第51話 暗示の魔眼
何言ってんだこいつ。
目の前のくたびれたおっさんが訳の判らない事を言い出した事に困惑する俺。
その時、頭の上のポン子が俺とのパスを一杯に広げたのが判った、そういやパスを弄る許可を出してそのままだったな……まいいか困るもんで無し。
そしてポン子から感情というよりも、もう念話に近いイメージが送られてきた、本人は俺の頭の上で寝転がって欠伸をしてるのが判るが、これは演技だな。
ポン子の指示通りの動きをする、おっさんの方をぼんやりと見つめコクリと頷いてやる。
おっさんは満足した顔で。
「ふむ、まだ効くようだな、何の切っ掛けで解けたのやら……まあいい、俺が探索者のあるべき姿を教えてやるから、お前はその通りに生きていくんだぞ」
俺はポン子から来るイメージ通りに、ぼーっとした演技をしつつコクリと頷く。
「よし、探索者は宵越しの金を持っていては強くなれん、最低限の金以外全部使ってしまえ、ただし武器防具等に使うのは駄目だ、本人の実力が付かなくなるからな、体を維持しモチベーションを保つ為にも余った金は全部食い物にでも使ってしまえ、それでも余るなら世の中の為に寄付をしろ、生活を快適にするような事には使うな、厳しい環境こそが己を強くするんだ」
おっさんは馬鹿な事を言っているが、俺はぬぼーっとした表情を保ちつつコクリと頷く。
「実力ををつける為にも必ず毎日ダンジョンに潜れ、体調が悪くてもだ一日でも休めば強くなれないからな、後お前の義理の妹のような存在である姫乃には会うな、向こうから会いに来ても追い払え、姫乃は養子に行ったんだ過去の
こいつ姫乃の事を!? 顔に表情が出そうになるがポン子から我慢をしろとイメージが来る……くっ、コクリと頷く。
「チッしかしいつのまに妖精なんかを生意気な、おいその妖精を俺によこせ、自身の強さが無いうちに魔物を使うと実力がつかないからな、俺が預かってやる」
目の前のこいつをすごくぶん殴りたい、ポン子は物じゃねぇんだよ! 魔力やスキルを使わない只のパンチならいいんじゃないだろうか、しかしポン子は駄目だとイメージを伝えてくる……くぅぅ、我慢をしてまぬけ顔を維持するのが辛い……。
「ほんけいやくを……むすんでいます……」
名づけをしている事をゆっくりと伝えてやった。
「チッ使えねぇ奴だ、ならダンジョン探索には使うな、そんなのはもっと実力がついてからにしろ」
何なんだこいつの言動は……、ポン子が止めなかったら……あれ? こいつの言ってる事って……。
「これが最後だ、探索者として強くなるには孤高であらねばならん、人間関係をすべて捨てろ、人との縁を作るな、最低限以外会話をするな、お前は一人で生きていけ、俺は助言したが、お前は誰かに言われたからじゃない、必要だと納得し自身の意思でやっている、いいな?」
コクリと頷く。
「以上だ助言の内容だけ覚えて俺の事は忘れろ、俺が去るまでしばらくそのままでいろ」
目から光を消したおっさんは俺から離れるように歩いて行く。
チッ審議系のスキルさえなきゃこんな面倒は、とか、とっととダンジョンでくたばれとか、ぶつぶつと言いながら歩いていった。
目の前からむかつくおっさんが居なくなった、ポン子とのパスがまた狭く固定されたようだ。
「ポン子、あいつが言っていた事ってさ、まるで俺の昔の……」
信じたくないが、そうなのではないかという思いが膨れ上がる。
「ええ、あの中年男性は恐らく暗示系の能力持ちでしょう、しかも先天的な物かと、家に帰りましょう話は歩きながらでも出来ますし」
そうだな、家に向かって歩き出す、暗示か……俺の行動は操られていた?
「でもなんで過去に効いたかもしれない暗示が、今の俺に効かなかったんだ? ポン子のおかげか?」
「あーいった物は自分より弱い相手によく効くんですよ、スキルを複数覚えて能力値を上げてる人なら跳ね返せる確率も高いと思います、イチローも最近スキルを覚えましたよね? 能力値の上がり方が半端ないスキルを……」
……え? 最近爆上がりした能力って……俺精力で暗示を跳ね返したの? 何かそれすごい嫌なんですけど……。
どうも中年男性の暗示を精力で跳ね返す男イチローです、よろしくお願いします。
最近自己紹介さんが諦めの境地に入ってるんですけど、どうしよう。
「俺を排除したいのか? 姫乃の事を言ってたって事はあいつの養子先の人間か……姫は大丈夫なのかなぁ……、にしても回りくどい指示だよな?」
「審議系のスキルや魔道具のある世界です、自身に捜査の手が伸びてきた時には『俺は山田一郎に探索者としての有り様の一つを示して助言しただけだ』『死ねとか最奥を目指せとか飯を食うなとか、そーいった事は言ってないぜ?』とでも言うつもりなんでしょうね」
なるほど、嘘はついてないなそれだと、あれ? おやおや?
「それはひどい詐欺師だな、でも最近身近で似たような事をする妖精が居たような?」
「なんと! それは酷い妖精ですね、私は守護天使のプリチーポン子ちゃんなので関係ないですね~」
ヒューヒュヒューと口笛を吹く音が頭の上から聞こえてくる。
ポン子といつもの様なやりとりをした事でかなり落ち着けた。
「あのおっさんはどうしたもんかね」
「あ、イチローは何もしなくていいですよ、こっちでどうにかします」
こっちでって次きたら先制攻撃とかする気か?
「どうにかって、どうすんだよ、魔法ぶちかますの?」
「私が何の為に昇天屋なんて揉み屋を開業させたと思ってるんですか」
金の為とお遊びだろう?
「金の為とお遊びだろう?」
「……なんでしょう言葉と思考の両方で攻められた様な気がします……、勿論それが無い訳じゃないですが……まぁこちらでどうにかしますよ」
揉み屋には金以外に何か理由があるらしい、楽しそうなポン子の声質を聞くに、たぶん問題は無いのだろう、ま、どうにもならなかったら俺の神の右ストレートが火を噴くからそれでいいか。
「しかしなぁ、あのおっさんの言う通りにしてたら、普通は……」
「ですねぇ、生活環境が最低で体調を崩す事もあるでしょう、誰かに頼る事も気づかれる事もなく毎日ダンジョンへ……二年も生きてたイチローは変人ですよね」
「俺はスライムダンジョンしか行ってないからだろな」
「イチローのその行動が命を救いましたね、そういえばあの中年はダンジョンの指定をしませんでしたね」
「でも普通の探索者ならスライムダンジョンなんてすぐ卒業してゴブリンとか角ウサギとか草原ウルフとかに行くよな?」
俺とポン子は不思議に思いながら予想や仮定をしていく。
「イチローがスライムしか愛せない変態だった説」
「俺は普通に女の子が好きなので否定されました」
「実はおばちゃんの事がラブだった説」
「それはやめろと言っただろ、夢に出てきたらどーするんだ、否定します」
「イチローの前世がスライムだった説」
「どうもスラチローですこんにちわ、ってんな訳あるかい否定だ否定」
「探索者の動画を見てゴブリンや草原ウルフ等にトラウマを抱えている説」
「やめてください、それって体の一部を食いちぎられる奴とかだろ……? 施設の男の子連中が好きでなぁ……監督する為に俺も見るはめに……モザイクは入ってたが思い出したくねぇわ、魔物ってダンジョン内なら飯とか必要ないくせに普通の動物みたいな行動するしなぁ、でもトラウマって程じゃないな否定します」
「イチローは予知能力者でプリチーなポン子ちゃんに会う為に毎日頑張ってた説」
「さすがに予知できてたら今頃競魔とか宝くじで大金持ちだと思うんですけどぉ? やっぱバトルホース限定のチャリオット競魔とか見てて熱いよな、ワーム競虫は……人を選ぶかね? まぁ魔券買えるの二十歳からなんだけどな……成人年齢引き下げたなら、飲酒やら魔券やらの年齢も下げてくれりゃあいいのにな」
「予知能力は弄ったのに、ポン子ちゃん部分は無視されてちょっと寂しい説、成人年齢は建前なんでしょうね」
「それ、説は関係ないじゃんか、いやまぁプリチーなポン子には出会えて感謝はしてるよ、一緒に居るのにあの厳しい条件がもう一度必要なら、また二年だってダンジョンに潜ってやるさ」
俺とポン子は。
「「うえへへぇー」」
とお互い気持ち悪い声を出し恥ずかしがるのであった、ちょっと臭いセリフを言ってしまったな……。
「もうイチローったら私とそんなに一緒に居たいだなんて……私だってイチローは最高の相棒だし……うん、お笑いの頂点を目指す為にも、一緒にいるのに前と同じ事をしないといけないなら、また同じ事をしてみせるよ!」
そしてポン子からアホな返しが来た。
「いやそれは止めて下さい、はい、ポン子さんイエロカード一枚入りましたー! レッドになったら金髪天使さん経由で大天使さんに報告して貰います」
「ちょ! なんで急に
「前と同じってまた俺が亡くなってしまうんですが? そのあたりはどうお考えでしょうか?」
……。
……。
「……あーそれもそうですね、ポン子ちゃんやっちゃった、テヘペロッ」
見えないから可愛いかどうかも判らない、俺は頭を左右に振りながら家を目指す。
「キャー落ちる落ちるーまってまってイチローごめんなさーい」
飛べるくせにそう言ってくるポン子、お前と居ると飽きないし、ほんと楽しいよ。
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