第37話 技の試し
「それでですね、ご主人様」
美少女妖精の床になった俺はリルルの説明を聞いている。
「〈夢見がち〉スキルの下部にある技が〈ナデポ〉〈マラカス〉〈救世〉になります、そしてそれぞれに能力上昇の効果がつきまして」
おおースキル習得による能力上昇がそれぞれって事は最低でも三種類以上ってか、これは熱いな! 探索者歴二年、俺にもついにこんな時が来たかぁ……。
「〈ナデポ〉に耐久UP、精力UPが」
二つもか! って精力? 攻撃に使え無さそうだが……耐久あるし良しとするか。
「〈マラカス〉には麻痺微耐性と睡眠微耐性、それに精力UPです」
三つもか! ってまた精力? もしこの耐性あったなら伯爵悪魔の攻撃で麻痺する事もなかったのかな? いやさすがにそれは無いか、でもあるだけ良し。
てか正式名称の技名が最初から使われないとか可哀想だな〈麻痺雷雷睡眠〉。
「〈救世〉が再生付与×三そして精力UP×五です」
八つもか! ってまてまてまてまて、バフでかかる能力が八種類そのまま上がればいいじゃんかよ! なんで精力が五個って……、まさかルーレットか何かでランダムとかかこれ……。
「以上〈夢見がち〉を覚えた事で、耐久UP、麻痺微耐性、睡眠微耐性、再生付与×三、精力UP×六十くらい? がご主人様に付与された事になります」
わー精力絶倫ですねーさすがインキュチロー、とポン子。
新しい名前が付いたようだ、そう俺はインキュチローって、……何かインキャみたいで嫌だな。
「リルル、その精力×六十は大丈夫なのか? てか一桁間違えてない? 俺はムラムラして暴発して誰か襲っちゃったりしない?」
「普通の人間なら兎も角、ご主人様の格は神とちょっとの悪魔に変わってますし、これくらいの精力持ちなら地獄にもそれなりにいるはずですから大丈夫です! うちの氏族長も精力UPを何個も持ってたはずですよ?」
普通の人間なら暴発しちゃうのかな……? 俺は人間をやめたぞポン子。
何個かって六十より多いのだろうか、少ないのだろうか、氏族長って一族の長だよね、それと比べられるくらいになっちゃうのか俺、ってやっぱ数おかしくね?
「〈マラカス〉や〈救世〉は材料が弱かったり、わざと弱くしたりの技ですから、それに比べて〈ナデポ〉はそうですね、前者がコモンとしたら……後者はハイレアは有りますね! なので同じUPでも伸び幅が変わってくるんですよねぇ、きっちりした数字が出る訳でもないし六十って数字も適当で、実際はもっと上がるかもしれません」
コモンから三段飛びしちゃったよ……〈ナデポ〉そんなにすごいの? 一番戦闘に使えなさそうな技なのに……?
そこでポン子が口を挟む。
「イチロー、ハイレアポーション一個をコモンポーション六十個と交換してあげますか?」
「いくらなんでもそれはありえないだろ」
一個数千円の物と数千万の物をそんな交換なんて……。
「ですね、それくらいの差があると思えばいいんですよイチローの技には」
まじかぁ……コモンとハイレアの差は実はもっとすごいのかも? 数値で聞くの怖いしもうやめとこ……。
「あれ? じゃぁ耐久も上がり幅が違う?」
「そうですね、ご主人様の精力のすごさに忘れてました、耐久も大UPと思ってください、むしろそれ以外は低めですね、再生は傷が治るのが早くなりますが、深い傷とかが一瞬で治る訳ではないのでご注意下さい」
どうも精力のすごいご主人様です、……自己紹介に使えない技や称号が増えていくぅー!
「では私が掌握してるご主人様のスキルを解放しますね、名前を意識すれば使い方や内容がなんとなく判ると思いますので、いきますよー」
リルルがそう言ったので、〈夢見がち〉を意識する、と、スキルの内容がなんとなく判る、技名に効果に……ってあれ? そうかこれは……。
「これって悪魔や神のスキルだから応用が効くって奴だよな、今はリソースの注入量で効果を上げたり下げたりしか出来ない感じか?」
「ですです、まだ神魔のスキルの扱いに慣れていないご主人様の為に威力以外の応用にリミッターをつけてます、スキルに慣れてきたらそのうち徐々に解除する予定でいます~」
なるほど、そしてこの感じだと……。
「デフォルトの状態ならまだしも、リソースを過剰供給した時の〈ナデポ〉に比べて他二つの費用対効果がくっそまずいなこれ」
つまり運命の神はやはりイチローをラブコメ時空に呼んでいる!? とポン子が驚愕している、いや呼ばれてないから俺は探索者だから。
「です、〈ナデポ〉以外の二つに過剰供給する時はここぞという場面だけにしたほうがよさげですねご主人様、〈ナデポ〉の方は効率いいのでいくらでもやっちゃってください、理論上は無限ですが現実的な数値でも感度数千倍くらいはいけると思います!」
ブハっと俺とポン子が噴出した、やっぱリルルはサキュバスなんだなぁ……、普通の人はそんな数値に耐えれません。
「リルルさんや〈ナデポ〉にもリミッターかけてくれる?」
「意識しなければパッシブ発動で二倍くらいですし大丈夫ですよ、ご主人様」
「え、〈ナデポ〉ってパッシブなの? ……うわほんとだ、リソース勝手に消費しちゃうじゃん」
「効率良いって言いましたよね? 触れた時に自動で発動するだけで常時という訳でもないですし、リソースの使用分なんて〈マラカス〉とかに比べたら誤差みたいな物です、気にしなくても大丈夫ですよご主人様」
〈ナデポ〉さんが優秀すぎて辛い、出来れば他二つが優秀であって欲しかった、力の残し方まで残念かよハゲ悪魔め、と八つ当たりしておこう。
「まぁ実際に使ってみるか……じゃぁポン子いくぞ」
ポン子はびっくりした顔で言う。
「え? 何で私にやる事が決まってるの? 後輩ちゃんとジャンケンとか……」
はは、こやつは何を言っているのか。
「はは、あれだけ俺の技名で遊んでおいて逃がす訳ないだろう? それにリルルはいざという時の監視の役目がある、冗談は胸だけにしようぜ? ポン子」
「ほう……そのケンカ高値で買いますよ! イチローのへなちょこスキルなんて私にはまったく効かないでしょうね! 部屋の隅で踊って演奏でもしてたらどうですか?」
「うぬぬ」
「ぐぬぬ」
とポン子と睨み合う。
リルルが心配げに、あわわ、け、ケンカは駄目ですよーとオロオロして、少し涙目になってしまっている。
あ、やべ、ごめん。
「リルルが本気で心配しちゃってるな、やめとこうかポン子、リルルこれはケンカじゃないからな、お遊びだ」
「あらほんとだ、後輩ちゃんごめんね軽口を言いあうのも親愛の証みたいなものでケンカじゃないんですよこれ、いわばプロレスです」
リルルはホッと息を吐き。
「そ、そうなんですかー、私びっくりしちゃいました、友達は軽口も言い合うと覚えておきます、プロレスですか? 後で教えてくださいねポン子先輩」
リルルが眼鏡をずらして目元を拭きながらそう答えた。
リルルの天才さでこういった事を覚えていく訳だが、それがどう発揮されるか楽しみであり、ちょっと怖くもある、ポン子だと夜のプロレスとか教えそうなんだよなぁ……。
「じゃ弱そうな技からな、えーと〈マラカス〉! を最小威力で」
ポン子達の前に右手を出し親指と人差し指で丸を作り少しだけ間をあける、パシッっとそこに雷……いやこれ冬の静電気でなるやつー! いやまぁ最小威力だしな……、突っ込みを入れているがなんとなく判ってた事だしよ。
ポン子が俺の指先の間に手をいれ言う。
「イチローもっかいやって下さい」
まあ静電気のやつくらいだし大丈夫かなとパチり。
ポン子は平然としていて。
「くすぐったくすらありませんよ~、もっとガッっと来てください、ほらほらピッチャーびびってるへいへいへーい」
ほほう、ならデフォルトの威力でバチッとな、静電気より少し強いか? 科学の実験とかで芸能人が大げさに痛がるくらいだな、例えられても実感がまったく得られなそうだが。
「蚊でも刺しましたかね、こんな季節にいるとはオホホホ」
イラっとしたので意識してリソースを多めに注入、バシンッ! やべ音が結構すごかった、大丈夫かポン子。
「うーんまったく効きませんね、この技失敗作なのでは? 後輩ちゃん」
あっれぇ? まだ状態異常も付与してないがここまで効かない技なのかなぁ?
「元々弱い技の予定でしたが、そこまで弱いはずは……、ちょっと私にもお願いしますご主人様」
とリルルが手を前に出したので俺の指の間に来るように調整。
まぁデフォルトでいいか、バチッ。
「いったぁぁぁー---い! 痛い痛い痛い痛いうぇぇぇぇぇいたいですごしゅじんさばー」
ちょリルルさん泣き出しちゃった、えなんで? ポン子が痛みに強い変態だから?
「何かイチローに侮辱された気がってそんな事は後でいいや、えーとえーと後輩ちゃん大丈夫? そうだ! イチロー〈救世〉に再生付与が入ってたはずです使ってください!」
「リルルを救いたい! 〈救世〉発動! リソースも過剰注入!」
俺の体から湧いた光の粒がリルルにまとわりついて吸収されていく。
ど、どうだ?
「ぅぅぅいだみがすごしおざまりましたぁ、ありがとうございばすごしゅじんさば」
ポン子がお弁当と一緒に貰った使い捨ての紙製お手拭きを袋から取り出し、眼鏡を外し涙と鼻水を拭いてあげている。
こんな時だがティッシュペーパーとかも買わないとな、紙のお手拭きは弁当の数だけ貰えるから使い捨てのやつが溜まってはいるんだが……。
それと〈救世〉は発動した時のリソースの注入量によって威力と効果時間を設定できる感覚があるな、どっちも上げたり伸ばしたりすると効率激マズだが。
「もうイチロー強くやりすぎたんじゃないですか? だめですよいじめちゃぁ」
「いやお前に二度目にやった威力だよ! 蚊がどうのって言ってたじゃんか」
俺とポン子は二人して首を傾げている。
チーンとお手拭きで鼻水をかんだリルルは元に戻り、いやほんとごめん。
「ごめんなリルル大丈夫か?」
「はい、覚悟してなかったのでびっくりしただけで、ケガとかは無いですから痛かったですけど……、ポン子先輩足を前に投げ出して座って下さい」
急にそんな事を言い出すリルル、ポン子も素直に言う通りにする。
そしてポン子の足に自分の足を絡ませて、さらに体もピタッっとくっつけているリルル、何事?
「ご主人様、ポン子先輩にもう一度〈マラカス〉を使ってください、今度は持続させてお願いします」
ポン子が手を出すので俺は言われた通りデフォルト出力でバシッっと出し続ける。
うへ、これ出し続けるとリソース消費が効率悪いのが判るな。
リルルはポン子を見ながら魔法を使っている。
「はい、もういいですよご主人様、先輩も」
俺は技を止め、リルルは足を元の女の子座りに戻し、ポン子も横座りに戻る。
「えっとですね、ポン子先輩はどうやら雷に対して強力な耐性があるようです、しかもご主人様の雷はリソースを使用した物なので、その一部、神聖属性部分を吸収すらしていました」
悪魔部分は無理っぽいので半分くらいですねーとリルルは言っている、あー、だから伯爵ハゲ悪魔の雷が……なるほど、あれ? 吸収するなら……。
俺がポン子と大天使さんの関係性に思いを寄せていると、ポン子が超速で魔法モニターを出し。
「イチローもう一度お願いします」
声をかけてきたので思考を止め、言われた通り。
「おっけー」
バチッっとデフォルトの〈マラカス〉を十秒ほどやって止めてみる。
もしも字だけで見たら十秒間演奏をバシっと華麗に決めているみたいだよなぁ……まぁ俺の思考を読める奴なんてこの場に居ない訳だが。
魔法モニターで何やら確認してるポン子が。
「わー自然と近場から吸収する分より、ちょびっとですが多いリソースが我が手の中に……」
魔法モニターを消したポン子の目が怪しく光る。
「イチロー! 私のお給料はこれでお願いします!」
お前弁当でいいって言ったじゃーん。
「いやいいけどよ、持続して出すとリソースがすぐカラッポになりそうなんだわこの技、というか今現在ほとんど残ってない感覚がする、燃費悪すぎだわ」
いえご主人様はたぶん……とリルルが何か思考しながらささやくのが聞こえた気がした、なんだろ?
「ポン子には余裕がある時でいいか? 俺もいざって時の為にリソースとやらは貯めておきたいしさ」
ポン子はがっくりと項垂れ。
「確かにイチローの安全を優先しないとですね……私もあの悪魔の時の不覚を二度と繰り返さないように貯蓄が欲しかったのですが」
「本音は?」
「大天使様からマイコレクションを買い戻したくて……いやいや、ちゃんと貯蓄はしますよ?」
「そーいう事にしといてやるよポン子」
「あと一つで終わりですねご主人様〈ナデポ〉を使ってみて問題なければ、技の試しは終わりにしましょう、それと――」
「そうだね後輩ちゃん! よしイチロー、最後だし攻撃系でもないんだし、残り少ないリソース使い切る勢いでいっちゃおうぜい、ね、後輩ちゃんも一緒に頭ナデナデして貰おうよ!」
ポン子が勢いよく提案してきた、セリフを遮られたリルルだが、さきほど撫でられた事を思い出してるのかホンワカした顔で。
「それもいいですねぇ、ご主人様の頭ナデナデは気持ち良かったですから~」
ふむ、自分の中のリソースを感じてみるが空っぽに近く、ほとんど残って無いのが判る、これなら大丈夫か。
バッチコーイと言ってるポン子と隣のリルルの頭を片手づつの指先で撫でる。
「よーしじゃぁ俺全力全開でいっちゃうぞー、全開!〈ナデポ〉発動!」
あ、待ってください、とリルルが言った気がしたが。
そして全力全開を意識して技を発動させる、まぁリソースなんてほとんど残っちゃいないんだが。
そしてポン子とリルルは。
「あほんとだ気持ちぃ……ほぅわぅぇ……むきゅーーぅぅぅぅ……」
「待ってごしゅ……ふぁああぁぁ……だめ……ほにゃぁぁぁぁ……」
妙な声を上げたと思った二人はパタリと倒れてしまった。
いや、なんでだよ!?
「ポン子ぉぉぉぉぉ! リルルぅぅぅぅ!」
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