第25話【閑話】平凡な家庭
そこは何処にでもありそうな平凡な二階建ての一軒屋だった、一人の少女が玄関を開けて帰ってくる。
「ただいま、牛乳買ってきました」
玄関をあがるとすぐリビングがあり、その奥にあるキッチンから返事が返ってくる。
「ありがとう姫乃ちゃん、やっぱりシチューには牛乳が無いと駄目よねぇ」
そう言って調理の手を止めリビングへと出迎えながら、女性は少女を上から下まで見ると、腕を組み片手を頬にあてて感心したように声を漏らす。
「それってこのあいだ、お父さんと三人で中学卒業のお祝いを買いに行った時のロングカーディガンよねぇ? 似合ってて可愛いわぁ、お店に入るなりマネキンに飾ってある奴を指さして、これでいいですって言われた時はどうかと思ったけども、モデルさんみたいね」
少女は女性に牛乳の入った袋を渡しながら。
「モデルは言い過ぎです、暖かいし丁度いい感じです、有難うございました」
女性は牛乳を冷蔵庫に入れるとリビングに戻り。
「いつも言うけど、もっとくだけた口調でいいのよ? 家族なんだから、それに姫乃ちゃんはもっとオシャレとかしないと駄目よ~、これから女子高生になるんだし、部屋着に使っている中学のジャージは処分しますからね!」
少女は慌てた感じで抗議する。
「待ってくださいお義母さん、ジャージはすごく楽なんです寝る時とか、……それにオシャレなんて見せる相手が居ないなら意味ないですよ」
女性はニンマリとした笑みをしつつ返す。
「例のお兄ちゃんがいるじゃない」
少女は焦った様子で。
「そ! れはそうですけど、高校を卒業するまでは会う事を禁止するという約束ですし……」
「探索者専門高校で良い成績を取り、伝統ある名家としての名を上げる為に集中しろ、だっけか」
「はい……、婿を自由に選んでいい権利と引き換えの条件でした、先天性のスキルを持つ私には様々な場所から養子縁組の話が来ていましたが、この条件を飲んだのはここだけでした、でもなぜか交渉しにきた本家ではなく、分家のこの家に養子に来る事になりましたが」
悔しそうな顔で少女は続ける。
「権力者達による養子縁組の圧力は強すぎました、何処かしらに行く必要があったんです……本当なら成人して施設を出るお兄ちゃんについて行こうと思ってたのに」
悔しそうに語る少女。
女性は少女の頭を撫でる。
「うちに話が来た訳はね、本家のある人が何処ぞの誰とも知れぬ血を直接入れるのは云々言い出して分家にしたらしいわよ、魔法の名家なんて過去の話なのにね、おかげで私はこーんなに可愛い娘が出来て嬉しかったけどね」
頭を撫でていた女性は少女に抱き着いた。
「ちょ、お義母さん抱き着かないで下さい!」
少女は抜け出そうとしているが女性はそれを許さない、激しく動く少女に対して女性はのんびりした動きだが、少女を絡めとるような技は熟達したものを感じる。
「いやーよー、ねぇ姫乃ちゃん貴方は高校生になるでしょう? 十六歳になったら成人で女の子は結婚できるよね」
抜け出そうと藻掻いていた少女は、なかば諦め女性に身をゆだねて答える。
「はい、十月になったら成人ですけども、それが?」
「お父さんが今調べているんだけど、どうも姫乃ちゃんに、お見合いの話が出そうなのよねぇ、うちとは違う分家の男の子が相手らしいの」
それを聞いた少女は
「そんなはず無いです! 私が約束を守ったら婿は自由に選んでいいはずです!」
「根性の捻じ曲がった本家だし、約束なんて最初から守る気なかったんじゃないかしら? でも大丈夫よ姫乃ちゃん、私もお父さんも本家の言う事なんて一切聞く気ないから! 大事な娘である姫乃ちゃんの意思を無視するような事はしないからね」
それを聞いた少女は、自分から女性に抱き着き答える。
「あいつら最低です、そして、お義母さんありがとう」
「姫乃ちゃんがデレた、可愛い~い~、お父さんも姫乃は俺が守る! って頑張って裏で調べたりしてるみたいよ~」
少女は女性からすぐさま離れ。
「デレてません、でも感謝はします、お義父さんにも後で肩を揉んであげる事にします」
少女の義父に対する株が上がり、顔を赤くしながら言うのであった。
女性は笑いながら話を続ける。
「ふふっそういう事にしときましょう、それでね姫乃ちゃん、本家が正式にお見合いの話を持ってきたら勿論断るんだけど、あいつらから約束を破った事になるでしょう?」
「そうなりますね」
「そうなったら貴方も約束を守る必要なんてないからね」
「え、それって」
「お兄ちゃんに会いに行ってもいいって事よ、どう? これならあいつらから正式なお見合いの話が来るのが待ち遠しくならない?」
少女は笑みを満面に浮かべ答える。
「はい!」
元気よく答えた少女は嬉しさのあまり自身の思考に埋もれ、目の前の女性の事を忘れたかのように独り言を話し出す。
「お兄ちゃんはもうすぐ誕生日、男が結婚できる十八になる、そして私は女子高生になり今年十六歳でやはり結婚が出来る……それはもう、お兄ちゃんと私は結婚してるような物では?」
してないとお母さんは思うなーそれに姫乃ちゃんの誕生日十月でしょー、と女性は突っ込みをいれる、勿論少女は反応しない。
「成人年齢を十六歳に引き下げたくせに、男女の結婚出来る年齢を変えなかった昔の政治家は、私とお兄ちゃんが同時に結婚出来る年になるようにしたかった? もうこれは運命と祝福を得た最高の夫婦になれと歴史が言ってるといっても過言ではないのでは?」
過言だと思うなー、女性が突っ込む、少女は反応しない。
「早く本家からの話来ないかなぁ、そうしたら二年ぶりにお兄ちゃんに会える、あ……お兄ちゃんに会う時にどんな格好をすれば? ……おおお義母さんっ私、可愛い服! 可愛い服を買いに行きたいです!」
女性は少女の変わりようを嬉しく眺めながら。
「はいはい、いくらでも買いにいくわよ~、姫乃ちゃんが自分の物を欲しがるなんて滅多に無かったしね、でもね姫乃ちゃん、お母さんね可愛い服やらを揃えるのは、すごーく賛成なんだけども、指南したい事があるの」
「なんでしょうか?」
そう首を傾げて聞いた少女。
「あのね姫乃ちゃん、お兄ちゃんに会いに行くなら高校の制服が良いと、お母さんは思うの」
心底不思議そうに少女は聞き返す。
「高校の制服ですか? でも可愛いブランド物の服とかのほうが良くないですか?」
女性は真剣な顔で少女を
「
女性の背後に〈ドーン〉という文字が見えた気がした少女である。
「それは、お義父さんとかでも?」
「勿論よ!」
少女の義父に対する株が暴落した。
「さて、私は料理の続きをしますかね~」
「私も手伝います、お義母さん」
そう言って少女はカーディガンを脱ぎエプロンをつける。
「ありがとう姫乃ちゃん、じゃぁサラダをお願いしてもいいかしら?」
「はい、トマトとレタスとキュウリと缶詰のコーンとカニカマと山芋とメンマっと、こんなものかな、じゃぁ切ります!」
包丁を取り出し構えている少女に女性は。
「ん? 今何か変な物が……、姫乃ちゃんにお願いしてしまっていいのかしら?」
まいいかお父さんが喜んで食べるでしょ、と女性は呟き、ついで少女に語りかける。
「ねぇ姫乃ちゃん、お洋服買いにいくときにセクシーな下着とかネグリジェも必要かしら?」
それを聞いた少女は慌ててしまい、缶詰をくし切りにしつつ答える。
「いきなり何を言うの、お義母さん! そんなのはまだ早いよ! ……まぁどうせ必要になるし? ちょっと確認しておくのはいいけども」
「ふふー、早くその一郎君に直接会ってみたいわねぇ~、私の息子になるかもだし、そういえばお父さんがね、姫乃の意思は尊重するが、姫乃を守れる奴かどうか拳で語り合うとか言ってたわよ?」
少女は冷めた目になり。
「そんな事をしたら、お義父さんの事をこれから、苗字にさん付けで呼びます」
「ああうん、お父さん泣いちゃうからそれは止めてあげて、ちゃんと言い聞かせておくから、ね、だから、お父さんの分のサラダに一味唐辛子を振らないであげて?」
かくして血の繋がらない母娘は仲良く料理を続けるのであった。
帰宅した父親は。
JKの制服は好きですか? と聞かれ答えに困り。
最後には肩を揉まれて嬉しさで泣いていた。
と、何処にでもある平凡な一軒家の、普通なお話。
◇◇◇
一章の、おまけ話は以上になります。
出来れば感想や、☆で評価等よろしくお願いします。
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