第31話 続々話し合い
スライムのドロップも混じってるな、目ぼしいのだけ出してっと。
リッチのドロップとスライムカード一枚を出していく、十階のは拾えなかったんだよなぁ……。
「スクロールと指輪が一つ、十万コインが一枚に、スライムカードが一枚っと、コインの数字がやべーな」
「リッチですからねぇ、あの時点のイチローと私なら、本来逃げ一択の相手なんですよ」
ポン子は普通に返事をし、リルルは口を開けてポカーンとしている。
「コインは換金するか、モバタン買えるぞポン子」
ポン子はヒャッホーイと万歳をしながら。
「それは素晴らしいです! イチローの装備にも使いたいですが……別のダンジョンに行くにしても情報を集めるのが先決ですしね!」
まぁそうだよなぁ、でリルルは何か目つきがおかしいんだが。
「どうしたリルル? 何か様子がおか――」
「ご、ご主人様! こ、これスクロールです! そしてスライムさんです!」
リルルの勢いがすごい、ポン子もびっくりして一瞬飛び上がっていた。
「あのあの! 私サキュバスの営業以外の空き時間は、ほとんど趣味の研究の時間にあててまして、営業も上手くいかないので、研究にすごくのめり込んでしまっていて……」
営業は姉さん達に邪魔されてたんだっけか。
漫画やアニメに夢中な私と同じですね、とポン子、ちょっと違う気がする。
「お、おう、すごい勢いだな、それで研究とは?」
「魔法の構文や理論の解析改造等々です! 悪魔は個人個人で設計思想が違うのですが、天使はすべての魔法式が同じ思想の元に設計されているので、美しいし汎用性が高いんです、魔法の中の理論式を見ているだけで気持ちよくなれます!」
ポン子の顔を見てみるが、あいつは、へーそうなんですかぁ、と感心している。
天使の理論式とやらの話だろう? それでいいのかポン子。
「氏族長が〈指鳴らし〉という地上産のスキルスクロールを貸してくれた事があるんですが、解析して、分解して、改造して、舐めて、スクロールにもう一度組み直して、はぁ……あの時は至福の時間でした……」
一つおかしいのが混じってるな。
「それはつまりこのスクロールを」
「は、はい! ちょこっとだけでいいので解析したり、分解したり、改造させてくれませんか? ご主人様~」
テーブルの上に出ていた俺の手に抱き着きながら、おねだりしてくるリルル、指が幸せだが、さすがに改造とかは、うーん、ポン子の方を見てみる。
「ドロップの所有権は主人であるイチローにあると思うので、イチローが決めて下さ~い」
と、丸投げされた、……次は助けるというのは何処へ行った? うぐぐ。
「改造されて壊れてもあれだしな……えーと、まず何のスクロールかを後で調べてだな、安そうな物だったらリルルの研究に使っても良いって事でどうだ?」
「本当ですか! ありがとうございますご主人様~!」
リルルは飛び上がりまたしても俺の頬にチュッとキスをして戻っていく、サキュバスの感情表現は欧米に似てるのだろうか。
「えっとコインが換金、スクロールは後で使用キャンセル鑑定で、指輪は石板で鑑定するのがよさげだな」
ポン子を見ながらそう聞いてみた。
「ですねー、
天使達が地上のゲームを模倣してる部分も多いみたいだしなぁ……。
「後はスライムカードか、これはまぁ売るか」
ですねーと賛成したポン子、がその横でリルルがそわそわと、何か言いたげにしては口を閉じるというのを繰り返している。
「どうしたリルル、言いたい事があるなら遠慮せず言っていいんだぞ」
リルルは恐縮気に語る。
「えっと、私スライムさんも大好きで、でもあの、さっきスクロールの事をお願いしましたし……」
モジモジとしているリルルに、ポン子がビシッっと指を指し。
「後輩ちゃん! 欲しい物は欲しいと言っていいんです! イチローは無理な時は無理と言いますし、まず素直に甘えて聞いてみましょう、私なんていつもお弁当の件で甘えてますし!」
後輩に対する配慮かと思いきや、自分の欲望を正当化する為でした、いやまぁ弁当くらい何個でもいいけどさ。
「判りましたポン子先輩!」
リルルは空間庫から召喚した時に使っていた抱き枕を再度取り出し。
「このスライムの抱き枕は〈スラ蔵〉さん、といいます私の愚痴をよく聞いてくれたり睡眠のお供としても大切な存在でして、前から本物のスライムさんも欲しくて、地上に来てからもダンジョンでスライムを倒したかったんですが……私攻撃能力ほとんど無くて……」
コアに繋がったハゲ上司に頼んで借りを作るのも怖かったですし、とリルルは続けた。
スライム型の抱き枕だったんだな、使い潰されてるから気づかなかったよ。
言われてみればスライムはクッションとして使うのも有りですねーとポン子が言っている。
「判った、じゃぁこれは名付けしてからリルルに貸してやろう、テイムした知恵ある魔物に他の魔物を指揮させるレギオン戦とかもあるしな」
「レギオンですか? ご主人様」
「あー神界で見てた地上のTV番組でそんなのありました、テイムした魔物を軍団で戦わせる番組の特番でした、確か〈ゴブリン五百vs五百、千のゴブリン達の雄姿が貴方を襲う〉とかそんな番組でした、内容はすっごい泥試合でしたけど……、裏でやってた番組で女エルフvsラミアのプロレス番組の方が視聴者数が多かった気がします」
ポン子はほんと地上のエンターテインメントに詳しいよなぁ。
「あるよなそんな番組も、最近は見てないけど人気あったしまだやってるんじゃないかな? まぁようは名付けしたカードの権利を同じ名付けした従者に貸し出せるんだよ、譲渡は出来ないんであくまで貸出な」
ゴブリンのやつも上位ゴブリン種に通常ゴブリンを貸出とかなんだろうなぁ、モバタン買ったら一度アーカイブ浚って見てみようかな。
「何にせよ名付けをしないとな、何か希望の名前はあるか? リルル」
「えとえと、〈スラ蔵〉さん! でお願いします」
「後輩ちゃん、それだと抱き枕と名前がかぶっちゃわない?」
俺もそう思う。
「あわわ、そうでした、うー思い入れのある名前なんです、他となると思いつきません……」
ふむ、とポン子が何かを考えながら言う。
「ならば抱き枕のスラ蔵さんを消化吸収させたら、それはもうスライムがスラ蔵さんに転生したような物では?」
俺は絶対に違うと思うんだがリルルが。
「な、なるほどー! ポン子先輩天才ですね!」
納得しちゃってる。
「ふふーん、まぁそれほどでもあるわよ、何せプリチーポン子ちゃんだからね!」
プリチーはまったく関係ないな。
海鮮弁当を食べたポン子は、魚の転生体なのかとか突っ込んだら、無粋なんだろうなぁ。
「じゃ名付けするぞー〈スラ蔵さん〉でいいんだよな?」
俺はカードを持ちリルルに確認する。
「はい、ご主人様!」
ポン子は腕組みをしてなんか偉そうにしている、天才と言われて嬉しかったのだろう。
「お前の名前は〈スラ蔵さん〉だ」
カードがうっすらと光ってパスが繋がった感覚がある。
「このカードをリルルに貸与する」
そう意思を持って宣言すると、カードから何か受け入れたような感覚がある、このあたりはすごく曖昧で言葉にしにくい、大雑把なシステムなんだと思っている。
「ほれ、リルルこれでもう使えるはずだ」
リルルにカードを渡してやる。
「わーご主人様ありがとう、スラ蔵さん召喚!」
リルルがカードからスライムを召喚して。
「スラ蔵さんスラ蔵さんを吸収してスラ蔵さんに成って下さい!」
なんかもう、よく判らん。
スライムは抱き枕を取り込んでゆっくり消化吸収していて、それをリルルと俺とポン子が周りで見守っている、なんだろうこの図は、シュールだな。
十分以上かかった気がするが抱き枕は完全に溶けたようだ。
リリルがスラ蔵さんに抱き着いて。
「これからもよろしくね、スラ蔵さん」
〈スラ蔵さん〉は新たな体を手に入れて嬉しそうだ。
ん? なんだ今の思考。
リルルがスラ蔵さんに何かを命じてから乗っている。
ポヨンポヨンとクッションというよりバランスボールのようだ、ポン子が私もいいですか後輩ちゃんと、一緒に乗って飛び跳ねて楽しんでいる。
同じように飛び跳ね、同じ、いや一か所だけまったく同じじゃない場所があ――
「気のせいかな? イチローにすごく侮辱された気がするんだけど」
ポヨンポヨン跳ねながら呟くポン子。
気のせいだってば。
ポヨンポヨンブームもしばらくしたら終わり、残念だ、リルルはスラ蔵さんにクッション代わりになるように言って座っている。
その横にポン子もだらしない恰好で寝そべり、喜悦の表情を浮かべている。
これはたぶん……。
ポン子は体を起こしこちらに語り掛ける。
「ねぇイチロー、あのね――」
「次にスライムカードが出たらポン子の分だな」
まぁそう言ってくるよな。
「あ、うん! ありがとうイチロー!」
ポン子もリルルも嬉しそうで何より、女の子を笑顔にさせるのが男の子の甲斐性、だっけか妹や他の子らにもよく言われたものな。
俺はテーブルの上のスクロールを手に取り。
「さて、じゃぁ後はスクロールの鑑定をするか」
リルルは凄い勢いでスラ蔵さんから立ち上がり、スクロールの側に来た。
ポン子はスラ蔵さんに仰向けで寝そべって、あ゛~とおっさんが出すような声でリラックスしている。
それでいいのか美少女妖精よ。
「ご主人様! 早く! 早く~! 焦らさないで下さいよ~」
リルルはスクロールを持っている手を押して催促してくる。
待たせても可哀想なのでスクロールを広げて使おうと意識する。
『これは武器強化用消費スクロールです、使用する武器を指定して下さい』
ガイド音声さんの声が自分だけに響く。
「使いません、選ばない」
そう宣言すると、スクロールはまた閉じていく。
「ご主人様、なんの、なんのスクロールでした? 安いやつでした? ワクワク」
リルルさんがすごいワクワクしておられる、が、これはたしか……。
「武器強化用の消費スクロールだった」
「おーそれはいいですねイチロー、武装の強化は必須ですし、売ったらそこそこの値段になりそうです」
だよなぁ、確かこれ系は効果を重ねる事が出来たはずだ、そういうのは上級探索者が買い占めるから結構高いはずなんだが。
ガーンと口に出しているリルル、なんだろう少しづつポン子に染まってきているような気がする。
リルルは急に飛び始め俺の顔にへばりついた、リルルもボルダリングしたくなったのかな。
「ご主人様~少しだけ、少しだけ解析させてくれませんか? 分解も改造もしませんから! ね、ちょっとだけ、先っぽだけだけお願いします~、舐めるだけでもいいですから~お願いし~ま~す~」
丁度、目の部分にお胸様が当たるんです、止めてくださいリルルさん、あ、いや止めないでもいいのかな。
「クッ俺は一体どうしたら」
「顔に後輩ちゃんくっつけて、すごい苦悩感のあるセリフなんですがどうにも心に響いてきません、何故でしょうかイチロー」
冷ややかな声がポン子からした、さすが女子は鋭い。
「リルル、判ったから解析だけならいいから、一旦離れようか」
リルルはそれを聞くと離れて本当に嬉しそうに体を揺らして浮かんでいる。
「ご主人様大好きです~ありがとう~」
「それとなリルル、あーいった行為は他の男にはやっちゃ駄目だぞ」
もうするなとは言わないんですね、とポン子が突っ込みを入れている、聞こえません、だって男の子だもの。
行為? と頭を傾けているリルル、意図的にやってる訳じゃないのね……。
スクロールをテーブルに置き、リルルにどうぞと手で示す。
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