第77話 買い物とゲーム

 俺の事情も話終わった頃、ポン子が焼肉用のホットプレートが欲しいと言い出し、四人で買い物に行く事になった、ポン子とリルルを装備したい俺だったが、制服からラフな外出着に着替えた姫乃にリルルを取られた……肩がちょっと寂しい。


 ふんふんふ~んと上機嫌に鼻歌を歌い、俺の頭の上で素足をパタパタさせるポン子、焼肉が楽しみなのは判るが視線の上の方で素足がチラチラするから気になるのよな。


 いつものリサイクルショップで買い物、ポニテ姉さんも居たが他のお客を接客中、ホットプレートと大き目の四角いテーブルとかを買い、例の死角で空間庫に仕舞ってもらう、ポニテ姉さんに軽く手をあげて挨拶してから、スーパーに焼肉用の材料等を買いにいく。


「スーパーで弁当と飲み物以外を買うのは初めてかもしれない、いや歯ブラシとか買ったっけな?」


「お兄ちゃんの食生活がすごく心配な妹がここに居ます、やっぱりちゃんとした食事を作る人が必要だと思うのだけどどう思う?」


 ちゃんとした……ねぇ? 姫乃が料理なんてしたのを見た記憶が無いんだが、お片付けは手伝ってくれたが。


 ポン子が横を歩く姫乃に話しかける。


「姫ちゃんはお料理得意なんですか? イチローはオヤツくらいしか作った事ないらしいですが」


「サラダは得意よポン助! お義父さんも喜んでメンマサラダを食べてくれたわ」


 サラダにメンマ使うのは初めて聞いたな。


「じゃぁ姫ちゃんは焼肉に何が必要とかも判りますか? やっぱり焼肉のタレとかですかね?」


 そういや何が要るんだろな? 肉は塊ですでにあるし……あ……。


「サラダ以外はサッパリだわね!」


 姫乃が無い胸を張ってそんな事を言っている。


「あれおかしいな? お兄ちゃん今私の事馬鹿にした?」


 慌てて首を横に振る俺、頭上から急に動かないで下さいよーと苦情が来る、あ、すまんポン子。


 どうして女性ってのはこう勘が鋭いのか、っていやいやそうじゃなくて!


「なぁ焼肉って肉を薄くスライスする必要あるよな? 大志兄貴がくれた肉は塊だったぜ? あれどうやって食えるようにするんだ? 知ってる人手をあげてー」


 シーン、誰も手を上げませんでした、先生は悲しいよ、あ、リルルが手を上げてくれた。


「はいリルルさんどうぞ」


 そうリルルを指名する。


「えっと姉様にお願いするのはどうでしょうか?」


 クィーン姉さんか……横の姫乃を見る、うむ、いつかは通る道だな、なら早くてもいいだろう!


「じゃぁクィーン姉さんに連絡頼めるかなリルル、うちにお肉の塊が三キロ以上届いて焼肉をする事になったんだけど、何を準備したらいいのかさっぱり判りませんので助けて下さいって伝えてくれ」


 姫乃の肩の上でハーイと返事をしたリルルは魔法モニターを出して操作している。


 スーパーに着いた俺達はクィーン姉さんの指示により買い物を始める、お肉の塊は後で切ってくれるらしい、なんでも〈生活魔法〉を使えばちょちょいっと出来るそうだ……〈生活魔法〉の汎用性おかしくない? 


 カゴを乗せたカートを押している俺と姫乃が腕を組んで歩いている。


「ねぇお兄ちゃん、こうしているとまるで新婚さんみたいだよね、若い夫婦と子供が二人……ふふ、まるで未来を暗示しているかのよう」


「妖精を従えた探索者の兄妹に見られてると俺は思います」


 ポニテ姉さんとの腕組みと違ってまったく圧迫感が無いからか、俺の心も清流が流れるがごとく清らかだ。


 姫乃がいぶかし気に俺を見た、まさか俺の思考に気づかれた!? 買い物に集中しよう。


「えっとお野菜と焼肉のタレが好みで数種類っと、後はそうだ割りばしだっけか? お客用のお箸は数膳あるし、割りばしセットって必要かなぁ? ……ま無駄になるもんでもないし買っておくか」


 買い物を終えて家に帰る俺達、そして家のドアを開けるとそこはパーティ会場だった。


 なんでやねん。


 台所の前に居て色々作業しているクィーン姉さんが。


「あ、お帰りなさーい、冷蔵庫の中のお肉はもう切っちゃったわよ、あれだけじゃ足りそうに無いので、こちらでお肉の追加は用意するから安心してね」


 お肉の量とかじゃなく家の中のおかしさに安心できません。


 ただいまと言ってから部屋に入る、長細いテーブルが二つ並んで部屋を真っ二つに分けている、そこで焼肉の準備をしてるサキュバス、そう、だ、助けてくれとクィーン姉さんに頼んだら部隊を引き連れ救援にやってきたようだ。


 姫乃さん? 腕を組んだままなのはいいが締め付けが、だんだん強くなってるんですけど! 無意識でやってるっぽいが、気のせいか俺より力が強いんじゃないだろうかこれ。


 はいこんばんは~、僕姉さんに、格ゲー姉さん、図書委員さん、へー後からポニテ姉さんも来ると、他にも来たがったが部屋が狭いから面識あるサキュバス達でクジ引きにしたと、なるほどー、せめて来ていいか部屋の主に聞いてくれると嬉しいです。


 あれ? 可憐姉さんとか真っ先にクジの結果を無視して来そうなんですが? リハビリ? ……怪我でもしたんだろうか、心配だね。


 テーブルにはホットプレートがすでに一つある、ペットボトルのシュースも並んでいる、そこにさっき買ってきたホットプレートや割りばしを出して設置を手伝う、割りばしが必要ってこういう事か。


 姫乃は俺の腕から離れて、サキュバスさん達に挨拶と自己紹介に行っている。


 うんうん、俺の妹は礼儀正しくて良い子に育ってるなぁ……全員にお兄ちゃんとの関係は? と聞いているのは気づかなかった事にしたい、全員リルルの姉でお客さんです。


 準備が終わったがどうせならポニテ姉さんも待ちたいのでゲームでもして時間を潰す事になった、壁掛けディスプレイの反対側で大次郎さんに横長のクッションに成って貰い、そこにみんなで並んで座り、約束の格ゲーをする事になる、クィーン姉さんはまだ作業をしている、手伝おうか聞いたら料理は趣味だしまかせてと言われてしまったのでな。


 ポン子やリルルは例のごとくスラ蔵さんやスラ衛門さんとテーブルに居る。


 モバタンで格ゲーソフトの権利を買い求め、各種機器を無線……ではなく謎の魔法パワーで繋げる。


 まずは軽くトーナメントだ、モバタンでも一応操作出来るが、手持ちコントローラーを格ゲー姉さんが貸してくれた、一戦目は僕姉さんとポン子&リルルの妖精コンビの対戦、ポン子とリルルは移動担当と攻撃担当で分かれて操作するらしい、それなりに必殺技などの応酬もあったがポン子&リルルの負けだった、まぁ笑ってるし楽し気だから大丈夫だろ。


 二戦目は姫乃と図書委員の対決だ。


「ねぇお兄ちゃん、なんでこの人制服なの? いやまぁ……レースクィーンやこのゲームのキャラの恰好してる人も謎なんだけども……」


「それは彼女が図書委員だからだ!」


「サキュバスなのに学生なの? それって、あ! 始めないでよ! ずっこいわよ貴方! 開館時間はもう過ぎた? 意味判んないんだけど! このこの食らえ必殺技! ……ヴィクトリー、ふふん対人はネット頼りだけど結構ゲームはやってるんだからね!」


 ローカル対戦での相手は居ないらしい……どうやら姫乃もぼっちらしい、そういや昔から人当たりはいいけど施設の子以外とはあんまり深いお付き合いとかしてなかったよな、俺が中学に入った頃からだと学年を超えたてたりする数人と仲良さげな人も居たような……うーんよく思い出せんな。


 さてシード枠の俺と格ゲー姉さんだ、いくぞ! とりゃおりゃーどっせー-いなんとーそこだ! まだまだ! 見切った! フェイントだと!?


 俺は壮絶な試合で忙しいので、外野の会話でも聞いててくれ!


「この試合まったくコマンド技が出ないね、パンチとキックとジャンプで戦ってる」

「図書室より静かですね」

「イモムチローですし、しょうがないかと」

「ご主人様頑張れ~、姉様も頑張れ~、どっちもふぁいと~」

「壮絶な泥試合だね、まぁ昔からお兄ちゃんはアクションゲーム苦手だったけども」



 いよっしKO! 勝った! ……あれ? 俺が格ゲーで勝ったのって十年ぶりくらいじゃね? 二年の探索者生活でゲームの腕が上がっていた?


「あーん、負けちゃった悔しーい、でもいい勝負だったね! 腕前が同じくらいだと楽しいね? ご主人君」


 そうニコっと笑って俺を見る格ゲー姉さん、そうですね、ゲームが苦手でも楽しんでいいんですよね、後でまた勝負しましょうね!


 俺と格ゲー姉さんがお互いの健闘を称えながら握手をしてる横で。


「なんだろう今やってる僕の対戦がすごく寂しく感じるんだけど……むむ、妹さんやるな、てや! コンボのお返し!」

「お兄ちゃん私の応援もして下さい! ってジャンプ読まれてた! まってまって、くぅ……いよっし二択選択勝ち、ゲージも溜まってるしここで!」


「すごい勝負なのに横でほのぼのとした大キックは強いだとか、しゃがみ小パンチは近寄れないだの話しをしてますね……これも一つの楽しみ方でしょうか」

「貸出書籍にも色んなジャンルが有る様に、強い人弱い人にもそれぞれの遊び方があるのではないかと」

「姉様、なんで毎回本関係に例えようとするんですか?」


 そして勝ち上がって来た姫乃と俺の決勝だ、フッまさか俺が格ゲーで決勝なんていう晴れの舞台に上がれる日が来るなんてな……。


「姫、手加減は無しだ本気で行くぞ! 俺の上段大キックを見せてやる!」


 その時格ゲー姉さんが、ご主人君コスプレ撮影の時も私の上段キック好きだったもんねー頑張れ~、と応援してくれた……いや今それを言わないでも……姫乃を見てみる。


「そうですねお兄ちゃん、いつもなら接待プレイをする所ですが、トーナメント戦でそれはいけませんよね、本気で一切の遠慮なく行きますのでよろしくお願いします、そして私が勝ったらオハナシがあります」


 お、男には負けられない戦いがあるんだ! おとこ一郎突貫します!


 負けました!


 いやだって壁際に吹っ飛ばされたと思ったら立ち上がった瞬間に、コンボ? とかいうやつを食らってモリモリと体力ゲージ減らされて、また倒されて起き上がると同じ事されてってエンドレスだったんだぜ? 最後はカットインが入って来る必殺技とかで決められるし、俺にもそのカッコイイ必殺技の出し方教えてくれよ。


「ふぅ……そうかこれがチートという奴か、ゲームの世界も真っ黒だな」


「違うから! だってお兄ちゃん毎回起き上がるたびに同じボタン押してるでしょ、読みやすくて拾いやすいからついね」


「読み? 拾う? おいおい今は格闘ゲームをしてるんだぞ、ここで図書委員ネタと美化委員ネタを入れてくるなんて姫もポン子に毒されたか!」


 俺がそう突っ込みを入れるも反応してくれない……おや?


「イチローは姫ちゃんからの説教がありそうですし続きは私達でランダム対戦といきましょうか、ネットを使った対戦も有りですかねー」

「おっけー僕もまだまだ肩が温まって無かったしね」

「本棚に返品された本を戻していくが如く、パズルゲーの方が得意なんですが……」

「ゲームって面白いですね~、今度作成してみようかなぁ?」

「えーと……ああ! 成程! 本を読む、と、ゴミを拾うって意味なんだね……ゲームと何の関係が?」


 少し遅れて反応してくれた子も居たが俺はすでに部屋の隅に連行されて撮影会の上段キックについて事情聴取を受けている、ちゃうねん、俺が格ゲーで得意な上段キックをですね、ちょこっと頼んだだけなんです姫乃さん、え? 何回くらいやらせたのかって? そりゃぁ貴方……えーと、申し訳ありませんでしたー!


 一生懸命謝ったら許してくれた姫乃さん、今度私も撮影して下さいと頼まれた、いいけど格ゲー姉さんからコスプレ服は借りれないからね? ほら胸がぶかぶかになるだ……頬をつねられた、ほめんなさい、一生懸命撮らさせて頂きます!


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