第60話 三日目

「39便堕ちますだと!? 待って! ビーフ食べ終わってからにしてくれ!」


 がばっと上半身を起こす俺、いつもの天井だな、空の上では無いらしい。


 横を見れば相も変わらずリルルが満足そうに寝ている。


 自分の夢を思い通りに操れんものだろうか……、モバタンでそんな情報が無いか探してみよっと。


 さてシャワーシャワーっと。


 ――


 今日も朝からピンポンダッシュ進入、僕姉さんが二人のサキュバスを案内してきた。


「おはようございます僕姉さん、昨日のクィーン姉さんと同じに道案内ですか?」


「まぁそんな所だよ~、あ、ちゃんとお昼は僕が預かってるからね! 安心してね?」


 作る訳じゃないらしい、でもまぁありがたい。


 ――


 新顔のサキュバスさん達と挨拶をする。


 あ、こんにちわー、すいませんプールに入る前にあちらのシャワーゾーンを通ってくださーい、ってその恰好で歩いて来たんですか!? ご近所にあそこの部屋の住人は水着の女性を招いているとか噂されませんかね? まぁここらだとビキニアーマーの女性探索者とかが普通に歩いているけども……。


 あ、隠蔽術式を? リソースの消費が結構あるから経費の出る仕事以外じゃあまり使わないって金髪天使さん言ってましたけど……、ふむサキュバスは得意だと? なるほどぉ、契約魔法陣めいしありがとうございます、なんですって! 画像は全部水着!? 夏の季節限定キャラカードゲットだ! 今春だけど! 九枚目っと。


 ……夜のサンオイル塗りって、夜ならもうサンオイルいらなくないですか?


 ――


 それ知ってますよ! あの格闘ゲームの女キャラですよね、やっべぇすごいクオリティだわぁ……、施設に居た頃に男の子達と二作目を少し……、え? 今もう四作目なんですか? あ、はい契約魔法陣めいしありがとうございます、ほほう夜の対戦ですか? ふっ俺は超必殺技コマンドを三回に一回しか成功しない男ですよ、十枚目ゲットだ。


 夜じゃない対戦は普通にやりたいんですけどどうですか? え、アクションゲームは操作が苦手なんですか……いえ、作品が好きであるなら良いんです、ええ、接待プレイは俺もされ慣れてますので一緒に遊びましょうね。


 ――


 集中してると揉みの終わり時間がすぐきちゃうのよね、水着サキュバスさんはぐっすり寝てる、さすがにあれなんで、バスタオル越しの揉みにしてもらったが……。


 っと新顔の天使さんも、もう来てるのね、こんにちわー。


 ――


 はい、おはようございます、握手ですね、お一人様三十秒でお願いします、ええ、はい、応援ありがとうございます、はい、そうですねいつかそれに至れればいいと思います、そうなんですか? クジの確率えぐいですねそれ……、リソースの都合がありまして、はい、で、その……いや……手をですね……あの……スタッフさーん!


 ――


 真剣に揉む事二人、どちらもぐっすりと寝てしまわれた。


 サキュバスさん達が〈ナデポ〉発動するのはまぁリルルの件があるから判るんだが……初対面の天使さん達が今のところ百%〈ナデポ〉発動してるのがなぁ。


 職人に対するリスペクトって、どれだけ癒されたいのよ貴方達は! 天使業界ブラック説があるんですが、ポン子は大天使さんが率先して働くって言ってたが、つまり上司がそれくらいしないといけないほど忙しいって事だよなぁ……頑張って揉むか。


 ここに至ってサキュバスさん達の精力の吸い方が少し変わってきた、ほんとに一瞬だけ吸って終わりという感じ。


 気絶しないから後処理が楽なのはありがたい、え? 撮影? やりますよ、天使さんは仕事がーと去って行った、撮影だけの予約とかはやってません、ごめんなさい。


 ――


「海岸を一人歩いていくぅ~! はい遠くを見る感じでー貰ったぁ! パレオを両手で持って、ポン子風を、はい女神! 浜辺に降りたビィィーナス! これを見て惚れない男は居ない! はい、そこで座ってみようか、レンズを覗き込むように~セクシー&エロティィーック!」


 パシャパシャと遠慮なく何枚も撮っていく俺。


「ありがとうございましたー」


 ――


「ラウンドワン! ファイト! 小撮影 小撮影 中撮影 大撮影! ガードされた!? はい反撃のパンチパンチキック、上段キック 上段キック 上段キック 上段キック 上段キック」


「イチロー?」


 ポン子から冷たい声で名前を呼ばれた。


「そ、そこで超必殺技って! 羽で浮かべちゃうのか! おっけーい! ビクトリー! 最高です!」


 パシャパシャパシャと遠慮なく何枚も撮っていく俺。


「ありがとうございましたー、コウモリ羽は後で編集で消しておきますね、リルル必殺技のエフェクトも入れれる? お願いしてもいいかな? ありがとう」


 リルルと助手のポン子には後でお小遣い追加せねばいかんな、何気にスライムダンジョンより稼げてるんだよなぁ揉み屋……。


 ――


 サキュバスさん達は俺やリルルに手を振りながら転移で帰っていった。


 そして僕姉さんがテーブルにご飯を出してくれる。


「うわぁまたすごい量のサンドイッチだな、これはクィーン姉さんが?」


「作るのはそうだね、でも僕も材料を用意するのとか手伝ったんだよ? 地上のスーパーに買いにいったりしたんだからね!」


 そりゃまた手間をかけさせてしまったな、ありがたく食べさせて貰おう。


「それはありがとうございます、遠慮なく頂きますね僕姉さん」


「うん、遠慮されるより美味しいって一杯食べてくれる方が嬉しいかな~」


 そうニコニコと笑顔で言う僕姉さんだった。


 それを聞くやポン子が真っ先に動き出し。


「では遠慮なく頂きますねサキュバスさん、まずはこのカツサンドから!」


「じゃぁ俺は卵サンドかなぁ、リルルもそれでいいか?」


「はいです! カットしますねーご主人様、はいあーん」


「僕も食べようっとお勧めは、僕考案の納豆オクラサンドだよ!」


 うむ、サンドイッチの中に異彩を放つ物が複数あるんだ……ポン子が残したら頂こうかな。


「ご主人君、作ったのは僕じゃないけど、はいあーん」


 納豆オクラサンドが早くも来てしまった、いざ勝負!


「あ、あーん、もぐもぐ、ふむ、むしゃむしゃ、ほほう、美味しいですね僕姉さん、ではお返しに、僕姉さんもあーん」


 切り分けた納豆オクラサンドを差し出すと嬉しそうに食べる僕姉さん。


 これホットサンドにしたのか、作ったのがクィーン姉さんだから味付けとか頑張ったのかな? 意外と美味しいような……でもやっぱ白米がいいような……いやまぁうん美味しいです。


 え? 山芋となめこの天ぷらサンドって、もうそれ白米でいいじゃないですか? 僕姉さんネバネバ系の食材が好きなのね。


 今度トロロかけご飯とか食べましょうね、出汁入れた奴で、あ、好物ですか、え? 納豆も入れちゃうの?


 美味そうだけど弁当では買えないよな、自炊かぁ……調理系のスキルを取るのも有りか?


 全員食べ終わったので、食後の雑談お茶タイムに入る、ペットボトルのお茶をコップに入れるだけだけどな。


「ふー美味かったな、クィーン姉さんはまじ料理上手だよな、普通のメニューだが普通に美味いって凄いと思うんだが」


 ポン子も満足そうに同意してくる。


「イチローの言う通りだと思います、普段食べるような料理こそ腕の差が出てくるのかと、このままうちの料理番とかになってくれないでしょうか……」


 無茶を言うなっての。


「はいはい! 僕と契約すれば料理番になってあげるよ~!」


 僕姉さんが自身を激しく主張してくる、リルルはそんな姉に不信感をあらわにした目で問いかける。


「姉様は料理出来ないですよね? それに契約は私が優先のはずです」


 そんなリルルの問いかけにも一切めげずに反論する僕姉さん。


「僕は食べるのは得意だよ! 料理を食べる番! なんちゃって! アハハ」


 物凄く明るく悪びれずにそう言い放つ僕姉さん、リルルも俺らも唖然としてしまったが、そのあまりの無邪気な奔放さに笑いが込み上げてきてしまう。


「食べる番なら、この私〈底なし腹〉のポン子ちゃんがいるので間に合ってます!」

「いつでも食べに来てくださいよ、僕姉さん、リルルも俺も歓迎しますよ」

「結局作ってないじゃないですか姉様……食べにくるのは良いですけど……」


 三者三様の反応を見せる俺達、そこに僕姉さんがぶっこんできた。


「それにね末妹ちゃん、あまりに契約が遅いなら僕がご主人君を食べる番になってもいいんだよ? ほらお手本を見せてあげるからさ」


 ゴホッと飲もうとしてたお茶が気管に入ってしまう俺。


「ゴホッゴホッ、僕姉さん何を……」


 リルルが僕姉さんの言動に驚いた顔をしてから俺を見てくるので安心させてやる。


「ゴホッ、リルル焦らなくてもいいよ、お前のペースでいい、俺はほら神らしいからな百年でも二百年でも待ってやるからさ、結論はじっくり考えてから決めような」


 俺の言葉を聞いてリルルは笑顔で俺の手に抱き着いてきた。


「僕姉さんもリルルを焚きつけるのやめて下さいよ、リルルにはリルルのペースがあるんですよたぶん、ゆっくりでもいいんです」


 それにリルルの好意は子供が親に甘えるような、そんな感じもするんだよな、まぁそれならそれでいいしな。


「アハハ、ごめんね、あまりに奥手だから心配しちゃってさ~、末妹ちゃんも御免ね? あ、でもお手本必要ならいつでも言ってね、僕が教えてあげるからね!」


「いりませんですー! 姉様に教えて貰わなくても大丈夫ですから! っそれにご主人様も百年は長すぎですよ! その……十年くらいでたぶん……」


 最後の方は声が小さくなって、顔を真っ赤にしながら伏せてしまった。


 僕姉さんがそんなリルルを見ながら俺に言う。


「どう? ご主人君、うちの末妹はめっちゃ可愛いでしょ! ついつい構いたくなっちゃうんだよね!」


 そんな感じだよな。


「リルルが可愛いのなんて出会った時から知ってますので大丈夫ですよ」


 そう返しておいた、リルルさんはしゃがみこんで顔を両手で覆い恥ずかしがっている、まぁ構いたくなる気持ちも良く判る。


 その後、俺と僕姉さんは拗ねたリルルに謝り続ける事になった。


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