第67話 久しぶりのスライムダンジョン

 今俺はサキュバスさん達に貰ったツナギと安全靴を履いて手には施設長に貰った棒を持っている。


 バックパックとサイドポーチも一応装備しているがこれは荷物運びの偽装用で、周りに人がいなきゃ空間庫を使って貰う事にした。


 そうしてスライムダンジョンに向かって歩きながらツナギの胸あたりに隠れているポン子に語り掛ける。


「全ての装備が魔力の宿った物だぜポン子、俺はもう初心者探索者を抜け出たと言っていいんじゃないだろうか?」


「イチローは二年かけてやっとですけどね、まぁこのツナギとか靴の素材を聞くに防具だけなら中級クラスは名乗れるんじゃないでしょうか」


 簡単に手に入るし、高い物じゃないから遠慮しないで、なんてポニテ姉さんは言ってたが、それなりの物っぽいな、ただ傍から見るとツナギで棒装備の貧弱探索者なんだよなぁ、上から装備できる皮鎧とか探そうかな。


 リルルに説明されたが地獄でも普段着に使うような素材らしい、となるとリルルの服も地獄産のはそれなりの防御力があるって事か? ジャージは地獄産なのかな? え? 氏族長からのプレゼント? なんか何処かで聞いたような話だな……。


 雑談をしながらコンビニで昼ごはんを買い込み、ポン子の空間庫に仕舞っておいて貰う、ちなみにマラカスも一応ポン子に預けてある、使う事はないと思うが……。


 姫乃からの連絡次第だが今日は早めに帰る必要あるかもなぁ。


 スライムダンジョン前には誰も居なく、いつもの見慣れた光景だ、協会の受付のおばちゃんに挨拶代わりに手を振りながら石板の前に歩いていく。


「まずは遅くなったが指輪の鑑定だな、ぽいっと」


 石板にリッチから出た指輪を投げ込む、ポン子とリルルはすでに外に出ていて俺の頭と肩にそれぞれ座っている、他に誰も居なくなってるし、もう隠れなくてもいいかもな。


 石板には〈肩代わりの指輪〉と出て、説明を読んでから取り出し。


「うーん、装備すると一定までのダメージを肩代わりしてくれる指輪なのはすごいんだが……消耗品で減った肩代わり分の補充が出来ずに最後は壊れちゃうのが使い処に困るなぁ」


 ポン子は頭の上で足をぶらぶらさせながら。


「ボス戦とかで使うんですかねぇ……取り合えずモバタンで売値とか調べてみますね」


 リルルはいらないなら調査して改造するので私に下さい~と言っている、まて落ち着け、安かったら考えるから! 落ち着け! 俺の耳を下に引っ張るな!


 リルルが興奮してるので早い所調べてしまってくれポン子、石板でポイントに変えてからコインに変換も出来るが、協会やオークションで売った方が遥かに高かったりするので良い物をポイント変換する奴は居ないのが常識だ……一応石板に登録されてる武器防具の在庫を見てみたが棒というか枝くらいならあるみたいだ、他は魔力の宿ってない資源とかしかないな。


 ポン子が生活魔法でモバタンを浮かせて俺らの見える位置まで下ろし画面を見せてくれた、えーと何々……わぉオークションで数百万の値がついた事があるようだ。


「リルルさん、残念だがこれはいざという時の為に温存します、安い魔道具やスクロールが出るまでお待ち下さい」


「ぅぅ残念です……ご主人様スライム倒しにいきましょう! スライムからは安いのが出やすいんでしたよね?」


 そういって俺を促す、ポン子はモバタンを仕舞った様なのでダンジョン入口の階段を降りながら会話をする。


「ポン子、たしか情報板にはスライムダンジョンのフィーバータイムは終わって、しかも湧きが悪くなったとか書いてあったんだよな?」


「そうですねー、七日くらい前の情報でそんなのがありまして、そこらあたりからスライムダンジョンの情報はさっぱり出てこなくなりましたね、人が他に流れたんでしょうね、実際に一人も見かけませんし」


「協会の公式サイトには調査の事とか一切無かったんだよなぁ?」


「ですね、個人のサイトや動画でちらっとありましたが、公式が何も言わなければ放置されて終わりですね、調べていたが特に何もなかったって話に落ち着くんでしょう」


 なんだかなぁ……何も無くても調査してますってくらいは協会公式サイトに出せばいいのにな、ほんと協会は初心者とかに対して不親切だよなぁ。


 まぁいいか。


「リルルは戦闘でどんな事が出来るのか聞いておくの忘れてたな、教えてくれるか?」


「あ、はいご主人様、えーと私は元々戦闘とか苦手で……素体となる妖精情報もコモンの幻惑系にしちゃいまして、とにかく天使に見つかりたくなかったので、なるべく弱い個体でさらに隠れるのが上手い資質なら目立たないかなーって」


 なので攻撃魔法はありません幻とかで相手を幻惑するくらいですねー、とリルルは続けた。


「妖精の魔法はそうだがサキュバスの魔法はどうだ? ポン子とかは神界ルールで普段はあんまり使っちゃいけないみたいだが」


「それがありました! 最近ご主人様から頂いてる精力を変換してるのでリソースはかなり余裕があります、サキュバス系のスキルや魔法なら……あ……そもそもサキュバスに攻撃魔法がありませんでした……アハハ、相手の状態を変えるくらいですね……」


 状態異常でも十分だろ? リルルが落ち込んでるので。


「ならリルルには戦闘中はポン子や俺のフォローだな、幻の力で相手のターゲットをずらしたり、基本的にはポン子にタゲがいかないようにしたりして貰おう、二人で協力してくれ、それにドロップ品集めたり空間庫使って貰ったり、仕事は一杯あるんだけど大丈夫か?」


 リルルの出来る仕事を連ねると少し元気が出たようで。


「まかせて下さいご主人様! ポン子先輩は私が守ってみせます! 空間庫もドンと来いですよ」


「ヒューヒュー後輩ちゃん頼りになる~、私が戦闘機だとしたら後輩ちゃんは直掩機ですかねぇ、勿論イチローは空母です」


 俺の頭がカタパルトってか、発着しまくったら滑走路部分だけハゲそうでいやだな。


 そうして最初の十字路に付きすぐ横の部屋にいるスライムと戦闘を試す事にした。


 ポン子とリルルには離れて居て貰い二匹居たスライムの体当たりをわざと食らってみる……。


 わぉ、ほとんど痛くない? 当たってるのは判るんだが、前のツナギの時はサッカーのシュートボールを体に食らった感じだったんだが、今は小学生の時のマクラ投げだろうか、服が柔らかいのに衝撃が減るって意味が判らないが、魔法のあるファンタジーだしなそういう物だと思っておこう。


 ポンポンと体に当たるが大丈夫そうなので棒を持ち、〈マラカス〉麻痺睡眠雷付与!デフォルトでやると数秒しかもたなそうだな、殴ってみる、スライムが破裂した、うんそういや前もただ殴っただけで破裂してたな……効果わかんねぇ! もう一匹も倒しておく。


 ポン子やリルルが近づいてきた。


「防具性能は強い事が判った、しかし〈マラカス〉の付与はスライム相手だとよくわがんね、しかもデフォルトで付与すると数秒しかもたないし……、次は〈救世〉やってみるか?」


 そうポン子やリルルに聞いてみた時に。


『なんやそれなりの装備してるのにスライム相手って~きみら変なやっちゃのう』


 そんな声がした、って誰かがいるような気配は感じなかったぞ!?


「誰だ!?」


 周りを見回すも人影は無し、ポン子は頭にリルルも肩に戻らせた。


 部屋の入口付近の景色がグニャリと歪み一人の男が現れた、俺と同じくらい……いや少し上くらいの年か?


 笑顔を浮かべ話かけてくる男、中肉中背、背は俺より高く百七十後半くらいか、顔はそこそこイケメンっぽいが、今は笑顔が狐っぽくて兎に角胡散臭い、服装は若者が近くのコンビニに買い物に行く感じか、普段着なのでダンジョンに居る事が違和感を覚える。


「いやぁすまんすまん、初めましてや、あんさん山田一郎さんやね? お届け物があるんやけど受け取って貰えないやろか?」


 俺の名前を知っている? ポン子が気を許すなと頭上から忠告してくるが、こんな胡散臭い話し方されて注意しない方がおかしいだろ、棒は直接向けないがいつでも攻撃できる態勢を取る、リルルも緊張しているようだ、アワアワ言っている。


「お断りします、何だか判らないが、知らない人から物を貰うなと教育されてまして」


 男は俺の反応を聞くと嬉しそうな顔をして続ける。


「まぁまぁそう言わんと、なら自己紹介や、俺の名前は狐草きつねぐさ言うねん、山田一郎さんに是非に届けて欲しいと頼まれた只の輸送屋や、な、ちょちょっと受け取ってサインもろたら俺の仕事が終わるんや、なぁたのむわぁ」


「断ります、胡散臭い話し方をする人から物を受け取るなと教育されてますので」


 男はさらに嬉しそうな顔をする、なんでこんなに断っているのに嬉しそうなんだ……すっげぇ怖い……直接攻撃をされる事も無いとは思うが……裏技の様な物があるかもしれない、それに相手が処罰を受けても俺がやられてしまったのでは意味が無い。


 狐草と名乗った男は真剣な顔になり。


「これが最後通牒や、名前は言えんがハゲのおっさんに頼まれてな、あんさんに受け取らせるように魔法契約をしててなこちらも仕事やねん……、最後にもう一度言うぞ、山田一郎荷物を受け取れ!」


「断る!」


 何だか知らんがハゲって暗示のおっさんぽい気がする、やばいかもしれない、ポン子から天使さんに連絡して貰うか? 俺がそう悩んでいると。


 男は笑いながら懐から何か古臭い紙を出して。


「契約の履行を確認しろ」


 男がそんな言葉を吐くと紙が宙に浮かび燃え始めた、何だ? 何が起こる!?


 ……。

 ……。


 何が……起こる?


 あれ?


 何も起こらないし男の胡散臭い狐みたいな笑顔が、今は苦笑をしているといった笑みに変わり。


 普通にイケメンだな……、仲良くなれそうにないな! イケメンは滅べ!


「ああ、すまねぇな山田一郎、もう警戒しなくていいよ、俺の契約は果たしたし何かをする気は無い」


 そうこちらに話しかけてきた、油断を誘っているのか?


「そう言われましてもね、訳の判らない贈り物をしようとした人間を警戒しない訳ないでしょう?」


 男は少し考え、手をポンっと叩き合わせ。


「確かにそうだな、まぁ説明するからちょい座ろうぜ」


 そう男は石畳の床にあぐらを組んで座った、怪しいが……うーんどうにも憎めない感じもするし……少し離れて座る事にした、まずは話を聞いてみよう。


「ありがとさん、まず俺の名前は〈狐草きつねぐさ 大志たいし〉だ、今回はとあるハゲ中年からの依頼を受けて輸送屋をしたわけだが」


 男は自己紹介をし、何やら説明を始めた。


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