第33話 リルル先生誕生

 リルルが解析だかを始めてぶつぶつと独り言が聞こえてくるんだが。


 これはひどい、とか、ここに気づいてない?、とか聞こえてくるんです、なんかすげー怖い。


 そんな時にポン子の前に魔法モニターが出現する。


「あ、連絡きましたね、えーと」


 ちょっと待ってくださいとポン子は言いながらモニターの前で操作をしている。


 ポン子がしてるあの顔は忘れてたーの顔だな、何をやらかしたのやら……。


 ポン子がモニターを操作し始めてからしばらくたった。


「えーとスキルの試しをしたいそうなので解析は終わらせて欲しいそうです」


 リルルはムクリと上半身を上げポン子を見て。


「ポン子先輩、ご主人様に処置をした人からの連絡ですか?」


 声質が低いというか怖いんですけどリルルさん。


「そーだよ後輩ちゃん、今神界からここを見ながらチャットしてて、危ないから試しが終わるまで解析とかはしないでー、と言ってるね」


 リルルの顔が険しくなっていく。


「先輩、ちょっとその人をここに呼んで下さい」


 リルルの声が今までに聞いた事のない物になっていく、ポン子はそれに答えて何かを操作している。


「神界から来るには許可が必要だし、スキルの試しで何か問題があればまた転移で召喚するって」


「問題? 問題ですって、アハハ、すでに問題のある改変をしておいてどの口が! 又聞きだと面倒です、ポン子先輩それ私にも貸してください」


 言うなりリルルは魔法を何か使ったようで、ポン子の前にあった魔法モニターが分離して、増えた分がリルルの前に移動した。


 リルルはそのモニターに手をあてて険しい目で見ている。


「ちょ、え、後輩ちゃん? 今何をしたの? ってうわぁ神界と後輩ちゃんでチャット会話が始まってる……え? え? どうやってるのこれ?」


 ポン子はなにやら焦った調子でリルルに問いかけたが無視されている。


「何がおきたんだポン子、てかその魔法モニターって貸し借り出来るのなら俺にも一個見せてくれね?」


 ポン子は俺の問いかけに。


「画面を見せるくらいならできますけど、イチローに神々が使う表意文字は読めないから意味ないですよ、そもそも私は何も操作してないのに後輩ちゃんに画面を分離させられて操作権限の一部を奪われたんです……」


 あはは、と茫然としてるポン子、うわぁ……リルルさん実は天才?


 リルルは何やら魔法モニター画面の前で、っていつの間にか画面が三つに増えておられる、両手を出してぶつぶつ言いながら操作をしてる。


 以下リルルの独り言


「ハゲになったご主人様なんて嫌ですよ!」


 まってまって俺ハゲになっちゃうの? ポン子を見るが魔法モニターに集中していてこっちに気づいていない。


「私とご主人様の子供が作れなくなったらどーしてくれる」


 えっと、俺とリルルは子供を作る事がいつのまにか決定していた?


「この不愉快なマーカーとバックドアは削除します」


 マーカー? ドア? なんじゃそりゃ。


 ポン子は妙な顔をして私も一緒に覗くの? と呟いている。


「謝るならまだ救いがありますね、平然としてたら引っぱたいてボコボコにする所ですが」


 リルルさんが怖い、そしてポン子が、それは無理じゃないかなーと言っている


「下手くそが弄ったから、こんなに酷い事になってるんでしょうが!」


 リルルさんが激怒しておられる、そしてポン子が何故か腹を抑えて笑っている、なんでや?


 そしてリルルの前の魔法モニターが光り輝いている、リルルがそこに手を置いて何かをしている?


「ポン子さんや、何がどうなっているのかね?」


「フククッフハッ……えーとクフッですね、イチローがハゲになりそうで後輩ちゃんが怒って、大天使様が素人呼ばわりされて𠮟られて、スキルの件が後輩ちゃんへ外注になりました」


 ポン子が懸命に笑いを堪えようとしながら答えてくれたが。


「まったく理解できないの俺だけか?」


 ポン子が深呼吸して落ち着いてから。


「いやー面白かったですよ~、下手な漫才より面白かった、あ、後輩ちゃんの魔法契約終わったみたいですね」


 リルルがモニターをすべて閉じてこちらに向いた、笑顔満開で可愛いはずなのに獲物を前にした狼に見えるのは気のせいだろうか。


「ご主人様のスキルの調整は私がやる事になりました!」


 嬉しそうにそう語るリルル、何がどうしてそうなった……ポン子を見る。


「大丈夫だよイチロー、後輩ちゃん技術力が高そうなんだよね、サキュバスなのに魔法技術が凄腕なのは生まれる種族間違えてるんじゃと思うけども、それに大天使様に対する自己紹介を見るに、後輩ちゃん純真というかすごく良い子だって判るし悪い事にはならないと……いいね?」


 おい、最後なんで疑問系になってるんだ。


 大天使さんにスキルの事を任せられたんならすごいのかも? でもなポン子よ、技術力が高いのと倫理観が高いのは別なんだぞ……。


 リルルがマッドサイエンティストみたいじゃ無い事を祈る。


 ポン子の褒め? 言葉に照れているリルルが返す。


「ほめ過ぎですよ先輩、私はサキュバスの種族特性のせいで攻撃力はほぼ無いんですが、中を弄ったり変えたり調律するのは得意なんです、ずっと研究ばっかりしてましたから、姉さま達に営業の役に立つテクニックを教えるといってよく邪魔されましたが……」


 ううん、なんかお姉さん達のリルルに対する行為が、いじめじゃないような気がしてきた。


 下の子を可愛がって構いすぎて嫌がられる奴か? 施設でもそういうのあったしなぁ。今度営業の邪魔の内容について聞いてみよう。


「では、ご主人様の中をじっくりねっとりと弄らせて貰いますね」


 リルルさんはまた元の四つん這い&オデコを胸にピタッとつける姿勢に変わる。


「優しくお願いしますリルルさん、後出来れば改変する前に相談して欲しいなーと俺は思う訳だがいかがでしょうか?」


 上体を起こしリルルはこちらを困った顔で見る。


「肌を合わせる範囲が大きい方がやり易いんですけど、説明するには顔を上げないとやりにくし、うーん……よし!」


 何かを決めたリルルさんはジャージの下を脱ぎだした、その下は体操服のショートパンツのような物を履いていて、素足部分が眩しい、そのまま女の子座りをして両手の平も胸にピタっとつけている。


 脚と手の平で肌が合わさっている部分が増えたって事なのかね、リルルは顔をこっちに向けて。


「これならなんとかいけそうです、まずは素人天使さんがやった処置の話をしますねご主人様」


 ポン子がブハッっと呼気を漏らし、笑いを堪えているのが判る。


 よく判らんがリルルにお願いする。


「よろしくリルル」


「はい、ハゲ上司の種族はインキュバスだったのですが、その力が〈夢魔〉スキルとしてご主人様の中で神格の一部や封印やらと融合した状態で出来上がり、それを天使は悪魔化を防ぐ事しか考えずに神の正の力と負の力を相殺させるという処置を施していました、完全な間違いともいえないのですが素人がやりがちな事です」


 なるほど、って素人って大天使さんの事だろうか?


「このままのスキルだとご主人様にとってほとんど役に立たない物になってしまいます、しかも副作用にハゲ作用と子供が出来なくなる作用があるとかありえないです! ご主人様はハゲになっても構わないですか?」


 え、なにそれコワイ、ハゲになる呪いが本当にあっただと!


 リルルに対して首を振って否定しておく。


「ですよね、なのでこの調整は破棄します、神の力も悪魔の力も両方をバランスよく使用するようにすれば悪魔化なんてしないんですよ、半神半魔スキル計画でいこうと思います」


「それに危険はないのか? リルル」


「……何をしてもリスクはゼロに成りません、どうしますか? ご主人様」


 リルルは俺を真剣な目で見て問いかけた。


「俺はリルルを仲魔として受け入れた、なら信用するよ、よろしく頼むなリルル」


 ハイ! と嬉しそうに返事をするリルル、そして説明の続きを始める。


「〈夢魔〉スキルの中にはいくつか効果が複合してて、欲望を増幅させたりタガを外れさせる効果がまず一つ、これは悪魔なら誰でも持っているような物で、インキュバス系なので特に色欲に対して強いですね」


「次に相手の快楽や感度を引き上げる効果とかありますね、あとハゲ上司の得意だった麻痺や睡眠系の力もちょこっとですけど残ってますね、それと黒い雷と吸精術とかもありますね」


 夢魔っぽい感じと伯爵悪魔の得意な物かぁ。


「さきほどご主人様に頭を撫でられた時に気持ち良かったのは少しこの力が漏れていたのもありそうです」


 ポン子がニコポナデポ、いやナデポですぅとか言って興奮している。


「素人天使のやった調整は破棄しちゃいますね、っとこの変更したスキルの名称は素晴らしいですね、夢魔のもつ意味を逸脱せずに内容を有る程度一致させて尚且つ傍目には危険に見えないようにする……、これをやったのはクセからして素人天使じゃないですね、これは残しましょうか、はい、破棄&復帰完了っと」


 俺の中で何かが動いた気がしたような? 一瞬の事だった。


 まって、数秒もかからず大天使さん達の作業を破棄して元に戻したの? 数十分かかった処置なのに……リルルさんやべーっす。


「スキルの名称を聞いたら内容が判っちゃって発動するかもだしまずいんだっけか? リルル」


「いえ、今は私がご主人様のスキル周りを掌握してるので大丈夫ですよ」


 ニッコリと笑顔でいうリルル、お小遣いの額を嫁に握られた夫の気分がする。


「なので知っても大丈夫ですよご主人様、〈夢魔〉スキルは〈夢見がち〉スキルに変更する事にしますね」


「はい? 今なんて?」


「ですから〈夢魔〉スキルは〈夢見がち〉スキルに変更しますね、ご主人様」


 ポン子が懸命に笑い声を出さなようにしてるのが判る、いや声漏れてるからな。


「なんでそんな中二病っぽい名前のスキルに……もっと普通な名前に出来ないのか」


「夢魔という名前に含まれる力の概念を逸脱しすぎるとよく無いんですよご主人様、その点この〈夢見がち〉には夢魔に含まれている欲望やら快楽やら色々な概念が内包されていてロスがほとんど無いんです」


 本当に感心しているのだろうリルルは続ける。


「きっとこれを名づけた天使は素人天使の教育係とかなのでしょう、素晴らしいセンスと力量です、まぁご主人様を教育の為に利用したのはあれですが、この天使さんとは一度話をしてみたいですねぇ」


 ポン子がヒーヒー言いながらスライムに顔を埋めて笑いを堪えようとしている、だから漏れまくってるからな?


「では具体的にどういった効果にするか説明や相談をしていきましょうか、ご主人様」


「あ、はい……よろしくお願いしますリルル先生」


 何かもう抗う事は無理な気がして、つい先生と付けてしまった。


 ポン子が先生役を奪われたとショックを受けている。


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