第45話【閑話】ある天使の独白

 私は地上で勤務をしている不運ついてない天使、たまに料理をしようとすれば、スーパーで買ったピーマンを包丁で切ると中からイモムシが大量にコンニチワする。


 大好きな甘栗を買って皮から実を外すと、やはりイモムシとコンニチワ、ピーマンの時は動いていたけど甘栗の時は栗と同じ色になってて動かなかった、甘イモムシね。


 仕事でも不運はついてくる、何故か私が見つけるのは悪党ばかり、雑魚悪魔と結託し嘘ばかりつく人間の相手は辛い、サキュバスでもいいから幸せな状況を見たい。


 私の分だけ足りなくなる数や状況がちょくちょくある、旅行やマッサージが唯一私に癒しをもたらしてくれる。


 これでもし癒しを求めた旅行先の温泉が枯れていたりしたら……私は……堕天してしまうかもしれない……。





 いつものように悪魔の魔法波動を感知しつつ処理をしていくお仕事、力の弱い雑魚悪魔は結界を通り易いとはいえ、やつらは本当に懲りずに地上に来る。


 そして退治した後に事情を聴くと悪魔と契約をするような人間は嘘ばかりをつく、疲れる、心がすり減るのが判る。


 次のお休みにまた一人で温泉に行こう、旅館の従業員が一人旅を変な目で見てくるのは辞めて欲しいが、温泉と按摩あんまのセットはこの地上での天国だ。


 旅行の事を考えて少しだけ元気の出た所でまた悪魔の波動を感知する、これはサキュバスかな? 私がサキュバスに遭遇するなんて珍しい、隠蔽いんぺい術を使い発生源へと急行する、マニュアルで決まっているのでインターフォンを押してから突入する、返事なんて持ってられない。


『こんにちはーお邪魔しまーす』


 やっぱりサキュバスか、さようならと言いつつ魔法を即撃たずに、弾を出現させ手の前で待機させる、サキュバスは転移で逃げていった、雑魚悪魔もこうなら楽なのにね……。


 部屋の中には男の子と、妖精が二体もいる!? 上級……いえ部屋がシンプルだし中級探索者かしら? 戦力がいるなら稼ぎもいいだろうし女の子にもモテるでしょうに、なんでサキュバスを受け入れちゃうのかしら?


 まいいわ、マニュアル通り結婚相談所を勧めつつ話を……って〈底なし腹〉って事は、あー失敗した、さっきのサキュバスには謝らないとね。


〈底なし腹〉の意見になるほどと頷きつつ聴取させて貰う、天使の力を使っちゃったし、報告書あげないと経費リソース出ないのよねぇ……。


 虚偽を感知する魔法を使ってから説明を求める、この人間もまた嘘をつくのかしら……、何故か〈底なし腹〉が説明をしてきた、嘘はついてないんだけども、どうにも違和感が有る、どうせまたドッキリとか仕掛けてくるんでしょ。


 まぁいいわ、平和だけど何事も無い神界では〈底なし腹〉が起こす騒動が楽しみの一つだったしね、守護天使になって神界を離れる事に残念がる子も多かったし、何をやりたいか判らないけど話に乗ってあげる。


〈ゴットマッサージ職人〉って何よ、まったく冗談が……ってあれ? 嘘をついてない?  え? え? ……もちょっと詳しく聞きましょう。


 サキュバスが気絶するマッサージですって!? ゴクリッ、う、嘘をついてない? ……こ、これは〈癒し好き同好会〉の会員として試すしかないわね。


 まさか! 予約が取れない程人気が!? 


 相性が必要、はい握手くらいならって……そんな……私に資格が無いって、嘘ついてないし……グスンっいいのよどうせ私は不運ついてない天使だもの……。


 え? えー? こんな不運ついてない天使の私を精一杯褒めて感謝してくれてるなんて……、しかも一切嘘が無いし本気で応援してくれてる、なんだかこそばゆい、冷えていた心が温泉に入ったようにポカポカしてくる、こんな男の子も居るんだなぁ……、いいなぁ側に居れる〈底なし腹〉が羨ましい。


 私が平和を守ると宣言したら拍手をしてくれた、私を見る眼がすごく優しい……。


 え? もう一度握手するの? えほんと? 相性が! こんな幸運私に来るものなの? これはお願いするしかない!


 ってキャー何この値段、私の癒し旅行十回分くらいあるじゃない……うう……やっぱり不運ついてないなのかしら私は……。


 あ、あ、登録代行します、私がやりまーす、ちょっと待ってくださいね、貸しのある天使は一杯いるので!


のぼる天地のもみほぐし屋〉ね、天国にのぼるような心地って事かしら? ワクワク、ああ地上は資格やら免許やら面倒だよね、上司の天使と国家公務員に繋げて処理をして貰う。


 登録が終わりモバタンを使って先生に説明する。


〈底なし腹〉が提示した値段はさすがに高い、値段交渉をする、エステとかだと八十分とか当たり前だし、二十分でこの値段ならいいかな?


 まぁ神の手なんて言ってるけどちょっとマッサージが得意とかそんなんでしょ、ここは〈底なし腹〉のイタズラに乗ってあげるわよ、少し楽しいしね、ふふ。


 無料! さすがに素人でお金は取る気ないのかな? ワクワクしながら施術を待つ、あらこのスライム枕いいわねぇ私もテイムしようかしら。


 ふふー、私のマッサージへの評価は厳しいわよ、百点満点で評価しちゃうんだから覚悟なさい、結果は同好会に提出しようっと。


 あー始まった、うん技は拙い感じだけども真剣にやっているのは伝わって来るわね、プラス十点。


 あーそこそこ、雑魚悪魔探して移動しまくるから疲れるのよねぇ、ほぁーこれは中々、プラス十五点。


 っていいぃぃぅ……ほんとに神の手ってこと? はうぅ、くぅ、ぷらすにじゅってん~。


 技は拙いのにあんでぇ……あにゅぅ……こりぃわぁ……だめよぉ……ふぉ、ぷ、ぷらすにじゅってん~。


 ぷらすぅぅぅ……むにぃ……ぽかぽかおんせん……ふぐぅぅ……。



 いつものように雑魚悪魔を倒す、天使キックを食らえ! そしてお休みだ! 旅行に行こう。


 そう温泉はこんなにも気持ちいい心も体もポカポカする、肌はピチピチに、綺麗になればいつか出会いがあるかも、なーんて――


 う? つめた! なに! なに!? え? 背中に氷! 〈底なし腹〉! こういうのは駄目でしょうに、ってあれ? 私寝てたのか……。


 そうお試しの途中で寝ちゃったのね、えっと先生の名前が変わってるけど職人名とかかな? そうモミチロー先生ね、うん絶対忘れない。


 技は素人だけどその効果は神の名に恥じなかった、またお願いしたい、ドッキリで一回きりって事はないよね? またそんな不運ついてないはいやだよ……。


 予約取れるの!? します、マネージャーさんどうしたら!?


 ええ? 一週間も! まさか……私に……幸運しあわせが降りて……きた? そ、そんな事……ありえるの? 


 ぜ、全日程で予約を、あ、仕事が……。


 上司と知り合いに頼み込んで一週間夜番にしてもらった、ちょっときついけど、大丈夫、天使は二週間くらいなら寝ないで働けるから! 癒しがそこに待っているのなら私はまだまだ頑張れる。


 うわぁ値段がすごい安く、どうせマネージャーさんは最初からこれくらいの値段にしようとしてたんだろうね、紹介割引かぁ……同好会に紹介、いやそれは私が予約取れなくなりそう、今回登録や仕事時間変更で借りを作った同好会員何人かに紹介してみようかな。


 モミチロー先生はまだまだ技が拙い、だけどそれはお客を取る事で育っていくはず、舞台役者が観客の反応を得る事で磨かれていくように、モミチロー先生も私達の反応を見る事で腕を上げていくでしょう。


 今でさえ素晴らしい効果なのに腕も伴ったら? ゴクリッ、それはまさしく神の……。


 ああ……モミチロー先生は心根も素晴らしい男の子でした……、恐らく〈底なし腹〉の無茶ぶりだろう事にも付き合う優しさ、私達お客を想う誠実さ、そしてその神の癒しを目指せるだろう資質、貴方に出会えた運命に感謝の祈りを捧げずには居られません。


 ――


 つい真剣に祈ってしまいました、恥ずかしい。



 ってえええぇぇぇ、私が非常に美しいって、眼の保養って……。


 この人の言葉にまったく嘘がありません……では本当に非常に美しいと?


 恥ずかしかったので、ついつい急いでお部屋を出てしまいました、もう少しモミチロー先生とお話しすればよかったです、でも仕事もしないとだし、むー。


 残業の哨戒任務中にもつい考えてしまう。


 先生の隣に居たらいつでも揉まれ放題、癒され放題なのでしょうか、〈底なし腹〉が羨ましい……私が守護天使に立候補したらモミチロー先生は受けてくださるでしょうか?


 いえ職人としてでなく……。


 不運ついてない天使の私に幸運しあわせもたらしてくれた一郎君の横に居る事が出来たら……。


『貴方は非常に美しい、どうか俺の側に居て下さい』


 なーんて、なーんて、んもう困っちゃいますよ~一郎君。


『美しく可憐な貴方に、俺は一目惚れしてしまったんです、俺の守護天使として一生添い遂げて頂けませんか?』


 ど、どうしようそんな事になってしまったら……。




 ……なんてね、不運ついてない天使の私にそんな事がある訳ないとは知ってるのよ……、でも、モミチロー先生が一流の、そして神の揉み職人になるまで側で見てるくらいならいいよね?



 だって私は運命に、いえ、運命の相手に出会ってしまったのだから。



 私に少しでも幸運しあわせを見せた貴方が悪いんです。


 覚悟して下さいね? 一郎君。












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