第40話 可愛さとは

 リルルは恥ずかしそうにコクリと頷いた。


「びっくりした、普通の人間にしか見えなかったな」


「私も生サキュバスは初めてみましたー、記憶にある限りという意味でですが、後輩ちゃんは見た目妖精ですしね~」


「羽と尻尾と角を出さないで悪魔の力を使わなければ人とほぼ変わりません、その状態だと天使にも気づかれ辛いんです、調査部なんかも人のような見た目で活動してるはずです、私はハッキングの為に力を使う必要があったのでダンジョン妖精に変化して偽装する必要があったんです」


 ほーなるほどなー、妖精の姿になってるのにそんな理由がなぁ……。


「リルル、あのお姉さんは調査部とやらなのかね? それとリルルに気づいてたのか?」


「調査部です、でも厳格に決まってる訳でもないんです、基本は調査ですけど気に入った相手がいれば営業したり、欲望に素直なサキュバスですからそこそこ適当です、私にあえて話しかけてこなかったですし、気づいていたかと……」


 ブスっとした顔で語るリルルであった、お姉さんの事苦手なんだなぁ……。


「あはは、それってイチローが調査されたって事? ひゅー営業きちゃうかもでーす、きゃーこわーい」


 ケラケラ笑いながら言うポン子。


「リルルに気づいてたんだろう? それでリルルに話しかけてないなら来ないんじゃね? しかしまぁ氏族全部が姉妹ってのもすごいよなぁ」


「ご主人様、氏族でなく種族すべてです、氏族も担当地域的な意味でのくくりなので、気まぐれで行ったり来たりするので増えたり減ったりしますね、サキュバスは自分の子でも姉妹になりますので」


「まじかサキュバスの文化ってやっぱ人間と変わってるんだなぁ、後それだとすごい数の姉妹になるな……氏族間を行ったり来たりする理由って?」


「えーと人間さんがいつもご飯を食べに行くお店を変えたりする感じでしょうか、今日は和食、明日は洋食みたいな、日本の管轄氏族は人気あるらしいですよ、その……ゲテモノ好きに……」


 おい、日本さんしっかりしてくれ……サキュバスにゲテモノ扱いされてるじゃんか!


 まったくもう……あ、俺も日本人だった謝っておこう、遺憾に思います。


「まぁ話してみた感じそんなに意地悪な印象は無かったんだけども、リルルの営業の邪魔をした人の中にさっきの人は入ってるのか?」


「いえ、さっきの姉様はテクニックを教えにきたり、地上産のコスプレ服なんかをくれたりした事はありますけど、営業の相手に変態ばっかり選ぶ姉様達とは違います……」


 ふむ、すべてがすべて同じような事をしてくる訳じゃないか、コスプレだって安い物じゃないだろうにプレゼントしてくれるっていうのがなぁ、どうにも苛めという印象がぶれる。


「んーじゃぁ嫌う事はないんじゃないかなぁ」


「でも他の姉様達を止めてくれたりはしませんでしたし……むしろ賛成してた感じもしますし……」


 うーん向こうの言い分も聞かないと進まなそうな話だな、次に会ったらお姉さんに理由を聞いてみるか、本気で虐めてたらリルルはうちにずっと居ればいい話だしな。


「よし! この話は一旦終了だ、夕飯買いにいこうぜ!」


 話を一旦スパっと切り終えてそう宣言する。


 ポン子も暗い雰囲気が嫌なのか元気よく会話に参加してくる。


「そうですねイチロー! 今日の夜は後輩ちゃんの歓迎会としましょうよ!」


 おーそれはいいな、さすがポン子だ。


「そうだな買い物行こうぜ、リルルもほら肩に乗れ、ポン子が歓迎会で歌ってくれるってさ」


「そこまで言ってませんよ! 踊るのが得意なイチローが演奏したらどうですか? 〈マラカス〉で」


 楽し気に話す俺らに釣られたリルルも俺の肩に座る。


「私一緒に歌いますよ先輩、ご主人様も一緒に歌いませんか?」


 頭と肩に妖精を乗せ、いつもの四つ角に向け歩いていく。


 俺丼屋で二人と相談しながら弁当を買い外に出るとポン子が語り掛けてくる。


「今日は後輩ちゃんの歓迎会なので、そこのケーキ屋さんにもいきましょう」


 そういってポン子が指さしたお店は、四つ角にある持ち帰り専門店という名前の店だった。


 長……くもないか、でもこれからはケーキ屋と呼ぶ事にする。


 お店に入りあれだこれだと相談をして、何故か八個のケーキを買って帰る事に。


 両手に袋を持った俺、コンビニで飲み物やらを買い足し家に向けて歩いている、もう冷蔵庫もそして食器類等も十分にある家になっているのだ……。


 そんな事を考えていると、ポン子が上から語りかけてくる。


「そういえばイチローに後輩ちゃん、さっきのケーキ屋さん、なんで砂漠なんてケーキに似合わない乾いた名前をつけたんでしょうね?」


 そんな風に聞いてくる、そりゃお前……あ……ふむ。


「そうだよなー、ナンデダロウナーリルルは判るか?」


 そう言いながらチラチラと左肩に居るリルルを見ては顔を戻しまた見る。


「砂漠ですかー? ご主人様」


 リルルもよく判らないといった感じで答えた訳だが、頭の上のポン子からはチラチラという声すら聞こえる。


「なんででしょうねー判らないなぁイチロー判りますか? チラチラ」


「いや俺もわっかんねー、リルルはどうだ?」


 リルルをチラチラと見る。


 最初リルルは俺やポン子の行動の意味がさっぱり判らなかったと思うが、ある瞬間に何かに気づいたのか顔をうつむけ声を出さなくなった。


 俺と。


「なんでだろうなーリルル」


 ポン子は。


「なんででしょうねー後輩ちゃんチラチラ」


 リルルをチラ見するのを辞めない!


 リルルは覚悟を決めたのか顔を上げ、声をだす。


「そ、それは……」


 俺とポン子が同時に聞き返す。


「「それは?」」


 リルルはごくりと喉を鳴らしてから答える。


「ケーキが……デザートなだけに……ナンチャッテ……」


 頬を真っ赤にして両手で顔を隠しているリルル。


 最後の方はすごい小さな声だった、俺は両手の袋を物ともせずガッツポーズをした。


 頭の上のポン子も何某かのポーズをしたのが体重移動の感じで判る、残念ながら正確なポーズは頭妖精ソムリエの俺でも判らなかったが。


 俺は感無量かんむりょうでポン子に語り掛けた。


「なぁポン子」


「なんですかイチロー」


「俺さ、サキュバスがこんなに可愛い種族だなんて今まで思ってもみなかったよ」


「奇遇ですね、この可愛さは卑怯なくらいです、私は白旗をあげて仲良くしようと思いました」


 リルルは、もう、もう、ご主人様も先輩も、もう、もう、と言いながら俺の首をペチペチと叩いている牛さんに成って居る、信じられるか? これ淫魔なんだぜ?


「後輩ちゃん、あなたが自発的に発したその言葉、それは貴方にとって小さな初めの一歩です、ですがギャル道にとっての偉大な一歩にもなるのです、私は先輩として指導者としてこれほど嬉しい事はありません、キュンキュンします」


 惜しい、最後の一言が無ければ名言集に乗ったのに。


 そうして家にたどり着きドアを開ける、まぁ誰もいないんだがお約束で言う訳だ。


「ただいま~」


 と。


「おかえり~遅かったね~」


 返事があったので、中に入りドアを閉め、部屋に入ってテーブルの向こうはすでに埋まってたので手前側に座る、荷物もドスンと床に置く。


「お疲れ様~重そうだね大変だったでしょ」


「いやまぁリルルの歓迎会だしこれくらいは楽勝ってなもんですよ」


「そっか~末妹いもうとちゃんの歓迎会かぁ、私も参加していい?」


「リルルの姉なら歓迎しますよ、って誰だあんたはぁぁぁぁぁ! いやお姉さんって知ってるん! だけ! ども! なんで部屋にいるの? 鍵は? そしてその恰好おへそがセクシー過ぎない? ポニテの時も綺麗でしたけど髪おろすと可愛い感じですね! ってちっがー-ーう! これはどーいう事だよ!」


 俺の後ろからポン子の、あれがノリ突っ込みという奴です後輩ちゃん、と教育してる声が聞こえる。


「初めま……さっきぶりでこんにちわ、末妹ちゃんのお姉ちゃんです、留守だったので中で待とうかなって、ちゃんと最初はインターフォン押したんだよ?、鍵は生活魔法で開けました、最近やってるアニメのヒロインの恰好なのこれ! 評判いいんだからどうどう? おへそが見えてエロちっくでしょー、可愛いより綺麗の方が嬉しいなぁ……むーんポニーテールに戻すね、私の事はポニテお姉ちゃんって呼んでいいよ、末妹ちゃんが何故か人間の男の子と行動してたから調査に来ました」


 リルルは、なるほどー勉強になります、とポン子に答えていたが、ポニテ姉さんの答えを聞いて、何かを思い出したかのようにテーブルに飛んで降りてきて。


「そうですよ、ご主人様の勢いに流されてしまいましたが何で姉様が調査になんて来るんですか! ここは今私のテリトリーです!」


 おーリルルが白衣じゃないのに威勢が良いな、身内相手の内弁慶って奴だろうか。


 ポン子も降りてきて何故か俺の肩に乗る、向こうの会話に参加する気が無いって事だろう、しかし小さな声でワクワクって口に出して言うなよ……。


「そりゃハゲ伯爵の部下として働いてるはずの末妹ちゃんが人間の男の子と一緒に行動してたら何事かって思うでしょう?」


 なるほど確かにその通りだな。


「そ……それは……確かにそういう事もあるかもしれませんが、でも……うう……判りました、姉様がここにいるのを……認めます」


 はや! 超速で負けたリルルさん、姉に勝てる妹は居ないんだな。


 ポン子は、カンカンカーンと試合終了の合図を小さな声で囁いている。


「人間な見た目の私と妖精なこの子が姉妹って理解してる貴方は私達の種族を知っているのかな?」


 そう俺に問いかけたポニテ姉さん。


「サキュバスですよね」


 即答した俺。


 ポニテ姉さんが再度リルルに問いかける。


「そこの男の子はこちらの事情は知ってるのね、それでハゲ伯爵はどうしたの?」


 リルルが黙って答えないので俺が答える。


「ハゲ悪魔は消滅しましたよ」


 ふむ、とポニテ姉さんは少し考えている。


「ねぇ末妹ちゃん、この男の子とサキュバスとして契約はしたのかな? もうやりまくり?」


「してません、妖精として本契約をしてるのみです……」


「そっかぁ……よし! じゃぁ地獄に帰ろっか! 末妹ちゃん」


 ええ?



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