第23話【閑話】カードの中で
そこは、カード化された魔物が待機をする場所、自身の心象により世界が作り出される。
馬型の魔物なら草原に、魚型なら海や川や湖、といった具合に変化する。
しかしてそこは荒野であった、日は夕暮れ時を表している、太陽は同じ位置に留まったままだ。
荒野の真ん中に、ぼろぼろの木で出来てた部屋がある、中は狭く、ぼろいベットが一つ以外は何も無く、窓には何も無く素通し、部屋の中は
そんなベットに、一人のバニーガールの恰好をした妖精が、体育座りをして足に顔を埋めている。
「どうして、こうなるかなぁ……」
深いため息を吐いた妖精は顔を上げると、空間からスライムのぬいぐるみを出す、丁度抱き枕に出来るくらいの大きさだ。
妖精は、ぬいぐるみを抱きしめ語りかけていく。
「ねぇスラ蔵さん、私ね頑張ったんだよ? あのね、ハゲ伯爵の命令ってば〈地上に潜入して、我が天使共の結界に反応しないように通れる手段を構築しろ〉って」
妖精の口調はだんだん荒くなっていく。
「ばっかじゃないの! 手段を示さず、どうにかしろとしか言わないとか最低の上司だと思わない?」
ばっかじゃない、の時にスラ蔵は殴られている。
「ハゲ上司に言われて地上に潜入して三か月、滞在時間を伸ばす為と天使の目をごまかす為に、体を妖精に変化させないといけなかったし、一日二十時間以上働かせるし! お休みがまったくないし! お給料リソースは元より必要経費まで現地調達でなんとかしろとか言うし! そんな中でも一生懸命地上を調べてダンジョンのシステムが利用できそうだと毎日毎日調査して……」
妖精の目には涙、スラ蔵には良い角度のボディブローが何発も刺さる。
「スライムさんに癒しを求めていた時のダンジョンで、揺らぎが発生した時ハッキングに成功しちゃったのは良かったのか悪かったのか……、ハゲ上司はむかついたからコアに紐づけて自由に動けないようにしてやったわ」
少し悪そうな顔をした妖精に、スラ蔵は、なでなでされている。
「そもそもお給料現地調達って何よ……、確かに悪魔は天使とかと違って、個人で人間からリソースを手に入れる事が出来るけど、それは個人が稼いだリソースであってお給料とは関係なくない? まして自分で一杯稼げるならこんな話断っているっての!」
私のお小遣い無くなっちゃったわよ! と怒った妖精が、スラ蔵にチョップを入れる。
「契約を一件も取れない私が悪いとは判ってるけど……、ハゲ伯爵の部下に派遣するなんてひどいよ氏族長……」
また涙目に戻った妖精が、スラ蔵をぎゅっと抱きしめる。
「サキュバスなのに人間の男との契約が取れないのは、ねえさん達にいじめにあってるせいもあるのに……、なんで初めての相手があんな……あんな、太ってて部屋も自分も汚れててデュフデュフ言ってる男を相手にしないといけないのよ! そんなのばっかり勧めてくるんだもの無理に決まってるじゃない……」
スラ蔵に顔を埋めていた妖精は、ゆっくり顔を上げると夢見るような表情に変化をしていて。
「初めての相手は、こう優しくて~、かっこよくて~、無理やりして来ない、いえ、お友達から始めるのもいいよねうん、仲良くなってデートしちゃったりなんかしてキャッ~、そしてそして結魂の約束をしてから結ばれる……はぁ、そんな相手がいいなぁ……」
妖精がキャアキャア言っている時は外の荒野に花が咲き始めていた。
妖精の表情が愁いを帯びたものに変わり、また外は荒野に戻る。
「でも現実は、優しくしてくれるのはサキュバス営業部隊の部隊長だけなの、私が魔道具やら魔法やらシステム構築系の研究にはまるのも仕方ないよね、研究している間は嫌な事忘れられるし、楽しいし、地上のスクロールとか見せて貰った時は興奮したなぁ……」
スラ蔵は揉まれている。
「ハゲ伯爵も天使の結界をどうにかしたいなら、魔法が得意な魔女族とかに支援要請すればいいのに、サキュバスに頼むとか馬鹿じゃないの、まぁ人望もないインキュバスの伯爵じゃぁ縁とか無さそうだし断られたんだろうけどね」
スラ蔵はポンポンされている。
「ハゲ伯爵から解放されたのは良いけど、今度はテイム妖精生活かぁ、地獄に帰っても良い事ないし、私どうなっちゃうんだろ……」
スラ蔵は何も答えない。
「あの妖精さん魔力高そうだし怖かったなぁ……主人さんも怖い顔で武器を向けてくるし、……んーでも私が虐められてるって言ったら武器を下げて、憐れんでくれたのよね……、もしかして優しい人かも?」
スラ蔵はネジネジされている。
「あれ? 名づけされてパスが繋がると感情が判るから嘘がつけないわけで、ああ! サキュバスだって事がばれる!? どどどどどどどうしよう~、人間の男ってサキュバスだって判ると襲い掛かってくるのよね? あわわわわわわ」
スラ蔵は振り回されている。
「えーとえーとあーんんん、んーでも優しそうな人だったしいきなりは来ないよね?うん、それに太ってなかったし、汚くもなかったし、そこそこイケメンだったし、お友達からならいい……かも? 勿論若い男の人だし我慢できないかもで、いつかは最後までごにょごにょ……、そうだ! 部隊長がくれたマニュアルで勉強しておこう、うん」
スラ蔵は伸びている。
妖精は空間から何か紙の束のような物を出してスラ蔵に見せつける。
「じゃじゃ~ん〈男の子とのお付き合いマニュアル〉~、スラ蔵さんこれはね、部隊長がくれたの、苦手なタイプの男は無視していいって言ってくれてね、大丈夫そうかな~って思えた男の人と、お友達から始める時の為にって頂いたの、優しいよね~部隊長は」
スラ蔵は黙している。
「一章の〈お友達になりましょう〉からね、えーと地上では異性のお友達はキスをして挨拶をする、口や性的な部分は恋人以上がするものなので後の章で、お友達には頬っぺたや耳や首筋など性的な部分以外にする、ふむふむ勉強になります部隊長」
スラ蔵は放置されている。
「地上では、お友達として友好度を上げるために肌と肌を合わせるスキンシップを多くしましょう、やはり性的な部分は後の章で、お友達には手や足などの性的ではない素肌部分か性的であっても服を着ていたら大丈夫です、か、なるほどなーたしかに、む、胸とかを直接はまだまだ早いもんね、さすが部隊長です、続きは――」
スラ蔵は寂しそうだ。
「――吸ってあげるのがお友達の為なんだねぇ、ちゃんと覚えておこう、えっとお友達の章はこれで読み終えたしこんなものかなぁ、勉強になるなぁ、うんうん……、一応、一応ね、念のために、先の章も確認しておこうかなぁ、まだ使わないけどね、ほらせっかく部隊長がくれたマニュアルだし? 勉強の為だよ勉強の為です――」
スラ蔵は言い訳を聞かされている。
「――え? うそこんな事を! え、でもでも本当に? 私がご主人様……と? こんな恥ずかしい事出来るわけが……、えとえと、もう少し、もう少し先まで確認しようかな、うん、」
スラ蔵は引き寄せられた、何故かベットは大きく立派になっている。
ここで視点は外に移る、荒野だった場所は花が咲き乱れ、夕暮れだった空は夜になり満月が浮いている、貧相な小屋は鉄筋コンクリート製を思わせる防音がしっかりしていそうな小屋になっていた。
小屋の窓には曇りガラスがきっちはまり、そしてカーテンが閉まっている、隙間からは暖色系の照明が漏れていた。
スラ蔵は抱き枕としての本来の役目を果たせて満足そうだ。
そうして一人の妖精は召喚を待つのであった。
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