つよりはマシに成るでしょうか? どっちにしろ隠密活動は出来ませんね」
「お小遣いで研究用スクロールとか買えますか~? ご主人様」
それは無理ですリルルさん、お菓子を買うとか漫画を読む権利購入くらいで今は我慢して下さい。
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