第46話【閑話】サキュバスの集い

 そこは地獄、サキュバスの一氏族が治めている土地だ。


 大きなお屋敷の広間に仕事終わりのサキュバス達が集っていた、地上ではそろそろ朝日が昇る時間だ。


 柔らかそうな絨毯の上に直接座り雑談をしているサキュバス達。


『今日は外れだった~天使がすぐ来るんだもの』

『あららご愁傷様、こっちも外れ、好きな子が居るんだってさ、ま、フラれたら連絡してねって契約魔法陣めいし置いてきたけどね』

『ふふふ、残り物には変態があったわ、ご馳走様です』

『いいなー、こっちにも天使がきたよー、最近見回り増えてない?』

『あーそれね、なんでも三月終わりは悪魔撲滅週間とかで天使のノルマが上がってるとかなんとか』

『ノルマとか……天使は天使で大変なんだね……私サキュバスでよかった』

『うちらにも営業目標はあるじゃないの』

『そういえばそうだった、楽しんでるから仕事なの忘れてた、てへっ』


 ワイワイキャイキャイと広間の中はかしましい。



 部隊長、そしてポニーテールのサキュバスが扉を開けて入ってくる。


 サキュバス達は雑談を止め、二人に床に座ったまま向き合う、部隊長が少し前に出て語る。


「みんなお仕事お疲れ様だ、今回仕事終わりの者を集めたのは皆に伝えねばならない事が出来たからだ、内容はこの地上調査部の者に語ってもらう、皆静かに聞くように、では頼む」


 そう促されたポニーテールのサキュバスは皆の前に出ると語り始める。


 ――


 伯爵が地上で消滅した事

 氏族長が伯爵の一族に確認を取り末妹の派遣契約の終了を確認した事


 末妹が地上で男の子と、偽装用に変化していた妖精として本契約している事

 サキュバスとしての契約は今はしていないが、いつかする気があるようだという事


 私達が末妹にしていた事が苛めだと思われていた事

 それを、男の子が誤解を解いて仲直りの切っ掛けを作ってくれた事


 男の子が人間でなく神と悪魔両方の力を持つ事

 守護天使も末妹と一緒に男の子の側に居る事

 末妹が男の子に大事にそして必要とされている事


 そして何故か揉み屋を始めるのでお客になりませんかと守護天使に誘われた事


 ――


 ポニーテールサキュバスの話が一旦終わり。


 それらの話を聞いたサキュバス達の反応は。


『ええ~? 末妹ちゃんに苛めだと思われてたの? すごいショックなんですけど』

『サキュバス的なテクニックを教わるのが嫌なんて……そんな子もいるのね』

『好みの変態じゃないから断ってたんじゃなくて、本当に嫌がってたのねぇ……』

『どーしよう私嫌われちゃったらいやなんだけど』

『私も、謝りに行きたいかも』


 そこへ部隊長が口を出す。


「だから言ったろうが、あの子は嫌がってるって、幸い誤解は解けたみたいだし、今度会ったら謝っておけ」


『『『『『『はーい!』』』』』』


『それでそれで、その男の子はどんな子なの? あの子が懐いているなら白馬に乗った王子様みたいな感じ? ワクワク』

『末妹ちゃん夢見がちだからねぇ……』

『誤解をといてくれたなら悪い男じゃなさそうよね?』


 その質問にポニ子さんは。


「王子様なイケメンでは無いわねぇ、可愛らしくて優しそうって感じかしら? で末妹ちゃんとお互いケーキをアーンして食べさせ合ったりしてたわよ、末妹ちゃんはご主人様って呼んでたわね」


『キャーなになに、もうサキュバっちゃう寸前じゃないそれ、末妹ちゃんやるぅ』

『もう恋人よねそれ、あれ? アーンって何処かで聞いたような……』

『部隊長のマニュアルだ! 末妹ちゃん信じちゃってるんだぁ……お友達の章の奴』

『あーあれね、って相手の男の子は誤解してるかも? すれ違いで末妹ちゃんが悲しむのは嫌だなぁ』


 ポニ子さんが補足する。


「それは大丈夫、私にもアーンしてきたから、どうもね、ご主人ちゃんはその行為をサキュバスの文化だと思ってるようなのよね、恥ずかしいだろうに末妹ちゃんに合わせてくれる優しさ、良い男よねぇ……しかもかなりの技持ちで〈ゴットマッサージ職人〉らしいわよ、ふふ、私は契約魔法陣めいしを渡したし、末妹ちゃんの許可の元、精力の味見も済ませました、味がやばかったです……」


『ポニ子姉さん調査部だよね!? それが営業しかけるって相当の事だわね』

『文化と勘違いか……あれ? それって私もご飯一緒にしたらアーンして貰える?』

『ふぉぉ! それはやばいわね! 私達のお客ってあまり段階を踏まないから……アーンいいなぁ、ちょっと興味ある』

『あれ? 調査部のポニ子姉さんが良い男判定したなら……サキュバスの掟一条!』


『『『『一条!』』』』


『良い男は?』


『『『『共有すべし!』』』』


『共有すべし! ってキャー私達も良いって事じゃない、部隊長! 私営業行っていいですか~?』『私も私も』『え、じゃ私もアーンしに行く!』

『末妹ちゃんに会いたいしね』『ポニ子姉さん場所教えて下さい』

『後ご主人ちゃんが好きそうな恰好も教えて~』

『やっぱセクシー系?』『いやいやここは僕がケモミミで』『じゃぁ私ゴスロリ』

『私レースクイーンで』『私は水着で!』『ふっメイドに勝てる訳もなし』

『男の子でしょう? 格闘ゲームキャラのコスとかどうだろ』

『恋愛ゲームの眼鏡図書委員系とか?』『男の子ってコスプレ好きだものねぇ』

『じゃ私BLゲーの男装で』

『『『え?』』』

『ずるーい私も行くー』『みんなで押しかければ一人くらい好みが合うかも?』

『さんせー』『いざいかん~』『これは盛り上がってきました~』


 部隊長が手をバシバシと叩き合わせ皆を鎮める。


「みな落ち着け、いくつか話す事がある末妹の処遇だがこのまま地上に置いておく事にした、あの子の技術の高さの情報が洩れているようだし、地上のしかも守護天使のそばにいる方が安全と思われる、末妹も地上に残りたいようだしな、それとそのご主人君についてだが、積極的な営業は禁止だ、末妹に優先権があるとみなし、あの子がサキュバるまで待ちなさい」


『ええー? そんなのいつになるか判らないじゃないですかぁ』

『末妹ちゃんなら十年後とかも十分ありえるんですけど……いやもっと?』

『部隊長それは無いですよぉ』

『入れ込んでる子も多いわね、アーンがそんなにいいのかしら?』

『どうなんでしょう? そのご主人ちゃん変態かしら? 違うなら私は別に……』

『あ、私ご主人ちゃんの技の威力や味を知りたいんですけどぉ』

『確かに、それは知っておかないといけないね!』


 ポニ子さんはそれに答える。


「うーんとね〈ゴットマッサージ職人〉であるご主人ちゃんの手を握ったらね」


『『『『うんうん握ったら?』』』』


「一瞬だけど天国に連れていかれました、ポッ」


 ポニ子さんは両手で頬を挟み顔を赤らめている。


『……え?』『またまたぁ、冗談ばっかり』『手を握っただけでそんな……ねぇ?』

『もうポニ子姉さんってばおちゃめなんだからぁ』『熟練のサキュバスがそんなそんな』『えーと……』 『『もしかして……』』 『『『本当に!?』』』


 こくりと頷くポニ子さん。


『ええええええええぇっぇぇ』『うっそでしょう……』『ポニ子姉さんが、え? それやばくない?』『ごくりっ』『どどどどどうしよう、ポニ子姉さんみたいな熟練のサキュバスが……私耐えれるかな?』『私やっぱり行きます』『そうねそれは確かめにいかないと行けないね』『変態じゃないなら私は別に……』

『まってまってまだ味の事を聞いてないよ』『そういえばそうだった』『まぁ技の事で十分だけどね』『味なんてだいたい一緒だもんねぇ』『そうそう、苦いか甘いか酸っぱいかってね』


 そのサキュバス達の反応を聞いたポニ子さんは薄っすらと笑みを浮かべ。


「ご主人ちゃんは人間ではなく神と悪魔両方の性質を持つ、つまり……」


『『『……つまり?』』』『もったいつけないで下さいよ~ポニ子姉さん』


「神の善なる甘さやコクの中に悪魔の悪たる酸味や苦みが加わるの、その比率が絶妙なのよ、私ね今まで数多くの色々な味を知ってきたわ、その中には勿論人間だけでなく悪魔や神聖な者すら居た、その中でも一番美味しかったと記憶している時の味と比べてもね……」


 ポニ子姉さんはセリフを途中で止めサキュバス達を見回す、サキュバス達は誰一人口を開かず続きを待っている、複数の唾を飲みこむ音だけが広間に響く。


 そして。


「数十倍美味しかったわ! あまりの美味しさに我を忘れちゃってね、つい固有結界を張ってしまいました、恥ずかしながらあの時天使が来なかったら、ロングパスからの速攻でゴールを決めてたでしょうね、しかもハットトリックは確実だったわね、危うく末妹ちゃんとまたケンカしちゃう所だったわ、天使に感謝ね」


『『『『『うっそでしょう……』』』』』

『やばいそれはやばいって』『上級サキュバスのポニ子姉さんが我を失う味? それもう毒では?』『あ、じゃぁ貴方はパスなのね、私は行きます皆の為にも犠牲になりにいきまーす』『行くに決まってるでしょう!』『そうそう一生に一度あるかないかの味って事だよね』『だよね! だよね!』

『ふむ……性癖なんて私が歪めてあげればいい事でしたね、行きましょう!』

『レジェンドが腰を上げてしまった!? ご主人ちゃんにーげーてー』

『でも営業は駄目なんだよねぇ?』


 そこで部隊長が話を始める。


「うむ、いつものような営業は駄目だ、末妹に優先権があるからな、しかしそのご主人君は今日から揉み屋を始めるらしい、そうだな?」


 ポニ子さんは頷く。


「なれば客として行くのは認めよう」


 サキュバスから歓声が上がる。


「そしてな、体を張った営業は認めないが、ご主人君がお前らに惚れるなら話は別だ」


 そう部隊長は言うとニヤリと笑いさらに続けた。


契約魔法陣めいしを渡す事は認めよう、相手から連絡してくるならいくらでも契約していい、しかし裸で迫るなどの直接的な誘惑をするのは禁止だ、お前らはそんな突撃しか出来ない脳エロか? 一人の男の子すら惚れさせる事も出来ないのか?」


『『『『『出来ます! やってみせます!』』』』』


『『『『『相手の心に寄り添い望みを察するのがサキュバスです!』』』』』

『『『『『自分も惚れて相手にも惚れさせるのがサキュバスです!』』』』』

『『『『『体だけではなく相手の心も満たすのがサキュバスです!』』』』』


 満足そうに頷く部隊長。


「そう、その通りだ我らサキュバスはただ性を押し付けるなんて事はしない、相手に求められそして自分も求めるプロだ、ならばご主人君を惚れさせてみせろ、その為なら本気で惚れろ、お前らなら出来ると私は信じている、末妹とご主人君の件はこの場に居ない物にも周知する、それとご主人君のサキュバスの文化の勘違いはそのままにしておけ末妹の為でもある、後は揉み屋の事とご主人君の話はポニ子に聞け、以上! 解散!」


 部隊長はそそくさと扉から出ていく。


 わーとポニ子の周りに集まるサキュバス。


「ちょ、部隊長それはずっこぃわよー、まってまって話なら聞くから順番、順番にじゅーんーばーんー」


「ええそうね、一日八人までで、もう一週間分の予約を入れた人もいるそうよ」


「それは今日の午後からね、私も予約を入れたわ、え? 予約の仕方はまだ決まってなくてね……いや直接は……どうなんだろう? それは迷惑に、まってまってえーと午後は五人で二人埋まってるから、でも他にいるかもだし、ええと……それは基本くじ引きかしらね? あ、でも最初は末妹ちゃんに謝るべき子が先かな?」


「私? 勿論情報提供者として優先権を主張するわよ、あーあーきーこーえーなーい、それに私が見つけなかったら末妹ちゃんは未だに貴方達を恨んでいたかもなのよ? はい、よろしい、偶然? さてどうかしら、うふふふ何せ私は幸運もってるサキュバスだからね」


「それに貴方達地上のお金持ってないでしょう? 私? って全員分貸せる訳ないでしょう! いや、ちゃんと氏族長に相談するから、ね?」


「ご主人ちゃん? んーと私のこのコスプレのおへそと胸はよく見てたわね、脇とかは別に足は少し? まぁ普通の男の子の感性だと思うけども、ただちょっと精は神の器でしょう? すべて埋まらないと冷静さを失わないんじゃないかなぁ? うんそれは末妹ちゃんが管理してるからね無理ね」


「ああ! そうね! 末妹ちゃんあれが普通だと思ってる可能性あるわね……どうしよう? ……まぁいいのかな? すごいグルメな子になりそうね……ご主人ちゃん以外無理になるんじゃぁ、……これはもう末妹ちゃんの事はご主人ちゃんに責任取って貰うしかないわね」


「そうねぇ清楚系は有りだと思うわ、私たちの種族を知ってるからギャップ萌えは十分響くわね、え、しょうがないわねぇ貸してあげてもいいけど勉強部屋に地上のファッション誌があるでしょう? 仕立て屋に頼むのもありじゃないかしら? さすがに全員分買ってあげる予算は私のお財布には無いわよ」


「アーンの作法? そんなの知らないわよ! 私だって恥ずかしかったんだから……滅多にやらないしね、うーん、おやつとかご飯を差し入れれば出来るんじゃないかしら?」


「守護天使? あー見た目は妖精なんだけども……、怖くなかったわよ話してみると面白いし、ご主人ちゃんとは息が合ってたわね、末妹ちゃんのライバルね、いや……そんな感じでは無いかも?」


「ええ? 明日じゃだめ? うーん私もそんなに余裕は、あーじゃぁ三人娘が先ね文句言わない事、私今日の午前は地上でお仕事だから早めに行くからね? 話は後一時間だけ、寝たいなら私の地上の部屋で寝てください、ん? 私は一睡もしないんだけど? はい、よろしいじゃそういう事で」




 広間での話はまだまだ続く。


 サキュバスのかしましい日常は今日も続いていく。

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