第71話【閑話】神界4
シンプルな陽の指す部屋で、二人の天使がテーブルを挟み向かい合いソファーに座っている。
「なんでこんなに忙しいのかしら……」
「大天使様手を動かして下さい、それと日本由来の神からまた苦情と要請が来ましたので処理をお願いします」
大天使はそれを聞くとモニターの操作を止めて上半身を反らして顔を上に向けソファーに深く座り直した。
「やってられないわよ! 騒ぎを起こしたのは悪魔に憑かれた人間でしょうに、なんで天使に全部丸投げしようとするのかしら、あの神達は」
天使は作業を一旦止め、溜息と共に言葉を返す。
「面倒くさいからでしょうか? 元々そういう神々だったじゃないですか、今更ですよ、それに私達でやらないと、せっかくの情報封鎖が意味無くなりますよ?」
大天使は姿勢を正し、作業を再開する。
「それもそうね……でも今回の件で色々と気づいてしまう人達も居るでしょうね、あの子や彼に面倒事が行かないといいのだけども……」
「それもまた運命ですよ大天使様、元々は彼らの業と運命から湧き出た厄介ごとなんですから、多少の面倒事は許容して貰わないと」
天使にそう諭された大天使だが、納得はしておらず。
「それはそうなんだけどもねぇ……何でか彼らに厄介事が起きるたびに、私の仕事が増えている気がするのよ、気のせいかしら?」
「何が起きても大天使様の仕事は増える気はしますけどね、現場はもっと忙しいんですから、四徹や五徹で文句言わないで下さい」
大天使はそれを聞くと。
「それよ! 私はちゃんと休めるような体制にしているはずなのに、なんで現場がそんな事になってるの?」
不思議そうに尋ねた。
「それは、天使が病にかかっているからです」
そう天使が答え、大天使が聞き返す。
「天使が早々病になんてかかる訳ないでしょうに」
「大天使様、
ポカンとした大天使。
「え? 自分達で忙しくしてるの? あの子達……え? なんで?」
「わざと忙しくしてる訳ではありませんよ、ただ目の前に終わってない仕事があると終わらせようとするのが、規律や秩序を重視する天使の本能の様な物なのです、大天使様も覚えがありませんか?」
「あるわね、そして私達の仕事って終わりが無いわよね、それってエンドレスワーカーじゃないの! ちゃんと彼女らにお休みを取るように言って? そりゃ悪魔とか悪党に休日は無いから気持ちは判らないでもないけど……」
「神様が昔、地上を焼き払った気持ちが判る気がします」
天使がウンウンと頷いている、大天使は慌てて口を挟む。
「判らないで! 判っちゃだめよ! あれは神様が寝ぼけてただけなんだから! もう……そうねぇ一時的に地獄と地上間の結界精度を上げる? でも消費リソースを考えると……むむ……他の勢力に手を借りる……借りを作ると面倒なのしか居ないわね……」
大天使が考え込んでしまった。
「まぁ大丈夫ですよ、彼女らはちゃんと息を抜く術を知っています、温泉やら按摩やら、最近は良い揉み屋が出来たそうで、これからが楽しみだと皆言ってますよ」
大天使はそれを聞くと何かに思い至り。
「それって……彼とあの子の例の奴よね……天使にあんな声上げさせてハレンチな! 彼のマーカーが消されたから遠くから見る事しか出来ないじゃないの! ……まったくもう、……ねぇ? 私も地上に行ったら駄目かしら? 私も癒しが欲しいのだけど」
「無茶を言わないで下さい大天使様、条約違反になってしまいますよ、また高位悪魔が攻めてきたら行けるかもですが、あの揉み屋に行くのは我慢して下さい」
「うぐぐ、こんな事なら大戦で活躍なんてするんじゃ無かったわ……目を付けられて条約の条文に名指しで乗せられるとかありえないわよね、他にも一杯戦った天使や神々も居たのに……」
「大天使様の活躍は他の方と格が違いますよ、一騎駆けして敵の軍団に突入、数十万の敵を白き雷光を身に
「憧れていたって過去形なの? 今は? 今は? ねぇ今は?」
「少しうざい上司ですかね」
ガーンと口に出していう大天使、天使は苦笑し、会話をしながらもやっていた作業を止め、お茶の準備を始める。
「少し休憩しましょう大天使様、あ、お菓子は自前でお願いします」
「はいはい、こないだ北米管区から移籍して来た子からダンボールでプレゼントされたのがあるのよ、一緒に食べましょうか、こんな事しないでも疑ってないからいいのにね」
「それで本人の気が済むなら受け取る事も大事ですよ大天使様」
「まぁそうよね、あの子には後で何かお返しでもするとしましょう」
日本製のお菓子をテーブルに広げ、お茶とお菓子を楽しむ大天使と青髪天使。
そこに一人の平天使が部屋に入って来た。
「大天使様、休憩中に失礼します」
声をかけられた大天使は慈愛の籠った笑みで天使に語り掛ける。
「いらっしゃい、私に何か用? 一緒にお茶でもしてく?」
平天使は顔を赤くしながら返事をする。
「い、いえ、その救護室長に用がありまして、お茶はまた今度お願いします大天使様」
そうなの? と残念そうに言う大天使、青髪の天使と平天使が会話を始める。
「救護室長、これ予備クジの結果です、本選の開始時間までにそちらの玉に名前を書いてお越しくださいね、遅れたら権利消失するので気をつけてください」
「有難う、番号札と……この玉に自分の名前を刻むのね判ったわ、ありがとう、じゃぁまた後でね」
「失礼します、大天使様、救護室長」
そう言って天使は部屋を出ていった。
大天使は質問をする。
「ねぇ、それ何の札なの? 予備クジ? 本選? また大食い大会でもやるのかしら? だとしても私が何も聞いてないのおかしくない? あ、まさかいつもお仕事頑張ってる私にサプライズパーティとか!?」
「ああこれはですね、例の昇天屋の予約を取れる権利を得る為のクジでして、予備クジでほらあの地上の商店街とかでやるあのガラガラ回す奴ありますよね、あれを回す順番を決めて本選で自分の名前と空玉を大量に入れて順番に回すんですよ、ワクワクしますね」
実に楽しそうに語る天使に、大天使は。
「へ? 今私が行けないって言ってた奴だよねそれ」
「そうですね大天使様」
「貴方が私に我慢しろって言った奴だよね!」
「そうですね大天使様」
「ありえないでしょー! 貴方私の側付き天使よね、上司が行けなくてモヤモヤしてるのに、なんで貴方がそんな楽しそうな顔でクジを引いてるのよ、ずーるーいー私もいーくー!」
大天使がダダを捏ね始めた。
「無理を言わないで下さいよ大天使様、条約を違反したら……最悪また新たな大戦が始まる切っ掛けになりますよ?」
「でもでもー」
足を子供の様にバタバタさせる大天使。
「そんなに行きたかったんですか……、申し訳ありません、それなら私は……」
「私の事を思って諦める? それはちょっと悪いわね……」
「当選した暁には感想をレポートにして提出しますね」
「そこは上司と一蓮托生とか言う所でしょ!」
「はて? 天使のルールにそんな文面はありませんが? おっといけないそろそろ本選の時間に遅れてしまう、では大天使様、私ちょっと用事がありますので失礼します、お仕事の続き頑張って下さい応援してます」
天使はそう言うやお茶を片付けそそくさと部屋を出て行った。
大天使は両手を上に勢い良く上げそれを振り回しながら。
「うーらーぎーりーもーのー、ずっるいずっるいぞー、いいもん、もし貴方が当選したら、マッサージが終わった後に帰ってきたら仕事一杯ふってやるんだから!」
行かせないとは言わない大天使である。
唸りをあげている大天使に魔法モニター上でメッセージが届く。
「あれ、あの子から連絡? また悪魔じゃないでしょうねぇ……」
魔法モニターを見て文を読んでいた大天使は顔つきが真剣な物に成り。
「またあの女神の奴か……、うちの神様も甘いんだからもう……というかなんでまた厄介事に巻き込まれかけているのかしら、あの子達って悪運を引き寄せる何かに憑かれたりしてるのかしらねぇ……」
そう呟き魔法モニターで何処かへ連絡しだすのであった。
神界は今日も平和? のようだ。
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