第32話 研究とは

 スクロールをテーブルに置き、リルルにどうぞと手で示す。


 ありがとうございます~、と空間庫から白衣とメガネを取り出し装着している。


 ジャージじゃなかったら理系の研究職な女子大生といった所か。


 とスクロールを触りながらジックリと観察している、メガネが何か光っているような気もする。


「ポン子、あのメガネって魔道具かね?」


「それっぽいですねぇ、鑑定系でしょうか?」


 今度はスクロールに跨り両手の平をつけてそこが光っている、ぶつぶつと独り言が聞こえる。


 俺とポン子は口を出さず大人しく見守っている、ポン子はスライムクッションを楽しんでるだけともいえるが。


 俺もビックスライムとかのカードが出たらクッション枠にしようかね。


「さすが天使の……、ここがこうで……、はぁ~こっちに繋がりますか……」


「この構文は見た事が……、ここは悪魔の魔法にも……、こっちにしたら……」


「ふふ……ふふふふ、ああぁぁ、やっぱり美しい……、もしかして……」


「はぁはぁ……、そうここが要なのね……、弄りたい、うううう弄りたいよぉ……」


「舐めるだけ……、舐めるだけでガマンをぉぉ……、ご主人様にお願いしたら……」


 スクロールに跨っていたリルルは、いつのまにかコアラのように抱き着いて寝転がっている、ぶつぶつと何かを言いながら時たまハァハァと吐息も聞こえる。


「なぁポン子、これが研究なのか?」


「私に言われても困るよイチロー、後輩ちゃんは色んな属性持ってて逸材だなぁ……」


 ポン子が遠い目をしている、こいつを困らせるとかリルルすごくね?


 終わりそうにないのでリルルは放置して、ポン子とリッチのドロップコインで手に入るお金の使い道を相談する事に。


「十万コインだから、買取相場しだいだが、八十万~百万になって、そこから税金が数%天引きされるんだ、まぁ八十万弱は確実なんだが何買おうかね」


「それは家具とかも色々買えちゃいそうで夢が膨らみますね」


「ポン子は物の相場とか判るのか?」


「漫画やアニメを見る権利の値段とかお菓子の値段は元より、現代ドラマなアニメや漫画とかだと値段の話は色々出てきますから~まぁ何となくは判ります、税金は天引きされるんですね」


「そうだな、全部自動で引いてくれるから楽だよなぁ、俺の稼ぎが上がれば率も勝手に上がっていくとか? よく知らんけど」


 ポン子は怪訝な顔をして質問をしてくる。


「経費とか控除とか有りますよね?」


 聞いた事あるなぁたしか……。


「あー免許取りにいった時のビデオでちらっとあったような? 探索者が武器防具ポーションなんかの探索者に必要な買い物をすると自動で経費が控除でどうたらかんたら、覚えてないわすまん」


「自動でやってるですかねたぶん、まぁいいです大事なのは何を買うかですから」


 ポン子は溜息を吐きつつスルーする事にしたようだ。


「だな、まずモバタンだろ、本体は五万くらいだったかな、情報接続費がデータ量に応じてちょこっとかかった気がする、でもまぁ施設の共用モバタンで無料のアニメとかを見続けても一月三百円くらいだったかな?」


「あーその辺は天使の魔法技術が使われてますからね、通信用の設備インフラが一切いらないんですよねぇ」


「なんかお前らって何処にでもいるよな、天使が居ないと、もう生活成り立たないんじゃ……?」


「ふふり、まぁでも世界の通信網や技術独占してるのに本体も通信費も激安でしょう? あんまり儲ける気ないですからねぇ天使は、これ人間が独占してたらめっちゃ高くなってますよ?」


 確かにそうかもなぁ……。


「天使様ありがたや~ありがたや~」


 両手を合わせてポン子を拝んでみる。


「よきにはからえ~、奉納は食べ物がよいぞよ~」


 片手を前に出して偉そうなポーズを取るポン子、調子に乗ってきたので即終わりにする。


「で、後は壁掛け出来る大き目のディスプレイと冷蔵庫と洗濯機、あと細かい物も色々欲しいな、あ、ベットも欲しいし羽毛布団とか、欲しい物がどんどん出てくる、以前の俺は何やってたんだかな……」


「イチローの過去はおかしな部分もありますが、取り合えず前を向きましょうよ」


「だな、そのうちちゃんと思い出せるかもしれんし、諸々の値段が判らんが、こないだのリサイクルショップで探せばいけるだろ、ポン子の服とかはいらんか?」


「あーこの服って大天使様から貰った特別品なんですよ、性能すごすぎて同じような物を買うとなると……予算の桁が三つは上がるかと」


 ブハッっと吹き出してしまった、三桁って億単位って事だよな。


 オカン大天使は心配性だなぁ。


「買い物は明日にでもするとして、夕飯まで自由時間だが、これどうしようか」


 そう言ってリルルを指さす。


 リルルは未だにコアラ状態で、心なしか頬が赤くなって息も荒くなっている。


「あ、じゃぁ私は自分の寝床にスラ蔵さんを配置してみますね、どんな感じか試してみる事にします、私にも権限下さいな」


 頼まれた俺はスラ蔵さんを触りながら、ポン子に貸与宣言をする。


「ありがとうイチロー、後輩ちゃんはお願いしますね~」


 と、ポン子はそう言うなりスラ蔵さんを生活魔法で一緒に浮かせるとロフトの方へと飛んでいった。


 本来の主人から離されてスラ蔵さんは寂し気に見える、これがネトラレという奴だろうか。


 ポン子はリルルを俺にまかせて逃げた訳だが、リルルの寝所はまだ揃えて無い訳で。


 今日の夜はリルルと一緒に寝るって、あいつは理解しているのかな。


 スライムの弾力ある寝床に美少女妖精が二人、うん、平和な風景でなんの問題も無いな。


 そして俺の前のリルルは……未だにスクロールに抱き着いてぶつぶつ言っている。


「うう、見ているだけでも気持ちいいですが……、分解したい……、改造したいよぉ……、生殺しです~……」


「ここの構文も美しくて……、悪魔側の式と混ぜてみたい……、融合させたい……、くぅご主人様との約束です……、でも体を張って頼めばワンチャンス……」


 うーん、頼まれたらOKしちゃいそうだな、俺だし。


 ここは昼寝をしていて気づかなかった作戦でいくか、うんそうしよう。


 自分のクッションを引き寄せて、枕にして横になり。


 ポン子の、弾力がやばいですー、とか、リルルの吐息なんかをBGMにして、ひと眠りする事にする。


 ――


 ――


「イチロー起きてくださーい」


 ポン子の呼びかけで目を覚ます、えーと、そうそう昼寝したんだっけか。


「ご主人様~もう夕方ですよ~」


 体を起こすと、ポン子と、眼鏡を外して白衣だけはまだ着ているリルルがテーブルに居る、日はかなり落ちていて時間を見ると、もう夕飯を食べてもいい時間だろう。


 大きく伸びをして体を伸ばしながら。


「じゃぁ飯にするかぁ、リルルはスクロールの解析終わったのか?」


「はいです、改造は後のお楽しみにします、ご主人様」


 いや改造はさせないよ? てかこのスクロールちょっと濡れてないか……、改造されても困るしバックパックに仕舞っておこう。


「ご飯食べちゃって大天使様の連絡を待ちましょうよー」


 とポン子は弁当を生活魔法でテーブルに運んでいる


「この〈稲り寿司!〉弁当は、只々稲荷寿司が十個詰め込まれてるだけという漢らしさがたまりません、米を食えとばかりですね」


 たくあんとか酢漬けとかの、口直しすら入ってないものなそれ。


「リルルと俺は〈串焼き丼〉を分けてもいいし、それかポン子の二個目の〈巻物弁〉から少し貰ってもいいぞ」


 この巻物中身なんだっけと、ポン子に聞くと、アボガド納豆チーズ巻き、と返事がきた、チャレンジャーだな、美味そうだけども。


「この時期だからまだいいけど、早く冷蔵庫は買わないとなぁ」


「そうですねー、むぐむぐ、米にお酢や白ゴマすら使ってない只の米のみというのがまたシンプルで良いです、モグモグ」


 俺への返事なのか弁当の感想なのかよく判らんな、そしてリルルはまた、アーンと食べさせてくる、これ毎回やるのか? まぁ施設で慣れてるからいいけども。


 ポン子に巻物を少し分けて貰ったけど美味かった、今度自分用に買おう。


 ――


 スラ蔵さんは再度テーブルの上でクッションになっている。


 食後のお茶……はないから水を飲みながら時間を潰す。


「大天使さんから連絡があるのは、もうすぐかねぇ?」


 ポン子とリルルはスラ蔵に隣り合って腰掛けていて。


 リルルがポン子にピタっとくっ付く、ポン子が少し間をあける、リルルが間を再度詰めてポン子に逃げ場が無くなる、スラ蔵さんが気を利かせて二人が自分の真ん中にくるように体を回転させる、横に移動できる隙間が出来るとポン子が……、お前ら何しとんじゃ、永遠に終わらないだろそれ。


 あ、ポン子が諦めた、リルルは同性の友達が出来て嬉しいんだろうな。


「大天使様から連絡がくれば魔法モニターが反応するはずですね~、しばし待ちましょう」


 リルルがハイっと手をあげて質問をしてくる。


「あのー連絡って何があるんでしょうか?」


「あれ? イチロー説明してませんでしたっけか?」


「あー、俺の中でハゲ悪魔が消滅したくらいで終わってたな」


 細かい部分はまだリルルに説明してなかったかも。


「イチローに進入したハゲ悪魔が消滅したのはいいんですが、悪魔の力が残ってしまいイチローの神格の力と融合しつつスキル化してしまったんですよねぇ、困ったもんです」


 悪魔が俺の中に入れたのは何処かの天使が、スキルをくれるのを忘れたせいらしいけどな。


「ええ!? 悪魔の力と神格の融合でスキル化って……、そんな素晴らしい事がご主人様の中で? それは是非とも調べなくてはいけないですね!」


 リルルはスチャっと眼鏡を再装着、研究者? モードに変身した。


「いやまでリルル、スクロールはまだ判るが人の中も簡単に弄れるのか? どうなんだポン子?」


「そりゃ大天使様だってやってたじゃないですか、出来る人には出来ますよ、私は危険だからやるなと禁止されてますが」


 なるほど、ってリルルが顔の前に浮かんできて。


「ご主人様、研究のお時間です大丈夫痛くしないですから、ちょーっと解析するだけです、さぁそこに寝て下さい、あ、シャツは脱いでくださいね、直接肌を触れさせる必要がありますし、出来れば体の中心が良いですので」


 ちょ、リルルさん、なんだか性格変わってませんかね、大人しくて人見知りしてそうなリルルさんは何処にいった。


 グイグイと顔を押して俺を倒そうとしてくるリルル、あーこの子研究の事になると周りが見えなくなるタイプだ……。


「リルル、悪魔のスキルは危険だからって大天使さんに無効化だか変更だかをして貰ったばかりなんだよ、まだどんな物かも判ってないし安定もしていないとかで、連絡がきたら使用テストをするんだ、諸々が終わってから確認するんじゃ駄目かね?」


「駄目です、ご主人様の安全の為でもあります、悪魔の力なら私も知っていますし、とりあえず見るだけでもいいですから! それに……こんな貴重なサンプルを最初から確認出来ないだなんて一生後悔してしまいますし」


 俺を心配してそうな前半と、自分の欲望が丸出しな後半の落差がひどい。


 ポン子を見るが、両方の手の平を上に向け両肩を上げている、欧米人か。


 リルルの圧力がすごいので根負けをし、シャツを脱いでツナギの胸を開け床に寝転ぶ。


 寝転んだ俺の胸の中心部に、リルルが四つん這いになる、そしてオデコを肌にピトっとつけて魔法を使っているのか光が漏れてくる、俺大丈夫かなぁ……。










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