第75話 異世界
パン屋で追加の買い物をしてから家に到着をした俺達、お昼にはまだ早いのでテーブルにつきお茶飲み雑談をしながら神界からの連絡を持っている、リルルはまたしても木三郎さんカードを弄っている……。
「にしてもポン子よ、アイドルはアイドルでもおばちゃん達のアイドルってのは詐欺じゃねぇか? モテるには、もっと普通のアイドルに成った方がよくね?」
「何を言ってるんですかイチロー、踊りも歌も素人なイチローが一般向けのアイドルになるなんて十年早いですよ、そういったアイドルは下積みで技術を磨き、努力して来たからこそ今があるのです、スキルが〈夢見がち〉だからといってアイドルを舐めないで下さい」
いやまぁ簡単にアイドルになれるような夢見がちな事は言わないけど……。
「にしたって歌謡曲を歌って踊って揉み師なアイドルで、しかも温泉旅館なんかのステージを目指すとか……女の子にモテるって話は何処いった」
「おばちゃんは女の子じゃないとでも? それに何となくなんですが、イチローがそれを目指したら、温泉旅館のステージ前に金髪の美人なお客様が常に居そうな気もするんです」
本当に居そうだな、温泉旅行が趣味って言ってたし。
「まぁアイドルは却下だな、中級探索者あたりを目指すのが現実的じゃねぇか?」
「残念です、アイドルイチローなんて面白そうなネタが見れないとは……」
ネタだって公言しちゃってるじゃんか。
そんな雑談をしていた時に、ポン子の前に魔法モニターが開いた、連絡か?
「連絡が来たのか? ポン子」
「そうみたいですね、ちょっと待って下さいねイチロー」
そう言ってモニターを操作しながら何かを読んでいるポン子、しばし時間が流れた後にこちらを向き。
「大天使様から連絡がありました、大志アニキは無事異世界に渡ったようですね」
異世界に飛ぶ事を無事というのだろうか……? まぁいいか。
「大志兄貴は生きているんだな、よかった……」
命があれば取り合えず安心だ、異世界なんて遠い世界に行ってしまったのなら俺とはもう交流出来ないだろうけど……大志兄貴の今後益々のご活躍をお祈り申し上げます。
俺がしみじみと短い付き合いだった初めての探索者知り合いで兄貴呼び出来た人の事を考えていると。
ポン子が何やら苦笑いしながら話し始めた。
「大志のアニキは玉手箱による時空の歪みによって異世界に渡ったんですが、そこで女神と色々交渉をしたようですね……イチローに何か頼みがあるそうですよ?」
へ?
「大志兄貴と連絡が取れたのか? 確か家族とは冷えた関係とかで連絡はいらないとか言ってた気がするけど、友達や恋人に連絡して欲しいとかかな?」
「ああいえ、地球の品物が欲しいから送って欲しいそうです、大志のアニキには友達とか恋人とか親しい人は居ないっぽいですね……」
「異世界だろう? 送れるのかよそれ、そして大志兄貴もボッチ仲間だったのかよ! 親近感湧くわぁ……」
「女神と交渉して勝ち取ったそうで、新玉手箱に入る物なら相手側の新玉手箱の中身と入れ替わるそうです、ただ交換するのに力が必要なので新玉手箱に力が自然と溜まるのを待つしかないようですね、内容の体積や重さなんかで消費が違う様です」
「ダンジョンに落ちてたあの箱か?」
「ええ、もう改造済みらしいですよ、いくら自分が作った物だからといって他人の空間庫に入ってる物を改造するとか、異世界を統べる女神なだけありますよね」
てことはリルルの?
「リルル、ちょっと例の古びた箱を出してくれるか?」
木三郎カードに夢中だった研究者リルルさんが振り返って了承をする。
「判りましたご主人様」
リルルが空間庫から箱を取り出すと……それは黒い漆塗りの箱で最初に見た時と同じ? ではなかった、フタ側に何かついてるな、リルルから受け取った俺はそれを見るが……あれこれモバタンの画面じゃね? 半分くらいの大きさになってるけども。
触ってみると画面が明るくなりいくつかの簡素なメニューがある、ヘルプまでついてるね、ふむふむ、つまりこれに物を入れて完了ボタンを押しておくと、相手側の完了と力の蓄積を待って勝手に発動するんだな、内容により消費する力が変わると、なるほど……。
「最初は手紙でも入れておくか……、ポン子、紙とペン出してくれ」
「了解ですイチロー」
ポン子からそれを受け取り、って待った待った!
「リルルすまんが、その新玉手箱は改造禁止だ!」
コクコクと頷く白衣リルルさん、しかし興味深そうにペタペタと触り、調査だけなら? と聞いてくる、さすがに壊れると困るから諦めて貰った、二個目、二個目が手に入ったら研究させてやるからな! ……研究モードのリルルさんはちょっと危険だなぁ。
リルルは木三郎さんカードの方に戻って行った。
えーと、『渦に巻き込まれ異世界へと旅立った大志兄貴におかれましては、いかがお過ごしでしょうか、御蔭様で私どもには何の心配もなく』……ええい面倒だ、『で大志兄貴は何が欲しいの? 値段の高いカードを欲しいとか言われると困っちゃうんだけども、お返事まってまーす』こんな所か、横で文面を見ていたポン子は、友達へのメールか何かですか? と突っ込みを入れてくる、畏まった文面なんて知らんのだもの。
「えっと紙を入れてフタを閉めてっと、こっちの完了ボタンを押しておけば勝手に――」
新玉手箱が発光した、すでに向こうは完了ボタンを押していたようだった、箱をあけると紙が一枚と葉っぱ? に包まれた何かが箱一杯に詰まっている、まず紙を確認する。
「なになに『女神に貴重品や貴金属の流出なんかは禁止された、こちらの食材やらを送る事にする、地球のダンジョンから取れる魔力の宿った品物と同じ様な物になると思う、取り合えずは約束だった焼肉に使える肉とかを送るから、俺が欲しい物が出来たらリストにして入れておく、適当に対価に見合うと思う分だけ送ってくれたら嬉しい、こっちはこっちで楽しくやれそうだから安心しろ、じゃーまたな』だとさ」
葉っぱを開いて確認してみる、色つやの良いお肉がどどんとお目見えした、わっしょい、ぎっしり詰まってるし結構重いなぁ三キロ前後はあるんじゃね? すっげーな。
「大志のアニキは元気そうですね、悲壮感の欠片すらないです、それにこれから魔力の宿った食材が送られてくるそうですよ! そのお肉を食べる為にも焼肉が出来るホットプレートを買いに行きましょう! さすが上級探索者です約束をきっちり守ってくれましたね」
焼肉の約束に上級探索者とかは関係ないんじゃねーかなぁ……。
相手の欲しい物リストが送られてこないとどうにも成らないので、お肉のお礼の手紙と、ポン子が飴やらオヤツ用のお菓子を入れていた、完了のボタンを押しておく。
新玉手箱の大きさは縦長で、縦が二十センチ以上で、横が十五センチくらいか、高さは十センチは無いかなぁといった感じ、食材が送られてくるならと冷蔵庫の空きを設置場所にする事にした、ヘルプ見てみると箱自体に保存効果があるみたいだが、なんとなく気持ちとしてね。
まてまてポン子、そんなすぐに来ないだろ! 気になるのは判るが一日一回確認くらいにしとけ? 冷蔵庫の冷気が逃げちゃうだろ。
なんだかんだと時間もお昼を少し過ぎていた。
「飯でも食うか、なんか安心したら腹減ってきちゃったよ」
「そうしましょーかイチロー、ほらほら後輩ちゃん、ご飯だから研究やめましょー」
はーいと返事をしつつ体勢を変えないリルルの白衣を脱がせにかかるポン子、ある程度脱げると素直に従っていた、研究モードは白衣の方が本体なのかな?
『ピンポーン』
チャイムが鳴ってカギの開く音がしない、姫乃かな? 急いで玄関に向かう。
ドアを開けると案の定、制服姿の姫乃だったが……。
「ただいま!、お兄ちゃん!」
「いらっしゃい、姫、なんだそのすごい荷物は……」
姫乃は旅行に使うような、大きなキャリーケースにさらに手持ちでも大きなバックを持っていた。
「御両親から泊まりに許可が出たのか? 姫」
「お義母さんの許可は貰いましたので大丈夫です! 今日からよろしくお願いします!」
「一泊するんだよな?」
姫乃はニコニコと笑顔のまま何も答えない。
「正直に言わないならそのまま帰って貰います」
「一泊です一泊! なし崩しで同棲に持っていこうなんてこれっぽっちも考えていません!」
姫乃は正直な子に育ってくれたようで安心するような、アホの子で心配するような微妙な気持ちになる。
「まぁ入れ、それとご両親に挨拶するからモバタンで連絡できるか?」
「両親にご挨拶! もう結納だなんて気が早いんだから~お兄ちゃんってば」
自分で自分を抱くかのような姿勢で体をクネクネさせて、そう語る姫乃を置いて俺は部屋に帰りテーブルの側に座る。
「さて食べるか」
「私はやっぱり〈ツナマヨパン〉からにしますね~」
「ご主人様は何がいいですか?」
三人でお昼を食べ始める、ってポン子お前、店で強烈に押した〈オデンパン〉とか〈青菜サンド〉とかはお前が食えよ? 俺はイモムチローだけど青菜のみのサンドイッチはさすがに食わんからな?
玄関が閉じて鍵のかかる音がして、姫乃が荷物とともに部屋に入って来る。
「ちょっとお兄ちゃん放置は酷くない? 久しぶりにあった最愛の妹に対する愛情とか優しさは無いの?」
「姫はフルーツサンドとか好きだったよな、お昼まだならこの〈イチゴのフルーツサンド〉と〈キウィのフルーツサンド〉食べていいぜ」
そう声をかけると姫乃は嬉しそうに座りながら応じた。
「わーい、ありがとうお兄ちゃん! 私の好きな物覚えてるんだね、このフルーツサンドからお兄ちゃんの愛を感じます」
中身は生クリームとイチゴだけどな。
で俺はコンビニのオカカオニギリとか食う訳だが。
「ほれリルルあーん」
「あーんはぐ、美味しいですご主人様」
ぶはっ、っと姫乃が食べていたイチゴが飛んできて顔に当たる。
「いたっ……どうした姫、喉にでも詰まったか?」
口元やテーブルの汚れをティッシュで拭った姫乃が勢いよく迫る。
「どーしたも無いですよお兄ちゃん! なんで妖精とあーんで食べさせ合ってるんですか!」
「妖精なんて名前じゃないぞ、自己紹介しただろ? それに施設でも昔はよくやってただろうに、あーんされたらお返しはきっちりだっけか? それにリルルはそういう文化だしな」
「っと、確か……セクシーリルルだったかしら? 長い名前ね……いやえっとあーんは、お兄ちゃんの事が好きな私達相手に……ぐぅぅしまったもう少し違う説明をしておけば……過去の私バカバカ」
最後の方は小さい声でよく聞き取れなかったな。
「私の名前はリルルです、ご主人様の妹様」
姫乃とリルルがもう一度自己紹介をしている。
「リルルねリルル……リル助と呼ぶわ、私の事は名前でいいよ?」
「ならお姫様みたいに綺麗なので姫様と呼びますね」
姫乃が少しのけ反って俺に声をかけてくる。
「お兄ちゃん、この子ギャルっぽい見た目なのにすごく可愛いね……褒め言葉に媚とかを一切感じなかったんだけど……ジャージを着てるのも好感度アップね、まぁ一部分だけは許せないというか私にも分けて下さいと思うけども」
そうだろうそうだろう、うんうんと首を縦に振り肯定してやる、リルルは可愛いんだ。
リルルが姫乃にオニギリ分けましょうか? とか聞いている、違うそうじゃないリルル。
そこにポン子が横から。
「私の名前はポン子です、よろしくお願いしますね姫ちゃん」
姫乃はポン子の事を上から下まで、いや中くらいで止まりジッと見つめ、同志ね、と呟き。
「お兄ちゃん以外に姫と略して呼ばせた事は無かったんだけど……姫ちゃんとか呼んできたクラスメイトは泣かせてやったし、でもまぁポン助とリル助には特別に許すわ!」
ポン子はポン助か、時代劇とか好きだったもんな姫乃は。
「それでお兄ちゃん、あーん文化って妖精の文化なの?」
「いやそれはサキュ……」
あーやべ、何処からどうやって説明したもんか、んー俺が一度精神的に死んだとか言ったら姫乃どうなるかなぁ……。
「砂丘の方の文化? 砂漠の妖精なのかしら、デザートとか好きそうね」
もうそのネタは古いんだ姫乃よ、まぁいいや飯が終わったらご両親に連絡して、それが終わったら……最初から説明するかぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます