第43話 イチロー新職を得る

 そう言って何やら魔法を発動させつつ床に座る金髪天使さん。


 ポン子が言うには。


「嘘を感知する魔法ですね、地上にも似たような効果のスキルがスクロールとしてばらまかれてるはずですよ、魔道具なんかも」


 金髪天使さんは準備が整ったのか。


「ではサキュバスと何があったのか教えて下さい」


 なんと言って答えようかと少し考えていたら、ポン子が代わりに答えてしまった。


「イチローに営業をかけたサキュバスに、イチローが〈ゴットマッサージ職人〉である事を告げ相手は驚愕に息を飲み、イチローの力に驚き、神の手であるイチローの手を取るもしばらくしてから余裕を無くし、最終決戦になる寸前で天使の貴方が来て終わりました」


 ふー大変な勝負でしたと垂れてもいない汗をぬぐっているポン子。


 なんだろう間違っちゃいないんだが、時系列がおかしかったり、削られてる部分があったり……。


「嘘はついてませんね報告書の為とはいえご協力有難うございます、しかし〈ゴットマッサージ職人〉って何ですか?」


 おい、やめとけ聞かない方が絶対いいってば、ほらポン子が嬉しそうにしてる。


「そのままの意味ですよ、神の手によるゴットマッサージ職人です、その手は心と体を癒して幸福へ導き、さらには雷のごとく安らかな睡眠をもたらします」


 こ・い・つ・は! 嘘を一切ついてないのに印象がまったく違うとか詐欺師の才能あるんじゃないだろうか……。


「……嘘ついてないですね……そんなにすごいマッサージなの?」


 金髪天使さんが食いついておられる。


「イチロー神の名にかけてすごいですよ、サキュバスが気絶するくらいには……ね」


 俺を勝手に神にするな、リルルとお前が気絶したもんな、何がすごいとは一切言ってないなこいつ。


 ごくりと唾を飲んだ金髪天使がポン子に。


「あの、そのゴットマッサージというのをやって貰う事は出来ませんか? 私よく休みの日に温泉に泊りがけで旅行に行って按摩あんまさんとか頼むのが趣味なんです、普通にエステとかも通ってますし」


 ポン子はすちゃっと眼鏡を装備し、そんな装備何処からってリルルからコスプレ用のを借りていたんだろう事は判った。 


 その独特な赤いリム眼鏡って、昔の戦隊ヒーロー物に出てきた作中で眼鏡地味ピンクと呼ばれているのに、美人過ぎて何処が地味だって突っ込まれてた人がかけてた奴だろう? 施設でみんなと見たわ、私服のピンクにレッドが気付かないで惚れる話とか超面白かった。


 眼鏡をかけたポン子……マネージャーって意味かな? が金髪天使に語り掛ける。


「そうですねぇうちのイチロー先生は中々予約が取れないんですよねぇ」


 そりゃ今まで予約なんて取った事ないしな、取れる訳がねぇ。


「そうなんですか、ちょっとお試しとかでも良いんですけども……」


「それにイチロー先生と相性がよくないと効かないんですよ、イチロー先生を信じ親愛を持って接する事が出来ないと難しいかもしれません」


 ああ、〈ナデポ〉って俺に好意が無いと発動しないんだっけか、ポニテ姉さんはリルルの件で好意が芽生えたのかな? 好意ってどれくらい必要なんだろな?


「相性? さすがに神の名を関するゴットマッサージだとそんなのも必要なんですか……私はどうすれば?」


 金髪天使さんが前のめりになってポン子に聞いている。


「相性を見てみるのでイチロー先生と握手をして下さい」


「はい、先生お願いします」


 何故か先生にされた俺、金髪天使さんの差し出してきた手を握る〈ナデポ〉は発動してない感触だな、ポン子を見て顔を横に振る。


「イチロー先生と相性が悪いみたいです、残念ながら神の手によるゴットマッサージを受ける資格が貴方には無いようだ」


「そ、そんな……やはり私は……神の名が付くゴットマッサージ……受けたかった……」


 手を離して肩を落とす金髪天使さん。


 その神って俺が神格持ってるってだけの意味で言ってるよなポン子。


 ポン子が金髪天使さんを慰めながら俺に問いかける。


「相性は変わる事もあります元気出して下さい、それはそうとイチロー先生、地上の天使達は日々雑魚悪魔達の排除に忙しいのですがそれをどう思いますか? それこそ温泉旅行にでも行かないとストレスで倒れそうなくらい頑張ってる訳ですが……」


 あーさっきの旅行云々はストレス発散も兼ねてるのかぁ、雑魚悪魔は人間を不幸にするって言ってたな……俺の妹やらも雑魚悪魔に遭えば……考えたくもねぇな。


 真っすぐ金髪天使さんを見て語り掛ける。


「いつもお仕事有難うございます金髪天使さん、貴方達の働きの御蔭おかげで俺たちが平和に暮らせている事を今気づきました、人間にばれないように活動しているのでしょう、そのとうとい働きを今まで知らずに居たことを恥ずかしく思うと共に天使のみなさんには感謝の気持ちで一杯になりました、これからもお体に気をつけてお仕事頑張って下さいね、俺は貴方達の事を応援してます!」


 笑顔でそう金髪天使さんに伝える事にした、少しでも感謝の気持ちが伝わればいいんだが……。


 金髪天使さんは何故か少し挙動不審になり、そしてポン子は笑顔だ、何故かすごく嫌な気がする笑顔だ。


「え? 嘘がまったく無い? い、いやその……こんなに真っすぐ感謝の気持ちを伝えられた事が今まで無かったのでその……照れますね? ふふふ、んんっはい! 任せて下さい! 人々の安寧あんねいと平和を守るのが我らが天使の役目です! 貴方達……いえ貴方は人間じゃないかもしれませんが、人の生を楽しむ間は人間として必ずや幸せに過ごせる平和を守ってみせます!」


 おーカッコイイとパチパチパチと拍手をする、ポン子もリルルも一緒に拍手をしていた、リルルは天使が来てからすごい大人しく無言だったが、やっぱ天使が怖いんだろうか。


 どーもどーもと顔を赤らめている金髪天使さん。


「イチロー先生もう一度握手をして下さい」


 とポン子が促してきた、なんでや? が天使さんに手を出すと、天使さんもまたやるの? といった顔をしながらも握ってくれた、あ、〈ナデポ〉発動してらぁ……。


 え? さっきので好意が生まれた? 俺はただ素直に感謝の気持ちを伝えただけなんだが? 好意ってのは恋愛的な物でもないくらいでも良いって事なのかな、ポニテ姉さんの事でそれは判ってはいたんだがこれで実証されてしまったな。


 ってまってポン子さん、貴方これを予想して俺にさっきの話を振ったのか!?


 ポン子を見る、あいつは何かを察したのかニヤっと笑いやがった。


 ポン子さんやべーっす、リルルは天才だが、ポン子も違う方向で天災だわ。


「どうやら貴方はイチロー先生との相性が良くなったようです、どうしますか?」


「ほんとですか! お願いします! 神のマッサージとやらをして下さい!」


「では料金はこれくらいで」


 とポン子が魔法モニターを見せていた、金髪天使さんの顔色が青くなった。


「いやこれはちょっと……私の一泊旅行費全額の十倍はするんですけど……」


「これは困った、実はイチロー先生はもぐりでして、個人事業登録をしてないんですよねぇ、登録してあれば値段も決めやすいのですが」


 そりゃそもそもそんな仕事した事ないんだから登録なぞしてる訳もなく。


「あ、それなら私が今登録しちゃいますよ? 大丈夫、天使は国にも繋がりを持ってますので、それくらいちょちょいのちょいです、個人事業ですよね? 三十分ください即登録してみせます、不正でなく只登録をするだけなら軽いもんです」


 ええ、ちょっと待て本当にそんな事するのか、ポン子を止めようとするが、あいつがすごく真剣な顔で俺を見てくる……何か意味があるのか? あいつを俺は信じる事ができるか? 悩む必要もないな、ポン子が必要と言うのなら必要なのだろう、コクリと頷いてみせる。


「イチロー先生、探索者カードとモバタンを委任状態にして天使に渡して下さい、事業内容は〈リラクゼーション〉〈ツボ押し〉〈もみほぐし〉等でお願いします、治療を伴うマッサージ行為はしません、それと屋号は〈のぼる天地のもみほぐし屋〉でお願いします」


 ポン子にそう言われた通りに金髪天使さんに渡す。


「国家資格をお持ちで無いのですね? まぁ人の世なら仕方ありませんね……、お預かりします先生、じゃぁ同僚に連絡とかあるのでちょっと玄関の方でやってきますね」


 そう言って玄関口あたりで魔法モニターを出したり自分のモバタンを使用して何処かに連絡をかけたりしている金髪天使さん、三十分かかるんだっけか。


「なぁポン子どういう事だ?」


 小さめの声でポン子に聞いてみる。


「〈マッサージ師〉は国家資格が必要なんです医療行為でもあるので、ですのでイチローがやるのはあくまでも〈もみほぐし〉です、痛みを覚えて来た人はお断りして病院なりに行く事をお勧めしてください、ちなみに屋号はお店の名前で略すと昇天屋になります、神の手に相応ふさわしいですね」


「いやそういう意味で聞いたんじゃなくてな? 判ってるんだろうポン子? 勿論俺がやるのはマッサージという言葉を使ってても実際は〈もみほぐし〉だという事も大事だが」


 ポン子は頷くと。


「イチローは一週間スライムダンジョンに行けません、その間の収入はどうやって確保するつもりでしたか?」


 本部の調査がってやつか。


「そりゃお前、他のダンジョンに行こうかなって、勿論モバタンで情報を集めてからな」


 ハァッと溜息を吐きながら返すポン子。


「装備はどうするんですか? お昼ご飯の時にモバタンで調べましたけど現状の資金ではまともな物は買えません、私達妖精以外に仲間が居ないイチローが命を賭けるんですよ? 一本の棒と魔法の付与されてないツナギで行くとか言わないですよね?」


 装備の事なんて……って昼飯食った店でモバタン弄ってたのはそれか、てっきりアニメとかかと……。


「それなら俺らは一週間お休みでもいいんじゃ? 幸い飯代くらいなら問題ないし」


 ポン子が俺の肩にフワフワと飛んできて座り、耳に口を寄せ小さい声で話す。


「お休みにするなら別の商売で稼ぎましょう、失敗しても死ぬ訳じゃないちょっと恥をかくだけで済むんです、命を賭けない稼ぎ口があってもいいじゃないですか、あの天使は神界でも温泉やマッサージ好きで有名なんです、釣れると思いました」


 俺も小声で返す。


「俺マッサージのやり方なんて、施設員のお姉さんにやった肩もみくらいしか知らんのだが、すごい肩がこるとかで肩もみには自信あるんだが」


 ポン子がさらに返す。


「何故肩がこりやすいのかは聞きません、自身にダメージ入りそうなので」


ポン子はそう言ってさらに話を続けた。


「今日はなんとか高出力〈ナデポ〉と〈マラカス〉の睡眠付与でごまかします雷は極小威力なら電気マッサージ機みたいなものですし、初回体験で時間を短くとか私がなんとかしますから、それが終わったらモバタンで情報収集と特訓ですからね、あの天使に認められれば他の天使も勝手に釣れます、それからポニ子さんにも契約魔法陣めいしで連絡して客を紹介して貰いますからね」


 ポン子さんがすごいやる気を出しておられる、まぁ俺の命の為と言われたらやるしかないか、でも。


「俺探索者なんだがなぁ……」


「イチローは探索者として強くなる事が生きる目標なのですか?」


「ん? いや幸せに楽しく暮らせれば、まぁいいかな?」


「なら戦う以外の事を経験してみましょうよ、のんびり稼いで良い装備を買ってから他のダンジョンに行くのでもいいし、蝶へと至る道は一つじゃないですよイモムチロー! いいえ、揉み屋職人モミチロー!」


また新しい名前を貰ってしまった。


「まぁ寄り道も有りかもしれんな、ちょっとやってみるか、そしてやるからには神の揉み屋職人を目指す!」


「それと大事な事なのでもう一度言います、私たちが使う〈マッサージ〉という言葉は国家資格の必要なそれではなく、広く一般的な筋肉を〈もみほぐす〉行為の事を指しています、間違えないで下さいねイチロー!」


「お……おうどうしたポン子なんで同じ事を何度も言うんだ?」


「大事な事は二度三度言う必要があるかなと思いまして」


「そ、そうか?」


 よく判らんが大事らしい。


 そんなこんなで金髪天使さんの作業が終わるまで後は雑談しながら待つ事に。


 ――


「やっぱリルルは天使が怖いのか?」


「ぅぅ、はいです、天使がきたら即逃げろと脅されてきましたし、ちょっと怖いです」


 無口だったのは、やっぱり天使が怖かったらしい。


「ポン子も天使なんだがな、こう見えても」


「ポン子先輩は見た目が可愛い妖精さんですし、私にも優しいですし、それになんといってもお友達で……、一緒に寝た仲ですからぁ……」


「……その言い方は誤解を生むからやめようね、後輩ちゃん」


 そんな感じで時間を過ごしていると、玄関口から金髪天使さんが戻ってきた。


 リルルはピタっと口をつぐむ。


「登録完了しました先生、はいこれお返ししますね、〈のぼる天地のもみほぐし屋〉で料金を貰う場合はモバタンの、このアプリソフトでお願いします時間あたりでこの料金とかこんな感じで使って下さい、これでお金を受け渡しすれば税金なんかも勝手に計算されて天引きされますから、ここの数字が選べない時は法律で禁止してる値段を入れちゃってる場合ですね、後はここのヘルプを見てみてください」


「ありがとうございます金髪天使さん、ではえーと」


 ポン子を見る。


「料金の事ですが、正規の場合こんなものですよね、そしてイチロー先生は神の手を持つ者です、なら五倍という所ですか」


 魔法モニターの数字が表意文字でなく俺らにも判る数字になっている、数万円が見える、えっとジョーク?


「ええ!? 確かに神の名を持つなら……でもさすがにそれは……もう少しお安くは……」


 ある程度納得してる! え? マッサージの値段ってこんなに高いの?


「まぁそうですよね、では正規のコース時間は無く二十分程度にしましょう」


 正規の時間はそもそも無いけどな、無く、じゃない所が……。


「それに同じ天使のよしみですし、一般的な値段に準拠じゅんきょする事にしましょうか、あまり言いふらさないで下さいね? 天使が相手ならさらに割引きでっと、こんな感じでどうですか?」


 魔法モニターに数字が出る、二回やれば俺の一番調子がよかった頃のスライムダンジョンの日給に迫るんですが……、レアは含まないにしても二十分で? うそやろ……。


「はい! はい! ありがとうございます!」


 金髪天使さんが感謝してる……もう一度言いたい、うそやろ……?


「今回はお試しという事でさらに時間を短くしましょう、それに登録等で色々やってくれましたし初回無料でいきましょうか」


「わー、無料なんて本当にいいんですか?」


 はい、と頷きポン子は俺に布団を敷く角度やらを指示しだし、言われた通りにしていく。


 俺の布団の上に金髪天使さんが上に着てたハーフコートだけ脱いで、うつ伏せで寝ていて背中に羽は出ていない、スラ蔵さんには息がしやすいような枕に変形して貰っている、〈ナデポ〉はあいだに薄めの服ならあっても問題なく発動するみたいなんだよな。


 ポン子は壁にかかっているディスプレイにモバタンから動画情報を飛ばして映し出した、金髪天使さんはうつ伏せなので見えてないだろう、マッサージのやり方が消音モードで字幕が流れて説明をしてくれる。


「ではいきますよー、イチロー先生後はよろしくお願いします」


「よろしくお願いしまーす」


 金髪天使さんがワクワクした声でそう言ってくる。


「はい、ではいきますね金髪天使さん」


 ポン子と少し打ち合わせした通りにやっていく、動画を見ながら首回りから始まり〈ナデポ〉〈マラカス〉微小雷と睡眠付与さらに振動付きで、筋肉を揉み解していく、動画の調整はポン子がしている、見様見真似と〈ナデポ〉を時に強く時に弱くと強弱をつけながら、〈マラカス〉は断続発動してマッサージをしていく、仕事でやるなら本気でやらねばなるまい、真剣に揉み解していく。


 金髪天使さんの様子だが。


「はぁぁ確かに気持ちいいですこれ、あーまるで電気マッサージ機を使ったような、はわぁ~振動がきもちーこれどうやって、はうぅーまるで温泉につかって冷えたお酒を一杯やってるいるような心地ですねぇ……」


「あーそこそこ毎日動き回って凝ってるんです……ほひょぉぉ……」


「ぃぃですぅぅぅ……さすがかみのてでぇぇ……ふぅぅ……くぅ……」


「あにゅぅぅ……こりはぁ……やばぃでぅぅ……ふぉにぃ……」


「すぴぃぃ……むにゃ……おんせんきもちぃれすぅ……ぐぅZZZzzz」


 ほどなく寝てしまった、まぁ動画が続いてるしこのまま真面目にやるか。

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