第22話【閑話】神界2
シンプルな陽の指す部屋で、金髪天使と青髪天使が、テーブルを挟み向かい合いソファーに座っている。
一人は忙しそうに魔法モニターをいくつも並べ、もう一人は暇そうにお茶を飲んでいる。
片方の天使が語り掛ける。
「私が忙しく仕事をしてる前で、暇そうにお茶を飲むのはどうかと思うのよ」
「暇ではありません、急にお客様が来た時の為、無駄に力を使わず待機しているのです、これも救護室長としてのお仕事です、ああ、イソガシイ」
そう言って優雅にお茶を飲む青髪天使。
金髪天使はそれに答え。
「治療を受ける側の事を、お客と言うのはどうなのかしら? 暇なら私にもお茶入れてよ」
「承知いたしました、大天使様」
特に反応する事も無く、天使はお茶を入れ始める。
「なんでバグ取り作業って無くならないのかしらねぇ……、ん? あの子が天使の力を使っている? そんな余裕あるはずが……」
大天使が真剣な顔になりモニターを凝視するのを見て、お茶を入れる手を止めた天使。
探索者としてガーディアンと戦うにしても、天使の力を使うのはルール違反よね、と呟いていた大天使が急に顔を上げる。
「どうしました? 大天使様」
大天使は自分の見ていた魔法モニターを、指で弾いて天使の前に移動させる。
「伯爵を名乗る悪魔とあの子が戦っているわ、地上にいる天使達に特別警報を出します、近くにいる天使に部隊を作り救援に向かうように連絡をして頂戴、私は神様に地上顕現の許可を貰います」
大天使はそう言って、魔法モニターを操作している。
天使は救援要請を出しながら問う。
「しかし大天使様、条約により地上と地獄の間には結界が張られているはず、準騎士やせいぜい準男爵くらいならまだしも、力の強い悪魔ほど通れば気づくようになっているはずでは?」
「何故と考えてる暇は無いの、雑魚悪魔が伯爵を偽っているならそれで良しよ、後は神様の許可待ちか、天使の救援部隊の到着待ちね」
大天使は魔法モニターを見ている。
「見ている事しか出来ないのは辛いですね大天使様、彼も倒れて動けないみたいです、あ、彼女堕天の誘いを受けてますね」
「あの子がそんな誘いに乗る訳ないじゃない、……なんで商品名を入れるように言ったのかしら」
魔法モニターに、妖精の体から神聖な光が強く煌めくのが、映し出されている。
「これは……、大天使様」
「ちょっと待ちなさいそれは駄目でしょ! って彼の方も裸踊りなんてしなくても許可が出たらすぐ助けに行くから! 神様からの返事はまだ……ってきたわね、え? 限定顕現! あの日和見じじいが!」
「何枚羽までですか?」
「二枚よ! あのじじい日和ったわ! 伯爵級だけなら二枚羽でも勝てるけど仲間がいるかもだし、最悪を考えて全力装備で行くわ、装備するから状況確認よろしく!」
大天使は立ち上がり、何もない空間に手を入れ防具を取り出し装着し、猛々しくも美しい姿へと変わっていく。
最後に輝くサークレットを被り準備万端といった感じの大天使に向かって、天使が声をかける。
「お待ち下さい大天使様、ちょっと様子がおかしいと申しますか……」
「何!? あの子やられちゃった?」
そう言って大天使はフル装備で立ったまま魔法モニターを再度展開する。
「あの子攻撃を食らって! ……んん? 何これ、あの子に雷撃ってるの? この悪魔馬鹿じゃないの?」
「彼女が雷に強いなんて知りもしないでしょうし……、あ、彼が柱の陰に」
「なんで壁の方向いてカニ歩きしてるのかしら……ピンチなのよね? 彼ら」
大天使はフル装備のままソファーに座った。
そして天使が口を開く。
「上手い事、悪魔から話を聞きだしてますね、歪みって、最近どこかの大天使がダンジョンと神界を転移魔法で結んだ時の事でしょうか」
「ええ? 確かに緊急事態で呼び出した時はちょっと荒っぽかったわよ?、でもそんなちょっとのゆらぎを利用してハッキングって、すご腕だわね、しかも天使に気づかせないって……部下に欲しいくらいだわ、この悪魔だったらいらないけど」
「計画は他の雑魚悪魔と大して変わらないですね、慎重ではありますが」
「なんでこの悪魔、あの子に攻撃が効いてないって気づかないのかしら」
「自分の技に自信があるのでしょうねぇ」
「あ、彼がコアを殴り始めた、なんか地上のコメディ映画見てる気分ね、お茶くれる?」
「少々お待ちを」
天使はお茶を入れ、大天使に渡す、二人は魔法モニターを見ながら。
「ありがと、豊満って貴方くらいの事を言うと思うのよねぇ」
「大天使様だって同じくらいあるじゃないですか、大天使様に蹴散らされた悪魔だったんですね、って彼女、大天使様の事大好きだそうですよ」
「何を言ってるのかしらね~あの子は、もう、今度あったらお菓子でもあげようかしら」
大天使は体をクネクネさせている。
そして。
「あ」
「あ」
二人は同時に唖然とした顔を見せた、大天使は焦った様子で。
「ちょ! なんで彼に悪魔が入れちゃうの!? あの悪魔依り代から本体出してたわよね! 彼のチェックをお願い! 私はもう一度神様に連絡するから」
「はい!」
二人は魔法モニターをしばし操作する、大天使は顔を上げ。
「どう?」
「悪魔は彼の神格に焼かれて消えてますね、でも残った力の残滓が隙間にはまってしまっているようです、彼がスキルを覚えて穴が埋まっていたら良かったのですが、これ以上は直接調べてみないとなんとも……」
「あの子やっぱり忘れていたのね、……神様から転移魔法で彼を呼ぶ許可を頂いたし、あの子に連絡するわ」
大天使は魔法モニターを操作し地上へとメッセージを送り、それが終わると溜息を吐きながら、モニターを一旦消す。
「ふう、あの子達は地上の夜時間に呼ぶ事にしたわ、それまでに諸々の処理をしないとね、警報解除に救援部隊はそのままダンジョンの調査をしてもらって、ハッキングを受けたシステムの調査と修復も必要……また仕事が増えるわね……」
「警報解除と地上への指示は私が今やっちゃいますね」
「ありがとう、あの子達を迎えるのは野外にしましょう、万が一悪魔が残っていたり力が暴走する事を踏まえて、彼用の結界は貴方にまかせていいかしら?」
天使は魔法モニターを操作しながら答える。
「かしこまりました、それと彼女が自身を削ったリソース分、どうしますか?」
「それなのよねぇ~、うーん……伯爵級悪魔の侵攻を防いだって事で成果ボーナスと、それでも足りない分は私がお説教で雷を落とすわ、最近のあの子、私が落とした雷の一部を吸収してるのよね……さすがに悪魔の雷は耐えれても吸収は無理だったみたいだけど」
「ああ、やっぱりそうなんですね、彼女、お説教時に雷を直接食らうと妙に元気な気がしてたんです、大天使様も肌艶よくなってますが」
「なんで私まで」
「彼女でストレス発散してますよね? 二枚羽とはいえ本気で雷撃てるなんて中々ないでしょうし」
「あー……ちょっとだけね? ま、まぁ仕事しましょ仕事、まずは、あのダンジョンのシステム内部を総ざらいかしらね」
そう言って大天使は再度魔法モニターを出す。
「はい、お手伝いしますね、それはそうと大天使様」
「な~に~」
「フル装備のままですよ」
「あら」
そうして大天使は、いそいそと装備を外して空間に仕舞っていくのであった。
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