第38話 技確定と添い寝
今俺はテーブルの端に居るスラ蔵さんに腰掛けた、美少女妖精二人の前で正座をしている。
「えーこの度お二人に起こった出来事は誠に
ポン子とリルルの反応だが。
「イチローそれ謝罪してないし、最後のも意味がおかしいからね? 心残りのないように全力でやるって意味にもとれちゃうよ」
あれ? そうなのか?
「ああうん、正直〈
ポン子と一緒に笑い合う、リルルさんを見るのが怖い。
うん眼鏡を外したリルルさんは頬をぷっくらと膨らませて、私怒ってますと、ありありと判る表情をしておられる。
「えーとごめんね? リルル」
リルルはプンプンと擬音が聞こえてきそうな感じで。
「もう! もう! 説明をしようとしてたのに急に使っちゃうから! ご主人様は早すぎです! 私がじっくり教えますのでもっと落ち着いてやってくださいね?」
はい、ごめんなさい、頭を少し下げる。
「そうだそうだーイチローは早いぞー落ちケツー」
ポン子は囃し立てる、がリルルがポン子の方を向き。
「ポン子先輩も私の説明を
そういえばリルルが何か言いかけてたのをポン子が遮ってたな……おやおや? ポン子さん?
「え……? 後輩ちゃん私も?」
リルルはそれに答えず、顎をクイっと俺に向けて示す、ポン子は、アハイ、と返事をしこちらに飛んできて。
俺の頭の上で正座をしやがった、おい。
これじゃぁリルルに頭を下げれないじゃないか。
「ご主人様、今回は私やポン子先輩が相手だからよかったですけど、いきなり全開で使うとか、もっとゆっくり時間をかけて上げてください! びっくりしちゃうじゃないですか」
あ、危険とかじゃなくびっくりしただけなのね……さすがサキュバス。
頭の上のポン子から、えぇぇ、と声が漏れている、ポン子の意見はリルルと違うようだ。
「いいですかご主人様、あの高さまで急に上げるのは愛がありません、お互いの心を通わせじっくりと上げていくそれこそが理想なのです、あんな急な上昇とかは私と結魂してからにしてくださいね?」
始めは良い話だったんだが、後半が何だかおかしい気がする。
「あーうん、気をつけるよリルル、でもさ、何でリソースも無いのにそんな威力になったんだ?」
私もそれが不思議ですー、と頭の上のポン子、正座が苦手なのかモジモジ動くなっての。
「あ、それはですね、ご主人様の〈夢見がち〉はインキュバスの力が元ですよね? サキュバスも同じなんですが〈吸精〉には精力を吸い取ってリソースに変換出来る能力が基本として備えてまして、吸う方は材料にしたんですが変換する部分は残してあったんです、しかもご主人様は強力な精力UPの能力を得ましたので……、〈ナデポ〉を使う時にすごい勢いで上昇していた自身の精力を全てリソースに変換し、それを全部注ぎ込んだんです」
俺の精力UPは人では余るほどだったはず……それを全て? それはやべーな。
「それはすまんかった、言われてから自身の中に意識を向けたら理解できた、自分の精力を変換できるなこれ、あれ? つまりリソース生み放題か!」
素晴らしい事に気づいてしまった俺は今も回復している精力をリソースに変換していく。
え、じゃぁ私のお小遣いも無限に! と頭の上のポン子。
「あ、いえ待ってください! 止めてくださいご主人様!」
リルルが何やら止めてくるので変換を止め……グゥゥゥゥゥゥゥ、腹が鳴った、あれ? うへ、なんだこれ腹が減ったというよりもう痛いというか、うぐぅぅなんじゃこりゃ……。
正座を崩して床に倒れる、ポン子は飛び上がり俺の顔の側に降り立つ
「イチローどうしたんです? 大丈夫ですか?」
「いや……なんかすげー腹が減った、というかもう腹が痛いし頭も痛い」
「精力のリソース変換を止めてくださいご主人様、何かを得るには何か対価を払うのが普通なのです、この場合ご主人様の栄養や体力、要はご飯が対価です取り合えず何か食べましょう」
食い物の常備なんてうちには……、ポン子が空間庫から飴をばらばらっと出し袋を開けては俺の口に放り込んでいく、空間庫の中に何もないって言ってたじゃんか……ったくありがたくバリバリとかみ砕いて頂く。
今食べた飴なのに何かが補充されるような感覚がある……人間じゃこんな急な吸収はしないよな……。
「ううまだ全然足りない、ちょっと近くのコンビニに行ってくる二人は待っててくれ」
今の状態で頭の上に配慮して歩くのが難しいので二人は置いていく事に。
なんとなく察したのかポン子は、気をつけて行って下さいね、と返す。
リルルも心配そうに、いってらっしゃい、と送り出してくれる。
ふらつくが急ぎ足で一番近いコンビニへ、何でもいいので総菜パンを根こそぎ買う、砂糖の入ってそうな柑橘系飲み物もペットボトルで三本、残した二人にお菓子を少し、やべぇ五千円超えちゃってるなこれ……。
探索者カードの残金をチラっと見る、家賃とか別に自由に使えるのが残り一万ちょっとになっていた、明日にはリッチのコインを換金しにいかねば……。
――
「ただいま~」
おかえりなさいと二人の声が聞こえる。
部屋に入り両手に持ったビニール袋をどさりと置き、床に座り早速食べ始める。
むしゃむしゃゴクゴク、テーブルの上の二人には定番のクッキーを渡してある、俺には小さいクッキーだがリルルなんかは両手で持ってカジカジと削って食べている、ハムスターみたいで可愛いな。
ポン子? ああうん一瞬で食べ終えて俺のパンを見ている、欲しいとは言ってこない、只見ている。
コーンとベーコンを使ったピザ総菜パンをポン子の前に置いてやる。
「いいのですか? 私はイチローの精力の為になら我慢できますよ、大丈夫です」
自分の為に女に飯を食わせない男みたいに聞こえるんで、その言い方は止めてください。
「だいぶん落ち着いてきたし一個くらい平気だよ、食べておけってポン子」
そうですか? と嬉しそうに返事をして食べ始めるポン子、リルルにも少し分けていてちゃんと先輩してる。
「しかしあれだな、三十個近くのパンを食べてるのにお腹が張らないのが怖いんだが……」
リルルが生活魔法で手を洗いながら答える。
「足りない分を
「永遠にリソースを生み出せるかと思えたが、そんな美味い話は無いか」
まだじっくり普通にパンを食べているポン子は残念そうに。
「モグモグ私のお小遣い無限計画もおじゃんです、食費とリソースの変換率はどんなものですか? ムグムグ」
ずっとやるとなると食べるという行為が面倒くさいが。
「お金が一杯あるなら悪くは無いと思う、だが現状はちょっと、使うのに躊躇する所だな」
結局世の中金なのか、せちがらいねぇ……。
「ご主人様、力を得たり使うには対価が必要でそれが基本です、けども人間の精神のゆらぎから得られるリソースは対価がほぼいりません、最低限でも本人が生きてさえいればいい、つまり無限に湧き出てくる泉のごとし、という訳で悪魔や神が永遠と地上の管理権を奪い合うのも無理ありませんね……」
やっと食べ終えたポン子は。
「まぁ只生きているだけの人の精神のゆらぎなんて小さい力しか生みませんし、平和に楽しく幸せに生きている人達が神々には必要なんですよイチロー」
なるほどなぁ……悪魔は人間を家畜と、地上を牧場と言うと聞いた、そして神は人々が平和であれと願っていると言っていた、でもそれって……いや考えるのはよそう、俺もそっち側になっちまったらしいしな……。
「やっと腹が収まった感じだ、もうこれで問題ないな? リルル」
「えーと……」
何故か何か言いよどむリルルさん、ちょっと待って。
「まずい事でもあったのか?」
「ご主人様が最初から全力で〈ナデポ〉を使った影響で制御魔法回路が焼き付いてしまってます……、〈ナデポ〉の制御が難しくご主人様の感情によって勝手にリソースの過剰供給をしてしまう時もあるかと思われます、なので平常心、平常心でお願いしますね」
精力の上限も封印によって設定されていた人間の枠にちょっとヒビが入ってます、とリルルは続けた。
まってどっちも聞き逃せない話なんですけど!
「それは暴走しちゃったりは? リルルがまた調整するとかで治せない?」
「焼き付いてしまっているので難しいです、一からやり直せばいけなくも……すっごい弱いスキルにというか、この状態からでは副作用が怖いですね、ハゲになる可能性が高いですけどやり直しますかご主人様?」
うおぃ! ハゲか〈ナデポ〉の制御が難しいかの二択とか迷う必要すらないじゃんか。
くそ……でもハゲは……いやだ。
「このままでお願いします、ん、自分の中の〈ナデポ〉の制御スイッチが壊れている、いや緩んでいるのが判るな……」
うぐぐ、いきなり全力全開とかやった馬鹿はどいつだよ! 俺だよ! むぐぐ。
新品の組み上げられたばかりのエンジンをいきなりフルスロットルしないよなーそうだよなー。
何で俺はそんな事を……あれ? 誰かに
ふむ……。
「精力の上限にヒビって大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよご主人様、元々神の器の中に人間という結界を作ってあるだけですので、結界にヒビが入っても神の器に精力が少し流れるだけですよ」
結界にヒビが入ったって大事に聞こえるですけども。
ヒビイチローですか、ってポン子お前それ名前が混じってすらいねーじゃんか、不採用だ。
「えーとヒビといってもほんの少しですし、流れ出た物をそのつど取り除いてあげれば……うん大丈夫です私にまかせて下さいご主人様、なんとかしてみせます!」
リルルさんがすごく頼もしい。
「よく判らんが頼んでもいいかな? リルル」
ポン子がリルルに耳打ちをしている。
「はい! このセクシーリルルにおまかせです! あ、忘れてたムギュ!」
ポン子がリルルに、こういう場合はムギュまではいらないんです、と忠告をしている。
了解ですポン子先輩! とリルルは楽しそうだ。
リルルが順調に染まっていくのを実感する、まぁ本人が嫌がってないならいいか。
「一応全部試したしもう終わりにするか、〈マラカス〉の麻痺や睡眠はポン子で試す訳にもいかないしな」
「そうだねイチロー、〈マラカス〉の振動もそのうち試そうねー」
くそ覚えてやがった……そこに触れないようにしてきたのに。
「……そうだなダンジョンの魔物で、麻痺や睡眠を試そうな」
「……そうだねイチロー、スライムを振動させようね」
……。
……。
「振動いらなくね?」
「何言ってるのイチロー! 〈マラカス〉の一番大事な部分じゃないの! イチローは私と一緒にマッサージ師の星を目指すって約束したじゃない!」
そーなんですか? と顔をコテンと傾げるリルル。
んな約束してないわい。
くそこうなったら。
「スラ蔵さんクッションモードから横長バランスボールモードにチェンジだ」
スラ蔵さんは指示に従ってムニョンと体を横長に変形させる。
そして俺はスラ蔵さんの左右から手で包み。
「〈マラカス〉振動モード出力強め!」
振動を発動してやった、どうだスライムに使ってやったぞポン子。
「うわわわ、後輩ちゃんこれすごいね、ワーレーワーレーハーウチュジンダー、あはは」
「きゃぁっ、なんか体がピリピリする感じでこそばゆいですね、ポン子先輩」
楽しそうで何より、だがリソースが勿体ないので終わらせる。
「はい、スライムに対する実験終了しました、もういいだろ?」
「イチロー、中々の振動でした、今度私の肩にもお願いしますね」
リルルじゃあるまいし、肩が凝るような物は持ってないだろに。
「うん? イチローにすごく侮辱された気がするんだけど」
「気のせいだ、もう寝よう明日はリッチのコイン売ってモバタンやら買い物しようぜ」
「ついにこの部屋でアニメや漫画が見れる時が来るんですね」
情報収集を忘れるなよ?
モバタンって何ですか~、とリルル、買う時教えてやるからと返しておく。
「でだ、リルルの寝床は用意してないので今日はポン子と一緒に寝てくれや、じゃよろしくなポン子、あ、寝床はロフトなリルル」
リルルにロフトを指さし、俺はさっさと自分の布団を敷く行動を初めてしまう。
そうだったとぽつりと呟くポン子をリルルがガシッと掴み、スラ蔵さんも一緒にロフトに飛んでいく、生活魔法便利だなー俺も欲しいや。
おっともだちといっしょ、はっじめーていっしょと、楽しそうに口ずさむリルルを止める者は一人も居なかった。
俺はそれを手を振って見送る、ポン子が何か言いたげに俺を見るが笑顔を返す。
さて、お休みなさい、今日はよく眠れそうだ。
何故なら。
『ちょ、後輩ちゃん! くっつきすぎです』
『お友達ならこんな物ですよー部隊長もそう言ってました』
『その部隊長とはいつか話合いが必要そうです、わわ抱き着かないで下さいって』
『抱き枕のスラ蔵さんは今ベットになってますし手と足が寂しいんです』
『このポヨポヨを感じるたびに私の心が削られていくんですよ……』
『ポン子先輩は暖かくてきもちーです、ふひゅぅぅ』
『足を絡めないでくださいってば、あれ? もしもーし後輩ちゃん?』
『ってもう寝てる! 子供ですか後輩ちゃん!』
『まったく……って揉まないで、そこはだめですって、実は起きてるんじゃ!』
『やっぱ寝てるし! この絡めとる動きはサキュバスの本能というやつでしょうか』
『天使が悪魔に負ける訳には……前大戦では私は負けたようですが今度こそ!』
『むぉ寝技がすごすぎる……抜け出せません、実は柔道の黒帯とかなんでしょうか』
『ひゃふっ、そこだめくすぐったい、ほんとにだめですって! 後輩ちゃん』
『くぅ私とて天使界のフードファイターと呼ばれた身です、いざ勝負!』
『クッころせ』
――
―
寝るのに丁度良いBGMもあるしな。
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