第68話 男はそこそこカードゲーム好き
男の話は続く、俺は説明とやらを聞く事にした。
「依頼相手のハゲ中年の名前は〈惑わし〉、
何か違和感を覚えた……あ。
「貴方さっきと話し方違いませんか? さっきは胡散臭いエセ関西弁みたいだったじゃないですか」
男は苦笑いをし、くっ、イケメンめ……。
「あれはお前に警戒して貰う為だよ、そもそも罠っぽい品物を渡す気は無かったんだ、ロクな品物じゃないはずだ、中々の名演技だっただろ? 俺だってあんな話し方をする奴からは受け取らん」
そう言って男は笑った、渡す気が無かった? それなら捨ててしまうなり……どういうこっちゃ?
納得出来なくて頭をひねっていると、男は話を続ける。
「不思議そうな顔をしてるな、依頼主とは魔道具を使った魔法契約を結んでいてな、山田一郎に品物を届けないといかんかったんだが、お前さんは三回断っただろう? あれが俺は届けようとしたという契約履行の条件をクリアした事になったんだよ、必ず届けるという魔法契約は矛盾を生む事もあるからデフォルトで設定されてないんだよ……魔法契約にはそういう細かい裏道があるから色々決め事をする物なんだが、あのハゲはそれを知らなかったようでな」
この人は怪しい物を届ける気がないから演技をして断らせたって事か、なるほど。
ちょいと男に質問をしてみた。
「怪しい物を届けたくないなら、そもそも依頼を受けなければいいのでは?」
俺の質問を聞くや男はニヤリと笑いその質問に答える。
「いやー、はは、依頼料がすごかったんでよ、それに俺に暗示を掛けようとした慰謝料込みですっごい支払いをして貰ったからさ、多少強くなろうが俺に暗示なんて効く訳ないのにな、出来る限り絞ろり取ろうと思って……つい、な、お前さんには悪い事をしたと思ってるよ、でもまぁあんな胡散臭いエセエ関西弁を話す奴から荷物なんて受け取らないだろう?」
「金が欲しくてこんな事したんですか……狐草さんは……」
「ああいや金じゃないんだ、〈惑わし〉は本家から大量の
そう言って狐草さんは胸ポケットからカードを何枚も取り出した。
カードを出した動きを一応警戒するも、それ以上の何も無かったのでカードを見てみる。
「うわ! アルラウネカードに、バトルホースカードも! こっちは家事妖精なんて呼ばれてるシルキーカードじゃないですか! 最近調べたんですがシルキーカードだけで軽く億いきますよね……?」
つい最近調べたんだが、戦闘力はほとんど無いが家事力が高くて、出現率がレアなシルキーは、オークションでやばい値段を出していた。
狐草さんは嬉しそうに語る。
「お、よく知ってるじゃないか、お前もテイムカード好きか?」
なんて事を言ってくる、はあ? 何言ってたんだこの人。
「何言ってるんですか狐草さん! カードゲームに興味無い男の子なんて五人中三人くらいしか居ませんよ!? 俺は勿論大好きな方です!」
「興味無いが六割って結構いるじゃねーか! まぁ四割が好きなら十分か? なんだよお前カード好きの同志かぁ、俺の事は大志って呼び捨てでもいいぜ? 俺は二十歳になったばかりだし、お前さん二歳下くらいだったよな」
この人カード好きかぁ、うん、悪い人じゃないな! 仲良くなれそうだ。
「あ、じゃぁ俺の事も一郎って呼び捨てでいいですよ」
ずずいと座ったまま大志さんに近づき、カードをよく見せて貰う、頭の上から溜息とか聞こえてくるが気にしなーい。
「シルキー可愛いっすねぇ大志さん、これで億……、バトルホースもピンキリだけど高い時は億になるらしいですし、アルラウネもこれ人部分が多い特殊個体じゃないですか……こういうのは高いんだよなぁ、いいなーいいなー」
モバタンでの情報収集の時にテイムカードオークションはよく調べるんだよね、情報収集大事だからね!
「一郎も妖精を従えてるくらいだしテイムカード好きそうだと思ったが相当だな、バトルホースは競魔で活躍しそうな能力だと数十億払う魔主もいるって聞くよな、とまぁ魔道具やらは慰謝料として奪ったんだが、その話が終わった後にこれらのカードを出して輸送依頼の話をしてきやがったんだよ〈惑わし〉は、これはもう受けるしかねーよなぁ?」
ああうん。
「それなら仕方ないですね、大志さんは悪くない、無罪確定です」
「そんな訳ないでしょイチロー!」
ポン子が頭上から突っ込みを入れてきた、えー? だってこの三枚のカード見せられたら、俺だって契約結んじゃうよ?
「相手が悪いと思ってるならちゃんと慰謝料請求しないと駄目でしょーに! イチローは人が良すぎですよ」
「ええ……それは何か嫌じゃないか? ポン子」
相手に付けこむみたいでなぁ……、そこに大志さんが口を挟む。
「確かにその妖精の言う通りだ、俺も一郎のおかげですごく、そりゃもうすっごく儲かったし多少のお裾分けはしないといかんだろう」
そんな事を言ってきたので、大志さんが持ってるカードをジッと見ていたら、彼はそれを胸ポケットに仕舞った。
そして何もない空間から透明なファイルを取り出した、って空間庫系の能力持ちかこの人、すっげーな、カードが一杯仕舞ってある中身が見える透明の分厚いファイルだ。
「この中から好きなの選んでいいぜ」
「あ、じゃぁ俺シルキーが欲しいです」
「この中から好きなの選んでいいぜ」
「あ、じゃぁ俺アルラウネが欲しいです」
「このファイルの中から好きなの選んでいいぜ」
さすがに三回はやり過ぎかな? ……ちぇ、やっぱ無理かぁ……そこで頭上のポン子が発言をした。
「この中から何枚頂けるんですか? イチローにやばい品物を渡そうとした輸送屋さん?」
カードファイルを開けて中を見てみた、明らかにさっきのシルキーとかに比べると安い量産されているカード達だった、いやまぁそれでも俺は見てるだけで楽しいのだが、ポン子と大志さんがやりあっている。
「そりゃ一枚に決まってるだろう妖精、そもこれはカード好きな同志へのお裾分けってやつだ、慰謝料? 結果的に何にも起きてないんだし発生しないだろ?」
「ははは、何をおっしゃる輸送屋さん、貴方〈惑わし〉とやらの暗示を結果的に何も食らわなかったにもかかわらず慰謝料を請求したんですよね? ダブルスタンダードですか?」
おーバチバチとやりあってるな、あ、このベビーウルフとか可愛いなぁ……あーこっちのウインドモモンガも可愛いなぁ、ペット枠に欲しいかも。
「グッ……それは俺が上級探索者だから自身の能力で防いだんだ、今回のは俺の優しさで胡散臭い演技をしてやっただろ? 俺が何もしなきゃお前の主人の一郎は罠にかかってひどい事になってたかもしれないんだぞ?」
へー大志さんって上級探索者なのかぁ、まぁ最初居場所も掴めなかったし空間庫っぽいのも持ってるし、この明らかに人にあげてもいい分類っぽいカードファイルだけでも数がすごいから、一ページ九枚の裏表あるから……で三十ページくらいあるだろこれ、えーと……全部合わせたら数億は軽く超えるだろうな。
「あ、今うちのイチローを罠に掛けてひどい事になる様な事をしたって認めましたね、俺のおかげ? 盗人猛々しいとはこういう事ですよ後輩ちゃん」
なるほどーとリルルが頷いている。
「こ、この……なんで妖精がこんな弁がたつんだよ一郎!? 妖精ってのはもっとこう頭の中お花畑っぽい感じだろう? あーもう判った判った二枚な二枚持ってっていいぞ」
ポン子はさらに交渉をしかける。
「ちなみに輸送屋さん、貴方がさっき見せてくれたシルキーとバトルホースとアルラウネをオークションで買ったら、このファイルの何枚分くらいになるのでしょうか?」
そりゃお前、億+億+バトルホースはピンキリで数百万から数十億だからなぁ……。
最低でも数億か、このファイルの中のカードが安いのは十万くらいのから高いので百万以上するのもあるけど、平均五十として……全部買えそうだなぁ……。
「待て待て、俺の儲けのすべてを持っていく気かこの妖精は! ああもう三枚な…‥三枚までならその中で一番高い奴でもいいからよ……」
うわぁ……ポン子さんすごいなぁ、交渉だけで最大数百万稼いじゃいましたよこの人。
「仕方ないですね、それで手を打ちましょうか、あ、イチロー私スライムカード一枚確保でお願いします」
やれやれといった感じのポン子だったが、急にそんな事を言った、それを聞いた大志さんは驚き。
「は? こんな交渉しておいて十万かそこらのスライムカードを欲しがる……? 分け判らん妖精だな……、一郎よ特殊個体の妖精か何かかこいつ」
妖精の見た目をした天災守護天使です御免なさい。
「ふっ、輸送屋……いやカード屋さん、貴方はカードの価値を値段のみで見るんですか?」
ポン子がそう言うや大志さんに雷が落ちた、ような幻覚が見えた気がする。
「そ、そうだな妖精、自身の心が欲する声が一番大事なんだ、オークションの値段は入手する手段であって目的じゃねぇ……集める事に集中するあまり大事な事を忘れそうになってたぜ、思い出させてくれてありがとう妖精」
「妖精だってカードゲームは好きなんですよ、感謝するならもう何枚かくれてもいいんですよ? カード屋さん」
「妖精にも好かれるなんてさすがカードの力は偉大だぜ! いや決め事はしっかりしとかないとな、三枚だ!」
お互いふふふと不適な声で笑い合ってる、仲良くなれたようで何より、ポン子のコミュ能力はすごいよな、リルルは人見知りを発症させて大人しいもんな。
じゃぁスライムカードを一枚っと、後はリルルにも選ばせるか。
「リルル何か欲しいカードはあるか?」
リルルは聞かれるとは思って無かったんだろう、最初はびっくりして恐縮していたがそのうちファイルまで飛んで降りて嬉しそうに選んでいる。
「はぁ? ……テイムした魔物に随分と優しいんだな一郎は、それだと戦闘で消滅した時辛くねぇか?」
「……消滅なんて考えたくないですね、そんな危険がありそうな狩場には行きません、大志さんは違うんですか?」
「そうだなぁ、俺が空間倉庫系のスキルを持ってるのは確認しただろ? あれってうちの血統スキル、あー先天スキルって言えば判るか? 爺ちゃんはサッカー場丸ごと入るくらいの大きさだし、うちの父親が一軒家くらい、俺がバレーボール三面以上張れるような天井の高い体育館くらいは容量があるんだ、あ、この話は内緒でな、同志だから教えたんだぜ?」
ポン子が、消耗しない秘密そうな情報を教えて相手の友好度を上げるとかやりますね、なんて言ってて、大志さんが苦笑いしとる。
「んで俺はソロの探索者だ、空間倉庫に大量の物資を入れてダンジョンに籠る訳だが、中級者以上の探索者が安くて普通は置いていくようなドロップも全部拾える、自身が行けるギリギリの強さの階層で八時間狩りをして、階層転移のアイテムで移動する、ん? あんなのタクシー代みたいなもんだろ?」
石板で売ってる階層転移魔法陣用の数万の消耗品な魔道具は高いでしょーと言ったら、タクシー代わりという大志さん、そういや上級探索者だったなこの人……。
話を続けてくれた。
「でだ、深い階層で狩りをして疲れた俺は飯を食って寝る訳だが、ダンジョン内で寝るのよ、少し階層を上がって敵の強さがそこそこの場所でな、カードから魔物を一杯召喚をしてそいつらに防衛と狩りをまかせる、すると一日中狩りが出来て儲かるしカードも一杯出る、家に帰らず一月でも籠れちゃう訳だ、スキルスクロールも出るんでソロの俺は総取りでどんどん強くなる、まぁ防衛や狩りをさせてるカードに多少の犠牲が出て消滅する事もあるわな、な訳で消滅で一々悲しんでられんのよ」
なるほど、俺とは考え方が違うようだが、カードの使い方としては大志さんの方が一般的だな、消耗品や壁として使われるからな……。
「大志さんが寝ちゃってると召喚した魔物達が他の探索者に間違えて攻撃されたりしないですか?」
と、気になった事を聞いてみた。
「そこはほら、人の言葉を話せるエルフとかをリーダーにして説明させたり、スポーツのゼッケンのような物を装備させてそこに、うちの家紋とテイムされた魔物である事を書いてあったりするのさ、そもそも休憩する時は狩場として
エルフさんが装備の上から白いゼッケンを付けている様子を思い浮かべる……シュールだな。
「その狩り方してると大志さん物凄い儲かりそうですね」
「俺は稼ぎの全てをカードや探索用の物資や安いスクロールの買い占めに注ぎ込んでるからいつもカツカツだぜ? 探索者は儲かるなんて言うが、そんなのは中級探索者までの話だ、上級探索者ってのはな全ての稼ぎを探索っていう趣味に注ぎ込める様な奴が成れるんだよ、儲けがどうの貯蓄がどうのなんて言ってる奴はその時点で上級には成れな……いや成れる奴もいたわ……まぁだいたいが成れないって事でよろしく……」
なるほど、その成れる奴の話をすごく聞きたいのは俺だけだろうか?
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