第29話 話し合い
俺とリルルは飯を食い終わったが、リルルの分が思ったより少なく済みそうなので、ポン子はゆっくり味わいながら弁当の余剰分を楽しんでいる。
生活魔法の高等技術とやらを使わないでも食べられるんだな……。
リルルに俺らの事を説明でもしようと、雑談がてら会話をしている。
リルルは抱き枕を空間にしまっていた、びっくりして聞いたら天使も悪魔も使える空間庫のような物があるらしい。
出し入れに微妙にリソースを使うらしく、ポン子は使わなかったとか。
中身カラッポですし、と遠い目をしていた。
「え、じゃぁポン子先輩って天使なのですか?」
「そうだな、信じられないだろうけども」
何をもって信じられないと言っているんでしょうか、とポン子から突っ込みがある。
「そして、ご主人様が人間から神族になってハゲ上司が中に入って消滅したと?」
ハゲに進入されるってなんかすごい嫌だな。
「まぁそうなるな、てか上司をハゲ呼ばわりしてもいいのか?」
「もう居ないんですよね? なら大丈夫です、あのハゲは一日二十時間以上労働で私をこき使うし、お給料は未払いだし、地上にきてから三か月、お休みを一日としてくれなかったんです、居なくなってせいせいします!」
おかげで私のお小遣いリソースはカラッポです、と嘆いている。
「ひどい悪魔だったんだな……」
リルルの頭を撫でてやる。
「頭撫でられるの気持ちいいです、ご主人様」
リルルに笑顔が戻った。
「うちはちゃんとお給料を……あれポン子にお給料出してないな、どうしようか、そもそも悪魔の給料って天使と同じでリソースなのかな?」
「大枠はそうですが、一概にリソースといっても内容は色々で、感情や精神に由来する力と言えばいいのでしょうか、種族によって使える部分が色々変わってきますね」
「ふむ、例えば?」
「サキュバスだと色欲に関係する感情や精神や性その物が効率いいですね、恐怖とかも多少は貰えますけど」
天使は平和への祈りや神への感謝ですよー、と食べながらポン子が言う。
「やっぱり上から貰う物なのか? 天使は神様から貰うとか聞いたが」
「いえ悪魔は個人で獲得できますね、上納しないといけない場合もあったりしますが」
「なるほど、しかしリソースなんて払えないしなぁ、とりあえずそれは置いておいて、労働時間とかは、俺と一緒に探索に行くならそれに合わせて貰う、だいたい一日七、八時間くらい潜ってる、それ以外は特に無い、収入が安定したら休みも適宜入れるつもりだ」
「それだけでいいんですか? ご主人様」
リルルはびっくりしている。
「いやうちもブラックだと思うけどな、比べる相手が悪魔じゃなぁ……、あのハゲ悪魔はひどい上司だったみたいだな、他に何かされたりしてないか? 愚痴なら聞いてやるぞ」
それを聞くとリルルは泣きそうな顔で。
「ひどいんですよーあのハゲはー、私の事、見た目が好みじゃないとか言い出して、こんな恰好までさせておいて、まだかまだかと毎日毎日うるさいし、天使の魔法結界なんてそう簡単に騙せる訳ないじゃないですか!」
リルルさん、色々思い出したのか口数が増えてきたな、こういう時はすべて肯定して相手に寄り添うのがベストだ、しかし同じ言葉だけで返事をしてるとこっちに飛び火するので注意が必要だ。
施設の女の子達で経験済みなんだよ……。
「ひどいハゲ上司だなぁそれは」
「そうなんです! ハゲの馬鹿上司なんです! 大体こんな仕事をサキュバス氏族に持ってくる方がおかしいんですよ、魔女族とかにいけばいいのに、まぁ断られたんだと思いますけどね、人望のないハゲ上司ですし」
「人望が無いうえに馬鹿じゃ手に負えないな」
「ですです! おかげでサキュバスの営業で最低成績の私があんな上司の元に送られるはめに……、姉さま達は営業の邪魔をしていじわるするし、もうあそこには帰りたくありません……」
「リルルは営業とやらを頑張ろうとしていたんだろう? 邪魔をするとか可哀想になぁ、帰りたくないんらいつまでだってここに居ていいんだからな」
リルルの頭を再度撫でてあげる、リルルはその手に抱き着いてきて。
「判ってくれて優しくしてくれるのは部隊長とご主人様だけですー」
まじ泣きしておられる。
ポン子が弁当を食べながら、ここはいつからホストクラブに成ったんでしょうか、とか言っている、失敬な。
「えーと、そうだそのバニーガールの恰好ってサキュバスの制服とかではないんだな、上司命令だったのか?」
泣いていた目元をクシクシと腕でふいたリルルが答える。
「はい、サキュバスに決まった服はありません、露出が激しい物が多いですが、契約者さんの要望にあった物とかも多いです、バニーガールはハゲの趣味です」
「契約者ってーと人間のだよな」
「です、コスプレとか頼まれる事が多いと、姉さま達が言ってました」
気持ちはすごく判るが、人間ってやつは……。
「上司に言われて嫌々やってるなら、もっと違う恰好していいんだぞ」
「この恰好が嫌な訳では無いんです、ハゲ上司が嫌いなだけでバニー衣装には罪はありませんし、それでその、ご主人様はこの恰好嫌ですか? そ、その、男の方はバニーとかすごく好きだって姉さま達は言ってたんですけど」
「すごく好きだ、リルルに似合ってて可愛いぞ」
嘘をつく事は出来ない、だって男の子だもの。
「えへへぇ、ご主人様が可愛いって、あ、色違いのバニー服も一杯ありますから言って下さいね、いつでも着替えますから、それとコスプレ服とかも姉さま達から一杯貰ってますから、楽しみにしてて下さい!」
今度ファッションショーとか頼もうかしら、そしてポン子、キャバクラに変わりました、とか言うんじゃないよ!
てーか姉さん達と仲良くないか? いじめられてたんだよなぁ?
「んん、それでなリルル、すごい可愛いんだけども、俺と一緒に外にいくならもう少し地味な服もあるといいかなーと思うんだ、ほら俺がバニーガール妖精を連れて歩くと目立つだろう?」
主人として強要してると思われますね、とポン子が言っている。
「そうなのですか? 地上では姿を隠して行動していたのでよく判りません、バニーって目立つんでしょうか? でもご主人様がせっかく可愛いと言ってくださったのに……」
項垂れるリルル、気にせず飯を食べるポン子。
「ああ、外にいる時だけな、ほら、えーと、そうだ、可愛いリルルの恰好を他の男に見られたくない的な? 部屋にいる時は好きにしていいからさ」
ポン子は、頑張れイチローナンバーワンまでもう少し、とか言ってる、ホストなんてやらんわ、酒の飲める年まで後二年もあるしな。
「なるほど! 確かに私もご主人様以外に肌を見せるのは嫌ですね、では研究時や普段着ていた物があるので外ではそれにしますね、コスプレは二人だけの時に見せますね」
ポン子が、私もいるんですけどーと突っ込みをいれている。
そしてそれを聞いたリルルが。
「御免なさい、先輩を差し置いたら駄目ですよね、ポン子先輩も一緒にコスプレしましょうね!」
「巻き込まれた! どーしてくれるんですかイチロー」
知らんがな、でもちょっと楽しみな俺がいる、だって男の子だもの。
「その普段の恰好とやらに着替えてみて貰えるか?」
「判りましたー」
と、その場で着替え始めようとする。
「まって、ここで着替えないでくれリルル」
不思議そうに顔をコテンとしないでくれリルル。
「え、でも友達なら着替えも同じ場所でするって部隊長が」
またお前か部隊長! ぬぐぐサキュバスの文化がよく判らん……。
「えっとな、着替えは別々にしような、あそこのロフトを使うといい」
とロフト部分を指さす。
判りましたと飛んでいくリルル。
「後輩ちゃんは逸材ですね」
食べ終わったのかゴミを片付けたポン子が声をかけてきた。
「サキュバスの文化が俺らとはかなり違いそうだな、そうだポン子、俺って神族になっちゃったんだろ? そうなると、もうリソースとやらを発生しなくなっているのか?」
「いいえ~、発生しますよ、そもそも神族でも悪魔でも精神が動けばリソースは発生しますし」
「あれ? それだと自給自足できちゃわないか?」
「えーと、長い年月生きてると表面上はともかく芯の部分の感情はほとんど動かないんですよ、これは記憶を失って復活しても変わりません、なのでリソースはちこっとしか発生しません」
「なるほど? つまりまだ生きてる年数が少ない俺は」
「はい、感情の揺れが大きいのでリソースを発生させてます、人間がリソース元と言っているのは一生が短いので感情の制御ができない人が多いからですね、悪魔はそれをもって人間を家畜といい地上を牧場なんて表現をしますね」
「なるほど、なら俺の発生させたリソースを渡せればなぁ給料になるんだが」
「まぁ美味しいお弁当がお給料って事で大丈夫ですよ、後輩だって無茶は言ってこないと――」
「おまたせしました~」
ポン子の言の途中でリルルが降りてきた。
テーブルに降り立つリルル。
それを見た俺とポン子は。
「ださジャージだな」
「芋ジャージですね」
えんじ色とでもいうのだろうか?
リルルは、えんじ単色で白い線が何本か入ったジャージを着ていた、胸の主張だけはすごいが全体的には地味だ。
ツインテールの根本にコウモリ羽型のリボンが追加されてる。
バニーの時に履いていたハイヒールは脱いで素足だった、あの靴も衣装の一部なのね……。
「落差がすごいが、なんだろうか、美人ギャルっぽいリルルが着てるとオシャレにも見える」
「アイドル達を集めた運動会とかで居そうですね」
「どうですか? ご主人様、ポン子先輩」
リルルは楽しそうにぐるっと回ってみせた、羽や尻尾の穴はちゃんとあるのね。
尻尾はリルルの感情に合わせてピコピコ揺れ動いてる気がする。
「合格、リルルは可愛いから何着ても似合うな」
女の子の服はとにかく素直に褒めろと、妹や施設の女の子達に言われている。
「ええ、地味な恰好という点において優秀すぎます、後輩」
「これで、ご主人様と一緒にお外に行けますね」
嬉しそうに笑うリルル。
「さて、お昼ご飯も終わりました、恰好も決まりました、神界からの連絡がある夜までまだ時間があります、なので私は貴方に教えないといけない事があります、後輩ちゃん」
ポン子が何か真面目な顔をして言い出した。
「なんでしょうか? ポン子先輩」
リルルも背筋を伸ばして聞く態勢だ。
俺も口を挟まず様子を伺う事にした。
悪魔とか天使の話かな? 戦争とかしてたみたいだしなぁ
ケンカしないといいけど。
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