第59話 二日目午後
一時に近くになるとまたチャイムが鳴り、俺が出る前に入ってくる金髪天使さん。
おじゃましまーす、と入ってきた金髪天使さんは、まず何故か出迎えに台所付近まで出てたクィーン姉さんと話し始めた。
昨日は二人共そんな感じじゃなかったよね? そして二人でこちらに来るとクィーン姉さんが。
「じゃぁ私帰るからね、冷蔵庫に保存容器に入れたお惣菜を何種類か入れてあるから明日の夜までに食べちゃってね」
お昼だけで無くそんなものまで、家庭的なレースクィーン姉さんだなぁ、っと忘れてた。
「あ、クィーン姉さんお昼ご飯の材料費払いますよ、おいくらくらいですか?」
クィーン姉さんはいらないと言ったが、俺は払いますと譲らない、クィーン姉さんは少し考えた後にこう答えた。
「うーんそれなら少し吸わせてよ、材料費代わりって事で」
精力か、まぁそれがお礼になるならいいか、どうぞと指を差し出す。
クィーン姉さんは口に含まず、指にチュッっとキスをした、ちょびっと吸われたかな?
クィーン姉さんは何かに耐えるような悶えるような仕草を見せた後。
「ご飯くらいならいつでも作ってあげるから
そう言って投げキッスをして転移魔法で消えていった。
……深夜ご飯って何だろ、受験生の追い込みか何かかな?
金髪天使さんの方を向くと何やら苦虫を噛んだような表情をしていた。
「どうしました? 金髪天使さん」
「ああいや……仕方ない事だとは判っているのだが……私にもっと時間があれば……モミチロー先生は守護天使を増やす予定とかは無いだろうか?」
いきなり妙な事を聞いてきた、守護天使って増殖する物なのか? ポン子が細胞のように分裂していく様を思い浮かべる、ブルルッ、寒気がした。
「い、いや、ポン子一人で十分です!」
横でポン子が、褒めているのか馬鹿にしているのかそれが問題だ、と独白している。
聞かれる前に仕事に入ってしまおう。
「時間ですし、こちらにどうぞ金髪天使さん、ポン子、リルル、お客さん来たら対応よろしくね」
「了解ですイチロー」
「判りましたご主人様~、ポン子先輩モバタン貸してください」
リルルはモバタン大好きっ子になってしまったようだ。
俺はマットレスに金髪天使さんを誘導する。
「ではいきますね~」
「よろしくお願いしますモミチロー先生」
匠の言ってた揉みの神髄、呼吸法を試してみるか、よし! 集中!
――
金髪天使さんは寝てしまったので俺の布団に移動させておく、布団は結局みんな寝てしまうので窓際に設置する事にしたんだ。
集中してる間にも次のお客が来ていた、午後は天使が三人にサキュバスが二人だったかな、あと四人頑張ろう。
――
その恰好は……え? 山ガール? そういうジャンルがあるんですね初耳です不勉強ですいません、いえ、夜の登山は危険なのでまじで止めましょう、ホテル山頂? ノーコメントで、あ、
――
握手ですか? 流行ってるんでしょうか……、いえいえ勿論光栄な事です、応援していると? はい、頑張ります……はい頑張ります……あのいつまで握手すれば?
――
あ、はいシートベルトしますね、何処へ向かって飛ぶんでしょうか? 夜の天国へ? 貴方サキュバスですよね、あと夜つけたらいいと思ってませんか? あ、ビーフプリーズ、いやこれ
――
はい握手ですね、所で神界で握手が流行っているとかなんでしょうか? リスペクト? なるほどぉ、まだまだ新米ですが、ご期待にそうよう精進していきますね……すいませんお一人様三十秒でお願いします。
――
四人全員が終わった、起きてきた金髪天使さんはまだ部屋に残っている、というか仕事があるからと帰った一人の天使さん以外まだ残っている……。
「えーとお疲れ様でした清算も終わったようですし本日は閉店と……はい……はい……撮影……しますか?」
リルルにモバタンを返して貰った。
――
「今日は天気もいいし絶好の山登り日和だね、パシャリ、うん、でもここ山じゃないよね、パシャリ、ホテル山頂? そのネタまだ持ってくるの!? パシャリ、なるほどそこに山が無いから、ね、パシャリ、もうそれコンセプトおかしくないですか!? パシャリ 仲間がいないから寂しいと? パシャ泣いてまうやろー! パシャリ」
パシャリパシャリとのんびり撮っていく俺。
「ありがとうございましたー」
――
「素晴らしい、俺も一緒に堕ちたくなります! 背中の羽が黒に染まり悲しむ堕天使、その目線最高です、その白くてレース一杯の服も魔法で黒っぽくは? 出来る! おーけーい! いいね、ちょっと舌を出して、ペロっと、そう頂きまーす、悪に染まっていく表情を見てるだけで恋に堕ちそうです! 白が黒に染まる背徳の恋! さらに頬を染めた表情でフィニィーーーッシュ!」
パシャパシャと遠慮なく何枚も撮っていく俺
「ありがとうございましたー……現役の天使さんが堕天使コスとかいいんですか? あ、遊びだからオッケー? 了解です、はい後で金髪天使さんに送っておきます」
――
「おはようございます、当撮影は昇天屋、天国行き、39便になりまーす! はいそこでくるっと回って後ろを見る感じ、はいおっけー、撮影者はイチローモデルは貴方となります、はいそこでエアマイク持って腰に手をあててポーズ、もらったぁ! シートベルトはナナメにかけてくださーい、ポン子! おっけーパイスラ頂き! 撮影時間はもうすぐ終わりまーす そこで笑顔で~はいキューーート!」
パシャパシャと遠慮なく撮っていく俺。
ポン子、と声を掛けただけでパイスラ用のヒモを準備とか、何で完璧に反応できるんだあいつ、やっぱり日本の漫画のせいだろうか?
「ありがとうございましたー」
――
堕天使コスをしてくれた天使さんは撮影が終わると、仕事があるからと帰り。
サキュバスの二人は俺の精力をちこっと吸って、いえここは地上です、天国じゃないですよ? お気をつけて帰ってください、転移魔法で帰っていった。
おや、金髪天使さんの服が最初の時と変わっているような……ま、気のせいか。
「最後まで監視ご苦労様です金髪天使さん、まぁでもサキュバスさん達もリルルが居るので無茶な事はしないと思いますよ?」
何故か金髪天使さんはしょんぼりしながら答えを返す。
「ぅぅ……わたしのばん……あ、いや、んん、まぁ監視といっても一応見ておくというだけの事です、それにモミチロー先生が集中してお仕事をしてる姿を見てるだけで私は幸せになれるのです」
そこでリルルが飛んできて俺に耳打ちしてきた、なぬ撮影用に着替えていたと……。
それはしまった、えーと。
「な、なるほど、ご苦労様です、所で話は変わりますが金髪天使さん、その恰好もすごく可愛いですよね、何枚か撮らせて貰ってもいいですか?」
「あ、はい! 実は知り合いに一杯服を借りてきたんです!」
「ハハ、ソレハ楽しみダナァ、夕ご飯もあるので取り合えずそれだけで行きましょう」
「了解しました! モデルポーズも雑誌とか見て研究してきたんですよ?」
――
金髪天使さんは勉強熱心で海外の雑誌モデルに負けてないと思いました。
撮影もほどなく終わり。
「えと、これから弁当を買いにって夕ご飯なんですがご一緒しませんか? 奢りますよクィーン姉さんの置いていってくれた総菜もありますしね」
「ありがとう御座います、では行きましょうか」
一緒に買いに行ってくれるらしい、ポン子は留守番するようだ。
金髪天使さんと一緒に歩いて行く、この人すごい美人だし隣に居る俺に嫉妬の視線がビシビシと当たっているのが判る。
金髪天使さんは周りを見回している、視線が気になるんだろうか。
「視線が気になりますか? 金髪天使さんくらい美人なら普段歩いていても見られそうな気もしますが」
「いえ、不審な者が居ないかと……び、美人ですか、ありがとうございます、視線はもう慣れましたね」
「悪魔が居ないかとかですか? 営業とか退治の仕事って大変そうですよねぇ」
「え? ああ、そうですね……職業病かもしれないですねアハハ」
その後も雑談をしながら買い物を済ませ帰宅した、金髪天使さんは会話をしながらも周りを終始気にしていた、普段の日でも仕事が気になっちゃうのかぁ……。
――
金髪天使さんと夕ご飯を一緒に食べる、お惣菜が結構な量あったのでオニギリを中心としたお弁当を買ってきた。
「クィーン姉さんのお惣菜美味いなぁ……このナスの煮びたしとか最高だぜ? ほいリルルあーん」
「アーンです、美味しい! ご主人様が好きなのを教えて下さい、それを教わります!」
全部美味いから選べんのだがなぁ……、全部好きって言っておくか。
「甘いですねイチロー、この鶏もも肉の揚げ焼きに勝てるとでも? もぐもぐ」
それも美味そうだよな、薄くスライスしたもも肉を片栗粉をまぶして揚げ焼きにしてある? ニンニクと醤油の下味かなぁ? 味ついてるからそのままで食えるしハシが止まらん。
金髪天使さんも感心しながら食べている。
「あのサキュバスさんすごいのねぇ……この春雨サラダとかピリ辛ですっごい美味しいわ……、見た目イケイケなお姉さんっぽいのにやるわねぇ……」
見た目と腕は関係ないですよ金髪天使さん、まぁ俺もギャップあるなと思ってしまうのですが。
「あーんハグ、むぉ! 同じような見た目だからお昼のと同じ出汁巻き卵かと思ったが、これは甘いのか、これはこれでいける、お返しだリルルアーン」
俺とリルルがたまにアーンして食べさせ合ってるのを見た金髪天使さんがポン子に何かこそこそと話しかけている、アーンがどうのと漏れ聞こえてくるが、聞き耳はいかんか食べる事に集中しよう。
「この煮卵も最高ですね……、所でイチロー」
食べながらポン子が声をかけてきた。
「なんだポン子?」
「実は神界には様々な文化がありまして、田舎の方だと独特な風習もあるのですが」
真剣な顔でそんな事を言い出すポン子、神界に田舎ねぇ? ……なんだろうすげぇ胡散臭い。
「ポン子、その話がドッキリだったら、クィーン姉さんのアップルパイを食べる権利が無くなります」
そう忠告してやった。
「あ、うそです御免なさいイチロー、実はそこの天使にどうにかしてアーンをして貰う事は出来ないかと相談されただけです」
ポン子はそう言った、それを聞くやいなや金髪天使さんが慌てて釈明をしてくる。
「にょわ! ちょっと〈底なし腹〉! あ、違うのよ? 嘘をつけとか言ってないからね私は!」
……アーンをしたいというのは否定しないんですね、まぁ目の前でやられたら気になるか。
カボチャの甘辛煮をハシでつかみ、金髪天使さんの前に持っていく。
「はいどうぞ金髪天使さん、アーンしてください」
金髪天使さんはワタワタと動揺をしたが、すぐさま覚悟を決めたのか目を瞑って口をあける。
「あ、あーん、はぐっもごもご、お、美味しいな……私に……こんな出来事が発生するとは……」
カボチャを神妙に味わっていた金髪天使さんだが、何かに気づいたのかハシを持ちテーブル上を見る、テーブルの上の総菜はほとんど残っていなく玉こんにゃくの煮物が残っているだけだった。
それをそっとハシで掴んだ金髪天使さんが。
「お、お返しだ! アー、うぁ!」
ハシからコンニャクがポロっと落ちたので手で受け止めそのまま食べる、金髪天使さんが謝ってきたが問題無いと返す。
ホッっと息を吐いて安心した金髪天使さんは再度テーブルに目を向けるが、ポン子に吸引されてテーブルの上のお惣菜は全滅していた。
「な……なんで私は……やっぱり……」
なんだか泣きそうになっている金髪天使さん、そんなに玉コンニャクが食べたかったのだろうか、まだお腹が満足してないのかな?
「まだデザートのアップルパイがありますよ金髪天使さん」
励ましてみる、デザートは別腹というしな。
ポン子とリルルから、違うと思う、違います、と言われるが何が違うのだろうか?
アップルパイは苦手とか?
金髪天使さんは笑顔で、そうだなまだデザートがある!、と嬉しそうだ、意外と食いしん坊なのかもしれない。
クィーン姉さんのアップルパイも最高に美味かった。
総菜もデザートも明日の夜処か今日の夜に全て無くなってしまったな。
デザートが美味しかったのか満足した顔で帰る金髪天使さん、また明日よろしくです。
食後はまたエア揉み訓練の時間だ、そしてリルルとポン子はまた二人でモバタンに張り付いている、ポン子が電子漫画アカウントがどうのと聞こえてくる、まぁ小遣いを何に使おうが本人らの好きにすればいい。
俺はまず揉みの匠さんの技を模倣する所から始めよう、呼吸のリズムと螺旋の動きっと……。
――
気付いたら夜も遅いので寝る訳だ、お休みなさい。
そしてポン子、動画を見ただけでレスリングの寝技は上手くならんと思うぞ。
「くっ、ころせ」
四敗目だな。
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