第24話【閑話】サキュバス営業部隊

 そこは地獄、サキュバスの一氏族が治めている土地だ。


 大きなお屋敷の地下にある大広間、巨大な魔法陣が設置され、その中に蝙蝠羽と,しっぽを揺らせた沢山のサキュバス達がキャイキャイとひしめいていた。


 そこに風格のある最年長を思わせるサキュバスと、背が高く美人だが厳格そうなサキュバスがやってくる。


 風格のあるサキュバスは魔法陣から外れた場所に置いてあるソファーに腰を掛け、厳格そうなサキュバスに声をかける。


「ではいつものようによろしくね、部隊長」


 部隊長と呼ばれたキリっとした表情のサキュバスはそれに答える。


「は! 氏族長様」


 何枚か紙の挟まったボードを持った部隊長は、魔法陣に乗りサキュバス達に声をかける。


「地上は黄昏時だ、我らの戦いの時間がやってきた、いつものやついくぞー」


 部隊長が声をかけるとサキュバス達は。


『りょー』『ぶちょー今日も元気だね~』『気合いれま~す』『外れに当たりませんように』『また呼んでくれるかなぁ』


 等々かしましいが、部隊長が背筋を伸ばし準備をしてると、彼女らも静まり無駄口を一切叩かずに部隊長へ顔を向ける。


「我らサキュバス」

『『『『『元気よく!』』』』』


「天使がきたら」

『『『『『即逃走!』』』』』


「地上の男を」

『『『『『桃源へ!』』』』』


「取ってみせます」

『『『『『契約を!』』』』』


「今日も一日」

『『『『『ご安全に~』』』』』


 サキュバス達は、わいわいと騒ぎだす。


「よーし、今日も営業と契約の続行目指して頑張っていくぞ~、契約が切れてる奴は私に言いに来い」


 部隊長の前に列を作り並ぶサキュバスも居れば、『あ、呼ばれたみたい、いってきます!』と魔法陣が輝き一人のサキュバスが転移魔法で消える、列に並ばずに魔法陣の上に座り込み周りと雑談をしながら、恐らく契約者に呼ばれるのを待っているだろう者もいる。


 部隊長の前に並んだサキュバスが。


『部隊長、私、前回天使に乗り込まれて即逃げて帰ったので、契約魔法陣壊されてると思います』


 ふむ、それはしばらく放置した方がいいだろうな、と言いながら部隊長はボードに挟まれた紙を確認して一枚を抜き出す。


「これなんてどうだ? 二十五歳大学院生、裕福な家庭で育ったが勉強一筋の堅物だそうだ、お前こういうの好きだろ?」


『大好物です! 行ってきま~す』


 紙を貰ったサキュバスは転移魔法で消えていく。


 そうして何人も転移魔法で消えていく中、一人のサキュバスが部隊長に質問をする。


『そうだ部隊長、例のハゲ伯爵に派遣された、うちらの可愛い末妹ちゃんはいつ帰ってくるの?』『私もそれ聞きたかった! というかなんであんなハゲの部下として派遣しちゃったの?』


 そこに口を挟んできたのは氏族長と呼ばれたサキュバスだった。


「仕方ないのよ、伯爵の一族にはいくつか借りがあってね、盟約上どうしても一人は出さないといけなかったの、あの子が天使の設置魔法をハッキング出来る腕があるなんて何処でばれたのかしら……本人すら自覚しないように隠していたのに、まぁ今回ので、その借りも返したし期限が終わったら即あの子を返して貰うわ!」


『あのハゲがそう簡単に返すかなぁ……すっごい心配なんだけども』『末妹ちゃんそんなすごかったの?』『確かに空き時間は研究ばっかりしてたね~』


 氏族長は怖い顔をして続ける。


「あの子の腕の事は内緒ね、ハゲ伯爵は大丈夫、私が昔お世話した竜族に話はつけてあるから、難癖つけて期限を守らなかったら、あのハゲは焼き尽くしてチリも残さないわ、あの子にひどい事をしていた時も……ね」


 そう言って氏族長は口を閉ざす。


 そこに部隊長が続ける。


「それにな、あの子を出した理由の一つは、お前らがいじめるからだぞ? ちょっと離れた方がいいだろうというのもあってな、後ハゲにはあの子に手を出したら潰すと脅しを入れてある」


『ええ? いじめた事なんてないってば~』『そうよ~サキュバスらしさを教えたり』『初めての相手に丁度いいのを紹介したりしただけよね~?』『ね~?』


「あんな気持ち悪いのを紹介するなよ、あいつは初めてなんだぞ?」


『ええ~でもさ、妹ちゃん夢見がちじゃん?』『イケメンの女慣れした相手とかだとガチ恋しそうよね~』『最初は簡単に転がせそうなのがいいと思うんだけど~』『うんうん』


「判らんでもないが、あの子はまだ新人だ、いきなり苦い物を食わせても食事が嫌いになるだけだ、まずは甘い物から食事に慣れさせる必要があるんだよ」


『なるほ~さすが部隊長』『私は苦いの好きだけどなぁ……』『貴方あの子が逃げ出した後に契約取ってたものね』『ふふー大変美味しうございました』『わぉ』


「苦みを美味しく感じるのは、慣れてからでいいしな」


『そういえば部隊長、妹ちゃんにマニュアル渡してたよね?』『あーちょこっと見たよそれ〈お友達になりましょう〉だっけ?』『ええ、それはサキュバス的にどうなの?』


「お前らも、まだまだだな、あの子はすごい武器を持っているんだよ、サキュバスなのに天然で純真というな」


『それは武器になるのかな?』『普通はセクシーとか、艶っぽいとか、官能的とかだよねぇ』『ツルペタンとか、ぽっちゃりもたまに武器になるよね』『あるある』


「あのマニュアルにはなこんな内容が書いてある訳だが――とか、――で、――なんてのもある」


『お友達って大人のなのね』『さすが部隊長だわ特大の爆弾を仕込んでた』『さすがに信じないと思うけど』『末妹ちゃんだからなぁ』『『『ああ……』』』


「少し考えてみろ、やっている本人は純真でエロい事だとまったく思ってない行為をされる側の事を、しかもサキュバスである本能が、心は純真であろうと行動は扇情的なものにするのだ、その時やられる側の心情を想うと……すごく興奮しないか?」


『さすが我らが部隊長あこがれる~』『それはまずい、妹ちゃん逃げて~襲われる~、あれ? いいのか』『相手次第だわね』『私達でちゃんと相手を選んであげようね!』


「それは大丈夫だ、お前らがあの子に紹介した奴の中で、見た目はましなのが一人いたろ? 中身は脚フェチの変態だったが、あれを本能で見破って逃げたあの子なら、妙な奴には引っ掛からんだろう」


『あーあまりに妹ちゃんが逃げ続けるから、見た目ましなの一回だけ選んだね』『ストッキングとか一杯用意してた人だっけ?』『大変美味しうございました』『また貴方か! ゲテモノ好き過ぎない?』『それがいいんじゃないの』『わかるー』『『え?』』


「ほれほれ、残りはお前達だけだぞ、もう呼ばれないって事は契約魔法陣が天使に壊されている可能性が高い、調査部に貰った資料から選んで営業かけにいけ~」


『は~い、私この人もーらい』『じゃ私これ~』『あずるい~、むーじゃこいつにしとくか』『残り物には変態がある、私はこの人で』『『『『行ってきま~す』』』』


「いってらっしゃい、天使に気をつけてな!」


 魔法陣の上には部隊長だけが残っていた。


 氏族長は、魔法陣の外へと歩いてくる部隊長へと声をかける。


「今日もお疲れ様、みんなが帰ってくるまで休憩にしましょう」


「はい氏族長様、あの子も早く派遣を終えて、ここで一緒に仕事をしたいですね」


「そうね、契約は半年間、あと数か月の我慢だわ」






 そんなサキュバス達の日常がそこにはあった。


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