第64話 ××する揉み師

『ピンポーン』


 チャイムが鳴り、カギが開き金髪天使さんが入って来た。


 うわ……目の下の隈がひどい……寝てなさげ?


「お邪魔します、モミチローせんせい……」


「いらっしゃい金髪天使さん、ハゲ中年おっさんの件が終わったんですか?」


「ええ、なんとか捕まえました……悪魔はすでにいませんでしたが、私の前でその力を使ったのですべての能力を剥奪、一連の記憶を曖昧にして元居た場所に戻しておきました……」


 つかれました……と部屋に入り、クッションに座り込み報告をしてくれる金髪天使さん。


「お疲れ様でした、お茶入れるので飲んでください」


 コップにお茶を入れて差し出した。


「うう、美味しいです……ただの人間だと思って油断したのが間違いでした……奴が所属していた家系の宝物庫から相当数の魔道具や神器を持ち出していたようで……実はこれから後始末に再度出かけないといけないんです……」


 それを聞いていたポニテ姉さんが横から。


「それは大変だったわねぇ、お疲れ様です天使さん、もうご主人ちゃんに護衛はいらなくなったのかしら?」


「そうですね……ハゲ中年は何の能力も無い人間になりましたし、ここしばらくの記憶も曖昧にしておきましたし大丈夫かと思います……先生は私が護衛したかった……」


「残念、泊まり込む言い訳が無くなってしまうわね、ご主人ちゃんの夢を弄るの楽しかったのにな~」


 そんな風に揶揄ってくるポニテ姉さん。


「やっぱりあれ全部ポニテ姉さんの仕業だったんですね、まったく……自分で夢を操るすべを教えてくれたら許してあげます」


 なんてポニテ姉さんと楽し気に会話をしてる俺らを見て金髪天使さんが何かを呟いていた、不運ついてない? 今回の事だろか?


 揉み予約全部キャンセルになっちゃったもんなぁ……よし!


「揉み屋の連続営業は今日で終わりでしたが、またお休みの日とかにやりますので、その時はポン子経由で金髪天使さんに真っ先に知らせますから、また癒されに来て下さいね、お世話になったし最優先で受付ちゃいますよ!」


 なんてね。


 金髪天使さんは隈のある目を大きく広げて。


「モミチロー先生、それは私が後回しだったり枠が無くなったり、曜日がずれたりして逆キャンセルされたりとかそういう事ではなく、私が最優先でですか?」


 何やらびっくりした様子で聞いてきた、そりゃ色々お世話になったんだもの多少の贔屓はするよな?


「ええ勿論です、お世話になった金髪天使さんなら贔屓しちゃいますよ!」


 そう俺は答えた訳だが、何故か泣き出してしまう金髪天使さん。


 ちょ、ええ? なんでなんで、俺変な事言ったか?


 ポロリポロリと涙が頬を落ちていく金髪天使さん。


「ど、どうしたんです!? えとティッシュティッシュと、はいどうぞ、俺変な事言いましたか? 金髪天使さんの仕事の苦労も知らず軽口を言ったのがよくなかったでしょうか?」


 金髪天使さんはティッシュを受け取るが使わず、顔を伏せながら横にブンブンとふり否定の意思を見せる。


「ちが、ちがぅんでぅ、嬉しくて、ちぃぃぃー--ん、ずずっ、……モミチロー先生が私を思いやってくれたのが……嬉しかったんです、ありがたくその贔屓を受けさせてもらいますね! 私は先生のその思いやりだけで後十年は頑張れます!」


 鼻をかんでそう言う金髪天使さん。


「いやいや待って、この程度で十年って聞いてるだけでこっちも泣きそうだから、いくらでも言うから! ていうか天使の職場そんなにブラックなんですか!?」


 ちょっと思いやったら泣き出して十年頑張るとか言い出すなんて、天使の職場改善要求出さないと駄目だろうこれ! 大天使さー-ん、増員、増員出来ませんかー?


 俺がオロオロしてると横に居たポン子から。


「イチローはたぶんすごい勘違いをしてるんだろうなぁと私は思います、そしてホストクラブにいる気分になりました、こうやって太客を掴んでいくんですね」


 弱ってる女性を慰めてボトル入れて貰ったりしないからね? やるなら両方楽しくなる感じでいくよ俺は、ナンバーワンには成れないと思うけどな。


 俺とポン子の寸劇を見て少し笑った金髪天使さんは立ち上がると。


「では私は後始末に行ってきます、次の開店には真っ先に予約入れますからね! モミチロー先生行ってきます」


「行ってらっしゃい」


 そう言って俺は手を振り金髪天使さんを見送った、彼女は嬉しそうな笑顔を浮かべながらきびすを返し……返し……ん? おや?


 壁にあるサキュバスの魔道具を見て止まっておられる。


 ギリリという音が聞こえるような首の回し方をしてこちらを見やり。


「天使の転移基点用魔道具も設置してよろしいんですよね? モミチロー先生?」


 と低い声で聞いてきた、いや護衛終わるならもういらないよなと思い、ポニテ姉さんの方も見る。


「あ、ご主人ちゃん、あの魔道具結構お高いのね、それで壊さないと撤去出来ないんだけど……結構お高いのよね? 撤去する? かなーりお高いのよね?」


 大事な事なので三回言ってきました、あ、はい。


「天使さん達も必要ならババーンと転移用魔道具を設置しちゃって下さい、俺こと昇天屋の揉み師モミチローはいつでも貴方達をお待ちしてます……ですが……開店日以外は使わないで頂けると……有難いです、後出来ればこの部屋で荒縄の処理したり、布団になったり、爪にお手入れ用の薬を塗ったり、体臭の変化のさせ方について講義したり、エロボードゲームを忘れていったりしないで下さいお願いします」


 伏してお願いしてみた。


 ポニテ姉さんは苦笑していたが、金髪天使さんには通じず。


「では次に来た時に持ってきますねモミチロー先生、あとその冗談はあんまり面白くなかったです……そんな事人の部屋でやる人は居ないかと……行ってきます!」


 ですよねー、……いってらっしゃい。


 何物にも縛られない自由な処が可憐姉さんの良い所なのかもしれないな……という事にしておかないと俺の精神が持ちそうにない。


「まぁ一週間たったし、ハゲ中年おっさんの件も終わったみたいだし、明日スライムダンジョンに行ってみるかね? ポン子リルル」


 魔物に対してスキルを使ってみたいしなぁ、麻痺とか未だに一回も付与してないんだぜ……あ……今度可憐姉さんが暴走したら使ってみるか。


 ある意味魔物だしなあの人。


 ポン子やリルルはダンジョン行きに賛成のようで。


「賛成ですイチロー、揉みで稼ぎましたが、まだまだ武器防具を買う予算には足りていません、スライムカードも欲しいですし稼ぎにいきましょー」


「戦闘ではあんまりお役に立てないのですが、私も頑張りますねご主人様!」


 そんな俺らにポニテ姉さんが横から。


「あ、あのねご主人ちゃん、実はね、天使さん達とサキュバス達で、一週間お疲れ様&有難うこれからもよろしくの意味を込めてプレゼントをしようって話があったんだけども、忙しさで渡すの忘れちゃってるぽいのよねあの天使さん、サキュバス分は今渡しちゃうけども……天使さん達もちゃんと準備してたはずだからその事は覚えておいてね?」


 そう言って空間庫からリボンに包まれた袋を取り出す。


「じゃじゃーん、サキュバス一同からご主人ちゃんにプレゼントだよ! はいどーぞ開けちゃっていいからね」


 二袋の何かを貰った、早速開けていくとツナギと安全靴だった。


「俺が探索に使ってるツナギと安全靴に似てますね、そういえば体や足のサイズを可憐姉さんに測られたような? まさかこの為に!? そういうフェチじゃなかったんだなぁあれ、今度謝っておこう」


「いえあの子、ご主人ちゃんの足拓とか大事に仕舞ってたわよ? それにサイズは私が洗濯とか寝てる時にこっそりとったんだし」


 謝るのは無しにしよう。


「ご主人様~、このツナギも靴も地獄の素材で作られてますね、魔力もかなり宿っています」


 ええ? 魔力の宿った装備って事?


「まじか? なぁポン子地獄の素材でもダンジョン産防具と変わらんよな?」


「ですねー、どれくらいの物かによりますが、防具を買う必要なくなりました、ラッキーでしたねイチロー」


「だなぁ、ありがとうございます、ポニテ姉さん」


 ポニテ姉さんはもう一袋空間庫から出しながら。


「それはサキュバス皆からだから、他の皆にもお礼言ってね、で、これは私だけからの贈り物ね」


 そういって渡して貰った袋を開けると中から……。



 マラカスが二つ出てきた……。


「何故マラカスを……?」


 俺の技名をポニテ姉さんに教えた事あったっけか?


 ポニテ姉さんは楽しそうな笑顔で。


「だってご主人ちゃん、揉みをしてる時に小さい声でマラカス、マラカス、マラカスって連続して呟いてるじゃない、すごいマラカス好きなんだなーと思って、あ、それも地獄の素材使ってるからね、楽器としてでも鈍器としてでも使えるわよ?」


 ……ほわっと? ポニテ姉さんは……一体なにを……? ポン子を見る、コクリと頷かれた、リルルを見る。


「ご主人様は毎回揉み仕事の時に小さい声で〈マラカス〉詠唱してましたよ? リソース消費を考えたら何も問題ないと思いますけど……何か問題が?」


 純真な目でそう言われてしまった、その時ポン子の方から、ぶふっと笑いを堪える音がした、お前はわざと放置してたな……。


 うぐぅあああ、集中してると周りの気配にも気づかなくなるが、自分が声に出しているのにも気づかないとか……ポン子にもよく思考が声に出てると言われてたっけか……このクセ直さないと……な。


 ポニテ姉さんも笑いを堪えてる、色々察した上でこれをくれたらしい、やはりこの二人は混ぜるな危険だったか……。



 ぐああああぁぁぁっぁぁ恥ずかしいぃぃぃー----、今まで俺が何人揉んできたと思ってるんだよぉぉぉー----!!!!



「くっころせ!!」





 俺がそう言うなり。


 ポニテ姉さんはクスクスと笑い出し、ポン子はアハハハと遠慮なく笑い、リルルはよく判ってない表情でポカンとしている、もうする揉み師にでもなるかな……。


 ああでも演奏したら揉みをする手が足りないや……ハハ……ハァ……金髪天使さんも気づいているんだろうか、でもあの人は茶化さないだろうな、真剣な顔して〈マラカス〉は秘儀の名前ですか? とか聞いてきそうだなぁ……。



 ポン子は笑いすぎてヒーヒーと呼吸がおかしくなっており、イチローは存在が漫才師ですとか言っているが、いやそこは言わせて貰おう。


「ポン子! 漫才ってのは人を笑わせるものであって、笑われる物じゃないんだ、そこが判ってないならそれは二流の漫才師だ、そして俺とお前は……まだ三流だけどな……」


 と閉めておく……はぁ……。



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