第56話【閑話】玄関口で
一人の妖精が揉み屋職人に揉みの仕事を続けるように言い、金髪天使とポニーテールサキュバスを玄関口へと誘導する。
「値段は前に大体決まっていなかったか? マネージャー」
「そうよね、連絡して貰った時に聞いたと思うのだけど」
天使とサキュバスは不思議そうな顔でそう妖精に問うた。
「はい、まぁ値段の事はついでです、ちこっと安くしますね、高すぎてもイチローが気にしますし」
「私は納得できる値段なんだが……むしろ安すぎると同好会以外の天使が殺到しそうでな」
「私もそう思うわ、今回だけは末妹ちゃんに謝罪する人選ですぐ決まったけども、ご主人ちゃんの腕を知ったサキュバスの予約争奪戦を思うと……、あーでも、少し値段が高いくらいじゃ意味ないかもかぁ……くじ引き会場が天国と地獄になりそうね、なんちゃって」
「まぁここはイチローの心情を汲んでくださいね、値段をちょこっと下げるのは決定事項です、話をしたかった理由は他にあるんです」
サキュバスのギャグは妖精にスルーされた。
「ふむ、揉み屋予約の順番とかか?」
「それなら午前と午後に両方ともに天使とサキュバスを混ぜる感じでどうかしら?」
「予約はそれでいいですね、でも本題は全然違います、まぁ説明するので終わるまで黙って聞いててください」
そうして妖精は二人に説明をし出すのであった。
――
守護天使としてイチローの所に来た後に体験した事。
部屋の状況、資産の状況、人間関係の状況、探索者としての行動状況。
そしてイチローの探索者としての過去の生活模様の推察。
さらに今日のお昼前に会った目つきの悪いおっさんの話と。
それが使った恐らく先天スキルの暗示系魔眼の話と、その暗示内容。
スキルを得た今のイチローには効かなかったが過去のイチローは効いたであろう事。
それによる過去の推察の補完等々
――
妖精の話はまだ途中だったが。
「なんだそれは! モミチロー先生に……ソンナコトヲ!?」
「あの優しいご主人ちゃんに……ナンテコトヲ!」
金髪天使は背中に羽を出し、その激しい怒りに殺気が漏れ出していく。
サキュバスは人のような姿から羽と尻尾と角を出し、やはり殺気を吐き出している。
妖精はそんな二人に驚き、背後を向き、部屋の中に向けて手を振ると、二人の頭を引っぱたく。
「何してんですか! イチローに気づかれちゃうでしょ! 黙って最後まで聞けと言ったでしょうに!」
金髪天使は羽と殺気を無くし、サキュバスも殺気を抑え人の様な姿に戻る。
「す、すまん、モミチロー先生がこの世から消えていたかもと思うと、その魔眼持ちに怒りが湧いて我慢出来なくてな……」
「ごめんね、末妹ちゃんとの仲を修復してくれた、優しいご主人ちゃんになんて事をするんだと、ちょっと怒ってしまったの」
「いやしかし素晴らしい殺気だったよサキュバス殿、天使にスカウトしたいくらいだったな」
「あらお恥ずかしいわぁ、私の事はポニ子でいいわよ?」
「ではポニ子殿、昨日のサキュバスは貴方だな? 勘違いで追い払ってしまい申し訳なかった」
「いえー、むしろ天使さんには感謝してるくらいよー、気にしないでね」
「ハハハ」
「ウフフ」
天使とサキュバスは笑い合っている。
「……仲良くなるのはいいですが、話を続けますからね」
天使とサキュバスの二人は黙って頷いた。
「今回イチローに魔眼は効かなかったですが、それを知られたらまた何かしてくると思うのです、なのでどうにか潰したいのですけど、何か良い手を思い浮かびませんか?」
妖精は真剣な顔をしてそう二人に聞いた。
それを聞いた天使は口を開く。
「ふむ、先天スキルならルールに触れないから手を出すのが難しいな……、取り合えず相手の身元を知るのが先決だな、私の直属の上司がそういった奴らのリストを抑えてる筈だ、マネージャー、相手の顔は押さえているな?」
そう聞かれた妖精は魔法モニターを出しそれを天使に見せる。
それを見た天使は頷くと、自分の魔法モニターを出す。
「うむその画像を私にくれ、っとさっきのポニ子殿の殺気とサキュバスの気配で天使がこちらに来てるな、この部屋では問題無い事を周知するので少し待っててくれ」
天使がモニターを操作をしている。
サキュバスが妖精に話かける。
「ねぇ妖精天使さん、天使達は先天スキルしか使ってなくても悪魔と契約したら処罰出来るわよねぇ?」
「そうですね、神の恩寵を悪用するのも、悪魔との契約も処理対象になりますね、……あ……もしかして?」
サキュバスはニッコリと凄みのある笑顔を浮かべ。
「地上に来ようとしている悪魔共の中から、都合のよさそうな悪魔にその魔眼持ちのデータをそれとなく流そうと思うの、あいつらは悪党が大好きだからね?」
そう悪そうな笑顔で言うサキュバス、そこに作業の終わった天使が口を出す。
「それならこちらで調べたデータを後で渡そう、ポニ子殿モバタンはお持ちか?」
「ありますよ、地上で活動するなら無いと不便ですからね天使さん」
「だな、では連絡先を教えて頂きたいポニ子殿」
そう言ってモバタンの連絡先を教えあう天使とサキュバス。
妖精は何かを考えながら発言をする。
「上手く釣れたら対処も出来そうですが……それでイチローが怪我をしたり襲撃されるのは怖いですね……そこでですね」
金髪天使は妖精の言を遮るように。
「判っている、モミチロー先生の護衛をすればいいのだな?」
「そうねー相手の破滅より、まずはご主人ちゃんの無事が大事よね」
妖精は、そうなんですと頷いてみせる。
「どうせ揉み屋も天使との縁を強化しようとしたのだろう? 今更だな、モミチロー先生の為なら私が……私が……あ! 私が守護天使に加わるというのはどうだろうか!?」
真剣な顔をしていた金髪天使が、唐突に顔を赤く染め上げそう提案をしてきた。
それを聞いたサキュバスは抗議の声をあげる。
「ちょっとー、途中まで恰好よかったのに何よ最後のー! それなら私達サキュバスがご主人ちゃんと契約して四六時中一緒にいれば悪魔に牽制できるじゃない、そーだそうしようよー」
サキュバスも提案をしてきた。
「何を言う、サキュバスでは戦力にならんだろうに、ここは私が守護天使として先生に迎えて貰ってだな…‥‥ふふ……揉まれ放題だな……、……そんな! 私が美人? 先生それはまだ早いですよ……なんてなんてーふふふ……」
金髪天使は自分の世界に入ってしまった。
「何を言ってるのやらこの
妖精は呆れ。
「颯爽として格好いい戦士タイプの天使というイメージがあったのだけどねぇ……妄想癖のあるポンコツっぽいわねぇ……」
サキュバスは溜息を吐くのであった。
――
――
妖精は金髪天使の頭を四十五度の角度でチョップし正気に戻す。
「んん、すまなかった、ではえーと……この家の近くを天使の巡回ルートに組み込みつつ、揉み屋に来る天使とサキュバスには事情を説明しておき、さらに私やポニ子殿等時間に余裕のあるメンツで事態が収束されるまで御側で護衛につくという事で決定だな」
「そうねー、まぁ相手が悪魔なら私らが居ればそう簡単には手を出してこないわよ、うちの種族と縁切りしたい悪魔なんて早々居ないしね、情報リークは男型悪魔にするつもりだしね」
金髪天使とサキュバスの言葉を聞いて妖精はお礼を言う。
「有難うございます、モミチロー先生もこれで安心して揉みに集中出来ると思います!」
金髪天使とサキュバスはそれを聞いて。
「それはそれで少し怖いような楽しみなような……モミチロー先生の腕の上がり方おかしくないか……?」
「ご主人ちゃんのテクはやばかったわね、私サキュバスなのに天国が見えたわよ……」
「それは私も少し誤算をしていまして……瓢箪から駒といいましょうか、まさかモミチロー先生にあそこまで才能と資質があるとは……もう命の危険がある探索者をやらなくてもと思うのですが、イチローは探索者を楽しんでいるみたいなんですよねぇ」
「確かに記憶を失ってしまえばそれはもう今のモミチロー先生じゃないな……ふむ」
「そうねぇ……優しいご主人ちゃんは今のままがいいわよね……ふーむ」
天使とサキュバスが何か考えだし、お互いの目を合わせている。
「まぁ細かい協定の決め事で時間を食ってしまいましたし、戻りましょうかモミチロー先生も三人目みたいですよ」
そう妖精が生活魔法の遮音を解除しながら部屋に飛んでいく。
そうして部屋の中を見たサキュバスは急いで中に駆け込んだ。
「胸がどうしたのかしら? レジェンドちゃん」
そう部屋の中に声を掛けながら。
金髪天使は苦笑しながら後に続く。
玄関口での話し合いはそうして終わったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます