第69話 ボッチ探索者の卒業
大志さんと話をしていたらリルルが貰うカードを決めたようだった。
「ご主人様私これにします!」
そう言ってリルルが指し示したのは……。
「ウッドゴレーム? 何でこれにしたか聞いていいか? リルル」
ゴーレム系は戦闘では扱いづらいという話で、単純な行動を組み合わせたかのような動きをする出来の悪いAIと言われ、意思がない魔物と言われている、ストーン以上なら堅いし戦闘の盾として多少は使えるから高いが、ウッドは中級探索以上に使うには厳しいと言われ、単純作業を繰り返す地上の生産現場なんかで使われる方が多いくらいだ。
「意思が無いように見える言葉を話さない魔物なら、ご主人様も盾として、そして駒として使い捨てる事が出来ると思ったからです、何より大事なのはご主人様の安全ですから」
大志さんとの会話でリルルに心配されたようだ……。
大志さんが語り掛けてくる。
「そっちの芋ジャージ妖精も変わってるが主人想いの良い妖精じゃねーか一郎……だが普通の妖精はもっとこう……子供っぽいんだけどなぁ……召喚しっぱなしにすると成長するとかか? 今度検証してみるか……」
あ、いや妖精の見た目をした天才サキュバスです御免なさい。
「心配してくれて有難うなリルル、自分の安全を考えて行動する事にする、ではウッドゴーレムとスライムそれからビッグスライムの三枚のカードでお願いします大志さん」
クッション用のビッグライムも欲しかったしな!
「ああん? 本当にそれでいいのか? もっと高いカードもあるんだぜ? この属性ウルフとかあたりが一番高いからそこらで三枚選ぶと思ってたんだがなぁ……まぁいいけどよ、値段じゃなくて自身の心に従う……か、お前らのカード愛は伝わったぜ!」
そう言ってファイルから抜き出した三枚のカードを渡してくれる大志さん。
「やっぱそのあたりが一番高かったですか大志さん、スノーウルフやウインドウルフのモフモフも抗いがたいんですけどね、スライムクッションが先に欲しくて……」
胸ポケットのカードと共にファイルを空間倉庫に仕舞っていた大志さんは、俺の言葉を聞き吹き出しながら。
「スライムをクッションにするのか!? プックハハっあはは、一郎、お前らすごい良いなあ、なんか気に入ったわ、どうだ今度俺と一緒にダンジョンに潜ってみないか? いつもスライムダンジョンって訳じゃないんだろ? 上級探索者の俺が指導してやるぜ? お代は出たカードの全てでどうだ、カード以外はいらんぞ」
カードの出る確率を考えたらタダで指導してくれると言っているような物だな、気の良い人なんだなこの人は……敵対するような相手には容赦なさげだけど。
ポン子が賛成の声をあげてくる。
「それは良いですねイチロー、カード屋さんにはイモムチローが蝶に成る為の踏み台になって貰いましょう」
おい、踏み台とか怒られるからやめとけってば。
大志さんは楽しそうに笑ってた。
「くくっ、いいなお前の妖精達は、俺にそういった知性の高くなる妖精の育て方を教えてくれるなら本気で一郎を育ててやってもいいぜ? 上級は無理にしても中級を名乗れるくらい、そうだな……オーガのパーティくらいなら一人で倒せるくらいまでなら鍛えてやってもいいぜ?」
嬉しいがうちの妖精は育てたのでなく天然物なんです、説明のしようが無い……。
「あー大志さん、うちの妖精達は自然とこうだったので育て方は教えられそうにないんです、すいません」
「そうなのか? ふーむつまり一郎は自然と妖精の知性を上げる育て方をしていた……か? よし、一郎、俺と連絡先交換しようぜ、カード好きの同志として知り合いからでどうよ、育て方の秘密は勝手に盗み見るからよ、飯くらいなら探索者の先輩として好きなだけ奢ってやるぜ?」
「それはいいですねイチロー好きなだけ食べさせてくれるらしいですよ」
そう言ってポン子は俺のバックパックに潜り込み、さもそこから出して来たような感じでモバタンを持ってきた。
お前に好きに食べさせたらさすがに驚きそうだがな。
まぁいいか悪い人では無さそうだしとモバタンで連絡先を交換する……そういや探索者としてボッチじゃなくなった瞬間だな、サキュバスや天使や妹は別としてな。
「よろしくお願いしますね大志兄貴」
施設では俺と同学年からの二歳上までの学年はみんな早いうちに養子に行ってしまったので、俺より三歳以上の女性か俺以下しか居なかった、年齢の近い年上の男性は初めてで、ちょっと兄貴呼びに憧れてたんだ……、施設では俺がずっとお兄ちゃんと呼ばれていたしな。
大志さんはその兄貴呼びを聞いて苦笑しながら。
「まぁ好きに呼んでいいけどよぉ、お前らこの後狩りするのか? 帰っても大丈夫なら昼飯に焼肉食い放題でも奢ってやろうか? 兄貴らしくな!」
そうニヤっと笑って返してくれた大志さん。
ポン子が素早く反応した。
「一生憑いて行きます! 大志のアニキ」
ポン子はリルルの横まで降りてツンツンとリルルをつついている。
「あ、ご馳走になります! 大志のアニサマ」
リルルは教えないでも、つついただけで反応出来ちゃうんだなぁ……順調にポン子に染められてる気がする。
じゃぁ俺もっと。
「ゴチになりまーす大志兄貴」
モバタンをバックパックに仕舞い、スライムダンジョンの外に向けて部屋から出ようと……あそうだ。
「大志兄貴、そういやハゲのおっさんは結局どんな物を俺に渡そうとしたんですか?」
内容を聞くのを忘れてたよな。
「ん? ああえっと、なんか水引で結ばれた文箱っぽい奴でな」
そう言って空間倉庫とやらから出してみせた、それは黒い漆塗りの箱で
「この箱でな〈惑わし〉は玉手箱なんて呼んでだが、開けたら年をとる呪いとかが飛び出るのかもな」
そう笑いながら……ってあの……大志さん水引が動いて!
「水引が
大志さんは慌てて何かをしようとしたが、動かない、大志さんの必死な表情を見るに体が動かないっぽい。
「ぐぅ……なん……これは……くそっ無知な〈惑わし〉を騙してたと思ったら俺が騙されてたか……ぐぅ体が」
「大志兄貴! 俺はどうしたら!?」
大志さんは箱を持った左腕はそのままに右腕を少しだけこちらに向け、パチンッと指を鳴らした。
音がした瞬間に何かの衝撃破をくらい俺達はみんな部屋の外の廊下まで弾き飛ばされた、無詠唱!? 大志さんは?
部屋の真ん中で動けずにいる大志さんはこちらを見ながら。
「近づくなよ一郎に妖精共、せっかく俺のスキル〈指鳴らし改〉で発動させた衝撃破で吹っ飛ばしたんだからよ、ある程度のスキルまでなら登録する必要はあるが無詠唱で発動できるんだぜ? 便利だろ、こんなすげースキルスクロールが下位スキルとしてオークションに出てるんだから驚きだよな」
「なんで普通に会話してるんですか! 逃げられないんですかそれ」
箱の水引が解けて、ぐるぐる巻きにされたヒモが少しづつ千切れていく、あと数分ももたずにヒモは全部外れるだろう。
「無理だな体がほとんど動かんし、スキルの発動なんかもほとんどが阻害されている、さっきのがなんとか使えたくらいだ、一郎、何が起きても俺の事は協会や国には言うな、あいつらを組織として信用するな、俺の家族も冷え切ってるし伝える必要は無い! むしろお前に迷惑がかかるから絶対に俺の家には近づくな、今すぐここから逃げろと言ってもお前は……逃げなそうだよなぁ」
そう大志さんは苦笑いで言う、当たり前でしょう!
「どうにか助けられないですか? 何か出来る事は……ポン子何かないか?」
そう問いかけるも、ポン子からは、あれは恐らく神具です……との返事が一言あるのみ……、リルルを見るも首を横に振られた。
「落ち着け一郎、これが罠なら焦ったってどうにもならん、なるようになるだろ、俺は上級探索者だぜ? そうそう死なんから大丈夫だよ、終わったら、いやまた会えそうなら焼肉食い放題な、約束だぜ?」
そうニヒルな笑みを零している、その表情にはまったく悲壮感が無い……そうだな俺とは違う、大志さんは上級探索者だった、それなら……。
ついに箱が勝手に開き、そこから何かが湧き出してくる、言葉にしようがない、あえて言うなら透明な空間そのものだろうか……、部屋の中が捻じ曲がって見える、水槽の中に円の水流を手で作りそこにほぼ透明な絵の具を流し込んだような、捻じれてグルグルと回り。
「大志兄貴!」
大志さんはこちらを見て笑ったような気がした。
そして消えた、部屋の中に居た大志さんが綺麗さっぱり消え、後には最初に見た時は新品のような見た目の箱だったはずなのに、今は古びている箱と、ばらばらになったヒモが落ちているだけだった。
「そんな……大志兄貴……」
ポン子もリルルも何も言わず黙っている。
「俺が不用意に罠の品物の事を聞かなきゃ……」
「それは違いますイチロー、あれはどうにも成らなかったんです、仮にこの場で何も言わなかったとしましょう、この後の焼き肉屋で雑談中にそれがあったら?」
焼き肉屋の他の客ごとすべて罠とやらにかかっていただろう、だけどよ……。
「くそっ、仲良くなれそうな人だったのに……」
「イチローまだどうなったか判りませんよ、大志のアニキも言ってたじゃないですかそうそう死なないって、私はまだ焼肉食べ放題の奢りを諦めてません!」
ふっ……なんだよそりゃ……そうだな、上級探索者の大志兄貴ならもしかしたら。
「判ったよポン子取り合えずそこの箱を回収して帰るか、近づいても大丈夫かな?」
「大丈夫です、ご主人様、保護術式に回す力までも使い切ったからこそ見た目が古びてしまったのでしょう、力を補充しない限りただの汚い箱のはずです」
そう言ってリルルが箱の近くに飛んでいき、バラバラのヒモ諸共空間庫に仕舞っていった。
「ありがとうリルル、帰るとしてどうしたもんかな……消えたにしてはいつもの転移魔法っぽくは無かったよな?」
「そうですねイチロー、あれはどちらかというと……」
ポン子が言葉の途中で何かを考え出した、そこにリルルが横から。
「あまり詳しくは無いのですが、たぶん時空の歪みの様な物だと思いますです……」
自信が無さそうにそう言ったリルル、それを聞いたポン子が。
「ああ! それですそれ、何処かで見たような現象だと思いました、ちょっと待って下さいね大天使様に連絡します、それとイチロー、たぶん大志のアニキは無事ですよ」
そうあっけらかんと言ったポン子、え? どういう事?
◇◇◇
危険が無い職場編 完
この後おまけが数話ありますが 以上で三章は終わりとなります
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