第27話 スキル改造

 なんかやばそうな話になってきた。


 大天使さんは話を続ける。


「それに〈夢魔〉なんて名前のスキルを、持っているなんてばれたら困りますよね? 人が覚えているスキルを知る手段は、石板に魔道具に魔眼等、色々ある訳ですし」


 やばいスキル持ちは目をつけられそうだけど、ちょっと疑問に思った事を聞いてみる。


「〈夢魔〉ってスキルは字面は悪いですけど、どうせ後天的に覚えたスキルでは悪さをすれば天使にスキルを奪われるんじゃ…‥ってあれ? 俺の悪魔スキルはどうなるんだろ?」


 大天使さんは答える。


「神が与えた祝福を使って人に迷惑をかけたらという前提ですので、悪魔の力ですし、貴方の神格も自前ですし、先天性のスキルと同じ扱いになります、そもそも奪えないから困っている訳で」


 大天使さんは続ける。


「そのまま夢魔のスキルを使えば、貴方は少しづつ悪魔へと堕ちちゃいますけど、堕ちますか? 私達の敵になるなら雷を落としますけども」


 俺は即座に答える。


「堕ちません! どうにかして下さい、お願いします!」


「はい判りました、ではそのスキルの中身や名称に、貴方の神格の力を混ぜつつ少し手を加えて無害化しようかと思います、悪魔の魔法理論とはいえ基礎は似ているのでなんとかなる……なります」


 言いよどんだ気がした。


 しかし背に腹は代えられん。


「お願いします」


「では、そこに横になってください」


 テーブルを回収されたシートの上で仰向けに横たわり、左右に大天使さんと天使さんが座り、俺の手を片方づつ握られる。


 ポン子は俺のお腹のうえで応援している、地味に邪魔だ。


 二人の天使さん達は会話をしながら魔法を行使している、俺は終わるのをじっと待つ。


「うわ、ぐちゃぐちゃに絡ませたアヤトリのヒモを油で煮た感じみたいだわね? これは無理せず力の方向性を少しずらすくらいにしておいた方がいいわね」


「そうですね大天使様、力場の安定とスキルの名称は私がやりますので、内部をよろしくお願いします」


「了解いくわね」


 大天使さん達はすごく難しい作業をしているのだろう、目を瞑って集中している。


 俺の内部がくすぐられたり、つねられたような、気持ち悪いような、色々な感触がする。


 しかしなんというか、大天使さん達が漏らす吐息や掛け声のような物がこんな感じで。


「あ……ふぅぅん、これは、もう生意気、私に勝てると、いやんまってまって、そっちは~、大人しくしなさい」


「大天使様ちょっと激しいで、あ、そこは駄目です、もっとゆっくり、優しくお願いします、堕ちちゃいます、堕ちちゃいますから~」


 堕ちるのは俺で、堕ちたら悪魔になっちゃうんだよね?


 すごく怖いんだが、すごくエロくもある。


 ポン子とのパスを狭くしておいて良かったと心の底から思う。


 ――


 地獄のような天国のような状況をしばし耐えると、やっと終わったようで、疲れ切った、そして何かをやりきった感のある二人が目を開けた。


 俺も頑張ったよ、俺の俺が覚醒しないように、すごい頑張った。


 大天使さんは疲れた声で語り掛けてくる。


「なんとか、なんとか終わりました、これでひとまずは大丈夫だと思いますが、神界にいる状態だと安定しないので、一度地上に降りてスキルを使ってみて頂く必要があります、変更したスキルの名前を知る事で封印の影響下でも内容が判ると思いますので、それは地上に戻ってから守護天使を通じて教えますね」


 どうもかなり大変だったみたいで大天使さん達は顔色が悪い。


「判りました大天使さん、じゃぁ今すぐ地上に帰って確かめればいいのですね?」


 起き上がりながら、そう聞いてみた。


「ああいや、何かあった時に万全な状態でいたいので少し休ませてください、今から地上に送ると深夜ですので、その日の夜頃にスキルの名前を伝えようと思います」


「判りました、じゃぁ帰ろうかポン子」


 ポン子は、そうですね~と返事をして俺の頭に乗る。


 シートの外に立ち上がり転移魔法を待つ。


 大天使さんは魔法を行使しながら言う。


「ではまた後程、スキルの試しの頃は地上を監視してますので、あ、それと元悪魔スキルが安定するまで数か月は新しいスキルや魔法を覚えないで下さいね」



 転移魔法が発動する。



 ――


 部屋に戻って来たら窓の外は真っ暗だ、時間はっと腕時計を見ると壊れている。


「また時計が壊れとる……」


「あー、神界から転移した影響ですか? 魔道具とかなら大丈夫だと思いますが」


「そんなのは高いんだよ、また安いデジタルの時計を買っておくさ、早々神界に呼ばれる事なんて無いだろうし、何なら置いていけばいいしな」


「ですね、まぁ寝ましょうか」


「だな、今日は昼前くらいまで寝て、外にでも昼飯食べにいきがてら夕飯も買って帰って夜に備えようぜ、ダンジョンはお休みだ」


「色々あって疲れましたしね~ふぁ~あ、おやすみなさいイチロー」


「おやすみポン子」


 盛大な欠伸をしたポン子にそう返事をして俺も寝る。


 数か月、新しいスキルを覚えるな、という事は元悪魔のスキルが使えない物だった場合、安全を考えてまたしばらくスライムダンジョンに籠る事になりそうだな……。


 考えるのは明日でいいや、もう寝よ。


 ――



 目が覚めると、カーテンの隙間から日が射していて、グーと音が聞こえる。


 ん? 起き上がってカーテンを全開に、お昼には成ってなさそうだ、そして音の元はテーブルの上に座ってこちらを見ているポン子だ。


「腹が減ったなら起こしてくれてもよかったんだぞ」


「ぐっすり寝てましたし、少しくらいなら我慢できますから」


 ポン子の方向から、お腹の音なんだろうキュルルという音が鳴る。


「シャワー浴びてくるから、ちょっと待ってな」


 やや内股で行動をしながら、下着の代えを出そうとしたら、昨日脱ぎ捨てた穴の開いたツナギのポケットからカードが落ちているのが見える。


 それを拾ってポン子に見せる、気のせいか昨日と絵柄が違うな。


「これの事すっかり忘れてたな」


「ありましたねぇ……もう地獄に帰してもいいかもですが」


「あんなに厳しめに接して、わざわざカード化させたのにいいのか?」


「それはイチローに悪魔が入ったので情報が必要かと思ったからです、大天使様がなんとかしてくれたようですし、本人が嫌がりそうなら帰してあげましょう」


「なるほど、ポン子がそれでいいならそうしようか、取り合えず外食はやめて昼と夜の飯を買ってきたら呼び出してみるか、名付けしないインスタント召喚してから解放すりゃいいよな?」


「ですです、ではさっそく買い物に行きましょう~」


「シャワー浴びさせて? すぐ済ませるからよ」


 と下着をひっつかみシャワー室に。


「髪型とかファッションとか適当な割に綺麗好きですよね、イチローって」


「恰好つける必要はまったく無いが、体は綺麗にするべきだって、施設の女の子達が指導してくるんだよ……すっかりクセになっちまった」


 そう言ってシャワー室に入っていく。


 ポン子は、調教済みですか、と呟いていた、失敬な。


 ――


「おまたせー」


 使用したタオルやら着替えた下着を手もみで洗い、ベランダに干す。


「毎回洗い物が面倒だな、早く洗濯機や代えのタオルやらの数が欲しい」


「グー、色々、グー、揃えないと、グー、不便ですよね、グー」


 お腹を両手で押さえているが、自分の口でグーグー言ってるやないか。


「うん弁当買いにいこうな、昨日あんまり食べてなかったし、朝も抜いたから、ポン子の分は三個でいいか?」


「行きましょう! 地獄に帰すにしても悪魔の子の分も買っておきましょうよ、全部で六個買っていきましょー、あ、夕ご飯の分もだから十二個?」


 悪魔の子も二個食うのか? 夕飯はいつもの分量でいいんじゃね。


「まぁ好きにしてくれ、今日も俺丼屋でいいな」


「はい! あのお店は安くて量も多いのやら、ちょっと高級なのや、内容がチャレンジャーなのと種類が豊富すぎて選ぶのが困るくらいですよね~」


 そうして、ポン子を頭の上に乗せて買い物に行く。


 腕時計と置き時計も安い奴でいいから買っておくかね。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る