第70話【閑話】ある天使の独白2

 私は不運ついてない天使なんて呼ばれている……。


 最高の揉み屋に一週間予約を入れる事が出来た、これはいつもの私には無い幸運と言っていい。


 揉み屋初日、モミチロー先生の技の質が変わっていた、試しの時は素人のようでスキル頼りだった、まぁそれでも私は良かった、気持ちのいい睡眠に至れる癒しの園であるならと。


 が、初日の揉みからおかしかった、あれは……つたないけれど気力だった? 意味が判らない、何故先生がこんな力を? と、だが腕前が上がるなら問題は無いと放置した、良い眠りをもたらしてくれるならなんでもいい。


 そして〈底なし腹〉から聞いた先生に対する暗示の件、許せなかった、サキュバスの手を借りてでても成敗をしなければ、上司に色々頼んだり各種根回しやら計画作成やら……徹夜になるだろうが、いつもの事だ。


 撮影会は楽しかった……いつもの私なら気づかれなかったり機材トラブルで撮ってくれないなんて展開になるはずだ、先生は私の事を美しいと何度も言っていた……嬉しい、知り合いに私が持ってないブランドの服とか借りておこう。


 ――


 予約二日目

 サキュバスさんから問題が無い事を聞いてから揉んでもらうのだが、サキュバスさんと先生が仲良くなっている……仕事を休む事が出来れば……守護天使としてでもいい……〈底なし腹〉だけでいいと断られた、そうだよね……断られるなんていつもの事だ。


 揉みの腕がさらに上がっていた、先生はちょっとおかしい……昨日の今日でなんでこんな……。


 撮影が始まったので着替えてから列の最後に並ぶ、やっぱり不運で気づかれなかった? いや先生は私を可愛いと言ってみんなと同じに撮影してくれる、嬉しい。


 ここは昨日徹夜仕事の合間に勉強したモデルポーズの出番だ! フフ楽しいな。


 ご飯に誘ってくれて買い出しに……遠くから見られている? いつものナンパな視線ではない、例の暗示をかけてきた男だろうか……、結局現れなかった、いつもの私なら悪党と悪魔に出会いまくるのに。


 目の前でアーンが飛び交う、ナニコレ、文化? 〈底無し腹〉に相談をするも一瞬で手の平を返される、相談した私が馬鹿だった、って先生がアーンしてくれた! カボチャの甘辛煮はそんなに好きじゃなかったんだけど、うん美味しい、今日から好物になりそうだ。


 先生にお返しをせねば! ってあああぁ……ハシから落としてしまうし、もうおかずは無いし……私はいつも不運こうだ。


 え? デザートがまだある? それって……頑張ってあーんしますね先生!


 上司から借りた情報と〈底なし腹〉からの画像の照合がやっと終わった……監視やらの人手はどうしよう、ただでさえ忙しくて天使不足なのに……また徹夜ね。


 ――


 予約三日目

 今日も楽しみで時間ぴったりに伺う、やっぱりサキュバスさんと仲良くなってる、ネバネバ? ああメカブとかね、あの温泉旅館のご飯も美味しかったなぁ……


 やはり先生の揉みは最高です、この短い眠りが私にとって掛け替えのない宝になりそう。


 先生は本当に楽しそうにサキュバスさん達と撮影するなぁ……私の服は普通のブランド服とかだし……もしかしたらコスプレ? とかのがいいのかもしれない、今度コスプレに詳しい天使に話でも聞いておこうかしら? 堕天使コスプレはやり過ぎな気もするけれど……。


 夕ご飯の買い物をご一緒する事に、ついでに先生にも事情を話しておいた、これから毎日護衛するだろうし話しておいた方がいいよね? ふふ毎日一緒か。


 お礼なんてそんな……やった! 腕を組んで歩ける事に!


 私が守護天使!? ぅぅ冗談で言ってるんでしょうが……次言ったら押しかけますからね先生?


 腕を組めて楽しく買い物……なんて、そんな幸運が私に降りてくる事は無いんだよね、そうだよね……なんでもっと後で現れないんだ貴様は! 先生に死ねと? 私と遊ぶ? ……悪魔の力の行使を確認、ユルサナイヨ?


 逃げられた!? 今のは神具? 本家に虐げられてるという話では? そんな貴重な物を持っているなんて……。


 偶然にポニ子殿が現れた、護衛を引き継ぐってそんな……確かに人手は足りてないが……くぅ……お願いします、どうして私はいつもいつも……。


 いくぞ! すぐ終わらせてやる。


 ――


 すぐ終わると思っていた、だが、対象の気配を辿って追いついた時に。


 また何かの神具を使われ、って悪神を解放だと!? ふざけるな! 格は低い様だが、大天使様に報告、全天使を動員して対象の確保と調査に移らねば……まずはこのむかつく顔をした下級の神を殴ってこの心の中のモヤモヤを晴らす事にしよう、消滅しろ!


 対象は逃げて逃げて逃げまくった、天使だけでは足りそうにないので日本由来の神々や妖怪、人間でも多少ましな存在には情報を流して協力させる、対象が使う道具に興味があれば手伝う輩も出てくるだろう。


 また管轄外の区域に逃げられた……うう……ここの管理をしている神は面倒くさい性格をしているんだ……頭を下げて借りを作り、協力をして追い詰めていく、身代わりの道具だと……?


 対象を虐げていた本家とやらを暗示にかけ、そこにあった宝物を持ち出していたと報告が入る、対象の気配は方々に存在していて、そこで厄介ごとをバラまいているとも……。


 終わるまで眠れないなこれは……。


 ――


 全国各地を探し回る事数日。


 ふふ……ふふふふふ……散々探してその全てが身代わりだったあげく、本人は元に居た場所の近くで気配を変える道具を使い何やら画策していたようだった、足元に居たのか……。


 やっと捕まえて能力を全て剥奪をし、ここ最近の記憶も処理、悪魔の呪いは全て解呪するのがルールだが……何故か髪が薄くなっていく呪いが残ってしまった。


 命に別状は無いし今回の作戦に参加した皆が放置で良いと総意を貰った、ああ呪いの解呪に失敗して一つを残してしまうなんて、私はまだまだ実力不足ダナー。


 結局追いかけ始めてから一睡もしていない……、ふふ、ダンジョンを開始する直前の、あの時のデスマーチに比べたらまだぬるいわね。


 後始末がまだまだあるがモミチロー先生の所へ報告に行く、早く安心させてあげたい。


 ――


 先生がお茶を入れてくれた、美味しい……、あれ? 最後にまともな食事をとったのっていつだっけ……。


 私がずっと護衛したかったな……ポニ子殿とモミチロー先生の心の距離が近くなっているのがお互いの会話から判る、揉み屋も今日で一旦終わりだったはず……。


 ……どうしてた! どうして……私はいつもいつも……こんなにも不運ついてない事ばかりなんだ……。


 ……。


 ……もう……堕天シテシマオウカ?


 ……。


 え? 先生? 私に真っ先に? ……最優先? 贔屓?


 そんな事が……馬鹿な……。


 わた……し……に……。


 ああ……ああぁぁぁ、せんせい、せんせい、私は……わたしは……。


 ……。


 ちがう、違うんです先生、この不運ついてない天使の私を思いやり、贔屓を……。


 ええ、私は、この思い出だけでも後十年は戦えます!


 貴方の言葉を聞くだけで、こんなにも心が晴れていくなんて……。


 行ってきます先生!






 おや? おやおや? これはサキュバスの……ドアを開けるがごとく先生の元に行けると?


 これではまるで……同棲では? 私の心に暗雲が広がっていく。


 へぇー--え? 先生? 勿論天使にも設置させてくれるんですよね?


 私をお待ちしていると? それなら許します、でも最後の冗談は面白くありません、そんな人が居る訳ないじゃないですか。



 行ってきます先生!



 次来た時はタダイマって言ってみようかしら?


 まったく……先生は私の心を晴れさせたり曇らせたりもてあそび過ぎですよ!



 さて、後始末が終わるまでは……まぁ七徹くらいを超えてからが本番だよね、早く全部終わらせて、先生の揉み屋開店を迎えねば!



 ――


 ――



 ってあああ! 先生に一週間ご苦労様のお祝いプレゼントを渡すの忘れて……た。


 癒し好き同好会から期待を込めて、皆からのカンパで取り寄せて作成して貰った探索者用の武器がぁぁ……。


 あうう、後始末終わるまで訪ねて行く余分な時間は無いか? ……他の人に渡して貰うのも……出来れば私が渡したい! というか頼むのはちょっと危険だし。


 先生の揉みを一回しかやって貰ってない子達なのに先生に入れ込み過ぎよ……下手に頼んだら私の代わりに守護天使の座とか射止めそうだし……、私の不運ついてないならそんな事もありそうなのよね。


  あの子らが騒いだせいで、次の揉み予約優先権が当たるクジ引きの倍率がすごいらしいとかなんとか、昇天屋開業を手伝った功で永続優先権主張しといて本当に本当によかった……。


 いや、無理にでも時間を作って渡すだけ渡してしまおう! 個人的なプレゼントもあるし……。


 待ってて下さいモミチロー先生! 取り合えず一件目の後始末を終わらせたら会いに行きますからねー!

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