第52話 三人娘の自己紹介
俺とポン子がほどなく家にたどり着きドアを開けると。
「ただいま~」
「ただいまですよ、何か疲れましたね」
疲れたというか、俺の髪を命綱にされるのが頭皮というか毛根が痛いんだがな。
中には誰も居なかった、いやそれが当たり前なんだけどさぁ……。
「まぁ昼飯食って準備しないとな、そういやポン子、俺丼屋の主人と何話してたんだ? やけに盛り上がってたみたいだけども」
弁当を選んでる時にポン子とお店の主人が会話してたんだよなぁ、あいつのコミュ力化け物だし、よく買いにいってるとはいえあんな親し気によく話せるもんだ。
「ああ、あの店は色んなメニューに挑戦しているのですが、新しいメニューやフェアはどんなのがいいかという、まぁ雑談ですね」
ほう、ならポン子の意見が採用されたりもするのだろうか。
「こないだはイタリア料理フェアだったなぁ、ポン子は何を勧めたんだ?」
「春の旬素材といったら、春キャベツやタケノコでしょう、新たまねぎや、つくしとかも有りですねぇ〈あなたこにつくしたい弁当〉とか勧めておきました」
アナゴ飯、タコ飯、鯛飯の三種類の混ぜご飯と、つくしの天ぷらだそうだ、普通に美味そうだな、もし採用されてたら買おうっと。
「旬といっても今はほとんどダンジョン産なんだがそれはいいのか、季節ごとに安全な階層だと魔力は宿ってないが旬な食材が取れるとか、ちゃんと季節によって変えてくるのはすごいよな」
「日本の食文化は春夏秋冬の旬によって醸成されたと言っても過言では無い! いつでも全ての物が取れてしまったら文化を破壊しかねない! と、大天使様が演説して決めたそうですよ、なので旬を外れても欲しい食材は冷凍にするか地上で作りなさいという事らしいです、いつか魔物が出る階層の魔力の宿った旬食材を取りにいきましょうね」
海外ダンジョンだと、いつも同じ物しか取れないとか多いらしいんだよな、イベントみたいな変化がある日本は珍しいっぽい。
「なぁポン子、なんで日本のダンジョンはちょいちょい変化するんだ?」
「そりゃぁ海外管区とか管理してる種族によって対応は変わってきますから、天使は日本のゲームやらアニメやら好きな人も多いし影響されてるんじゃないですかねぇ……お互いに」
日本の影響を受けた天使、そして天使が管理するダンジョンに影響を受ける日本人クリエイター。
「エンドレスなカオスだな」
「変化があれば市場も動くし経済も動く、悪い事じゃないですよ、たぶん……」
「っとと飯食わないとな、ポン子は〈ドイツが一番だ弁当〉でいいんだっけか」
「あ、はい、ソーセージの種類が十個すべて違うそうです、一番美味しいのを選ぶ楽しみがありますね」
ご飯の代わりにマッシュポテトじゃなきゃ俺もそれにしたんだがな……
「じゃ俺も〈ロシアン弁当〉を食ってしまうかね、ピロシキが一杯入っててお得だよなー」
ポン子が俺を見てる、なんだ?
「どした? ポン子も欲しいのか? 一つ取っていいぞ」
「ア、イエ、私はとりあえず遠慮します」
「! ポン子が飯を断る……だと? ……どうした体調でも悪いのか? 頭でも悪いのか?」
「イチロー、今のは痛いのかと聞き間違えたんですよね?」
そうとも言うな、と笑いながらピロシキを食う、ぶふぉぉぉ……吹き出すのをかろうじて我慢をした……。
「なん、水を、ゴクゴクっ……ふぃ~めっちゃ辛かったんだが……なにこれ……」
「そりゃロシアンルーレットなロシア料理ですもん、当たりは入ってますよね、あ、やっぱり私一つ貰いますね~」
そう言ってポン子はピロシキを一つ取っていった。
「いやいや、これはさすがに売る時説明しないと駄目だろう?」
「メニューにちゃんと書いてありましたよ?」
あれ? 俺もちゃんとロシア料理弁当って読んで……。
「ってお前弁当のメニューや内容が書いてある紙の前でやけに動かなかった時があったよな、やってくれたね? ポン子さん?」
「冤罪を主張します! 私はあのメニューが気になってじっくり読んでいただけです!」
「俺にそれを説明しなかったのは?」
「自然なリアクションの勉強素材にしようかと」
おいこら。
「まぁびっくりするほど辛いのに美味いんだけどな、あそこの調理者はすご腕だよなぁ……モグモグっ、美味い、けど辛い、水水っと」
「それ……美味しいんですか?」
「あ、もう無いぞ食い終わったし、やーすっごい辛かったが、すっごい美味かった」
「……なんでしょう、ちょっとモヤっとしますモグモグっ、あ普通のピロシキも美味しいですねこれ、二個目はこのお弁当でもよかったかもしれません」
――
そうして飯を食い終わった俺とポン子、揉み屋に必要ない俺の布団やら収納やらはロフトに一時退避する事に、ポン子の生活魔法でふわふわ浮かせば一瞬で終わる作業。
俺の揉み屋の時の服装だが、さすがにツナギはあれだと、色々相談した結果、リルルの強烈なプレゼンによりジャージ上下に白衣となりました。
マットレスの角度はこれでよしっと、一時までまだ時間あるなぁ何しようかねぇ。
『ピンポーン』
チャイムが鳴ったのでドアへ向かおうと立ち上がる。
ガチャっ鍵の開く音がして、すぐドアも開く。
「お邪魔しまーす」
と金髪天使さん、靴を空間庫に仕舞い、ドアを閉め鍵を掛ける。
いやチャイムはこれから入りますよって合図では無いんだが……。
「いらっしゃい金髪天使さん」
俺がそう挨拶をすると、横でポン子が眼鏡をスチャッっと装備しながら。
「いらっしゃいませお客様、こちらへどうぞ」
クッションに座るよう促す。
部屋に入ってくる金髪天使さん、今日は随分ラフな格好だ、仕事とプライベートは別といった感じかね。
休日にジョギングでもしてそうな感じで、体にぴったり張り付いているようなスポーティな服装の上にコートを着ている……あー、マッサージしやすい服にしてくれたのかな?
金髪天使さんはコートを脱ぎ自分の空間庫に仕舞ってクッションに座る。
「楽しみで早く来てしまいました、今日はよろしくお願いしますモミチロー先生!」
うきうきワクワクといった表情でそう言う金髪天使さん。
俺も床に座り答える。
「こちらこそ初めてのお客様なの――」
『ピンポーン』
再度チャイムが鳴った、早く出ねばと立ち上が――
ガチャっと鍵の開く音がしてドアも開く。
「おじゃましまーす、ご主人ちゃん」
「ただいまですー、ご主人様」
「おかえり……」
いやチャイムとインターフォンの意味はあるのだろうか。
二人の後ろから三人の女性も挨拶をしながら入って来る。
横で金髪天使さんが絶句しながら、……女性が四人も? と呟いている。
「お帰りなさい後輩ちゃん、いらっしゃいポニ子さん、後ろの方々が予約を取りたいといった方ですか?」
ポン子がそう聞いていた。
「そうなの、私の妹達になるわね、ほら、ご主人ちゃんに一人ずつ挨拶なさい」
ポニテ姉さんが三人を促す。
そうして出てきたのは、一人目がスポーツ少女といった感じで、髪はショートで運動しやすそうなショートパンツにロンTにパーカーという、足寒くないですかそれ? な感じの女性だった、俺の前に座ったその人は空間庫からカード取り出し俺に差し出しながら。
「貴方のおかげで
ニッコリとそう告げられた、元気一杯な僕っ子さんですか、僕姉さんと呼ぼう。
そうして
金髪天使さんから、あれはサキュバスの……、とか声が聞こえた、ポン子が肩に飛び乗り金髪天使さんに何か説明をしだしている、そういやサキュバスからお客を取る事とか話してなかったな、ポン子にまかせるか。
そして二人目が前に来て、その人が口を開く前にちょっと注意をする。
「あ、あの、ここで車のレースとかしませんよ? 場所を間違えてるって事は無いでしょうか?」
女性はワタワタとしながら声を出す。
「わ、判ってるわよ! これはレースクィーンのコスプレよ、貴方に末妹の事で感謝の意味も籠めて男の子が好きそうな恰好して来たんだけども……、も、もしかしてこういうの好きじゃなかった?」
少し悲しそうな顔をしてしまった女性、見た目が少し勝気そうに見えたのだが繊細な人だったらしい、ポニテ姉さんだったら軽妙な返事があったのだろうが、目じりに少し涙が……やってしまった、俺は即座に。
「すごく大好きです! 後でモバタンを使い撮影などお願いしてもよろしいでしょうか?」
女性は俺の言にしばしポカーンとしたが、すぐ嬉しそうな顔に戻り。
「勿論良いわよ、ポーズだって貴方の希望にお答えしちゃうんだから! あ、これ、私の
と投げキッスをされてしまった、レースクィーン衣装の似合う、髪は茶髪ロングで勝気そうな顔だが繊細さを持つ女性、クィーン姉さんと呼ぼう、三枚目ゲットだ。
そして最後の三人目なんだか、避暑地に居るお嬢様といった清楚可憐な見た目をしている、黒のロングストレートの髪はサラサラで頭に天使の輪が見える、あ、ファンタジーな意味じゃなく髪の光沢な意味でね。
真っ白なワンピースで所々にあるレースの飾りがさりげなくオシャレ度を上げ、日傘を持って歩けば避暑地のポスターにでも使えそうな気がする、そんな清楚可憐なお嬢様女性が俺の前に来て空間庫から箱を出し恥ずかしそうに頬を染め。
「これ手作りのクッキーなんです、食べて下さい」
おー女性の手作りの食べ物だと……それは素晴らしいありがたく受け取……と……あれ? この人箱から手を離してくれない、俺が両手で箱を支えると、やっと箱から手を離しフタを開け始めた、そして中の一枚を手にとり俺に向けて。
「あーん」
とサキュバスの文化を示してきた、普通に自分で箱を開けてやればいいのに、なんで俺に両手を使わせたんだろ、まいいか。
僕姉さんとクィーン姉さんから、ずっるーとか、それ私のーとか聞こえてくる、何がだ?
「頂きます、あーん」
両手が塞がっていたが特に問題は無く、俺はそういってクッキーをいただ……はぐっ、なぜこの清楚可憐お嬢様女性の右手人差し指もクッキーと一緒に俺の口に入っているのでしょうか、そして何故俺の舌の表面をスリスリと指で刺激してくるのでしょうか、クッキーも口に入って
両手も箱を持ってて咄嗟に振り払うとかの行動も出来なかったし……あれ? 計算づくだった……?
清楚可憐なお嬢様女性は残った左手で俺の白衣の胸ポケに
「ねぇご主人様? 変態プレイに興味はあ――」
「「レジェンドさんアウトー!」」
そう大きな声で、僕姉さんと、クィーン姉さんが清楚可憐なお嬢様女性の両腕をがっちりと掴み俺から引き離していった、ズリズリと座ったまま後方に引っ張られる清楚かれ……長いな、可憐姉さんと呼ぼう。
その三人は。
「なにするのよ! ちょっと性癖聞こうとしただけじゃない!」
「あれは完全にアウトですー、僕は脳エロだと思いましたのでアウトです」
「そもそもアーンは後でみんなでやるって決めたでしょう? しかもクッキー焼いたの私でしょーに! なんで箱貸してって言うのかと思ったら……」
「ご主人様には私が焼いたなんで一言も言ってないもの……」
「あの言い方は誤解させちゃうと僕は思う訳だが、どー思います?」
「アウトね、あと一回やったらチェンジで出入り禁止にするからね?」
「お、おっけー、さりげなくやる事にするわ」
「判ってないよこのレジェンド……」
「レジェンドは自分からお触り禁止ね、破ったらマジで地獄に強制送還するからね」
「むー、舌を触った時のご主人様の反応は素質あると思うんだけどなぁ……」
「やめてね、巻き添え食って僕まで出入り禁止とかやだからね?」
「部隊長は怒ると怖いからねぇ……というか私が焼いたのって言って渡したかったのに、どうしてくれるのよー!」
わいわいと部屋の隅で言い合いを初めてしまった、内容が全部聞こえる訳ですが。
ポニテ姉さんとリルルが近づいてきた、ポニテ姉さんは苦笑いをしながら。
「ごめんね、ご主人ちゃん、お客としてなら来ていいって部隊長に言われてるのに……しょうがない子達よね、ご主人ちゃんは末妹が営業の優先権を持つ事になってるの、もし強引に迫ってくるような子が居たら私に言ってね、メッって怒っておくから」
なるほど、リルルが居るから姉さん達の行動がサキュバスのイメージと少し違った訳か、ふむ……普段の営業ってどんな感じなんだろうか……少し興味が……。
「ご主人様は私がいるから姉様達の営業なんて興味ないんですー! ね? そうだよね? ご主人様?」
リルルがそう問いかけてくる、うむ、嘘はつけないな、ど、どうしよう。
「モミチロー先生、そろそろ一時ですよー」
ポン子から救いの声が。
「ああ、そうだな! 営業の時間だイソガシイ忙しい、最初は金髪天使さんなのでポニテ姉さん達はちょっと離れててな、リルルも四人の相手をお願いな」
「判ったわぁご主人ちゃん」
「判りましたーご主人様、返事は夜にでも聞きますねー」
ごまかされてくれなかった……。
これはもう必殺の土下座だな、だって俺は男の子だもの、興味ないとか嘘はつけねぇ。
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