第49話【閑話】平凡な家庭2

 そこは何処にでもありそうな平凡な二階建ての一軒屋だった、少女と女性がテーブルで向き合い朝食後のお茶を楽しもうとしていた。


「姫乃ちゃん、なんだかまだ眠そうね、高校が始まるまでお休みだからといって夜更かしは駄目よ?」


「いえ、お義母さんこれは夢見が悪くて……」


 眠そうな少女はそう言い、女性が聞き返す。


「夢見? 何か良くない夢でも見たのかしら、内容は覚えている?」


「はい、夢の中で私は主人公のお兄ちゃんのヒロインとして映画に出演する予定でした」


 あ、またそれ系なのね、とお茶を準備しながら女性が呟く。


「しかし、何故か監督がシナリオに物申し、私の出番を後回しにされたのです……」


 へーそーなのー、と朝食で残っていた浅漬けのキュウリを齧りながら答える女性。


「その監督は胸の大きい役者にたぶらかされて、お兄ちゃんのヒロインをその人達にしました」


 姫乃ちゃん慎ましいものね、と女性。


「これは成長途中なんです! 高校生になったらAAを卒業するはずなんです! って夢の話がまだ続きです! その人達は役に留まらずお兄ちゃんに恋してしまい、お兄ちゃんを新婚旅行だと宇宙温泉に無理やり……いえお兄ちゃんは嬉しそうな顔をして……UFOで飛んで行ってしまいました、私はお兄ちゃんに手が届かず泣き崩れて……うう最悪の夢でした」


「さすが夢ね内容が酷い、映画にしても閑古鳥が鳴きそう」


「お兄ちゃんと私のラブストーリー映画なら、私は毎日三回は見にいきます!」


「観客一人じゃ大赤字ね、で、そのお兄ちゃんは現実ではそんなにモテる感じなの?」


 疑問をぶつけた女性に、少女が答える。


「それほどモテません、いいえ私達〈おいまじか同盟〉がモテさせませんでした」


「ひどい同盟名ね、なにそれ……」


兄ちゃんをい男に教育しつつりの性に気づかせないい込み同盟の略です、同盟員は施設に居た女の子達が中心で構成されていました、今は解散状態ですが……」


「貴方達は何をしてるのやら……具体的な活動内容はあったの?」


 お茶を啜りながら女性が聞く、少女は楽し気に答える。


「女性は素直に褒めるとか、嘘をつかないとか、家事は率先してやるとか、女性からのアーンは断らずお返しをするとか、体は身綺麗にするとか、ただし髪型はボサボサにファッションも地味に、優しさは押し付けないでさりげなく、他にも諸々、そしてそういった事は好かれてない相手にやると迷惑の押し付けだから、私達みたいにお兄ちゃんが好きな子にやるようにと誘導していました」


 女性はおでこに手をあてて。


「思ったよりもすごかった、でもそんな風に教育しちゃったら、お兄ちゃんを好きな子が普通に出てくると思うのだけど? 子供の頃の男の子とか素直に褒めたりしないしねぇ」


「そこで、こうです、小学校くらいでは運動が出来る男子がモテます、なのでお兄ちゃんは平均より少し上くらいでトップじゃないですよね? と諭し、なので今お兄ちゃんに近づく女子は全部、お兄ちゃんのお友達で運動能力が高いモテ男子が目当ての可能性が高いと助言をしました」


 断定せず濁してるのね……、と女性。


「中学くらいではイケメンとか不良っぽい目立ちたがりがモテますよね、お兄ちゃんのクラスメイトに、丁度いい秀才で運動神経抜群の王子様系イケメンが居たのは行幸でした」


 少女は興奮してきたのか演説のようになってきている、女性はお茶を飲みそれを楽しそうに聞いている。


「お兄ちゃんを遊びに誘う女子が居れば、イケメンを狙っている可能性が高いからイケメンを誘って皆で遊びに行こうと返事してあげるのはどうですか? と助言をし」


「お兄ちゃんは王子系イケメンでも無く可愛らしい感じの顔だし、運動も勉強も平均の少し上でトップでは無いですよね、と、大丈夫、学生の頃はイケメンがモテても年齢が上がれば女性の趣味は変わるので優しさや律儀さが報われる事があると、少なくても私達は大好きだと、そうお兄ちゃんに言い続けました」


 確かに学生の頃は顔が一番ってのが多いわ……運動の出来るイケメン、頭の良いイケメン、目立ちたがりのイケメンがモテるわね、そうウンウンと頷いている女性。


 結婚を意識する年齢になると財産とか甲斐性が足されるのよね、と女性は続けた。


 条件が足されるだけで、イケメンが好きなのは変わらないようだ。


 女性は少女に質問をした。


「でもそれってお兄ちゃんの恋愛の邪魔をしてる事にならないかしら?」


 少女は反論をする。


「なりません、〈同盟〉の規約の一つに、お兄ちゃんに好きだとちゃんと言葉に出して言ってきた相手は邪魔しないとあるのです、実際に中学では数人そういった人が居たので邪魔は……少ししかしませんでした、お兄ちゃんはその好きという言葉を恋愛のそれでなく、男女の友情と勘違いしてましたが……、王子系イケメンという誘蛾灯があるにも関わらずお兄ちゃんに気づいた猛者もさ達でしたね……」


 少しは邪魔してるのね、と女性が言う。


「少しの邪魔で諦めるなら本気と見なしません、覚悟のない奴はお兄ちゃんに近づけさせません! それに誰にも相手にされなくても私が必ず幸せにしてみせるので大丈夫です!」


 意気揚々と言い放った少女だが、少し心配そうな顔になり女性に質問をする。


「お義母さんは、こんなやり方をしてきた私を軽蔑しますか?」


 女性は何を言ってるんだかと呆れた口調で返す。


「軽蔑なんてまったくしないわね、だって女の子にとって恋愛は戦争よ? 奇襲に陽動、偽装工作に隠ぺい、同盟に囮、正面突破に放置、使える物は何でも使って勝利をもぎ取る物だと、そんな事は女の子ならみんな知っている事だわ、まぁ、踏み越えてはいけない一線だけは守るべきだけどね、姫乃ちゃんはそれが何だか判る?」


 少女は少し考えてから女性の問いに答える。


「最後に選ぶのはお兄ちゃんの意思だという事です」


 女性は嬉しそうな顔をし。


「はい、正解、それが判っているならどんどんやりなさい、お兄ちゃんに気づいた猛者達だってきっと色々やってるはずだしね、ってもう恋人とかになってるんじゃないの?」


 女性のその言動に、少女は泣きそうな顔をして答える。


「うう、そうなんです、お兄ちゃんの同級の桜子先輩なんかは中三の夏あたりに本気告白まで秒読みという感じでした、私はその頃に養子に行く事になったので、術をかけた後、あの二人がどうなったかは……施設の他の子の動向も判らないですし……お兄ちゃんはもうすぐ誕生日で結婚できます、今日見た夢のように結婚をしてしまい会いに行っても要らないって言われたら……ううぅぅ」


 少女は泣き始めてしまい、慌てた女性は立ち上がり座りながら泣いている少女を抱きしめた。


「大丈夫、だいじょーぶよ、貴方のお兄ちゃんは、そんな薄情な事しないと思うわ、最低でも小姑こじゅうととして受け入れてくれるって」


 少女の頭をナデコナデコとしながら女性がそう言った、少女は泣きやみ。


「小姑って……どうせなら嫁がいいです……」


「ふふ、もしお兄ちゃんに相手がいても高額納税者なら重婚OKなんだし、一杯稼いでお兄ちゃんに突撃しちゃうしかないわね」


 すっかり泣き止んだ少女は目をこすりながら立ち上がり宣言する。


「そうです、お兄ちゃんの一番最初は譲っても一番最高は譲りません! 早く見合いの話を持ってこい馬鹿本家がぁぁぁぁ!!!」


 女性は少女の両手を握ると。


「そうよ頑張れ姫乃ちゃん! お母さんは貴方を応援するからね!」


 女性と少女は手を繋ぎながら、少女は恥ずかしそうに笑い、女性はニコニコと笑みを浮かべる。












「所で姫乃ちゃん、術って例のスキルをお兄ちゃんに使っちゃったって事なの? まだ誰にも使った事ないって言ってなかったかしらー? お母さんの記憶違いかしらね?」


 少女はビクッとして一瞬逃げようとしたが、女性は両手を離さない。


「あああのその、御免なさい、あうあう……ワタクシ、ウソヲモウシマシタ」


「使った事がウソなのかなー、使ってないって事がウソなのかなー、そこに座り直してね」


 女性がにっこりと告げる、少女はビクビクと震えながらに椅子に座った。


 女性も椅子に座り直し。


「で?」


「……養子になって少なくとも三年以上会えない事に絶望した私は……お兄ちゃんに先天性スキルの一つ〈示唆〉を初めて使いました、黙っていてごめんなさい」


「よろしい、どんな内容か聞いていいかしら?」


「私が会いにいくまで絶対に死んで欲しくなかったので〈探索者として自分の安全を最優先にする、そして無茶はしない〉という内容をフルパワーでかけました」


「嘘はついてなさそうね、でもお母さんちょっと残念だわぁ、あの時はまだ信用されて無かったって事よね?」


「ごごごごめんなさい、お義母さん」


「今はもう違うのよね? 姫乃ちゃん」


 コクコクと頷き少女は続ける。


「今はもうお義母さんは私の大事な家族です……」


「ならよかった、もう一つの本家が欲しがった先天スキルは使った事あるのかしら?」


「施設に居た頃、菜園に少しだけ……」


「なるほどね、まぁいいわ、悪い事に使ってなければそれでいいの、お兄ちゃんには正直に言って謝るのよ? 内容が安全を最優先にだから見逃されたと思うんだけども、石板やダンジョン産のスキルを得て増えた魔力も使用していたとしたら先天性のスキルといえども一緒に剥奪される事もあるからね」


「神の意思とかいう奴ですか? 判りました気をつけます」


「それを理解してて子供を石板に触らせないは家系なんかもあるんだけどね……、まだ姫乃ちゃんには先天魔力と後天魔力の使い分けとか教えてないし……でも悪い事しないなら必要ないよね?」


「必要ないです! お兄ちゃんに顔向け出来ないような事をするつもりはありませんので」


「そのお兄ちゃんにもう術を使ってるけどねー」


 女性はそう少女を揶揄からかう。


「ううぅ絶対に謝るので許してくださいぃお兄ちゃん~」


「冗談よ、しかし大事な家族かぁ、それなら姫乃ちゃん、私昔から子供としたい事があったんだけども家族としてその夢を叶えてくれるかしら?」


「夢ですか? それはかまわないけど、内容は何なのお義母さん」


「叶えてくれるのね姫乃ちゃん! ありがとう、お母さんね子供と一緒にお風呂で背中の流しっことかしたいとずっと思ってたのよ~」


 女性の言葉を聞いた少女は焦って返す。


「ええ!? そ、その、もうすぐ高校生で一緒にお風呂はちょっと……、他に、他に叶えたい夢は無いですかお義母さん!」


「無いわ!」


 きっぱりと言い放つ女性、少女はその潔い言葉に内容を変更させる事は不可能だと察し諦めを籠めて返答する。



「あうう、わかり……ました」


「ふふ、今日の夜に一緒に入ろうね姫乃ちゃん、お返しに私がお父さんをゲットした恋愛戦争での戦術を教えてあげるからね」


「それは非常に興味あります! 待ってて下さいメモの準備をします」


 少女がワタワタと慌てて何かを取りにいき、女性は冷めていたお茶を捨て、入れ直す。


 女性と少女の雑談はまだまだ続く。










 帰宅した父親。


 義娘むすめにお義母さんの戦術はどうだったとメモ帳片手に聞かれ困惑をし。


 嫁と義娘むすめが仲良くお風呂に入るのをうらやみ。


 家族風呂のある温泉へ旅行に行こうと決心をする。






 と、何処にでもある平凡な一軒家の、普通なお話。









 たぶん家族風呂は義娘むすめに断られるだろう。








 ◇◇◇


 二章の、おまけ話は以上になります。


 感想や、☆で評価等よろしくお願いします。


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