第57話【閑話】魔法名家の話
side 魔法名家の家
とある広い敷地を持つお屋敷、床の間に掛け軸が掛かっている和風な部屋の中で、本を見ながら詰め将棋をしている老人が居る。
廊下側、障子の外から声がかかる。
「ご命令の通り調べましたが、例の男は生きていたようです」
老人は将棋盤から目を離し障子の外に声をかける。
「なぜ生きている? 二年以上前〈
「そ、それがツテで得た情報によると、二年以上毎日ダンジョンに潜り続けて生き残っていたようです、様子を見に行った者の話では暗示が解けている様だとの事です」
老人は本を畳の上に置き。
「チッ〈惑わし〉がヘマをしたか、使えない奴め……もう一度〈惑わし〉に排除を命じろ、そして次に失敗をしたら〈惑わし〉を処分してかまわん、尻尾を掴まれてこちらに
「かしこまりました」
そう返事がした後に障子の向こうから気配が遠ざかる。
老人は整っていた将棋盤の上の駒を乱雑につかみ取りそしてぶちまける。
「たかが分家の養子に入った小娘が! こちらの見合い話を素直に受けておけばいいものを……我ら魔法使いの名家がもう一度日本を裏から
……老人はぶちまけた駒を回収しながら、それ以上何かを言う事はなかった。
side 〈惑わし〉
ごみが散乱をした部屋で一人の
「くそっ! 誰が〈惑わし〉だ、俺の名前は×××だ! 名前を呼ばないのは虚偽感知対策だってか……そんな事の為に俺は名前を奪われてこんな暮らしを……くそっ俺を馬鹿にしてるのか!」
持っていたビール缶を一気に飲む、そして新しい缶を開ける。
「あの山田とかいうガキもそうだ、俺は以前確かに暗示をかけたはずだ……しかも今回効いたという事はダンジョンスキルを覚えて解けた訳じゃないという事だな……もしや……俺を嫌う身内の罠に
『そうだな、お前は罠に嵌められたんだよ』
「誰だ!」
中年男は飲みかけのビール缶を捨て、部屋の中を見回す、部屋の隅、照明が届いてない暗闇に何か黒い
「
『ほう、さすがに魔法名家の一員だけあるな、俺らの事を知っているか』
「何しにきた、俺はお前らに用なんぞないぞ」
中年男はぶちまけたビール缶の代わりに新しい缶を開ける。
『何、身内に嵌められ処分される寸前の男に救いの手を差し伸べてやろうと思ってな』
「は! 何を馬鹿な、散々俺を使ってきて有用性は理解しているはずだ、今更処分などと……」
『判っているのだろう? 今のお前に対する奴らの顔はどうだった? 大事な相手にするような顔だったか? もう要らないと表情が言っていなかったか?』
「そ……んな馬鹿な……俺は本当の名前も呼ばれず、一族の為に汚れ仕事を……」
『信じられないならその魔眼を使い奴らに聞いてみればいい、お前らは俺を排除しようとしてるのか、と』
ビールを飲みつつ悪魔も言葉を否定する中年男。
「ふんっ、俺の能力はスキルを複数持ってるような相手には効きづらいんだ、そんな質問をしておいて失敗したらそれこそ排除されてしまう」
『そこで俺よ! 俺の能力は契約した相手のスキル効果を上げるものだ、どうだ? 俺と契約すればお前の魔眼はお前を馬鹿にしている奴ら全員に効くようになるんだぜ?』
「例えそうだとしても悪魔のスキルを使えば天使が来る、俺らの中じゃ常識だ」
『はは、派手なスキルならそうだろうさ、だけどもお前はどうだ? 目の前の相手の目を見るだけだ、天使の前で使いでもしなきゃバレねぇよ、俺の力は隠密効果も高いんだぜ、悪魔の波動は術を掛けた相手とその周囲くらいにしか漏れねぇよ』
中年男はさらに新しいビール缶を開けた。
「……いや、少し魔眼の効果が上がったくらいでは意味がない、やっぱり駄目だ」
そう言ってビールを一気に飲みこむ。
『なんだよそんな事か安心しな、払う対価、つまり契約内容によって効果は変わるんだよ』
中年男は新しいビール缶を開ける。
「魂を
その言葉に悪魔は笑いながら答える。
『ハハハいつの時代の悪魔だよそれ、殺さず対価を払い続けて貰うのが最近の流行りなんだぜ? 軽い契約もあるのさ、勿論対価が増えるごとに効果は増えていくがな』
ビールを飲み、悪魔に質問をする中年男。
「いやな流行りだな……軽いものから順番に対価の内容と効果の質を教えろ……」
『そうこなくっちゃ相棒、まずは一番軽いやつな〈髪が薄くなっていく呪い〉を受けて貰う、そうしてお前の中に生じる負の感情から得られる力が俺の物になる、これはポーションとやらで一時的に髪を治せるからお買い得だぜ? まぁ効果は元々のスキル威力が十数%増しって所だな』
ビールをまた一口飲み質問を続ける中年。
「それじゃぁ弱いな、もっと効果を上げるとどうなる?」
『それはだな――』
悪魔と中年男の会話は続く。
saide 魔法名家の家
広い敷地を持つお屋敷、床の間に掛け軸が掛かっている和風な部屋の中で、老人が目の前に居る中年男を𠮟りつけている。
「〈惑わし〉何故お前がここに居るのだ、この家に近づくなと言ってあるだろう! お前とうちの繋がりを表に出す訳にいかんのだ、この愚か者が、とっとと帰れ! 小遣いが欲しいなら後で送ってやるわ」
老人の言葉を聞く中年男はまるで堪えた様子もなく、しかしてその中年男には頭の髪が一本も無く、左腕も不自然に揺れている、力が入らないのだろうか、そして老人に向ける眼も片方が白く濁っている。
老人はその不自然な姿にある事を思い出し人を呼ぼうとするが、ハゲ中年男が老人の眼を見て光を放ちつつ問いかける。
「俺はお前のご主人様だ、お前はどんな命令も聞き絶対に裏切ったりしない、そうだな?」
老人は呆けたような表情になり答える。
「はい、私のご主人様は貴方です、命令の通りに行動します」
ハゲ中年男は笑いながら命令を下す。
「よし、なら命令をする、俺からの指示があるまでは現状の維持に努めろ、そして自由に使える金をそうだな……五千万ほど用意して俺に送れ、それ以外は現状維持だ俺が主人という事は他に知られるなよ、普段は俺をいつものように扱え、命令があるときはまた魔眼を使う」
「かしこまりましたご主人様、現状維持に努め指示を待ちます、主人の事は漏らしません、貴方が魔眼を使わない時はいつも通りの対応をします」
ハゲ中年男性は満足をすると部屋を出ていく。
廊下を歩きながらハゲ中年男が語り掛ける、しかし相手は何処にも見えない。
「確かに本家は俺を排除しようとしていた、そして本家の腑抜け共は配下に出来た、しかし分家や外に出ている本家の上級探索者には俺の力でも効かない可能性があるんだよな?」
『
体の内側から聞こえる声の相手をしながら、こちらに頭を下げてくる本家の人間に偉そうに頷いてみせ廊下を進むハゲ中年男。
「チッ、片手片目に髪を全てでもそうなるのか……まぁそういった奴らは本家の権力を使って裏から操ればいいか、それと後は……俺が排除されそうな切っ掛けになった山田の小僧だな、誰に利用されたかなんて知らん俺直々に消してやる……」
『おーおー強気だね相棒、直接的な命令は官憲共の虚偽感知スキルに反応しちまうぜ?』
楽しそうに語り掛ける悪魔に、ハゲ中年男も笑いながら答える。
「クククッ、虚偽感知スキルを使ってくる相手も操っちまえばいいさ、俺の力を跳ね返せるようなら探索者で稼いでるはずだ、公務員なんてやってるのは弱いからだろう? もう怖くもねぇさ」
『それもそうだな、なんならそっち方面に支配の腕を伸ばしてもいいな! 夢が広がるねぇ相棒』
「ああ、そうだな、上手くやれりゃぁ日本を裏から牛耳れるかもな……、いや、そうだな、本当にやってみるか……、それなら本家の神具を収めた宝物庫に行くぞ、目ぼしい物を頂いていこう、売り払ってもいいしな」
何かを決意し晴れ晴れとした表情で歩いていくハゲ中年男だった。
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