第28話 カード召喚
「ただいま」
「ただいまです~」
買い物を終えて部屋に入った俺は、重い買い物袋をドスンと床に置く。
「十個もあるとさすがに重いな」
頭の上から買い物袋の側に舞い降りたポン子。
「早速食べましょうかイチロー」
「まてまて、カード召喚してからな、帰る前に飯でも食べていって貰おうぜ、怖がらせちまったしよ」
「そうでした、では召喚よろしくです、イチロー」
カードを取り出し改めて見てみると、やっぱり絵柄が変わっている、ダンジョンで見た時は、くたびれた哀愁漂う体育座り美少女、てな感じだったんだが。
今は抱き枕を抱えて寝ているバニーガール妖精、といった風だ。
テーブルの上で召喚する事にした、ポン子も真ん中を開けてテーブルに立っている。
真ん中にカードを置いて宣言する。
「俺はコストを三払ってバニー妖精を守備表示で召喚する」
「いきなり何言ってるの? イチロー」
「いや、施設でみんなとカードゲームとかやってたんで何となくな」
魔物のカードは触れると使い方が判る、こちらの意思を汲んでくれる感じだ。
カードを触りながら。
「召喚」
カードが消えてテーブルの真ん中に、抱き枕を抱えて寝てるバニーガール妖精が現れる。
「寝てるな」
「寝てますね」
妖精の頬を軽くツンツンして起こしてみる。
「おーい、起きろー」
ふにゅーだかほにょーだか言ってて中々起きないな、そこへポン子が耳に息を吹きかけるという手段に出た。
「ひゃわぃ、何? 何? あ、あれえーと、おはようございます?」
飛び起きたバニー妖精は周囲を見回し、俺らに気づくとそう挨拶をした。
「おはようさん、よく寝てたみたいだな、目の周りにあった隈も取れてるな」
「おはようですよ、悪魔の妖精さん、ダンジョンの中ではくたびれた顔してましたものね」
妖精は状況に思い至ったのか、俺に向いて座礼をしながら告げる。
「本日は
キラキラとした笑顔でそう言われる。
ピンクブロンドのツインテールで、編み上げタイツのバニーガールさん、目の周りの隈も消えてパッチリした大きな目で笑顔が可愛いのだが、ギャルっぽい見た目で、真面目な所作だとすごい違和感がある。
俺はポン子を見るが、あいつはどうぞと手の平をこちらに向けている、俺が説明すんのかよ……。
「あーあのな妖精さん、悪魔の情報の件はもう必要なさそうなんで、君の事は解放しようと思ってるんだ、怖がらせてごめんな、君は地獄に帰っていいんだよ」
何故かショックな表情をした妖精さん。
「え? え? それじゃ私とご主人様の結魂は……デートは……そんな……、……そうだよね、私なんていらないよね……、虐められて、こき使われて、必要とされないって、私だもんね仕方ないね……」
妖精さんはポロポロと涙を流し始めた。
えええええ、ちょちょええ、なんで帰っていいって言ったのに泣くの?
ポン子を見るも、あいつも慌てて妙な踊りをしている、こちらの目線に気づくと、バニー妖精を指さしながらOKマークをしてジェスチャーで伝えてくる。
必要とされてないと泣いたなら、必要としろって事でいいのかな、まぁ女の子を泣かせたままにするなと施設の子達にも怒られたしな、よし頑張ろう。
どうせ私は出来損ないのサキュバスですぅ、と体育座りをしてるバニー妖精に。
「あのな妖精さん、もし地獄に帰らなくてもいいなら、俺の仲魔になってくれないか? 探索のお供として正式な主従契約を結んで欲しい、俺達には君が必要なんだ! どうだろうか?」
体育座りで泣いていたバニー妖精さんは、顔をあげて涙を拭きとり、立ち上がって聞いてきた。
「私が必要なんですか?」
「ああ、必要だ」
「わ、私が欲しいんですね!」
「ああ、欲しい」
「そ、それじゃぁ、初めは、お、お友達からよろしくお願いします!」
「うん? ああ、仲魔としてよろしくな!」
「はい!」
握手の変わりに指を出すと、バニー妖精さんは、その指に抱き着いてきた、ポン子と比べて豊富なお胸様の感触がすごかった。
「なんだろう? イチローにすごく侮辱された気がするんだけど」
気のせいだ、俺は小さくても大きくても両方好きなタイプだ。
「名づけをしないとなぁ、何か希望はあるか?」
「ご主人様の好きな名前で大丈夫です」
「俺の名前は山田一郎だ、様づけなんてしなくていいぜ? こっちの妖精ポン子もイチローって呼ぶしな」
「できればその、ご主人様って呼びたいのですが……だめですか?」
うるうるとした目で訴えてくる。
様付けとか揶揄われている気がしちゃうんだが、まぁ女の子を泣かせちゃ駄目だな。
「うーん、まぁいいよ、変えたくなったら一郎でも何でもいいからな」
「ありがとうございますご主人様」
「さて名前だな、髪の色と、すでにいるポン子にちなんでピ――」
「それは駄目よ! イチロー」
「駄目です! ご主人様」
二人の妖精は激しい勢いで止めてきた。
「びっくりした、すごい速さで止めてきたな、可愛いと思うんだが駄目か?」
「駄目だよイチロー、何でか判らないけどすごく駄目な気がする」
バニー妖精も頷いている。
「そっかぁ可愛いと思ったんだがなぁ」
ポン子は怪訝な顔をして聞いてきた。
「ねぇイチロー、可愛いって、ポン子っていう私の名前も込みで言ってるの?」
「ああそうだぞ、すっげぇ可愛いだろ?」
何を当たり前の事を言ってるんだこいつ。
「え? ええ? 私てっきり……、ほらポンコツから取ってたから、まぁ今はもう気に入ってるんだけども」
ポン子はびっくりした様子を見せている。
「可愛いだろー、こう生まれたてでポッコリしたお腹の子犬や子猫が上手く歩けないでコロコロ転がっているようなイメージの、良い名前だと思ってつけたんだぞ?」
「あのねイチロー、施設に居た頃とかにイチローのセンスについて何か言われた思い出とか無い?」
ポン子は急に聞いてきた、えーとたしか。
「『お兄ちゃんのセンスは独特で個性的だね』って褒められた事ならあるな」
褒めてないですよそれ、とポン子は言っている。
バニー妖精は何かを怖がっている気がする、なんだろ?
「そういや君はサキュバスなんだっけか?」
「ひゃい! え、あれ? なんで知ってるんですか? も、求められちゃいますか?」
「さっき自分で言ってたじゃないか、求める?」
「ごめんなさい! もう少し仲良くなってからでお願いします!」
何故かお断りされた、げせぬ。
そしてポン子は、ちょっと待ったとか言ったほうがよかったでしょうかと、呟いている、訳がわからん。
「いや名づけの材料が欲しくて聞いただけなんだが」
「あ、そうですか、はい、私はサキュバスですよ、ほら」
そう言ってこちらにお尻を向けてくるバニー妖精、シュルリと尻尾がお尻のあたりから出てくる、服に専用の穴でもあるんだろうか、尻尾の先はハートマークだった。
背中のコウモリ型の半透明の羽は四枚あった、下の二枚は小さめなんだな。
「漫画とかでよく見るやつだな、悪魔、デビル、ビル子、デビ子、サキュバス、咲子、黒い、ブラックバス子、うーんしっくりこないな」
ポン子は呆れた目を、バニー妖精はハラハラした目を送ってくる、どうした二人共。
「小さいデビル、リトルデビル、リルル、ふむ〈リルル〉はどうだろうか?」
「普通に可愛いですね、何か悔しいです」
「あ、はいそれでお願いします」
ポン子だって可愛い名前だろーに、バニー妖精の承諾を得たので。
「君の名前は〈リルル〉だ」
その瞬間リルルの体が光り出し、ほどなくしてパスが繋がった感触がある。
「これからよりしくな、リルル」
「よろしくリルル~」
「はい! ご主人様、ポン子先輩!」
そしてリルルは俺の顔の位置まで飛んできて、頬にチュッっとキスをして戻っていった。
ポン子にはハグをしていた、えっとサキュバスの文化的な? 感じ?
「まぁ話の続きは飯でも食いながらにしようぜ」
そういって弁当を並べだす俺、リルルの抱き枕は隅に移動させておいた、珍しくポン子が弁当の側に来ず、リルルと話をしている。
「〈先輩〉という響きはいいですね、私にもついに部下いえ後輩が出来る訳ですか、貴方の事はこれから〈リルル後輩〉もしくは〈後輩〉と呼ぶ事にします」
「は、はい、じゃぁ私も〈ポン子先輩〉か〈先輩〉にした方が?」
「これから私が後輩にビシビシ教えていくからね~」
「よろしくお願いしますです先輩!」
身長は同じくらいだが、胸やらのサイズを見るにリルルの方が年上感があるんだけどな。
「なんだろう? イチローにすごく侮辱された気がするんだけど」
「気のせいだ、ほら話しなら飯食いながらにしようぜ」
「あ、私〈トリプルかつ丼〉から行きます」
「じゃ俺とリルルは〈肉団子弁当〉でいいか?」
「え、私一人でこのお弁当一つ食べるんですか? ご主人様のを少し分けてくれるだけでも十分なんですけど……」
俺はポン子を見る。
ポン子はこちらの視線に気づきつつも弁当から目を離さない。
じっと見る、ポン子はまったく気にせず弁当を食べだしている。
メンタル強いなあいつ!
「まぁ余ったら俺かポン子が食べるからさ」
そう言ってリルルの弁当の包装を解いてやる。
「はい」
さて、じゃあ食べるかねーと、お箸を用意していると、リルルが切り分けた肉団子にフォークを刺して俺の顔の前まで飛んでくる。
「はい、ご主人様あ~ん」
えっと、ポン子を見る、あいつはチラっとこっちを見るが弁当を食べる事に戻っていく、薄情者め。
これもサキュバスの文化的な物なんだろうか……。
「ご主人様?」
リルルが悲しそうな声を出したのでパクっと肉団子を食べる。
えへへ、と嬉しそうな笑顔で自分の弁当の前に戻ったリルルは、こちらを見て動かないでいる、何かを期待しているようだ。
なんとなく判る、妹や施設の女の子達にやらされた事があるからな、あの時は恥ずかしかった……。
自分の弁当の肉団子を削って楊枝に刺し、リルルの顔の前に持っていく。
「リルルあーん」
「はい!」
パクっと食いつくリルル、嬉しそうだ、だが欠片が大きすぎたのか、食べきれない分は俺が食ってしまう、ポン子と食べ方が違うのな。
ポン子からバカップルですかと聞こえてくる、違うから! たぶんサキュバスの文化とかだから! 次はお前の番じゃね?
「なぁリルル、その、食べさせ合いとかってのはサキュバスの文化的なその、あれなのかな?」
「お姉さま達とはやらないですねぇ、これは部隊長に教わった作法なんです、異性のお友達と仲良くする方法です、ご主人様は私の初めてのお友達です、えへへぇ」
すっごい嬉しそうな顔で言うリルル、部隊長ねぇ、サキュバスの作法的文化なら止めさせるのも悪いか、ちょっと恥ずかしいだけだし、妹ともよくやってたっけ。
それと初めての友達か、二年ボッチだった俺にはすごい気持ちが刺さるな、好きなようにさせてやるか。
「ポン子には食べさせないのか?」
「先輩にですか? 異性への作法と書いてありましたし……、でも仲良くなれるかも? ポン子先輩、私の肉団子食べますか?」
弁当を食べていたポン子は顔をあげると。
「お返しが、お新香でいいのならバッチこいですよ後輩ちゃん」
「ふふ、食べさせ合うのは異性だけですから、先輩には純粋におすそ分けですよ」
「それならいくらでも来いです」
リルルはフォークで肉団子を刺すとポン子の元へ。
「それじゃ、ポン子先輩あーんしてくださ~い」
「あーんはぐっ、これも美味しいですね!」
一瞬で吸い込まれる肉団子、何度見ても慣れないな。
「先輩は食べる時に生活魔法を使ってるんですねぇ、そんな使い方は思いもしませんでした、勉強になります」
「ポン子の食べ方は特殊なのか?」
「はい、吸引と縮小の合わせ技ですね、高等技術です素晴らしいですね!」
謎の食事方法は、すごい技術だったらしい、食べる事には優秀なんだなぁ……。
なんにせよ二人共仲良くやれそうでよかった。
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