第42話 人口上昇の理由

「私がサキュバス的な事をしてあげようか?」


 リリルが飛び上がって。


「ええぇ! 姉様何言ってるのー!」


 断ったら相手に失礼だし男がすたるだろうか、なら仕方ないね、うん仕方ない。


「そうですね、じゃぁ――」

「駄目ですよ姉様! ご主人様は私のです! ふぅぅぅぅ!」


 俺はリルルの物らしかった、リルルは俺とポニテ姉さんの握り合っている手の上に飛び乗って抗議している、子猫が警戒してるみたいでちょっと可愛い。


 そしてわいわい言い合いをしてる、ポニテ姉さんはそれを楽しんでいるようにも見える、妹との男を取り合うようなケンカが楽しいとかサキュバスも業が深い生き物だ。


 しかしまぁ握られた手が外せないんだが、ポン子に聞いてみる。


「なぁポン子、握られた手が外せないんだがサキュバスって力が無い種族なんじゃ?」


「そりゃ今イチローは相手を攻撃するような意思を持ってないですよね? それだと通常のやり取りですから、サキュバスの束縛術そくばくじゅつや寝技は地獄でも有数ですよ? 攻撃の意思を籠めればすぐ外せると思いますが」


 なるほど納得、しかし敵でもない女の子相手に攻撃の意思を持つのは難しいな。


 リルルとポニテ姉さんはケンカするほど仲が良いみたいな感じになっとる、言い合いの内容も昔の話になってるし。


「いやさすがに敵でもない女の子に攻撃の意思を向けろと言われてもなぁ」


「〈ナデポ〉発動してますか? してるなら過剰供給しちゃえばどーですかね、サキュバスだし大丈夫でしょ、やっちゃえイチロー」


 うん、一応〈ナデポ〉が発動してる感じはするんだ、まぁデフォルトだと二倍くらいだし気づかなかったりもしそうだ。


 うーん、まぁ手を離してくれないポニテ姉さんも悪いという事で、少し強めにリソースを籠めてっと。


「〈ナデポ〉十倍&十倍!」


 幸福な感じと感度の事な、倍率は結構適当に言ってる、数字が出る訳じゃないしな。


「わひょん……ってなにこれ! すごい!」

「ふひょ! ごしゅじんさま急にはだめぇ……」


 あやべ、リルルが乗ってるから一緒にかかっちゃうか、手を離してくれたんでフラフラしてるリルルをスライムの上に戻してやる。


「ねぇねぇ今のすっごかったよ! ご主人ちゃん何したの?」


 おーさすが熟練のサキュバスあの程度じゃ効かないのか。


 そこにポン子が参戦してくる、嫌な予感がする。


「ふふり、イチローは神の手を持つ〈ゴットマッサージ職人〉なんですよ!」


 またこいつは……しかも完全な嘘じゃなく真実が少し混じってるのが、よりたちが悪い。


「な、なんですってー! ご主人ちゃんが神の手を? しかもまさかあの〈ゴットマッサージ職人〉だなんて、ワナワナ」


 ポニテ姉さん意外とノリが良いな、いやまぁトラックに乗ってた時の会話でもそんな感じではあったけど。


〈ゴットマッサージ職人〉なんて単語初めて使っただろうに二人共ようやるわ。


 この二人は混ぜるな危険の匂いがする、早めに止めないとな……。


「そうなのですポニ子さん、神のそして悪魔の力を両方をもつ類まれなる資質、それはつまり!」


 どうしようポニテ姉さんとポン子でコントが始まってしまった、しかもポニ子&ポン子って似てるし紛らわしくないか? いやコンビ名ならいいのか……。


「つまり!? ごくりっ」


「神の手で天国へいき、悪魔の手で貴方は堕ちる、そんな極上の世界が待っているという事になります! これはお買い得!」


 へーそうだったんだぁ、俺は初めて知ったよ、通販番組混じってるぞポン子。


 後リルルさんや、ご主人様にそんな力が! とか信じないでください、純真だなぁこの子は、モバタンで通販番組は見せない様にしよう。


「まさかそんな逸材が末妹ちゃんの契約者に……いえまだ契約をしていない?……それなら……」


 ポニテ姉さんが空間庫から何かを出して両手で持ち、こちらに差し出すので受け取る、それは魔法陣のかかれたカードのようで。


「こちら私の契約魔法陣めいしになります、どうか私と契約を結びませんか? 私なら貴方を全力で桃源へ導いてみせます! ついでに私も天国に連れていってください! お願いします!」


 へ?


 リルルは驚いて叫ぶ。


「ちょっ姉様!? ご主人様に営業かけないでくださいよ! それに姉様調査部でしょう? せっかく仲直りしたのにまたケンカしたいんですか! ご主人様は私が先に出会ったんですー!」


 ああ、これがサキュバスの営業ってやつかぁ、何か思ってたのと違うなぁ。


 今度はポニテ姉さんとリルルのコントになるのかなぁ……俺の出番まだぁ?


「調査部でも気に入った子がいたら営業はかけていいのよ、それにね確かに営業は早いもの勝ちだけども、例外はあるわよね? サキュバスの掟いちじょーう!」


 ポニテ姉さんが最後に大きな声を出した、なんだ?


 リルルは黙ってしまっている。


「あれれ? 返事がないぞ末妹ちゃん、サキュバスの掟一条!」


 リルルは小さい声で答える。


「い、一条です」


 さらにポニテ姉さんが続ける、なんか体育会系っぽくね?


「良い男は~?」


「……みんなで共有するです……」


 ポニテ姉さんが拍手をしながら続ける。


「はいその通り~、ご主人ちゃんは良い男でしょう? それとも末妹ちゃんはそう思ってないのかなー?」


「そんな事ないです! ご主人様は最高のご主人様です! あっ……」


「だよね~じゃぁサキュバスとして共有しないとね~、大丈夫よ末妹ちゃんが最優先なのは変わらないから、ね? いいでしょ? お姉ちゃんにも味見させて? 今日はちょっとだけにするから」


 そしてリルルは。


「……ちょっとだけですからね」


 と、またしても姉に即負けするのであった、妹弱くないですか?


 そして俺の意見は? いえまぁ男の子なんで断りはしないんだけども。


 俺の手を取るポニテ姉さん。


 リルルがポニテ姉さんに語り掛ける。


「吸い過ぎちゃ駄目だよ姉様! 後ご主人様の人間としての器からじゃなく神の器に漏れた除去予定部分なら吸っていいです、それ以外は駄目です! これが守られなかったら十日とおかは口を利かないですからね!」


 たった十日なのか、仲良し姉妹になれて良かったなリルル。


 ハイハイと笑いながらポニテ姉さんは俺の手の人差し指をパクリと口に含む、首筋にパクッじゃないんだな。


 そして俺の中の力が吸われてる感触がする。


 その時ポニテ姉さんに変化があった、コウモリのような羽がバサリと生え、耳が尖がり、先っぽがハートの尻尾がひょろりと後ろに見える、そして何より頭に少し曲がった黒い角が生えてきた、リルルには角が無いのに……サキュバス本体ならあるのかね?


 俺の指から無言で口を離したポニテ姉さんが何か魔法を使った、ピンク色の衝撃派のような物が周囲に広がって、ってなんじゃこりゃ!


「なんだこれ! 俺の部屋が俺の部屋じゃ無くなった?」


「あー上級サキュバスの固有結界って奴かもですねぇイチロー」


 ポン子がそう教えてくれた。


 部屋の中が随分と変わってしまった、まるでラブなホテルのような部屋になっていて、大きなベッドも俺の背後に出現していた。


 ポニテ姉さんの目が血走ってるんだが……、ちょっと怖い。


「ごめん末妹ちゃんこれは……我慢が……」


 俺にジリジリと近づいてくるポニテ姉さん、怖いので後ずさるとベッドにぶつかってしまった。


「まって姉様どうしちゃったの? まって~」


 リルルがポニテ姉さんに声をかけるがお構いなしにこちらへと――

『ピンポーン』


 この部屋に越してきてから数回しか聞いた事の無いチャイムとインターフォンが起動する音がした、返事をする間も無く。


『こんにちはーお邪魔しまーす』


 鍵がガチャっと開く音がして扉が開き、そこには金髪のミディアムボブで体系はスレンダーでパンツルックな会社員といった感じの美人さんが居た、誰?


「あーやっぱり営業ですか、こんにちは、そしてさようなら」


 玄関に入ってきた金髪美人さんの背中から白い羽がバサっと飛び出し腕を前に、そこから白い弾のような物が。


「くっ、末妹ちゃんご主人ちゃん、続きはまた今度ね」


 ポニテ姉さんはそう言うや空間庫から紙のような物を出しそれを破った、そして魔法陣に包まれ何処かへ消えていった、転移魔法か、あの紙は使い捨ての魔道具か何かだろう。


 それと共にラブなホテルだった部屋も元に戻る。


 はーびっくりした。


 金髪天使さんは手の前で留めておいた魔法の弾を消し、扉を閉め鍵を掛け靴を脱いでこちらに近づく。


 ああ、ちゃんと靴を脱いで鍵を掛けて上がってくれるんだねぇ、礼儀正しいなぁ、ってんな訳あるかい! サキュバスも天使も鍵を魔法で勝手に開けて不法侵入してくるのかよ……いやチャイムはちゃんと鳴らしていたか、グレーゾーンだな。


 金髪天使さんは部屋に入ると立ったままこちらに向かって。


「こんにちは、サキュバスに貰った契約魔法陣めいしがあるならこちらに渡して下さい、妖精を二人も持つ中級探索者さんなら恋人なんていくらでも作れますから、なんなら私どもが経営する結婚相談所のお見合いパーティに格安で参加できるように手配しますよ?」


 俺が何処に突っ込めばいいのか悩んで停止していると、ポン子がフォローしてくれた。


「お疲れ様です、イチローは大丈夫ですよ」


 そう言ってまた白い光をちょこっとだけ出した。


 金髪天使さんはそれを見るなり。


「あれ? 貴方……守護天使で出向中の〈底なし腹〉じゃないの、じゃぁこの人が守護相手の? あれ? 人間じゃないなら……あーあのサキュバスに悪い事しちゃったわねぇ……」


 よく判らんのでポン子に説明を頼んだ。


「えーとですねイチロー、天使とサキュバスは敵なんですが敵じゃないというか、他の雑魚悪魔なんかは人間を不幸にするんで問答無用でぶちのめすんですが、サキュバスは人間とお互い幸せな感じになりますよね? なので基本追い払うだけになるんですよね、それに人間相手に仕事しないなら放置しますし、あ、インキュバスは駄目です、大抵の場合消滅させます、あいつらたちの悪いやり口を使ってくるので」


 まぁ少数ですが消滅させないインキュバスもホワイトリストに乗ってるみたいですが、と続けた。


「つまり俺は人とは言えないから?」


 金髪天使さんが答える。


「自由恋愛の範疇になりますね、あのサキュバスに謝っておいてください」


「追い払うだけなのに契約魔法陣をよこせと言うのは?」


 さらに答えてくれる金髪天使さん


「継続的に契約してると、どうしても人間は欲望のタガが外れやすくなっちゃうんですよ、なので契約を破棄させる訳です、そしてうちの結婚相談所を紹介する、これがまた意外と人間同士の結婚成立率が高くなるんですよねぇ……」


 不思議な話です、と続けた金髪天使さん。


 そしてポン子が見解を述べる。


「女性への幻想が消えるからじゃないですか? 生身を知って一皮剥けるみたいな? サキュバスだけに」


 最後のは余計だ、だが、なるほど、そんな効果があるなら追い払うだけなのも納得だな。


 金髪天使さんも、なるほどと頷いている。


「まぁでも一応聴取はさせて下さいね、守護天使もいるし大丈夫だとは思うのですが」


 そう言って何やら魔法を発動させる金髪天使さん。

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