普通なダンジョン攻略編

第74話 新玉手箱

 今俺はスライムダンジョン一階に居る、初めて探索者の知り合いが出来たと思ったらその人は消えてしまった。


 学校の教室二個分くらいの部屋の中で座り込み、ポン子が神界に連絡を、リルルは大志兄貴にゆずって貰った三枚のカードの中にあったウッドゴーレムカードを床に座って夢中で弄っている、なんで白衣を着て眼鏡をかけてるんだろうか……。


 貰った三枚はスライムカード、ビックスライムカード、ウッドゴーレムだ、それぞれ名付けを済ませポン子とリルルにも貸与宣言をして使えるようにしている。


 名付けはリルルの希望もあり。


 スライムが〈スラ衛門さん〉ビックスライムが〈大次郎さん〉ウッドゴーレムが〈木三郎さん〉になった。


 ねぇリルル、その次郎とか三郎って俺の一郎から来てるよね? 俺は魔物と兄弟分になったのかな?


 どうも三兄弟長男の一郎です……ってもしかしてこれから四郎とか五郎とか増えていくんだろうか……。


 そんな時にポン子が連絡を終えたようで魔法モニターを閉じていた。


「で、どうだったんだ? ポン子、大志兄貴は無事なのか?」


「ああ、えっと、今確認して貰ってますが恐らく大丈夫かと思われます、あれはやっぱり玉手箱だったようですね」


 浦島太郎のやつだっけ?


「えっと開けると年を取っちゃうとかそんな箱だったか? でも大志兄貴は消えちゃったんだぜ?」


「それは日本に伝わる昔話で、さっきの玉手箱、あーもう同じ名前だから説明が面倒です! 大志のアニキが持ってた奴に新をつける事にします、新玉手箱と呼ばれる箱はいくつか日本にバラまかれているのです」


 人が消える箱がバラまかれているって危険じゃんかよ。


「そんな危険な物がバラまかれている!? 天使は放置してるのかそれを」


「いえいえ、神様が認めているんですよ、新玉手箱は異世界の女神とうちの神様の盟約により、あっちの世界の諸々と交換する条件で受け入れている箱なんです」


 ほわっと? 意味が判らなくなってきた、異世界? 交換?


「まてまて、えっと詳しく説明してくれ、ちょっと意味が判らない」


「判りました、まず異世界の女神とこちらの世界の神様達はある取引をしました、ダンジョンを作るにあたり異世界の魔物やら異種族の魂を分けて貰う代わりに、地球世界の魂と交換をするという取引だったのですが……」


 ポン子は説明を始める、俺は黙って聞く事にし、リルルはカードに夢中だ、が、耳はピクピク動いているのでこちらの話も聞いているのだろう。


 ポン子の説明は続く。


「女神が魂も欲しいが生身の人間も欲しいと言い出しまして、うちの神様が認めちゃったんです、〈異世界に好意的な興味を持つ人間〉なら構わないと、そして女神が用意したのが新玉手箱でした、というか昔からこっそり日本でやってたみたいなんですよあの女神……まぁ神隠しなんて今まで色んな神がやってたんでしょうが、地上の管理者側であるうちの神様が公式に認めちゃったんです、交換条件付きですがね」


 神にしたら人間一人一人にまで構ってられないんだろうけどもなぁ……大雑把やなぁ。


「なのであの新玉手箱は〈異世界に好意的な興味を持つ人間〉が触ると発動するんです、輸送を頼まれた時は解けやすい封印がされてたんでしょうね、大志のアニキのあのカード好きを考えると異世界に興味が無いなんてありえませんからね……イチローにしたって探索者なんてやってる人間ならどうなるかなんて……ねぇ?」


「そりゃカード好きの男の子の九割くらいは異世界に飛びそうな話だな……いや興味あっても実際に行きたいかは別じゃねぇか? ポン子」


「そこまで細かい調整を大雑把な神々がすると思いますか?」


 今までの神々の話を思い出すと……。


「しなそうだな、じゃぁ大志兄貴は異世界に行っちまったのか?」


「ですねぇ、昔、神界の情報アーカイブで飛ぶ瞬間を見た事があったんですよね、何処かで見たような気がしてたんです」


「ちなみにどれくらいの人数が地球から異世界に飛んでいるんだ?」


 異世界じゃぁ救いに行けないか……焼肉行けそうに無いですね大志さん。


「うーん数えた事が無いのであれなんですが年間……軽く数百は超えるんじゃないでしょうか?」


「多すぎだろ! その女神そんなに呼んでどうするんだよ!」


 戦争でもしてるのか? エインヘリアルとかなんとかみたいに。


「ああ、例の盟約を結んだ相手はその女神だけじゃないですから、沢山の異世界と取引がありますし、その女神だけならもっと少ないですかね? 玉手箱は範囲巻き込み型なので人数はバラバラかもです……、あ、それと飛んでいるのは日本人が多いみたいですよ、なんでも説明が楽だからとうちの世界からは日本から呼ばれる事が多いみたいです」


「おうふ、どんだけ異世界に興味がある奴が……いや、俺も触ってたらたぶん飛んでたわ」


 でも異世界に行ってたらもう姫乃に会えないし、罠にかからなくてよかった……、大志兄貴はどう思っているのかな。


「普通はねイチロー、神様なんてのに会ったらひれ伏す物なんですよ、貴方は大天使様に会った時どうでした?」


「そりゃ綺麗で美人さんだなーって思った、助けてくれたしちゃんと感謝してるぜ?」


 ポン子はフフッっと笑い。


「日本人のそういう部分が、良くも悪くも異世界の神の琴線に触れるのでしょうね、さて、後は大天使様からの連絡待ちです、帰りますか? それとも狩りの続きを?」


 気になって狩りに集中出来ねぇよ。


「帰ろうぜ、稼ぎは数十円にしかならんだろうけどな」


 あ、でもカード三枚ゲットしたか。


「ですねぇ、ダンジョン用のオニギリしか買ってませんでしたが帰るならパン屋で少し追加していきましょうよ、朝用の食パンもちょっと買い足ししないとですし」


「だな、じゃ帰るか、リルル~帰るぞ~」


 カードにオデコを付け魔法を発動していたリルル、呼びかけに気づき空間庫にカードを仕舞い、はーい、と俺の肩へと帰ってくる。


 リルルにスラ蔵さんと木三郎さんの二枚、ポン子にスラ衛門さんと大次郎さんの二枚をそれぞれ持ってもらっている


「リルルはカードで何してたんだ?」


 興味があったので聞いてみた。


「木三郎さんの意思を確認してから体の中に学習用のストレージを作成していました~」


 ……思ったよりヘビーな内容が帰ってきた、取り合えず歩きながら話す事にする。


「……ゴーレムに意思は無いんじゃなかったか?」


「ご主人様、意思が無い様に見える、ですよ、希薄ですが意思はあるのです、そこで私がゴーレムの内部に記憶を蓄積出来る領域を作成する事により、より濃密でより多くの学習をする事が出来、自己意思も今より強く発現するはずです! ふんすっ」


 未だに白衣と眼鏡を装備しっぱなしのリルルさんノリノリで説明してきた。


 あっれぇ……意思が無いように見えるから盾として使えるって話は何処いったんだろ……ノーマルリルルさんと白衣リルルさんは別人だった説! な訳ないかぁ興味を持って出来ると思ったら突っ走るのが研究者だものなぁ……。


 でもいや……あのね……貸与はしたけど改造は……本人の意思は確認したと言ってるから、それならいいのか?


「そ、そうか……木三郎さんは納得してるのか?」


「勿論です! 私は相手の意思を無視するような研究者じゃないですよ?」


 カードを改造するような時は俺の意思も確認して欲しいと伝えておいた。


 リルルが、判りました、と言ってくれたので大丈夫だと思いたい。


 リルルは本当に研究が好きなんだなぁ、リルルが頑張っているしご褒美用のスクロールが欲しい所だ。


「大志兄貴が使ってたような凄いスキルは無理だけど、安めのスクロールが出たらリルルに研究して貰うからな、楽しみにしててくれ」


「有難うございます! ご主人様」


 リルルは嬉しそうにそう返してきた。


 そこにポン子が話かけてくる。


「大志のアニキが指を鳴らして詠唱代わりにしてましたよね、新玉手箱の拘束とスキル封印にあらがって発動させるとかすごいですよねあれ、買ったらたぶん高いですよイチロー」


 そら上級探索者の使うスキルだものな、数百万……いや無詠唱なら数千万? どっちにしろ俺らには縁の無い話だ。


 スキルの話は大好物なのかリルルが楽し気に参加してくる。


「大志のアニサマは指鳴らしで無詠唱やってましたねー、私と同じような事を考える人も居るんでびっくりしちゃいましたー」


 指を鳴らしてスキルやら魔法を発動って中二病なら誰でも考えるものな、リルルさんもこっちの仲間かぁ……。


「かっこいいよなぁあれ、俺も欲しいかも」


 中二病憧れのスキルだよな。


「そうなんですか? ご主人様、それなら今度〈指鳴らし〉が手に入ったら改造しちゃいますね!」


 リルルも冗談を言うようになったか、俺らに馴染んて来ているようで良い事だ。


「その時は頼むなリルル」


「はいご主人様!」


 ポン子が頭上から茶々を入れる。


「踊るスライマーに演奏する揉み師に指鳴らしが入るんですね、もうなんだかよく判んない存在ですねぇ、間違いなく探索者とは思われません、やっぱり歌系のスキルを取ってアイドルでも目指しませんか?」


 適当な単語を思い付きで作るなよ、なんだよスライマーって、踊って演奏して揉んで指を鳴らして……アイドル? アイドルが揉み師なんてやらんだろ。


「次は歌唱スキルですねイチロー」


「嫌だから! 俺はこう……普通に面白おかしく楽しく生活したいんだよ、大志兄貴も言ってたろう? 中級探索者くらいが儲かるって、それくらいでいいんだ、アイドルなんてそんな――」

「女の子達にモテますよイチロー!」


 なんだと!? ……ちょっと待てポン子、お前はいつも俺を揶揄からかう、そんなまさかアイドル目指したらモテる? ハハハ、そんな馬鹿な事ある訳……。


「詳しい話を聞こうじゃないかポン子よ」


「では歩きながらの間にプレゼンをば」


「わーよく判んないですけど頑張れポン子先輩~」


 頭上のポン子がコホンっと咳払いをし、肩のリルルがパチパチと拍手をする、そして俺はどんな話が出てくるのかを待つ。


 いつもの感じで少し落ち着いてきた、大志さんの事は、まぁなるようになるだろう。

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