第63話 四日~七日

「ポニテ姉さん俺の俺に護衛は必要ないですよ!」


 ガバっと上半身を起こす俺、見慣れた部屋だ、カーテンを開ける、どうやら夢だったようだ……枕の横にはいつものようにリルルが寝ていた。


 横からクスクスと笑い声が聞こえる、そちらを見るとポニテ姉さんがすでに起きている。


「おはようございますポニテ姉さん」


「おはようご主人ちゃん、良い夢はみれた?」


 笑いながらそう言ってくるポニテ姉さん……あ、この人やりやがったな。


「サキュバスは夢を操れると聞きました、やりましたねポニテ姉さん?」


「さーなんの事やらー、今日も忙しくなりそうねー、天使さんからの連絡はまだかしら?」


 ごまかしてくるポニテ姉さん……いやまぁ夢くらいならいいけどさ、むしろ自身で夢を操る方法を聞くべきか?


「まぁシャワー浴びてきますね、話は朝食の時にでも」


 そう言ってシャワー室に向かう俺。


「はーい、そうだ、ご主人ちゃんシャワーのお手伝いはいる~?」


「子供じゃないんだからいりませんよ」


 ポニテ姉さんは何やら言ってるがささっとシャワー浴びに行っちゃおう。


 ――


 朝食はまたしてもパン、目玉焼きくらいは作るべきかねぇ。


 食べながらポン子に聞く。


「なぁポン子、金髪天使さんから連絡とか無いか?」


 ポン子は魔法モニターで見た後にモバタンも確認して。


「あーはい連絡ありましたね、何だか相手が大量の魔道具を所持してるらしく、苦労してるみたいです、天使を増員するべく天使側の揉み予約も全部キャンセル入ってますね」


 え? 一人の人間捕まえるのに天使がそんなに苦労するって、どんな魔道具を使ってるのやら……。


 リルルは魔道具部分にだけ興味を示しつつ俺の口元にパンを運ぶ。


「はいご主人様あーん、その魔道具ってどんな物なのか興味ありますね~、貰えたりしないでしょうか? ポン子先輩」


 リルルはマイペースというか何というか……。


「どうも化け物を封じた物とかを、追っ手の天使の鼻先で解放したりしてるみたいです、他に自身の気配を移した身代わり人形とか……うわぁ、天使の管理区画じゃない場所でそれやってますね、これは面倒くさい、私なら関わりたくない案件です、魔道具を貰うのは無理だと思うよ後輩ちゃん」


 魔法モニターの連絡文を見つつ、生活魔法でパンにイチゴジャムを塗りながら、そんな事を言ってきたポン子。


「なぁポン子、日本って全部天使が管理してる訳じゃないのか? はいポニテ姉さんあーん」


 気になった事を聞いてみた。


「そうですねぇ、モグモグモグ、大戦時に正のリソースを使用する側が同盟を組んだ事は教えましたっけ? その同盟に参加した種族やらが地上の管理をしてるのです、モグモグモグ」


 ほうほう、確か八百万の神とかも居るって言ってたっけか? ポン子は話を続ける。


「ムシャムシャ、日本は天使や妖怪の一部や元々日本に居た神とかなんですが……管理が面倒だからと天使にある程度任されたようなんですよね、自分らは田舎の自然が多い地方なんかを管理するとかなんとかで……、次はピーナッツバターにしようっと」


 あー、日本の神とかって秩序とか管理とか興味なさげなのも多いしなぁ……。


「ピーナッツバター塗り塗り、なので都市部は天使が中心となりさらに環境的に都市の方が楽な妖怪や神が少し居ます、残りの大部分の神やら妖怪は田舎というか地方を管理してますね、地方はインフラとか全部魔道具にしてあって自然一杯なので、彼らには過ごし易いそうですよ、特に温泉地のほとんどは日本の神々が抑えているそうです、パクッ美味い!」


 天使は世界中に管理区域があって常時人手不足なんですよね、と続けたポン子。


 面倒そうな部分を天使に頼み自分達は田舎でノンビリか……ちゃっかりしてるというか、羨ましいというか。


「あーんハグッモグモグ、で、ハゲ中年おっさんはその田舎で暴れやがったという訳か、迷惑な奴だよなぁ……、ほれリルルもあーん」


「ですねぇ……捕まるまでイチローの安全を考えて、あまり出歩かない方がいいかもですね、その地方で暴れたのも身代わり人形とかだったみたいで、本人が何処にいるか未だに掴めてないらしいですし、そうだトースター買いませんか?」


 うーむ、とは言ってもご飯とか買いにいかねばならんしなぁ……、うんうん悩んでいると、ポニテ姉さんが提案をしてくれた。


「それならご主人ちゃん、私達サキュバスが色々手伝ってあげるわよ、はいあーん」


 それはありがたいな、そしてトースター買うの忘れてたな。


「あーんパクッ、モグモグ、そうして貰えると有難いです、頼んでもいいですか? ポニテ姉さん」


 ポニテ姉さんはその豊満な胸を手でドンっと叩きながら。


「まかせて! それで相談なんだけどね、移動を便利にする為にこの部屋に転移魔法の基点を置きたいんだけどいいかなぁ? 契約すると契約魔法陣めいしがそんな風に使えるんだけども……まぁ今は契約なしで、それ専用の魔道具を設置させてくれないかしら?」


 食べ終わったリルルさんが、魔道具を改造していいですか? とポニテ姉さんに聞いて困らせている、ブレないなぁこの子。


「どれくらいの大きさでしょうかポニテ姉さん、この部屋狭いので大きいと難しいんですが……」


 魔道具無しにホイホイ転移で飛ばしたり迎えに使ったりしてた大天使さんは、実はすごい天使さんなのだろうか。


「それは大丈夫、壁に張る感じの魔法陣で壁に沿って縦に魔法陣が展開するようにするから、壁にドアをつけるような物かな、ドアを開けたらすぐご主人ちゃんが居るとか最高よね」


「それならそこの壁にお願いしていいですか、そのドアって勿論鍵はかかるんですよね?」


 ポニテ姉さんは俺の質問に答えず、フンフンフーンと鼻歌を歌いながら、空間庫からお札のような物を取り出し部屋の入口から見て右手の壁に張り出した。


 質問の答えを聞いてないんですが? ちょっと? ポニテ姉さん?


 そして何処かに連絡をしだすポニテ姉さん、早速壁の魔法陣が起動して、可憐姉さんと新顔のサキュバスが二人来た、待って! まだ営業時間前だから!


「まだちょっと早いんですけど……それになんで可憐姉さんが、ってもしかしてクィーン姉さんも僕姉さんも護衛の為に来てくれていた?」


 ポニテ姉さんが拍手をしながら答えてくれる。


「はい正解、まぁご飯やらは単純にあの子の好意で作ってるみたいだけどね、料理はあの子の趣味みたいなものなのよねぇ」


 クィーン姉さん、見た目は派手っぽいのに料理が趣味かぁ……そうかぁ、見た目で判断しちゃいけないよなぁ、と、可憐姉さんを見る、うん! 見た目で判断しちゃいけないよなぁ!


 可憐姉さんが近づいてきて言う。


「何か私が馬鹿にされた気がします? ご主人様?」


 気、気のせいだから、女子の勘ってすごいよな。


 そうして天使さんらが居ない揉み屋のルーチンが始まっていく。


 午前と午後に二人づつサキュバスさん相手の揉み屋をしていく。


 そうそう天使さん達のキャンセル分の枠を欲しいとかは言い出さなかったなぁ……意外とサキュバスさん達は義理堅いというか……。


 可憐姉さんは部屋の隅で荒縄に油を馴染ませたりしている、護衛してくれてるんだよな?


 お昼ご飯も夜もクィーン姉さんのデリバリーだった。


 そうして四日目も終わり、私もご主人様の足の裏を枕にして泊まると言い張る可憐姉さんを地獄へ連行してもらったり。


 ――


 五日目は可憐姉さんが部屋の隅で自分の髪を丁寧に手入れをしており、魔女御用達の髪用ポーション? へー、所でそれ、この部屋でやる必要ありますか? クィーン姉さんは気にせず料理をしている。


 しかし朝昼晩三食クィーン姉さんのご飯になりつつある、さすがに材料費くらいは払うと言っても聞いて貰えず、むむん、こうなったら夜のレースで払うしか? モバタンで良い感じのレースゲームを探しておこう。


 あの可憐姉さん? ずっと正座してると思ってたら痺れて動けない? 足をツンツンして? ってそれもフェチの一つとか……日本は業が深いなぁ……。


 夜に私が敷き布団だ! とか訳の判らない事を言って敷布をかぶって床に寝る可憐姉さんをクィーン姉さんに地獄へ引き取って貰い。


 ――


 六日目も金髪天使さんからは終わったという連絡は無し、僕姉さんと可憐姉さんが朝から来る、あの……可憐姉さん? 昨日もそうだけど護衛ってローテーションじゃないんですか?


 今日の可憐姉さんは爪やら足先の手入れをするようだ、ものすごい真剣な顔でやっている、のだが、お願いします部屋の端っこでやって頂けないでしょうか……、俺につま先見せつけて何を期待してるんでしょうか……え? 照明の角度のせい? 貴方生活魔法で光源出せますよね。


 お昼は僕姉さんが作ってくれるらしい、えーと僕姉さん? 今が四月とかは取り合えず置いておきますが、このソーメン何束茹でました? 少なく見えたしポン子がいるから? なるほど、ポン子今日は戦争だソーメンなんかに負けるなよ? ネギとノリとショウガやワサビは飽きるまで使うな……俺も頑張るから……。


 ポン子もさすがに飽きて余らせたソーメンは、クィーン姉さんが夕ご飯に使いました、炒め物やら料理にも使えるんだね初めて知ったよ。


 で、もう俺ら寝るんですけど……可憐姉さんなんでボードゲームとか準備してるんでしょうか……もう夜ですよ帰って下さい、え? ふむふむ徹夜あけの朦朧とした状態が趣味な人も居ると? 日本の幅広さには頭が下がります、僕姉さん連行よろしくです。


 ボードゲーム置いてっちゃった……何々このマスに止まったプレイヤーは一番手の足を舐める、ほうほう、ポン子、空間庫に仕舞って二度と出さないでくれ。


 ――


 今日が予定していた休日最後の七日目、金髪天使さんからハゲ中年おっさんの居所を掴んだとの情報が来たようだ、やっと終わるのかね。


 今日も朝から可憐姉さん、ローテのせいで他二人が居ないので心配だ。


 何故か部屋やらシャワー室やらトイレやら台所を隅々まで掃除し始める可憐姉さん、いやありがたいけどね?


 ご飯はいつものクィーンデリバリー、ん? 可憐姉さんどうしました? まだか? 何がでしょうか。


 すごく嫌だけど部屋がピカピカになるまで掃除をしてくれたので、一応話を聞いてみた、ふむふむ、掃除をしている所でしたがると……、それもうフェチじゃなくシチュエーションじゃ?


 え? 私じゃなく綺麗な部屋を汚したがる? 上級者かよ! 日本の未来は明るいなぁ……。


 最後のお客も迎え撮影も済み、契約魔法陣めいしも二十八枚溜まって揉み屋は一旦終了、夕ご飯後にみんなでお茶をしてる所だ。


 ちなみにポニテ姉さんはずっと泊りでうちに居た、護衛をしていてくれるらしい、あまりに自然に振る舞うのでうちの住人かと思うほどだ。


 いつのまにか俺の服やらを洗濯して干してたりする、笑顔で俺の下着を干すのは見ていて恥ずかしいです。


 後うちの台所にある俺の歯ブラシの横に自分のを置いておくのも止めて頂きたい、貴方空間庫使えるでしょうに、そもそも生活魔法あれば歯磨きいらないってポン子が言ってるんですが……。


 夕食後に皆それぞれにやりたい事をして過ごしていると


『ピンポーン』


 チャイムが鳴り、カギが開き金髪天使さんが入って来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る