第34話【閑話】神界3
そこはいつもの部屋だった。
ソファーに座わった二人の天使が向き合っている。
「調子はどう?」
「さすがに疲れましたね、少し休めたのでなんとかいけます大天使様」
「悪魔と神の力の融合とか、さすがにきつかったわねー、なんとか無力化は出来たと思うけども」
「使ってみないと、これ以上はどうにも言えないですものね」
「そうねぇ、まぁそろそろ連絡をして始めま――」
大天使の前に魔法モニターが出現する。
「彼に埋めといたマーカーが反応してる? 試しの前にスキル使っちゃってるのかも」
大天使がモニターを複数出して作業を始める、それを見た天使も自身のモニターを複数出し何やら確認しはじめる。
「スキルを使用した訳ではなさそうですね大天使様、これは妖精? いえこの妖精から悪魔系のスキルを使用してる反応があります、どうやら彼の中のスキルを解析しているようですが……」
「なんであの子達の側に悪魔の妖精? がいるのよ……、ちょっとあの子に聞いてみるわ」
しばらくモニターで地上とやり取りをした大天使、溜息を吐きつつ天使に説明をする。
「あの伯爵悪魔の部下がダンジョン妖精に変身していたのをカードテイムしたらしいわ、本体を変化させているので、テイマーの配下として主人に危害を加える事は出来ないから大丈夫ですって、ちゃんと報告はしておきなさいと言っておいたわ」
「なるほど、なら彼の中を確認しているだけなのでしょうか」
「そうねー、まぁ取り合えず止めさせてスキルの試しに移りましょうか」
大天使はモニターを操作する。
「悪魔妖精ちゃんが地上に来いって言ってるそうよ、無茶を言うわねぇ」
「大天使様のファン二号でしょうか」
「ハゲ伯爵悪魔をファンって言うのやめてね、地上に返事しなきゃね」
大天使が再度モニターを操作していると、チャットが送られてくる。
ここで魔法モニターに視点を移す、表意文字は日本語に訳して。
『こんにちわ、私はご主人様の従者であるセクシーリルルです! ムギュッ! 貴方がご主人様の中をぐちゃぐちゃにした天使でしょうか?』
「え、なんで悪魔が天使のチャットに割り込んでこれるのよ……、ムギュって何?」
『返事がありませんね、やっぱり愚鈍な天使がご主人様に害を為したのでしょうか』
大天使は顔をしかめてモニターの操作に集中する。
『なんで悪魔が天使のチャットに割り込めているのよ、それに害って私たちは彼を助けただけよ、そりゃ悪魔から見れば悪魔に堕ちない事が害なのかもしれないけども』
『すでに出来ている事を何故と言っている時点でお粗末なのです、魔法の素人ですね貴方、そんな人がご主人様を弄ったかと思うと……、私は従者です主人が望まない事はしません、悪魔だろうが神だろうが知った事ではありません、主人が望む事を為し主人を守る者です、ご主人様がハゲになる事を望んでいるとは思えません!』
『いやチャットの割り込みがそう簡単に……、私はこれでも日本管区内ならトップクラスの実力があるんだけども、ってハゲ? 何それ』
『嘘はいけません、天使のトップクラスがこんなミスをするはず無いでしょう! 悪魔の負の力と神の正の力をぶつかり合わせて限りなくゼロにして無力化する、一つの方法としては認めます、が、邪悪な部分の相殺に気を取られ過ぎて悪魔自身の性質の一部を見逃していました、邪悪じゃないからいいのですか? うちの主人はハゲになってもいいんですか!』
「え、え、ちょっと彼のデータを参照してみてくれる? 悪魔妖精ちゃんの言ってる事が正しいのか調べてちょうだい」
「判りました大天使様」
『それだけじゃありません不自然にインキュバスの性質を抑えているので、このままだと遠からずご主人様はお子を為す事が出来なくなります、天使は子供を作るという考えが理解できないのかもしれません、が、ご主人様の精神はまだ人間なのですよ、話をすればよく判ります、ごくありふれた男の子なのです、自分の子供が作れなくなるかもと知ったらご主人様はどう思いますか? それにこのままじゃぁ私とご主人様の子供も作れなくなる所だったでしょうが!』
「あー、子供かぁそういえば人間だったら作るよねぇ、彼もしばらくは人として生きるんだしすっかり忘れてたわ、それと仲間になったばかりなのにもうそんな仲なのね、やるわね彼」
「大天使様、確かにハゲの件は悪魔妖精さんの言う通りでした、邪悪な部分でない場所だったので気づかなかったようです、このままスキルを確定して使用していたら少しづつ髪が薄くなっていったと思われます」
『さっきからご主人様にアクセスが……なんですかこれ……、この、ご主人様に埋め込まれているマーカーとバックドアは削除させて貰いますね、主人のプライベートを覗いていいのは私と先輩だけなんですから!』
「ええぇぇ、ちょこんな簡単に削除って……うわぁ彼の中見れなくなっちゃった……なんなのこの子……、仕方ないから望遠で直接見てる画面だけ残してこっちは消してっと」
「悪魔妖精さんすごいやり手ですね、伯爵悪魔を潜り込ませたのは彼女でしょうね」
「あー私が部下に欲しいって言った相手か、ふむ……」
『不手際があったみたいで謝るわ、彼に危害を加えようとしていた訳じゃないの、悪魔に堕ちないようにと気を取られてしまったみたいで、ごめんなさいね』
『……謝れるようなら大丈夫そうですね、きっと貴方は技術力の無い天使なのでしょう、けれど私にとってご主人様は唯一無二の存在なのです、素人の練習台にして良い存在では無いんです、後は私がやりますので、ご主人様にかけた処置のアクセスキーを下さい』
「私、これでも日本のトップクラスなんですけど……、素人って……」
『さすがにそれは……、悪魔の力は暴走すると彼が酷い事になっちゃうし……』
『は? 下手くそが弄ったから、こんなに酷い事になってるんでしょうが!』
『それは確かに間違いはあったのかもですけど、悪魔の力の制御を悪魔にまかせる訳に行かなくてですね』
「大天使様、押されて言葉使いが丁寧になってますね、うける」
「うけるって何よ! しょうがないじゃないこの悪魔妖精ちゃん、なんか怖いんだもの……」
『さきほども言いましたが私はご主人様の従者です、悪魔とかどーでもいいです、なんなら契約を結んでもいいですよ? 〈ご主人様をわざと悪魔化させるような事はしない〉というのはどうですか』
『相談するので、しばしお待ちください』
「うーん、どう思う?」
「そうですね、ここは運命にまかせてみてもいいのではないかと」
「貴方……面倒くさくなってるでしょ? いや私も気持ちは判るけど、彼への処置は闇鍋を食べるような物だものね……よし、外注って事にしちゃいましょう!」
『上司の許可が出ました、貴方に彼のスキルを調整する仕事を外注する事にしました、つきましては魔法による契約をして頂く事になりますがよろしいでしょうか?』
『かまいません契約文を送って下さい』
大天使はモニターにかなりの魔法力をこめている。
しばらくして。
「ふぅ、これで終了っと、後は少し観測して終わりにしちゃいましょう、そもそも悪魔妖精ちゃんを受け入れたのも彼なんだし、後は向こうでどうにかするでしょ……、さて、運命はどう転ぶのやら……」
「楽しんでますね大天使様、まぁ彼女がいなくなって神界も平和になっちゃいましたしね、お茶でも飲んで見守りましょうか」
そう言って天使はいつものお茶道具を取り出す。
「そうねー頂くわ、あー後、彼の封印が解けて神族の仲間入りする時に、悪魔妖精ちゃんも一緒にうちに取り込んでしまいましょう、なんなら昇天させてもいいし外部協力者としてでもいいし、とにかく神様に許可申請投げておくわ」
「気が早くないですか? 少なくても百年以上先になりそうですけど」
「半神半魔なんて、いえ今は九神一魔くらいだけど、レアな存在が好きな神々一杯いるでしょう? 天使の中にすら目をつける輩が出てくるはず、彼もそうだけど悪魔妖精ちゃんもかなりの技術持ちだし、幸い私の所の天使が守護天使についてるからうちの管轄だって言い張れる、おまけで神様に許可を貰っておけば牽制になるわ、これも彼らを守る為よ!」
「本音は?」
「あんな面白そうなの他にやれますかっての! ……あ」
二人の天使の間にしばし沈黙が流れる。
「……まぁ私も賛成しますけども、そういえば大天使様、あの悪魔妖精さんはどうやって天使のチャットに割り込んできたんでしょうか?」
「あーあれはね、守護天使と彼の間にはパスが通ってるでしょ、そして悪魔妖精ちゃんと彼の間にもパスがある、つまり」
「彼を通じて彼女のアクセス権限を借りた……と? 言うは易しですが実際にやれと言われても私には無理ですね、大天使様ならどうですか?」
「うーん実際にテイムされてみないとあれだけど……やれなくはなさそうかな? 何にせよ、これからあの子とチャットやらで繋ぐ時は間に障壁を最低でも三個は展開するようにして、一つ目の障壁を突破されたら強制切断で」
「承知しました、関係各所に通達しておきます」
「じゃまぁ、もう少し地上の様子をお茶でも飲みながら見守りましょうか」
「はい大天使様、あ、最近良いお茶菓子を手に入れたんですよ」
そうして
二人の天使は地上の様子を見つつ、お菓子とお茶を楽しみ、雑談をし、笑い、顔を赤らめ、時間が過ぎて行く。
神界は今日も平和だった。
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