第81話 白夜ダンジョンと新たな問題
「うわ……すごいなこれは」
「スライムダンジョンとは比べるべくも無いですね……」
「人が一杯で目がくらくらしますー、避難させてくださぃ……」
俺とポン子とリルルは近場でも屈指の広さを誇るダンジョンに来ていた。
このダンジョンは通称『白夜ダンジョン』なんて呼ばれている。
ここは低階層に魔物の出ないフィールド型資源用ダンジョンがあり、その先は階層を潜るほどに少しづつ敵が強くなって行くというオーソドックスなダンジョンだ、深い階層には中級探索者が稼げる場所もあるらしく、魔物と戦わない資源回収専門から中級探索者まで幅広い人が訪れるとモバタンで調べた時には書いてあった。
実際に来てみるとダンジョンを囲う壁に覆われた広場がまず広い、サッカーのフィールドが十枚以上は軽く張れるんじゃないかなぁ……、しかも壁外の周りの建物には人目当ての食べ物屋やら装備屋やらポーション屋やらが一杯だ、さらに協会に許可を得て壁の内側に出店している屋台もすごい数が出てる、お祭りか何かに思えるがこれが普段の姿らしい……人人人人人の洪水だ。
リルルは人見知りモードを発症して俺の肩からツナギの胸の中に潜り込んでいる、ポン子は頭上だ、ここは装備が豪華な中級探索者やテイムカードから召喚された魔物なんかも一杯居るんで俺が目立つ事は無い、普通にエルフとか精霊とかペガサスとか呼び出してる人もおるし、ウッドゴーレムに荷物を運ばせてたりもしてる。
ダンジョンから木材を担いで出て来た豚面オークの集団が見える、木材を石板に放り込ませてからまた入口に入っていった、オーク集団の側に居た人が召喚主で資源回収をしてるのだろう、そうして放り込まれた木材なんかは、他の石板で購入されていくという訳だ。
土地が安めなダンジョンの側に工場を建てたりもするらしい、複雑に加工された物は石板に入らなくなるので物流が完全に無くなる訳では無い、まぁ空間倉庫系スキル持ちやらが居るからトラックとかは昔より数が減ったとかなんとか。
ダンジョン周りの広間に入るゲートも東西南北の壁にそれぞれ有り一か所に入口と出口専用ゲートがそれぞれ五個づつあるという……協会の施設もゲート側にそれぞれ有るので敷地内に四か所ある事になる、スライムダンジョンって小さい規模だったんだなぁと思う。
ダンジョンの入口も東西南北に二ヶ所づつ計八ヶ所あり資源用が四ヶ所、初級用が二ヶ所、中級用が二ヶ所として分けて使うローカルルールが存在しているらしい、石板の数は数えるのも馬鹿らしいくらいある、少なくても俺とポン子とリルルの両手両足の指を使ってもまったく足りないと言えば判るだろうか……。
そしてここの協会施設には二十四時間協会員が駐在している……飴のおばちゃんは日勤で夜は誰も居なくなるスライムダンジョンとは比べちゃいけないね。
「モバタンの情報で、まず地図アプリをダウンロードするべしってこういう事だったんだな、入口からして判らん……人多すぎ……」
「屋台からの匂いの誘惑も酷いです、これではダンジョンに入れないじゃないですか! 極上の罠ですねイチロー」
「早く人の少ない場所に行きましょうご主人様……私はしばらくツナギの中に籠ってます……」
ポン子にしか効かないダンジョン関係ない罠と、リルルにクリティカルで効く人混みというダンジョン関係の無い罠が俺達を襲う! あのーダンジョンに入る前からピンチなんですけど?
「人の目があるからモバタンを
アプリに目的地であるゴブリン階層を入力すると誘導してくれる、ありがたい、ほどなく周りは初級者っぽい探索者が出たり入ったり打ち合わせをしている方面に来れた。
一番弱い階層に近いのはこっちだな、入口は違っても中のダンジョンは全て繋がっているらしいが、それぞれの入口で様子が違く、例えば資源用の入口は木材を運びやすいように一階のフィールド型ダンジョンへとナナメの緩い坂道になって居たり、初級の入口近くには魔物が弱めの初級層までの直通階段があったりする、中級者の入口にはすぐ側に転移用の魔法陣が有るそうだ、あまりに便利で天使さん達の優しさが垣間見えてしまう。
ではいざ進入だ。
入口の階段を降りるとそこはフィールド型の資源ダンジョンだった、林やなんかで奥まで見えないが確か五キロ四方以上はあるとか、地上の入り口はそこそこ近いが中だと数キロ以上先らしい、木を切っているだろうコーンコーンと斧を振るう音やらギャリギャリ削る魔道具の音かな? が聞こえてくる、それとは別に木が無いような地点にはやけにおばちゃん探索者が多い。
おばちゃんらは魔力の宿ってない旬な通常食材の回収をしているのだろう、お小遣い稼ぎに良いとか、リポップ時間もあるので資源用入口から遠いこんな所まで探しに来ているのだろうね、背中に大きなカゴを背負い素早く移動をしてまばらに生えている食材を回収している、こういう人達が居るから俺やポン子が食べるお弁当が安くて済む訳だ有難う御座います。
そして俺はすぐ側の階段をさらに降りていく、次も資源フィールドでここは果物が多いらしく、今はイチゴとか柑橘系だったかな? ちょっと詳しくは調べてないや、一年中取れるようなバナナがあるダンジョンとかも有るらしいけどね。
さらに階段を降りる、ここは穀物フィールドらしいのだが、四月だからなのか人がほとんど居ないな……夏や秋はすごい混みそうだ、でも人がちこっと居るって事は何か収穫出来るのかな?
そして本命の四階層に降りる、実は階段を降りている時は周りに一杯初級パーティが居て騒がしい、だけどまぁ四階層で狩る人はほとんど居なく彼らはさらに下へと階段を降りて行く、四階層の入口にも多少の探索者は残り、ソロだったり新人っぽいのが散り散りに奥に進んで行ってるね。
この四階層はスライムダンジョンに似てる石壁のダンジョンで通路や部屋はスライムダンジョンより狭く迷宮型な感じ、出てくるゴブリンは通路では単体が多く、しかも武器を持ってる個体は少ないらしい、新人やソロには有難い階層だ。
「さてでは奥に行くか、初のゴブリン狩りだ! 最初の一体は俺だけでやってみようと思う」
「了解ですイチロー、スライムとは違いますので気をつけて下さいね、危なそうなら私がすぐ介入しますので」
「ご主人様、盾用に木三郎さん出していいですか?」
その件があったな!
「じゃまぁそこの魔物が倒されてる空き部屋の中で召喚しようか、周りに人も居なそうだし」
そう返事をして入口近くのすでに魔物が排除されたであろう部屋の中で木三郎さんを召喚する事になった、俺の胸の中から飛び出したリルルは空間庫からカードを出し。
「木三郎さん召喚!」
そう召喚するとウッドゴーレムの木三郎さんが現れて、こちらを見るなり
「ってまてまてまてまて! ウッドゴーレムはこんな反応しないよな!? どういう事? ちょっとリルルさん?」
空中に浮かんで居たリルルは何故か白衣を着て眼鏡を掛けて。
「それでは説明します!」
研究者モードに入ってしまった。
「木三郎さんに記録領域を作った私ですが、戦闘なんてよく知らない私ですので中に入れるデータに困ってしまい、それならと、ご主人様のスキルを最初に弄った時の記憶のバックアップを利用する事を思いつきました!」
知らないうちに記憶のバックアップが取られてたらしい……いやまぁ万が一の為の処置なんだろうが……研究者って自分の思うままに進んでそれがどういう影響を周りに与えるとか一切考えない時あるよね、リルルさんにはもう少しポン子と一緒に常識を学ばせようそうしよう、と堅く誓う俺が居る。
リルルの説明は続く。
「ご主人様のバックアップの記憶から性格を作りだす様なエピソード情報等は使わずに基本情報のみを抽出、それを木三郎さんにインストールする事で基礎的な常識を持ったウッドゴーレムと為す事に成功しました!」
俺は研究者モードリルルさんにも人間界の常識を持って貰いたいです。
「んでもリルル、基礎的な知識でさっきの綺麗な礼とかするもんかね? 今もビシット直立して命令待ちって感じなんだが」
疑問をぶつけるとリルルさんはすごい嬉しそうな顔をしてさらに説明をする、頭上からポン子に、イチローは相手のやって欲しい事をしっかりやる時がありますよね、とか言われた、リルルは質問して欲しかったって事? よく判らん。
「そう! そうなんですご主人様! ただの基礎知識だけでは面白……木三郎さんが可哀想です! なのでポン子先輩に教えて貰った『ギャル転生令嬢な私の執事は完璧主義者』の漫画やアニメ化やドラマ化された物を隅から隅まで確認をしそのデータを入れる事で木三郎さんは完璧主義な執事さんに成る……事はまだ無理ですがそれっぽい礼儀作法やらを覚えてくれました! 勿論これには木三郎さんも同意してくれました」
面白いって言いかけたよこの研究者モードのリルルさん、そして同意って事は木三郎の自我を重視してるのか……それならまぁいいのか?
頭上のポン子に質問を投げかける。
「なぁポン子その『ギャル転生令嬢な私の執事は完璧主義者』ってのはどんな話なんだ?」
「そうですねぇ……日本のギャルが異世界の高位貴族の令嬢に転生をして色々騒動を起こすのですが、執事が有能な為にお嬢様の願いを叶えようと騒動がさらに大きくなるお話でしょうか?」
「騒動を大きくするのかよ! 有能で完璧主義者な執事が騒動を治めるんじゃないの?」
「幼い頃に命を救われている執事はお嬢様に対して忠誠心MAXな為に、その破天荒なギャルお嬢様の願いを完璧に叶えようとするのです、令嬢同士のお茶会をパリピカラオケ大会にしたり、ミニスカドレスを貴族社会に流行らせたり、髪を染めてパーマをバリバリに掛けてアゲアゲメガ盛りの髪型にして王国主催の夜会に参加させてみたり、貴族がやる教会への寄付金集めの奉仕活動でガールズバンドを出場させてみたり、と色々やらかします、ちなみに執事はミドル銀髪の細目で超イケメンです」
なにそれ結構面白そうだな、今度見せて貰おう。
「つまり木三郎さんは漫画の執事っぽいウッドゴーレムになったと?」
リルルは俺の質問を聞くと少し悔しそうに顔を
「はい……ですがまだ完璧執事では無いのです、漫画やアニメからの情報では表面上がそれらしい……つまりまだコスプレでしか無いのです、いつか木三郎さんにも戦闘系スキルや礼儀作法スキルを覚えさせて完璧執事にしたいです……私の力及ばずこの程度にしか出来なかった事を木三郎さんに謝るです……」
木三郎さんは、顔を伏せて浮かんで居るリルルの肩をつつき、リルルがそれに気づいて顔を上げると木三郎さんは顔を横に振っている……謝らなくてもいいよ、とでも言ってるように感じる。
……あのねリルルさん……ウッドゴーレムが人を気遣うとかありえないからね?
どうしよう。
こんなすごい性能のウッドゴーレムとか他の人の目がある場所で出せないんですけど。
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