第41話 地獄に帰還?

「そっかぁ……よし! じゃぁ地獄に帰ろっか! 末妹いもうとちゃん」


 ええ?


 ポニテ姉さんがそう言った、え? この人は何を言ってる?


 リルルも驚愕した顔で。


「何を言うんですか姉様、私はここで、ご主人様の従者としてやっていくんです」


 それを聞いたポニテ姉さんは。


「それこそ何を言ってるの、だよ末妹ちゃん、伯爵との契約が意味を無くしたのなら帰らないと、それにその男の子との契約が妖精として? アハハ貴方の種族は何かな? 末妹ちゃん」


 それを聞いたリルルは顔を下げて答えない。


 悲しそうなリルルを見た俺は。


「いきなり何を言い出すんですかポニテ姉さん! リルルはうちの子ですよ! 勝手に連れて行かないでくださいよ」


 強めの声で言い放ちリルルの頭を撫ででやる、リルルは俺の指に縋り付いてきた。


 そしてそこへポン子が追撃を。


「そうですよ、それに後輩ちゃんは捕虜でもあるんです、天使から捕虜を奪おうなんて宣戦布告ですか? サキュバスのおねぇさーん」


 とポン子が少しだけ光ってすぐ収まった、何したの?


「それは神聖力? 天使の力!」


 さっと立ち上がって身構えたポニテ姉さん、しかしニコニコ笑っているポン子がそれ以上何かするつもりが無いのが判ったのかゆっくりと座り直した、気のせいか少しビクついている。


 そこへポン子が、パンッ! っといきなり手を打ち鳴らした。


「ひゃぅ!」


 ポニテ姉さんがびくっと座ったまま飛び跳ねた、ポン子にびびっておられる、サキュバスは天使が怖いのだろうか? 力の差がある? そういやリリルがサキュバスは種族的に攻撃が弱いとかなんとか……。


「えっとなんで妖精姿の天使さんがおられるのでしょうか、それに捕虜って……、あ! ハゲ伯爵の部下だったのは無理やりなんです! うちの末妹ちゃんは悪くないんです! どうかどうか末妹ちゃんを返して下さい! お願いします! なんなら私が代わりに捕虜になりますから!」


 テーブルにぶつかる寸前まで頭を下げて必死にお願いしてくるポニテ姉さん。


 ああうん、一気に俺らが悪者みたいになってしまった……、ポン子も動揺してるのが判る。


 そして一番動揺してるのがリルルだ、ポニテ姉さんが必死にリルルを庇っているのが理解できないっぽい、なんで? と声を出している。


 ああもうこれリルルの勘違いが確定してるなぁ……。


「顔をあげてくださいポニテ姉さん」


 ゆっくり顔をあげてこちらを見てくるポニテ姉さん。


「そうですね、俺たちの事情と何故リルルがここに居るのか少し説明するので聞いて下さい」


 とポニテ姉さんに説明を始める。


 ――

 ポン子が守護天使な事。

 俺が神格を得ている事。

 伯爵を倒したけど俺の中に入られた事。

 リルルを情報源とするべくカード化した事。

 伯爵の人格は俺の神格が焼き尽くした事。

 リルルと妖精格での主従契約をしてる事。

 悪魔の力の残滓を得てしまいリルルに調整して貰っている事。


 等々を説明した。


 ――


 そして何故か今はみんなでご飯を食べている。


 長い話の中でポン子がお腹空いたと言い出し、リルルも落ち着き、ポニテ姉さんのビビリも落ち着いた、なら夕飯だとなった訳だ、なんでだ?


 ポニテ姉さんも神経が図太いのかもう普通に対応してる。


「それじゃぁモグモグ、うちの末妹ちゃんが貴方には必要なのね? あこの〈ミネストローネ風炒飯〉美味しいわね」


「あーんパクッ、別に力の調整の為だけじゃないですからね? それが無くてももうリルルは俺らの仲魔なんですよ、ほれあーん」


「あーん、フフ美味しいですご主人様、この〈ラビオリがニョッキする弁当〉は当たりでしたねぇ、お返しです、はいあーん」


 リルルのお返しを食べている俺の前で、ポニテ姉さんとポン子が話をしている。


「ねぇ天使妖精さん、この二人はいつもこんな感じなの?」


「そうですよ、バカップル一直線で私も困ってます、私にもラビオリを分けくれればいいのに、ま、いーです私にはこの〈ペンネでラザニ合う弁当〉がありますもーん」


 誰がバカップルだ失敬な、だってこれは異性に対するサキュバスの文化なんだろう? あれ? そうかポニテ姉さんにもしないといけないのか。


「そ……そう、これでなんでサキュバスの契約してないのよ……意味がわか、あ、そういえば部隊長がマニュアルでどうのってあの子達が騒いでいたような……ううーん、ちゃんと話を聞いておけばよかった……」


 俺はラビオリをフォークで刺しポニテ姉さんに差し出す。


「はい、ポニテ姉さんもあーん」


 ポニテ姉さんは何故かすごい驚いて食べてくれない、腕が疲れるんだがどうしたんだろうか?


「姉様はご主人様と友達にもなれないと?」


 リルルの低い声が響く。


「食べる! 食べますから、あーんはぐっ、あら美味しいわねこれ」


 だよなーあの店は外れが無いのがすげぇ、そしてポニテ姉さんを見つめている俺、まだかな?


「え? 何で私をじっと見てくるの? あ、もしかして私も? わぅ末妹ちゃんそんな目で見ないで、えと、はいご主人ちゃんあーん」


 スプーンを差し出すポニテ姉さんの炒飯をぱくっと食べる俺、美味いなこれも!


 バカップルは伝染病だった、とか言うなよポン子、異文化は大事にしないといかんだろ? 俺だって少しは恥ずかしいんだぜ? 施設の子らで慣れてなかったらどうなってたか。


 取り合えずポン子にもラビオリを差し出したら、ヒュゴッっと一瞬で口に吸い込まれた、掃除機かお前は……。


 そしてポン子が二個目の弁当に挑戦している今、俺らはケーキの入った箱を開封している。


「私の〈ライト〉ケーキは絶対に絶対に残しておいてくださいねイチロー! 」


 と〈黄身がピカタ?丼〉を食べながら主張してくる。


「判ってるってじゃぁ俺は〈サード〉ケーキにするか、ポニテ姉さんはどれにします?」


「えー迷っちゃうなぁ、うーんと、じゃぁこの〈レフト〉ケーキにするね」


 リルルを促すと私はご主人様と一緒でも……とか言ってるので食べさせ合うならもう一個必要だろう? と選ばせる、迷いながら楽し気に選び始めるリルル。


 ポニテ姉さんが半眼でこちらを見ながら。


「ご主人ちゃんイケメンだねぇ……」


「いや俺はイケメンじゃないですよポニテ姉さん」


「そうだね、なら心がイケメンだね」


 イケメンじゃないとすぐ肯定された、うぐぐ……心のイケメンで惚れてくれる女の子は何処かに居ますか?


「ご主人様私これにします」


 そう言って〈キャッチャー〉ケーキを選ぶリルル。


「さてこれで残りは〈ピッチャー〉〈ファースト〉〈セカンド〉〈センター〉ケーキだな」


 そして俺とポン子は二人で。


「「って〈ショート〉無いんかー-い!」」


 と突っ込みを入れながらケラケラとお互いに笑う。


 まだ弁当を食べているポン子に手を出しパチンと合わせる、リルルにも手を出し、よく判ってないだろうがポン子と同じにパチンと合わせてくれる。


 そしてポニテ姉さんに両手を出すと、少し迷ってからハイタッチをしてくれた。


「いやーこのシリーズのケーキを見た時は、八個で買うしかないから迷ったよな、ちょっと多いしどうしたもんかってな」


 ポン子が合わせてくれる。


「はい、あの店の店主はやり手です、こんなの八個買わない訳にはいかないですよ」


「〈ショート〉ケーキだけ一杯売れ残ってたもんな」

「あれは最後に名前変えて売るんじゃないですか? 〈ショートケーキ〉って」


「「ハハハハハ」」


 さすがにリルルや今日初見のポニテ姉さんじゃ合わせてこれないか、ポカーンとしておられる。


「じゃ食べるか、ほれリルルあーんしろ」


「あ、はいご主人様パクッ、甘くておいしーですー、お返ししますね、あーん」


 そうしてポニテ姉さんとも食べさせ合う、何故か恥ずかしがっていたが、サキュバスの文化だろう?


 お茶の時間になった、ふ、今や俺の家には飲み物を飲める器がお客の分まであるんだぜ?


 普通ですよ、とポン子に言われた、そうか……って何で心の声に返事があるのさ! え? また口に出てた? そうですか……。


 ポニテ姉さんが姿勢を正して言ってくる。


「この子が仲魔で大切な事は判りました、捕虜云々も建前だって事も、これから末妹ちゃんの事をよろしくお願いします」


 そういって深々と頭を下げてくる。


 そして頭をあげリルルにも話しかける。


「氏族長には伝えておくからね末妹ちゃん、頑張ってご主人と仲良くなるのよ? 私があげたコスプレ上手く使いなさいね?」


 その優しさにリルルが少し困惑してる気がする、話すなら今か。


「あの、ちょっと聞きたい事があるんですよポニテ姉さん」


「なーにー? ご主人ちゃん」


「リルルから姉達にイジメのように営業の邪魔をされたと聞きました、が、今の貴方を見るとリルルを苛めるような姉には見えないんです、そのあたりの事情を聞かせて貰えませんか? それとも他の姉が普通にリルルを苛めていたんですか?」


 リルルがびっくりした顔で俺を見てくる、そしてポニテ姉さんが。


「はぁ? 私達が末妹ちゃんを苛めるなんて有る訳ないじゃない! 誰がそんな事を! って末妹ちゃんが!? え? どーいう事?」


 本当に訳が判らないといった感じのポニテ姉さん。


 そんなポニテ姉さんを見てリルルが大声で。


「苛めてないって、営業にいつもいつも変な人ばっかり勧めてきたじゃない! それに私が研究に集中してるのにすぐ邪魔してくるし!」


 リルルさんが激高してるので頭を撫でて落ち着かせる、〈ナデポ〉ちょこっと発動。


「はひゅーっご主人様それはだめれすー」


 リルルの怒りが収まった。


 ポニテ姉さんは色んな意味で困惑しつつ説明をし始めた。


 ――


 リルルの姉すべてに共通していて。

 サキュバスの才能が無さそうなリルルを心配していた事。

 女慣れしてそうな相手に惚れて、みつがされたりしたら可哀想だと思った事。

 簡単に転がせそうな相手を選んでいたら、変態ばっかり集まった事。

 研究ばっかりでサキュバスのテクを学ばないリルルを心配していた事。


 ――


 そうして研究を中断させて色々教えに行った事が、そんなにリルルの心の負担になっていたとは思わなかったと頭を下げて真摯しんしに謝っていた。


 それを受けたリルルは。


「そんな、いまさらそんな事言われても……私の味方は部隊長とご主人様と先輩だけだと……うううぅ」


 涙を滲ませて俺に抱き着いてきたリルル。


 そう俺の顔に。


 リルルが抱き着くと君のポヨポヨが目に当たって開けづらくなるんだよね。


 しばらくしてからリルルの頭を〈ナデポ〉をなるべく使わずに撫でながら語り掛けてやる、顔に張り付かれたまま。


「なぁリルル、お前には辛かった事なんだろうけどな、俺は少しお前の姉さん達のやった事に感謝をしているんだよ」


 リルルがビクッっと動いて上体を少し離してこちらを見る、これでようやく目を合わせる事が出来る。


「だってさ、それがなかったら俺とリルルは会えなかったじゃないか、俺はお前に遭えた事がすごい嬉しいし幸せな事だと思う、だからそのきっかけになった姉さん達に少しだけ感謝をする、まぁリルルが怒るっていうなら一緒になって怒ってやるけどな……」


 リルルをじっと見る俺、リルルも俺を見る、しばらくすると。


 そう、そうですね、と呟きポニテ姉さんの前に飛んで降りて行く。


 そしてリルルはポニテ姉さんに向かって。


「完全に姉さん達を許す事はまだ出来ません、でも私を案じていてくれた事は理解しました……」


 それを聞いたポニテ姉さんは。


「ごめんごめんね末妹ちゃん、もう変態ばっかり紹介とかしないからね、他の事も全部しないから……嫌いにならないでね、私達は貴方の事が大好きなんだから……」


 涙ぐんでいるポニテ姉さん、俺ももらい泣きしそうに……。



 ポン子、隅っこで、ええ話や、とか持ってもいないハンカチを使った演技とかしないでくれ……せっかくのシリアスな話がお前の存在でギャグ時空にされるんだよ。


 ハンカチは今度買ってやるから……ってそうだよな二人の小物類も色々買わないといけないよな……忘れてたぜ、ねだられる前に察してやれと妹や施設の子に散々言われた事なのになぁ失敗したわ。


 リルルとポニテ姉さんの話は続く。


「別に変態が嫌な訳じゃありません、ただあの人達って……臭いんです! 体を洗って下さい! 頭を洗って下さい! 部屋を片付けて下さい! 酸っぱい匂いが充満してるんです! 匂いのせいで目がシバシバするんです!」


 それが美味しい時もあるのに、とポニテ姉さんが小さい声で言ってるのを俺の耳が拾ってしまった、聞かなかった事にしよう、幸いリルルは気づいてなかった。


「うんうん、そうだね末妹ちゃん、相手が臭いのは嫌だよね、この部屋は綺麗だもんね」


「そうですよ、ご主人様みたいに清潔で部屋も掃除してあるなら別に、そうです……ご主人様相手なら別に……椅子になるから乗って下さいとか、ハイヒールで踏んで下さいって言われても、百着くらいのソックスが用意されてたって……えっとご主人様? 私のうなじ舐めますか?」


 何故か俺に流れ弾が飛んで来た、おい日本の若人達、気持ちは判る、すっごく判るが相手を見極めてから頼めよ! って、あれ? もしかして……。


「なぁリルル営業の時の恰好ってどんなだった?」


 はてな? と顔を横に倒しつつも答えてくれるリルル。


「姉様達プロデュースの、アニメのコスプレでしたよ? えっと確か小悪魔系? とかなんとか」


 あうち、芋ジャージで見慣れていたけど、ピンクブロンドツインテ美少女のリルルはギャルっぽいんだった……、すまん日本の若人達、それならワンチャンいけるんじゃと思ってしまうよな、お前らは悪く……わる……いや? やっぱギルティだった。


 風呂くらい普通に入っとけ。


 リルルとポニテ姉さんはポツポツと話しをして、心の距離を詰めているのが判る、よかったなリルル。


 ある程度話が終わったのか、スラ蔵さんを召喚して座るリルル、ポン子も横に飛び乗っていた、気にいったんだなそれ。


 ポニテ姉さんは俺に感謝と好意の目を向けてお礼を言ってきた。


「有難うご主人ちゃん、貴方のおかげで末妹ちゃんに嫌われずに済んだわ、まさかテクを教えられる事が苦手なサキュバスがいるなんて思いもしなかったから……これは一旦地獄に帰って今回の事をみんなに周知しておくわね、ほんっとありがとう」


 そういってテーブルを回り込んで俺に近づくポニテ姉さん。


「それでね、お礼と言ってはなんなんだけどもね、ご主人ちゃん」


 俺の両手を両手で包み込むように握り、語り掛けてくるポニテ姉さん。



「私がサキュバス的な事をしてあげようか?」


 リリルが飛び上がって。


「ええぇ! 姉様何言ってるのー!」




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