第62話 護衛の距離

 残ったポニテ姉さんと買い物に行く事に。



 あの、腕を組むのはやっぱり護衛の為なんでしょうか? え? 近くで金髪天使さんとの腕組みを丁度見ていた? 偶然もあるもんですねぇ、やっぱり腕を組むと護衛しやすい物なんですか? ほうほうお互いの気配が近い事で回りの気配を読みやすく? そんな理由があるんですねぇ……。


 ポニテ姉さんも一緒に夕ご飯食べますか? 連絡があるまで護衛する予定? それなら一緒に食べましょう、好きな物ありますか、へぇ麺類ですか、うーん弁当だと……あ、スパゲッティ類ならいけそうですね、焼きそばもあるか、じゃ今日は麺メインでいきますね。


 その買い物袋はご飯では? ああクィーン姉さんに頼まれた物ですか、買い出しまでやるんですね調査部って。


 それとその……あんまりその……押し付けないで頂けると……何をってその……いえ金髪天使さんはスレンダーな方ですので、ノーコメントで、それは違います! 大きくても小さくてもどちらも大好きなのが男の子です、って何言わせるんですか!


 そう色々雑談をしながら家に帰っていく俺とポニテ姉さん、腕を組んでいる時間が金髪天使さんよりはるかに長い気がする。



 ――


「ただいま~」

「ただいま~、うふふ、なんだか新婚さんみたいね?」


 腕を組んでいる俺とポニテ姉さんが声を揃えて家にあがる。


「お帰りなさいイチロー、あれ? 人が変わってますね、アフターですか?」


 誰がキャバクラ帰りだ、サキュバスがキャストのお店なんてある訳……無いよね?


「お帰りなさいご主人様、それと姉様なんで部屋の中で腕を組んでいるんですか?」


 リルルに言われて気づいた、部屋に入ってもまだ組んでるね、ポニテ姉さんに聞いてみる。


「ポニテ姉さんこれは護衛の為ですよね?」


「いいえ、単なる趣味よ! ご主人ちゃん末妹ちゃん」


 護衛関係ないんかーい! 腕を外して貰った、荷物を床に置きテーブルの側に座りポニテ姉さんも座るように促す、座布団というかクッションはそれなりに数を揃えてある。


「金髪天使さんは買い物の途中で来たおっさんを追いかけている、なんかあのおっさん転移で逃げちゃってなぁ……」


 ポン子やリルルと、見ていたと言ってたが一応ポニテ姉さんにも説明する。


「成程、天使はダンジョン内以外の転移道具なんて出回らせていないはずですので……天使と関係ない種族の道具かもしれないですね」


 リルルはそれを聞くとすごく、そうすごく興奮していた、欲しいと言われても無理だからね……諦めてくれリルル。


「まぁ今頃天使さんが追いかけてるはずだから大丈夫よ、連絡があるまで部屋で大人しくしておきましょう、私も片がつくまで一緒にいてあげるわね」


 そう言ってモバタンを使い連絡をしているポニテ姉さん、有給がどうのと話をしているのが聞こえる、サキュバス資本は有給も簡単に取れるんだろうか、尚天使の職場は……。


 終ったら金髪天使さんも説明に来るだろうし、今は飯でも食うか。


「考えてもどうなる訳でもなし、飯にしようぜ、今日は麺フェスティバルだ」


「ひゅー、イチローナイスイケメーン」


 ポン子がそう言ってきた……まぁこれくらいなら大丈夫か。


 テーブル一杯に買ってきた麺弁当と飲み物などを並べる。


「では私はこの〈春キャベツとキノコのホワイトスパ〉で、別売りの粉チーズ滅茶苦茶大きいですね……イチローグッジョブです!」


「ああそれ業務用とかで大きいとグラムあたりが安くなるから、ついつい一番大きいのにしちまった、どうせすぐ無くなるだろう?」


「じゃぁ私は〈ふわふわオム焼きそば〉にしよーっと、ご主人ちゃんあーん」


 ポニテ姉さんが差し出してきたのでパクッっと食べる、美味い。


「あ、ご主人様! 私達も早く決めて食べましょうよ~」


 リルルがそう言ってきたので選ぶ。


「じゃまぁ俺達は王道の〈カルボナーラ〉にしとこうか、巻き巻きほれアーン」


 リルルやポニテ姉さんに食べさせてはお返しを貰い、ポン子に差し出すとヒュゴっと吸い込まれる、だからお前は掃除機かっての。


「しかしなんだよなぁ、姫、ああえっと、俺の妹に会わせたくないだけで排除しようとか、よく判らん世界もあるもんだよなぁ、あーんモグモグ」


 過去に会った時の事はよく覚えてなかったんだけど、ハゲ中年おっさんを認識したら、自分らが名家がどうのとか言ってたような記憶は薄っすら思い出したんだよな。


「人間ってのは愚かさと賢さ両方を備えている生き物なんですよイチロー、他にも自身の為に他者をゴミのように扱い、また他者の為に自身を犠牲にもする、色々な面を持つんです、だからこそ見てて面白いし悲しくもあるんです、あ、この〈ご当地焼きそば〉美味しいですね何処のだろう」


 神は愚かさをも愛するだったか、そのご当地焼きそばシリーズだけで十種類くらいあったからな、選ぶの大変だったやつだ。


 ――


「ごちそうさん」


 リルルとポニテ姉さんも食べ終わり、ポン子はまだ食っている。


 ポニテ姉さんがゴミを片付けながら聞いてくる。


「ご主人ちゃんは寝るまでいつも何してるの?」


 俺も片づけを手伝いながら答える。


「匠師匠の動画を見て勉強ですかねぇ、リルルはまたモバタン使うか?」


 お願いしたいですーとリルルは嬉しそうに答える、今のリルルは端末を片手に暇を潰すギャルっぽいよな。


 ポニテ姉さんは何かを考えながら。


「あーじゃぁさ、練習台になってあげようか? ご主人ちゃんいつも揉みの時スキルを使ってるでしょう? それ使わないで練習してみない?」


 なんと! それは有難い、いつもエア揉みだったのでスキル無しで出来る練習相手は素晴らしい。


「それはすごい有難いです、お願いしますポニテ姉さん」


 部屋の真ん中にあったテーブルを端によせマットレスを敷く、ポン子お前まだ食ってるのかよ……、リルルとポン子はテーブルに、ポニテ姉さんはうつ伏せでいつもの、むむ、スラ蔵さんがモバタンの設置台になってしまってるな……。


 ポニテ姉さんには枕とクッションで勘弁して貰おう。


「ではいきますね、ポニテ姉さん、動画を見ながらなのでゆっくりになります、助言なども歓迎なのでよろしくお願いします」


「はいはーい、まかせてご主人ちゃん」


 壁のディスプレイに移る匠の説明動画を見ながら、スキルを使わずに試していく。


「うーん、ご主人ちゃん、気持ちいいんだけどやっぱりスキルが無いとあれだねぇ……、あーそこの筋肉を解す時は少し角度変えた方がいいかも~」


「ふむ、人によって微調整はいるかぁ、こうかな? あーでも匠はこうやってこんな感じなんですけど」


 動画とポニテ姉さんの感想を元に最適解を探していく。


「あーそう、それすっごく気持ちい、体温も上がってポカポカするような気がする、なんでだろ……」


「匠いわく気力を相手に流すとかどうとか、さすがにそれは冗談にしても、血行がよくなるから? でしょうか?」


 気力に仙人ねぇ……いや神も天使も悪魔もいるんだから……もしかして? ……いやでも仙人が秘儀を動画に出すかなぁ……?


 秘儀っていうくらいだし秘密なんだろうし、動画で全世界に流すとも思えんのだが……。


 呼吸のリズムと螺旋っと、相手の呼吸も感じるといいんだっけか?


「うあ、ちょ、ご主人ちゃん……どんどん上手く……これスキル使ってないのよね?」


 ポニテ姉さんがそんな事を聞いてきた。


「あ、はい、じゃぁちょっとスキル使ってみるので違いを教えて貰えますか?」


〈ナデポ〉まぁ練習だし三倍くらい、と〈マラカス〉のいつものセットでっと。


「あ、まってまって、ご主人ちゃんまっ……んんぅぅこれ……はやば……筋肉が幸せになりゅー……」


「どうですか? いつもより軽めにやってるし、ここはこうした方がとかありますかね?」


 ポニテ姉さんにそうやって意見を聞く。


「ギブ、ギブアップします~、とめて~ご主人ちゃん、ヘルプミ~」


 っと、技を止めて様子を見る、ポニテ姉さんはゆっくり起き上がり、こちらを見ると。


「わ、技の練度がおかしい速度で上がってるのだけれど……一体何がおきたのこれ……」


「と言われましても……何人も揉んで相手の呼吸や反応を見ながらやってると、こうしたら良いのかなーとか判るようになってきた程度でしょうか」


 ポニテ姉さんはそれを聞いて絶句している、ふーむこの反応だと、そこそこ腕が上がっていると自信持ってよさそう?


「……ご主人ちゃんはそのまま進めば良いと思うわ……私が出来るのは皆に警告を出しておくくらいだわね、あ、スキル無しで続きよろしこ~」


 そう言ってポニテ姉さんはまたうつぶせに寝た。


 ふむ、せっかくだしまだ誰にも試してない匠師匠が動画で言ってた必殺技を試してみるか。


 あ、ポン子すまん遮音を部屋にかけてくれ……ポニテ姉さん気絶しちゃったなぁ……感想は後でいいか、次ポン子練習台よろしく~、ん? こないだは自分から来たじゃんか、ほれ座れ、じゃいくぞー。


 ――


 ほどなく起きてきたポニテ姉さん、いったい何をしたんだと言われたが匠師匠が動画で言ってた技としか言えないんだが。



「あのポニテ姉さん、そろそろ俺ら寝る時間なんですが……帰らなくていいんですか?」


「何言ってるのよ、ご主人ちゃんは、護衛なのよ? 泊まるに決まってるじゃない、ほれほれ、お布団敷いて」


 そう言って布団を敷いて俺を無理やり布団に寝かせ毛布と布団を上にかけ、そしてさらに俺の横に潜り込むポニテ姉さん。


「何してるんですか姉様! 護衛にしても一緒に寝る必要ないでしょー!」


 リルルさんが驚きと共に駆け付けた、俺は逆らわず寝ている、無理やりだからね仕方ないね。


「えー? そんな事ないよー、護衛だもん近くにいる必要あるもーん」


「誰がモーンですか年を考えてください姉様!」


 その瞬間、部屋の温度が急激に下がった気がする。


「誰が年だと? 末妹いもうとちゃん私の聞き違いかな?」


 殺気まで感じる問いかけにリルルはコクコクと頷き。


「聞き違いです美人で若々しい姉様! えっと、ご主人様と同じ布団に入らなくても護衛は出来ると私は愚考しますが、いかがでしょうか姉様?」


 リルルにこんな面もあるんだなぁ……。


「しょうがないわねぇ、ご主人ちゃんお客用のお布団とかはある?」


 ありますあります、こないだリサイクルショップで買い物してた時に、予算の多さにテンション上がって友達も居ないのに買っちゃいました、グッジョブだ俺。


 部屋に布団を二枚敷いて、リルルはロフトにあるポン子との寝床を、その間に持ってきていた。


「あら、私達は別々と言いつつ自分は一緒の寝床なんてずるくなーい? 末妹ちゃん」


 とポニテ姉さんはリルルをからかいにきている。


「私とポン子先輩は友達だからいいんですー! そうですよね先輩?」


「私は別々でもいいんで……あいえ一緒でもいいですよはい」


 ポン子の返しに悲しそうな目をしだしたリルルに即負けするポン子、ポニテ姉さんはクスクス笑っている。



「まぁ寝ましょうか、ポン子リルル、ポニテ姉さんおやすみなさい」

「おやすみイチロー皆さん」

「おやすみなさいご主人様、姉様、先輩」


「はい、みんなおやすみー良い夢を」






 電気を消して静かにな……らない部屋、いつもはロフトだけど真横にあると声がすごいなぁ、ほう、袈裟固めからの上四方固めか、それリルルの胸で圧迫されて息できなくね?


 まぁポン子は元気そうだし大丈夫か……ねよ……おやすみ。



「くっ、ころせ」


 五敗目だな。

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