第30話 続話し合い

「後輩ちゃん、貴方はイチローと主従契約を結びました、つまりあなたの行動がイチローの評判を左右するんです!」


「は、はい先輩」


 ふむ、どうやら天使と悪魔のケンカとかそういう話では無さそうだ。


 しかも意外と真面目な話? ポン子だしネタでも挟むかと思ってたんだが。


「なのでまず後輩の言動や口調やポーズのプロデュースを私がします! いいですね?」


 んん?


「了解です、ポン子先輩!」


「元気良い返事で良いですねリルル後輩、ではまず貴方の個性の話しからいきましょう」


「個性ですか?」


「貴方は真面目で良い子のようです、勿論それはすごく大事な個性ですが、せっかくもっている見た目を利用しない手は無いでしょう?」


 なんか嫌な予感が。


「えっとおっしゃる意味がよく……」


「ギャルっぽいんだから、ギャルっぽい言動を覚えるべきだと言っているんです!」


 ああ、やっぱりネタだったか……。


「ギャルですか?」


「まぁいきなり言われても判らないでしょうし、ギャルの道は奥が深いのです、ゆっくり教えていきますが、ギャルとは可愛さを求める生き物で、ギャルという人生を歩む者、つまり生き方そのものがギャルなのです」


 すごい事を言ってそうで、実は言ってる本人も意味は判ってないと思う。


「ごめんなさい、私には理解できない崇高な概念のようです先輩」


 判られてもポン子は困るだろう。


「いいんです後輩、少しづつ少しづつです、ではまずは自己紹介からいきましょう」


「はい先輩!」


 止めるべきか、楽しむべきかそれが問題だ。


「まず私の自己紹介からですが、んんっ……私はイチローの相棒妖精プリチーポン子ちゃんです! ズビシッ!」


 何の恥じらいも無く例のポーズを決めやがった、こいつのメンタル鋼かよ。


「あの先輩」


「なんですか後輩」


「すごく可愛かったのですが、〈ズビシッ〉ってなんで濁音つかってるんです? もっとこうキラキラした可愛い感じのにすればいいのに」


「それはね、リルル後輩、そういうキラッっとした可愛いのはみんな何処かで使われているからですよ」


「えっと……使われてる?」


「気にしないでください後輩、そして貴方はセクシーリルルを名乗る事を許しましょう」


「え? え? セクシーですか?」


 リルルが嫌がったら止める事にしよう。


「はい、キュートと迷ったんですが、あなたの一部はとてもではないですが可愛らしいとは言えない大きさなので、クッ、私より少し大きいのならセクシーを名乗るべきでしょう」


 少しでは無く、だいぶ、いや、とても、か。


「なんだろう? イチローにすごく侮辱された気がするんだけど」


 気のせいだ、……パス狭まって感情流れてないはずだよな?


「では後輩ちゃん、セクシーリルルです、いってみましょう」


「はい!、えーと、ご主人様の従者妖精セクシーリルルちゃんです! ズビシッ!」


 一度見ただけのポーズを完コピしとる、セリフも微妙に自分に合わせて変えてるし、スペック高いなぁこの子。


「素晴らしいです後輩、でもズビシッは似合いませんね、セクシーなら、ちゃん付もいらないかもしれません、ふーむ」


 しばし考えるポン子、リルルは口を閉じて見守っている。


「〈ムギュッ〉でいきましょう! こうお尻を少し突き出して前かがみに、手を太ももにつけて両腕で胸を挟んで谷間を強調させましょう、谷間はジャージで見えないけども、だがそれがいい! 見えないからこそ想像によって補完されるのです」


 今度こそ止めるべきか……、しかしポン子の言う事に共感してしまう俺がいる。


 こうですこう、とポン子が自分でポーズをとってリルルに教えている。


 しかし悲しいかな両腕で胸が挟めないので、上手く教える事は出来ないだろう。


「何故かな? イチローにすごく侮辱された気がするんだけど」


 気のせいだってば。


 女の勘という奴だろうか、あれは恐ろしい物だしな。


 こうですか? とリルルがポーズをとってポン子に聞いている。


 芋ジャージでよかったとすごく思う、バニーでやってたら攻撃力がありすぎる。


「ではいってみましょう私の後に続いてくださいね後輩」


「はい先輩!」


「天使のごとく可愛い妖精プリチーポン子ちゃんです! ズビシッ!」


「悪魔のように可憐な妖精セクシーリルルです! ムギュ!」


 ポン子の急なアドリブにも瞬時に答えてやがる、この子天才では?


 取り合えず拍手しておこう、パチパチパチパチパチ。


「リルル後輩、なんて恐ろしい子、私の咄嗟のアドリブに合わせるなんて……」


「先輩が急にセリフを変えるから、びっくりしちゃいましたよ~」


 びっくりしているのに一秒も遅延する事なく答えを出すってすごくね? 内容もそれぞれの個性に合わせて改変しとるし。


「自己紹介は完璧ですね、では次は」


 次は一人称でしょうか……アーシ、ウチ、僕、アタイ、ウーンと悩んでいるポン子に声をかける。


「なぁポン子」


「なんですか? イチロー」


「あまりやりすぎるなよ、養殖は油が乗ってて美味いが、天然物には希少という価値があるんだからな」


 食い物に例えて釘を刺しておいた、ポン子はショックを受けている。


「た、たしかに、あまりの逸材さに後輩ちゃんを自分好みに染めてしまおうと思ってしまっていました、これでは先輩として指導者失格ですね、自らの意思で成りえるからこそ価値があるというのに……」


 ポン子は肩を落として反省しているようだ。


「お前は選択肢を示せばいいんだよ、後はリルルが勝手に進む道を選ぶさ」


「そうですねイチロー、私は焦りすぎていました反省します、例えその道を選ばない事があっても、それはそれで後輩ちゃんの人生ですからね」


 まぁ語っているのはギャルへの道についてなんだが。


「後輩に知識を伝え土台を強固にするのが先決ですね、クッ、私の漫画アニメコレクションがあれば……やはりモバタンを優先しなくては」


 まずはあれとあれを読ませて……とぶつぶつポン子が予定を立てている。


 リルルはポン子の手を両手で握り語り掛ける。


「よく判りませんが私は楽しかったですよ先輩! 気の合う女の子と遊んでるみたいで、エヘヘ、あ、先輩をそんな目で見ちゃうのは失礼でしょうか?」


 ええ子やなぁ、ポン子もリルルの手を握り返し。


「いえ、確かに私は貴方の先輩妖精ではありますが、これから共に戦う戦友でもあります、つまり先輩であって、そして友でもあるのですから間違ってはいないですよ」


 リルルに衝撃が走ったのが尻尾の動きで判る。


「友だ……ち?、ふぁ! それはつまり二人目の友達ですね! ああ、私に女性の友達が出来るなんて……」


 嬉しいのか体をクネクネしてるリルル、手は握ったままだ、尻尾を大きく左右に振っている。


「あああああ! どうしましょう先輩!? 困りました!」


「何がですか? 後輩ちゃん」


 リルルは何か焦って声を荒げる、手は握ったまま、尻尾は蛇のようにクネっている、困惑しているのかな。


「部隊長には異性の友達に関してしか教わってないんです……、どどどどうしたらいいんでしょうか、私に同性の友達が出来るなんて思ってもみなかったですし……」


 ポン子は手を離そうとしているが意外と力強く握られているみたいだ。


「いえまぁ、友達なんて異性でも同性でも対応にさほど変わりは無いと思いますよ?」


「なるほど! さすが先輩です、つまり部隊長の教えを流用できる……と、判りました、頑張ります!」


 そしてリルルは握っていた手を離しポン子に抱き着いていく。


「ちょっ後輩ちゃん、いきなり何を、むぎゅっ、くっこの柔らかさを感じるごとに私の精神にダメージが入って、って耳はやめてー」


 抱きしめたポン子の頬にチュッっとキスをした後に、耳にもしてる。


 サキュバスの文化ってすげぇなぁ。


「イチロー助けてくださいよ!」


 お前さっき俺が助けを求めた時に無視して飯食ってたじゃんか……ま、しゃーない。


「おーいリルル、ポン子が困ってるからサキュバスの文化は程ほどにな、残りは寝る時にでもしときなさい、今日はポン子の寝床に一緒になると思うしな」


 リルルは元気よく答える。


「はいご主人様、先輩とは後で仲良くなりますね! お友達! です!」


「何を言ってるんですかイチロー! 私ちょっと貞操の危機を感じるんですが!?」


 焦ってる焦ってる、はは、さすがにそれはねーよ。


「わりぃわりぃ怖がらせちゃったな、まぁサキュバスの親愛の情ってやつだろ、さすがにそこまではしないよなぁリルル?」


 リルルは笑って答える。


「勿論ですよー、先輩は同性のお友達なんですから、三章より先にはちょっと……、ご主人様のお友達とは違ってきますってば、やだなーもう」


 ん?


 解放されたポン子は、少しだけリルルとの距離をとっている。


「……天使には刺激が強いので少し抑え目にお願いします、後輩ちゃん」


「そうですか? 天使と悪魔の文化の違いという奴でしょうか、むむー、判りました! ポン子先輩抑え目にしますね」


 んん?


 気のせいかな、なんかこう……、リルルの言動が――

「もう、ちゃんと助けてくださいよイチロー」


「すまんすまん、でもまぁおあいこだろ」


 俺は一度見捨てられたしな、ポン子は気まずい顔をして。


「うう、次は私も助けますから……あ、そうだイチロー」


「どうした? ポン子」


「神界からの連絡は夕ご飯の後でしょうし、時間あるならリッチのドロップが何だったか確認しませんか? 私は体がだるかったのでよく覚えてないんですよね」


「ああ、そうだなちょっと待ってな」


 俺はバックパックを手元に引き寄せる。

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