第47話【閑話】神界の天使達

 そこは神界にある宮殿の一部屋、休日をのんびりと楽しむ天使が二人。


 絨毯の敷かれた床に日本製のちゃぶ台を置き、お茶やお菓子そして日本の情報誌等を広げて雑談に興じていた。


「じゃぁ貴方もうちの〈温泉マッサージ等癒し好き同好会〉に入るの?」


「ええ、日本の温泉文化は素晴らしい! 最初は服を全部脱ぐ事が恥ずかしかったけども、休日に貴方の誘いに乗ったのは正解だったわ、ビバノボリベツ!」


 二人は日本産のお菓子を摘みながら会話をしている。


「前は北米管区だっけ? あっちにも温泉くらいあるでしょうに」


「あっちは基本水着とか衣服着用なのよ、だからこう温水プールみたいで、気持ちいいんだけども……少しおもむきが違うのよね、言葉で説明するのが難しいわね……」


「へぇ~まぁ日本だとプールと温泉は別物だよね、気持ち良さの質が違うのかも? 向こうから日本管区に移って何か他に違うなーって思った事ある?」


「そうね……まずこれね」


 そう言って今食べているお菓子を指さす。


「お菓子? 確かに向こうの方が種類とか多そうだよね、砂糖の消費量とか日本より高いはずだし?」


「いえ種類の話ではなくてね、向こうはね味付けがはっきりしないと受けないの、甘いなら甘い、辛いなら辛いってね、日本の味はぼやけて感じる人もいるそうよ? 慣れると出汁が美味しく感じるんだけどね、なので向こうの物って味が尖っているのよ、お菓子とかすごい甘かったんだなとこちらに来て気づいたわ」


「そういえば貴方がこちらに来てすぐの頃にご飯一緒に食べたら、なんだこの味、みたいな顔してたっけか」


「食文化の違いね、まぁもう日本の味に慣れちゃったから大丈夫だけども」


 ふーん、とスティッククッキーをチョコでコーティングされた物を相手の口付近に差し出す天使。


 それをパクッっと食べるもう片方の天使。


「もぐもぐ、日本のお菓子は慣れるとすごく美味しいわよね」


「こないだダンボール二箱分注文してたものね貴方……」


「え、えーとね他に向こうと違う所だけどー」


「スルーされた」


「そう、仕事が忙しい時とか上司がデリバリーでご飯差し入れしてくれたりするじゃない?」


「ああうん、大天使様とかよくしてくれるねー、こないだの幕の内弁当は当たりだったね」


「ええ、毎回色々な種類で楽しいわよね……それに比べてね……向こうでも優しい上司が差し入れとかはしてくれるのよ? でもね……ピザとハンバーガーとドーナッツの三種のどれかって率が八割を超えるの……」


「えー? ピザとか美味しいじゃん、私好きだよ?」


「ならユーのご飯はこれからずっとピザだけね、今日の夜もピザね」


「いいよーピザ好きだし」


「明日の朝もピザね」


「うん、美味しいじゃんか」


「お昼も夜もピザね」


「う、うんお酒欲しくなっちゃうね」


「三日目の朝もピザね」


「えと、朝は別の物でもいいんじゃないかなぁ」


「その日のお昼と夜もピザね」


「あええと……その……」


「次の日の朝昼晩もピザね」


「あのごめんね、ちょっとその……ね?」


「ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ」


 天使が自分のヒジを指さし相手に聞く。


「この部分はなんて言う?」


「ヒジでしょう? 何? 馬鹿にしてるの?」


「大変申し訳ありませんでした、毎日ピザは無理ですごめんなさい、せめて隔日でお願いします」


「そうでしょう? せめて一日に一回だわよねぇ」


「んん?」


「どうかしたの?」


「イイエナンデモナイデス」



「まぁとにかく、上司に言われて日本管区に移籍して来たけれど中々居心地がよくて良かったわぁ……温泉も按摩も素晴らしいしね、次は何処に行きましょうか?」


「ふーん、スパイとして来たのに楽しめてるならよかったよね~、次はクサツとかどうかな?」


 ……。

 ……。


「……ちゃんと日本管区の上司にも報告してあるわよ? 北米管区だってそこまで本気って訳でも無いだろうし、情報がやけに封鎖されてるから気になってるだけみたいだし」


「そだね~、でもね? うちのみんなは、あの子の事が大好きで、消滅だどうのと余計な茶々を入れてきた北米管区には良い気はしてないからね、まぁ貴方個人がどうこうではないけども」


「信賞必罰は日本の言葉でしょう? 失敗したなら罰を受けるのは仕方ないじゃないの……、それに私はわざわざ探るような事をするつもりは無いからね? 消滅の話だってこちらの上が庇う事は織り込み済みで、貸しが一つ増えるとかそんな事だと思うわよ?」


「あの子の記憶をちんけな貸し一つの為に揺さぶって来た事を怒ってない天使は居ないわ、勿論貴方には関係ない事は判ってる、向こうのクソジジイ神族がやった事だってね、北米管区は天使の派閥が弱いから、で、次はクサツでどうかしら?」


「……そ、そうね、クサツでいいと思うわ……私ここの天使みんなに疑われてるの?」


「世間話のついでに情報を抜かれる事もあるでしょう? しばらくは向こうの友達とのチャット会話にも気をつけてね、それにね貴方とは友達になれそうだと思ったから忠告しただけの話よ」


「そうなの……かな、私も貴方とはお友達になれると……監視で近づいてきたの? あのね本当に本当に私は向こうの思惑なんて知らないからね? ほんとうに……」


「ああもう、だから忠告だってば、信じられないなら今度クサツで背中でも流してあげようか? なんなら頭も洗ってあげるわよ?」


「……フフ、日本のハダカのツキアイって奴ね、そうね私は行動で示すしか無いのよね、あの元上司わざと情報流して、揺さぶりに私を利用したと思うわ」


「なるほど、それはすごく有りそうだ、まぁ貴方は〈癒し好き同好会〉への入会許可が出た時点で大丈夫だと思うけどね」


「なんで同好会が関係あるの?」


「同好会員でかつファンクラブのメンバーのみが予約を取れるお店があるの、ま、そのうちとっておきの揉み屋に連れていってあげるね」


「ファンクラブ? 揉み屋? マッサージのお店かしら、ノボリベツの按摩さんも最高だったけども……」


「ふふ、格が違うって話だよ、まぁそのうちそのうち……ね、予約のくじ引きの競争に私が勝ったら……ね、くっ番号一個ずれていれば前回行けたのに……」


「信頼されればマッサージの上級職人に紹介してくれるって事かしら?」


「まーそんな所、でクサツのどの旅館に行く?」


 天使はちゃぶ台の上に開いている温泉情報誌を示す。


「そうねぇ、ご飯も美味しいと嬉しいわ」


「それならまずこことか、どうだろ」


「わー美味しそう、露店風呂もわびさびあって良い感じ……いきなり最強ボスが来たって感じね!」


「ふふっ甘いわね、そこは四天王の中でも最弱なのよ!」


「な、なんですってー!」


「さらにここ! そして畳みかけるようにここ! 最強の中ボスがここだぁ! そして裏ボスがここよ!」


「こっこれは手強いわね、選ぶなんて無理じゃないの! ……日本の温泉旅館は魔境だったわ……こんな感じの情報を向こうに流しておけばいい?」


「ふはっ、いいね、それでいこうプククッ」


 二人の天使は新たなお菓子の封を開け。


 仲良く笑いながら相談に興じるのであった。



 今日も神界は平和だ。







「四天王なのに五か所以上あったんだけども……」


「それが日本の作法なのよ、秘儀必ず一つ以上多い、と妖怪一足りないは日本の名物ね」

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