第66話 チャイムさんの正しい使い方
「そうじゃないポン子! もっと勢いよく体全体を使って振れ! そう! そして次は円を描いてこうだ!」
がばっと上半身を起こす俺、見慣れた俺の部屋だ……カーテンを開けて起きる、リルルはやっぱり枕の横で寝ている。
ふぅ……エッチィ夢じゃなく、マラカス演奏をポン子に教える夢を見てしまった……よっぽどショックだったんだなぁ俺……それにあの後マラカスの演奏テクニック動画を見たのが良くなかったか。
ポニテ姉さんはさすがに昨日は泊まらなかった、有給を一杯とったのでしばらくは日中は来れないかもと言っていた、護衛の為に使わせちゃったんだよなぁ……今度何かでお礼出来ればいいんだが。
日中は来ないが夜や泊まりはする気なのだろうか……、まいいや。
シャワー浴びてくるか……。
――
さて朝飯をという時に。
『ピンポーン』
チャイムが鳴る、今日は揉み屋やらんのだが、誰だろ?
『ピンポーン』
魔法で鍵を開けて入ってくりゃいいのに、すでに玄関まで出迎えるのが面倒になっている俺が居る、今日の天使だかは礼儀正しいな、いやこれが普通か……。
『ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピポピポピポッピポッピポッ』
うっさい! はいはいっと玄関まで行きドアを開ける、インターフォンあるけど直接出た方が早いよな。
「魔法で鍵開けて入ってきていいんですよ……ってどちら様……あれ? 姫か!?」
「お兄ちゃん!」
そこには二年以上も会ってなかった俺の義理の妹のような存在である姫乃が居た、姫乃は俺に抱き着き、俺の胸を頭でグリグリとしながら、お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんと同じ言葉を繰り返している。
「痛い痛い、そのお兄ちゃん攻撃も久しぶりだな姫」
そういってグリグリしてる頭を撫でてやる、あ、やべ〈ナデポ〉発動しちゃってる最低威力最低威力っと、パッシブで勝手に発動するのが辛い。
そこでやっと俺の胸から頭を離した姫乃、腕はまだ抱き着いたままだが。
「やっぱりお兄ちゃんの頭ナデナデが一番だね……」
部屋の奥からポン子の、なんとそんな昔から〈ナデポ〉を持っていたとは、なんて声が聞こえてくる、いや持ってねぇから。
その声が聞こえたのだろう、姫乃は悲壮な表情をしつつ。
「部屋から女の人の声がするねお兄ちゃん……やっぱり桜子先輩と同棲を……中に入れて下さい、私は……妹として、そして将来の嫁として先妻さんにご挨拶をせねばなりません!」
何やら気合を入れているが意味が判らん。
「姫が何を言ってるのか判らないんだが……まぁあがれ」
そう言って部屋の中に促す、姫乃は覚悟を決めた表情で靴を脱ぎ中に入ってくる。
部屋の中にはテーブルの上に朝飯と、その横にポン子とリルルが居る訳だが、姫乃はキョロキョロと回りを見渡し。
「あのお兄ちゃん、桜子先輩や他の女性は何処ですか? 御トイレでしょうか?」
「いやこの部屋は俺とテイムした妖精のこの二人以外住んでないんだが?」
姫乃は首を横に傾げ意味が判らないという表情をしている、そも桜子って誰だっけ……、あー中学の時の同級生? むぅ記憶はあるはずなんだが横の繋がりが無いというか……姫乃と桜子とかいう奴がからんでる時の記憶しか思い出せないな。
この記憶が連鎖しなくて思い出せない感じがすごい気持ち悪いんだよな……、まぁ直で会う事があれば思い出すだろうし気にしても仕方ないか……。
目の前の姫乃の事も小学生頃の記憶はばっちりあったが、今この瞬間会うまで中学の頃の姫乃の記憶はうっすらとしか無かった、実際に会うと関連した記憶が蘇るようだ、施設長や施設員のお姉さんの時もそんなだったな。
「えと金髪の美人さんと同棲して買い物したり、女性が一杯部屋に尋ねてきたり、夕方なのに部屋に女性が複数居たりした事は判明してるのですけど……隠しましたか? お兄ちゃん?」
何その同棲以外の正確な情報、怖いんですけど! 妹がストーカーになっていた疑惑、いや自分で見てたら勘違いしないか、ある日二年ぶりに兄に再開したら、演奏する揉み屋のモミチローになって居たって聞いたら妹はどう思うだろうか?
「姫、その制服可愛いな、すごいよく似合ってる、ちょっとこうクルっと回ってみせてくれないか?」
先延ばしにする事にして誤魔化してみた。
「お兄ちゃんが何やら誤魔化してる気がします、けれどお兄ちゃんラブな私は素直に回転してポーズを取る事にします、クルっとそしてポーズ! 決め!」
姫乃はその名の通りというか、髪型は姫カットで日本人形より少し現代風な感じの黒髪ロングだ、背は元から小さめで久しぶりに会ったが今は百五十半ばくらいの小柄で、顔は整っていて和風美人だ、まさに姫と言うに相応しい、俺以外に姫と呼ばれると嫌がるんだけどな、体はスレンダーでポン子より無いけどな。
そんな事を思いつつポン子やリルルと一緒に拍手をする。
ポン子が、何故でしょうすごい親近感が湧いてきますとか言ってる。
「最高に可愛いな姫、それってここらで一番有名な探索者専門高校の奴だろ? 制服からして魔力が宿った素材で作られてるって噂の、学校に登校する前に来てくれたのか?」
あれ……でも学校あるならこの時間じゃ遅刻じゃね?
「昨日が入学式でした、JKの制服はやっぱり好きでしたか? お兄ちゃんに会う許可は昨日の夕方に出たのですが時間も遅かったので止められました、なのでお兄ちゃん城攻略に朝駆けをしにきました、敵武将いや妻は何処ですか? 同盟交渉をしないといけないのですが……」
俺はいつのまにか城だった?
「いや、そもそも俺はまだ十八になってないだろ? まぁ後二週間くらいだが、しかも妻どころか恋人すら居ない訳だが、何がどうなってそんな情報を掴んだんだ?」
JKのくだりはスルーした、姫乃は首を傾げている。
「誰も居ない……? そんな筈は……あっれぇ? ……まさか運命が私を選んでいるからそれ以外が排除された……? そんな……フフ……フフフ、デュフフフ」
どうしよう妹の笑い方がすごく気持ちわるいです、注意した方がいいだろうか。
「まぁいいか、姫、取り合えず俺の相棒達を紹介しておくよ、こっちがポン子で、こっちのジャージ着てるのがリルルだ」
テーブルのスラ蔵さんに座っていたポン子は
「こんにちはイチローの義理の妹さんでしたっけ? 私は! 天使のごとく可愛い妖精プリチーポン子ちゃんです! ズビシッ!」
そうポン子がポーズを決めるとリルルがハッっとして立ち上がり。
「初めましてご主人様の妹様、私は! 悪魔のように可憐な妖精セクシーリルルです! ムギュ!」」
姫乃はその挨拶を受け……笑顔で俺を見る、いやいや、ちゃうねん! 俺がやらせてる訳じゃないねん、いやほんとに! と目線で姫乃に訴えて見た、長年兄妹のように過ごしてきた俺達だし、目で通じ合う事も出来るはずだ!
その目線を受けた姫乃は理解してくれたのかコクリと頷き、ポン子達に向き直り、というか未だに立ったままだな俺と姫乃。
「初めましてお兄ちゃんの妖精さん達、私は! お兄ちゃんの妹であり嫁でもあるキュート良妻姫乃ちゃんです! バサッパチリッ」
対抗してきやがった……お前その一旦開いてから閉じた扇子どっから出したの……? いや姫っぽくて似合うけどさぁ……姫乃お前そんな性格だったっけか? 過去の記憶は美化されやすいって事かなぁ……。
俺の目線の意味を何だと思ったのか聞いたら、私にもやれとお兄ちゃんが言っていると判断したそうだ、ツーカーの仲には成れそうにないな。
そしてテーブルを挟み床に座る俺ら。
「俺に会うなとか言ってきた姫の家の件はもういいのか?」
そう聞いてみた、暗示を跳ね返したせいか中三の夏におっさんに会った事も思い出している、その時の暗示内容は朧気だが、跳ね返した暗示と似たような内容だったのだろうとは思う。
「私の養子先の家ではなく本家でしょうかそれは、そんな事をお兄ちゃんに言ってきたんですか? 許せませんね……私にした約束だと高校を卒業するまで会うなという話だったんです、本家と交わしたある約束が破られましたのでもう好きに会いに来ていいのです、養子先のお義父さんもお義母さんもすごく良い人……いえ良い両親で、お兄ちゃんを婿に迎えるのを楽しみにしてるそうです!」
養子先のご両親とは上手くやっているようだな、よかった、だが、妹と結婚する兄は居ないと思うんだが。
「ならいつでも来れるんだな、ポン子モバタン出してくれ」
ポン子は空間庫からモバタンを出す、それを見て姫乃が驚いてる。
「姫、モバタンの連絡先交換しようぜ、ポン子が空間庫使える事は周りに内緒でよろしくな」
「お兄ちゃん……はい! 一日何十回まで連絡していいでしょうか?」
「いっか……五回以内で頼む……そんな目で見るな姫、探索者として行動してたりすするし、普段はポン子にモバタン預けてるからすぐ反応出来る訳じゃないからな?」
判りましたと言っている姫乃、さて、連絡先も登録出来たしっと、やる事やらんとな。
「姫、今日学校はあるんだよな? 早く行かないとってかもう遅刻じゃねぇか?」
「あはは、何を言ってるのお兄ちゃん、お兄ちゃんに会う以上の大事な事なんてこの世にある訳ないじゃないですか、熱でもあるの? お兄ちゃん」
俺は平常でおかしいのは君です、姫乃の首根っこを掴み玄関に持っていく、靴を履かせドアを開けて外にポイっと出す。
「学校に行きなさい姫、また会えて嬉しいよいつでも遊びに来い、そしてちゃんと学校に遅刻せず行きなさい!」
「お、お兄ちゃんのお母さんッぷりは健在だね、判りました行ってきます……今日の学校が終わったらここに来ていい?」
「いいぞ」
「夕ご飯も食べていってもいい?」
「ああ、いいぞ」
「そのまま泊まってもいい?」
「……次の日の学校へ行く準備もちゃんとして、ご両親の許可が出るならいいぞ」
「お義母さんの許可を貰っておきます、夜は一緒の布団で寝てもいい?」
「お義父さんには聞かないのか? 同じ布団は駄目です、男女席を同じうせしは十まで、だったか? もうお前十五だろ駄目だよ」
部屋の奥からポン子が声をかけてくる。
「イチローそれたぶん間違ってますよー」
「え? まじで?」
ポン子がフヨフヨ飛んできて教えてくれる。
「男女七歳にして席を同じゅうせず、だったと思いますよ」
「まじかぁ俺が教えて貰ったのとは随分違うな……」
「イチローは誰に教わったんですか?」
「そりゃお前、誰って……」
そう言って姫乃の方を見る、姫乃はスチャっと背筋を伸ばし俺に向かって敬礼をすると。
「では行ってまいりますお兄ちゃん! また後できますぅぅぅ~」
そう言いながらすごい勢いで離れて行った。
「姫や施設の女の子らに教わったんだ……こういう故事もあるし十までなら一緒の布団でもいいよねって……」
「イチローは昔から弄られてたんですねぇ……」
そうポン子は言葉を残しテーブルの朝食に飛び込んで行った。
どういう事?
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