新たな仲間編

第26話 神界での話

 転移の浮遊感の後に着地した先は一面の草原だった、俺がいる場所を中心に何か薄い結界のような物に覆われて居て、すごい遠くに建物や山が見える。


 すぐ近くには大天使さん、そして初めて見る青髪の天使さんが横にいる。


 大天使さんが近づいて。


「まさか、こんなに早く神界に呼ぶ事になるとは思わなかったわ」


「俺も、もう二度と来る事なんて無いと思ってましたね」


 ポン子は頭の上で大人しくしている、体がだるいのであろう。


 大天使さんはポン子を見ながら。


「まずは伯爵級悪魔を撃退した褒賞として、守護天使に臨時ボーナスを与える事になりました、もう振り込んであるから自身を削った部分の補完をしなさい」


 大天使さんはポン子にそう語り掛けた。


 ポン子は俺の頭の上で何らかの作業をやっているようで、光がピカピカしたと思ったら、俺と大天使さんの間に飛んできた。


「助かりました大天使様、楽になりました~」


 ポン子は、まだだるそうな感情を伝えてくるが、かなり楽になったようで良かった。


 ポン子を見ていた大天使さんは俺の方に顔を向け。


「さて山田一郎さん、あなたの中に悪魔が入った件ですが、まず本来そんな事は起こりえない事なのです、貴方が神界に来た時の説明の中に、ある程度埋まった存在の穴に隙間がまだあり、そこは後でスキルで埋めるという話があったのを覚えていますか?」


 そういやそんな話もあったような…‥。


「ええ、そういえばありましたね、確か地上に帰ってからとか……」


 そこでポン子の顔を見る。


 ポン子はまるで雷に打たれたかのような表情をしていた、あ、こいつ忘れてたな。


 大天使さんは苦々しく続ける。


「はい、本来なら守護天使が地上でどんなスキルが欲しいのか聞き取りをして、神界にスクロールの申請をするという手筈だったのですが……」


「忘れた天使がいた、と」


 ポン子は、わ、忘れてたぁ、と茫然と呟いている。


「そうですね、でも地上でダンジョンから得た適当なスキルを覚えるなりすれば問題なかったのですが、隙間が空いた状態で伯爵級悪魔に出会い、しかも相手に潜り込もうと自身のすべてを賭けた勝負になんて……復活が出来ない完全消滅がありえる賭けなぞ悪魔が選ぶ事なんて早々ないものなのですが……」


 困惑した顔で大天使さんはそう言った。


「ついてなさすぎですね」


 悪魔が無謀な賭けに出たのは、ポン子の煽りのせいな気もするが。


「貴方の中に入った悪魔の人格は消滅したのですが、まだ悪魔の力が残っているようなのです、力の暴走も怖いですし、詳しく調べてもよろしいでしょうか?」


 ハゲになる呪いとか残ってたら嫌だな。


「はい、お願いします大天使さん」


「有難うございます、調査はこちらにいる救護室長が担当しますのでよろしくお願いしますね、私はちょ~と、この子とお話ししてきますので、少し離れますね」


 そういって斜め後ろに居た青髪の天使さんを紹介した大天使さんは、ポン子を掴み、何故か飛んでいく。


 天使の少しはずいぶん遠いようだ、大雑把だしな天使は。


 紹介された天使さんは、大天使さんに負けないくらいの美人さんで、うなじあたりで青髪を縛り後ろに流している。


「えーと、よろしくです」


「はい、ではこちらに座って頂けますか」


 そう言って青髪天使さんは近くに敷いてあったシートに座り、俺にも勧めてくる。


 女性座りをした天使さんの前にあぐらをかき、手を出すように言われたので従う。


 俺の手を両手で挟んで握り、何やら魔法を発動させて発光している天使さん。


 ――


 すごく柔らかい手で、嬉し恥ずかしいのだが気になる事が一つ。


 遠くの方に雷が連続して落ちているのが見える、何故か音がほとんどしないのは結界のせいだろうか?


 ポン子の痛みの感情とかは伝わってこないので大丈夫とは思うのだが。


「あ、あの、大天使さんやポン子が飛んでいった方角で雷が大量に落ちているみたいなんですが……」


 天使さんは笑顔を浮かべ言う。


「大丈夫ですよ、大天使様が彼女にリソースを譲渡しているだけですから、普通に渡してしまうと煩く言ってくる天使も居ますから、お説教という事にしているのです、彼女がそれに気づいているのかは知りませんが」


 お説教の後にお小遣いをくれるオカンみたいな物かな? よく判らんがポン子が元に戻るならいいか。


「それで俺の中にあるという悪魔の力はどうなっていますか?」


 天使さんは難しそうな顔をして。


「そうですね、今すぐ暴走をするような物では無かったんですが……。対処を大天使様と相談しますので少しお待ち下さいね」


 そういって天使さんは俺から手を離し、テーブルやお茶用の道具を出し始める。


「大天使様と彼女が戻ってくるまで、お茶にしましょう」


 天使さんが淹れてくれるお茶は美味しかった。


 ――


 大天使さん達が帰ってくるのに気づいた天使さんは、そちらに歩いていった。


 入れ替わりにポン子が飛んでくる。


「えらい目にあいました~」


 ポン子にまだ残っていた、体がだるいという感情は消えていた。


「言葉のわりに体は元気そうだけどな」


「そうなんですよ、大天使様のお説教は激しいのに体は元気になるという、摩訶不思議な効果があるんですよねぇ、さすが大天使様です」


「元に戻ったなら良かったよ、もうあんな無茶はお互いしたく無いな」


「ですねぇ、安全第一でいきましょう、スライムダンジョンに悪魔が出るなんて誰も思わないですが」


「だなぁ、あの後どうなった事やら……」


 しばし、ポン子と雑談をしていると大天使さんと天使さんが近づいてくる。


 大天使さんはさっきより肌艶が増し、より美人になっている気がする。


 俺はそれを立ち上がって迎えた、ポン子は俺の横に浮かんでいる。


「俺の中にあるという悪魔の力の対処の仕方は決まりましたか?」


 大天使さんはそれに答える。


「はい、ですが少し説明をしたいと思います」


 大天使さんが説明とやらを始めるのを聞く事にした。


「神界で貴方にこう説明しました、貴方は一度死んだと」


 あったなぁそんなの。


「あの時に貴方は人間として死に、リソースを核とし、それを利用できる存在、つまり神族になりました」


 神族? 親族?


「ある意味私達の同胞とも言って良いでしょう、でも、いきなりそんな事を言われても困るでしょうし、人としての生を楽しんでから我らの世界へと来られるようにと封印を施して帰したのです」


 いきなりの事で言葉も出ない、ポン子もびっくりしている。


「人間としての生を、百年か二百年か過ごし封印が完全に解けたら神族としての力を使えるようになる、予定でした、今回の事で神格の上に封印がその上から悪魔の力が、さらにそれらが融合してしまって、どうにも厄介な事になっています」


 訳が判らないので質問をする。


「俺が人間では無くなって、神族? 天使のような存在になっていると?」


「はい、貴方はもう神族になっているので、例え、あの時伯爵悪魔に倒されても源泉で復活していたでしょう」


 おうふ、さっぱり訳が判らん。


「源泉?」


「貴方は天使のスキルによって変質しました、つまり神格は天使寄りの力、なので我らが神界にて復活すると予想していました、が、この度悪魔の力が融合してしまったので……、地獄での復活もありえます、なるべく死なないようにして下さいね」


 死なないよ! 元より死ぬ気はないって! 天使の感覚が人間と違うんだなと実感する。


 記憶がほとんど無くなったら別人だと思うのは俺が人間……だったからなのかな?


「封印は人として生きれるように力を抑える物でした、ある程度人間のように生きる事が出来るはずで、時間がたちそれが解けたら神界に呼ぶつもりだったのですが……」


 俺が天使と同じような……、あれそれって。


「俺には人としての寿命が無くなったって事ですか?」


「そうとも言えますね、封印がある状態では普通に年をとっているようには見えますけども」


 俺はショックを受けた、人間じゃない? でもしばらくは人として生きていける? 頭の中がぐちゃぐ――


 その時、ポン子から強烈な羞恥の感情が流れてきた、なんだとポン子を見る。


 ポン子は魔法モニターを出し操作をしようと、したら大天使さんに捕まって魔法モニターを覗き込まれている、以下二人のやりとりが続く。


「大天使様、離して下さい! 私はちょっと消さないといけない物があるんですー!」


「ふむ、これはっと……なるほど感動的だわー、うんうん、こんな素敵な物はしっかり残さないとね、数百年後に彼に見せて感想を聞きましょう」


「やーめーてー! 消させて下さい、お願いしますなんでもします~」


「ん? 今貴方何でもするって言ったよね? じゃぁこれは私の権限でロックをかけておくので続きもよろしくね、楽しみにしてるからね~、いつか本に出して出版しましょうね」


「鬼ですか! これはイチローが人間で死ぬと思ったから! だから書いたもので……本になんかしたら私の心が死んでしまいます、勘弁してください大天使様~」


 そうか俺は死ぬのか、って何で?


 ポン子からぐちゃぐちゃな感情が流れこんでくる、中二病、黒歴史、恥ずか死ぬ、そしてポン子が俺を見て何かに気づき。


 大天使さんに解放されたポン子は、俺の顔の前まで飛んで来て、まくしたてる。


「あのねイチロー、パスが太くなってお互いの感情が強く感じられる今の状況ってよくないと思うの、恥ずかしい気持ちとかも伝わってしまうでしょう? イチローの同意があればパスを狭い状態で固定できるの、ね、そーしましょ」


 確かに今現在ポン子の感情は恥ずかしさで埋まっている。


「いやでも、それほど困ってないしなぁ、悪魔との戦闘とかでも役にたったし」


 ポン子は続ける。


「このままだと、イチローがシャワーから不自然に長時間出てこない時の感情も流れてくるんだけど、いいのかな?」


「パスを狭く固定しよう、そうしよう」


 前に神界から戻ってきてから、ここ二年無かった男の子の当たり前にある欲望が戻ったんだよなぁ……。


「イチローが同意してくれてよかったよ~」


 そう言って俺のオデコに手をあてて、しばらくして離れるポン子。


 近くにいるのにポン子が遠く感じる、位置だけが少し判る最初の頃に戻ったようだ。


 俺とポン子が大天使さんの方を向くと、大天使さんが話を続ける。


「力が融合してしまった事でもう封印は自然に解けるのを待つしかありませんし、悪魔の力を取り除くのも難しいです」


「それは元のまま、つまり封印が解けるまでは人間のように生きていけると?」


「はい一応はそうなりますね、それで悪魔の力ですが、隙間に入り融合した力は一つのスキルとして残っていました、〈夢魔〉スキル、あの伯爵はインキュバスだったようで、その能力が包括された物になってしまっています」


 ダンジョンで手に入れる前に妙なスキルを得てしまった訳か。


「あれ? でもスキルって手に入れると使い方とかなんとなく判るとか聞いた事があるんですが、俺はさっぱりですよ?」


「それは封印のせいですね、今はスキルに意識を向けないで下さい、悪魔のスキルなんて、そのまま使えば貴方は堕ちてしまいます」


 なんかやばそうな話になってきた。


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